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国守の愛 第2章 群青の人・イエーガー   作者: 國生さゆり


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要編  10 極秘訓練



  シーン10 極秘訓練


 選抜訓練のベースはアメリカ合衆国・特殊部隊員の選抜訓練を模(も)した内容だった。ある山岳(さんがく)地を訓練地として、隊員の寝食は基本野外テント、平日の食事は戦闘食で賄(まか)い、3日に1食、ステーキとカレーライス、訓練生のリクエストに応じた食事が用意され、身体の清潔は近くの川で保つ。



 しばしば、頻繁に就寝後の深夜、教官がSabre 催涙手榴弾(さいるいしゅうだん)を各班のテントに投げ込んで、その日の訓練が開始する日もあった。このお陰で要たちは、いつでも、何処でも、神経のある部分を覚醒させながら、瞬時に眠りに落ちる事が出来るようになってゆく。



 訓練内容は多様性に富み、1分間で50以上の単語を覚える訓練。闇が支配する建物からの脱出訓練。あらゆる銃器の組み立てと、使用不能にする訓練。重装備着用での遠泳。2輪、車、戦車、へリを始めとするエンジンで駆動(くどう)する物の操作と知識。効率的な破壊を得るための建築学。外国語の取得。走る。ただ、ただ走る一日。寝ぬ訓練。眠らせない訓練。



 あらゆる武術の取得を求められ、関節を極める、極められる前の外し方等々。確実に人を倒すための人体構造の座学。止血、治療方法の取得。市販されているあらゆる薬品を、使用目的別に配合する技術。


 何十日かに、一回の風呂。

 自然に生きている動植物を、食べる。



 訓練4ヶ月目から、それまで個人判定だった訓練がチーム編成され、組織成果主義になった。



 最下位のチームは、2度とご免だと思う罰を食らう。



 各宗教への理解を深める講義。尾行の仕方。容赦(ようしゃ)ない教官の怒号は四六時中。尾行の発見と撒き方。監視カメラに捉(とら)われない行動方法。各種重銃火器の取り扱いと、その破壊方法。心の目測力(もくそくりょく)を養(やしな)う為に、手信号のみの会話が不定期に連続10日間。



 訓練終盤を迎える頃には、候補者は12人になっていた。



 その頃から海外派遣されての訓練も始まり、毎週、何処かの国に移動しては、その国の精鋭打撃群との共同揚陸訓練が行われ、その最終日には必ず、対抗戦の殲滅作戦が敢行(かんこう)されるようになった。



 この作戦中に要は、自分の特性に気づく。嗅覚が鋭く、勘で無く、予感でも無く、経験でも無い。その場の雰囲気、空気感で、捕食動物並みに危険を嗅ぎ取れたのだ。その嗅覚は要に迅速(じんそく)な行動をもたらし、先手を取る事ができた。



 元々、香りに対するこだわりがあるのは自覚していたが、要はそれが戦闘に役立つとは思っていなかった。



 かと言って、嗅覚の鋭さが美食に繋がっているかというと、それはなく要にとって食事は、身体を正常に機能させるエネルギー補給という程度のもので、アレが食べたいとか、これが飲みたいとか、そんな欲求はない。例えるならガソリンと同じ感覚だ。だが、そんな要は食事に関して2つだけ、こだわりを持って身につけた事がある。



 それは自分を通して、日本国とはどういう文化を持つ国なのかを、各国の軍人が知ると自覚し、箸の作法を身につけた事が1つ。その努力が報われて要の食事する姿は、目も魂も奪われるほどに精巧で美しい。2つ目は人体構造の講義を受けた時、咀嚼(そしゃく)の仕方で、左右の顎(あご)に強さのばらつきができ、そのアンバランスはいつしか、首を経て、肩、骨盤の位置、膝、足首と伝わって、最終的には歩き方にでると学んで、足音や歩みで個人を特定されるのを嫌い、食物を口に入れると、左右の噛む回数を同じにして、飲み込むようしたことだ。



 その食べ方に気づいたのは宗弥だけで、理由を話した要に、宗弥は苦悶を刻んだ顔を向け「お前らしい」と言った。宗弥は訓練が進むに連れて、部隊任務を理解していき、医師の倫理観との狭間で苦悩する。


 ずば抜けた成績を修めていた宗弥は、人体に対する観察眼に特化していた。歩き方を一眼しただけで、その者の弱点と負傷の有無、損傷部位を判断できた。今では“赤鬼“と呼ばれる教官となり、教育隊で後進の指導に余念がない横尾の捻挫(ねんざ)に、気づけなかった自分がよほど悔しかったのだろう。



 訓練が進んでいく中で、要と宗弥は棒倒しで培(つちか)った意志伝達法を使って、自分が得た情報を交換し合い、2人は何度となく、窮地(きゅうち)を乗り越えた。そんなバディぷりは、伝達法は、他の訓練生にも波及(はきゅう)していき、自然と自分を補(おぎな)うバディを個々に見つけ、行動を共にする様になっていく。伝達法は全体の情報共有に繋(つな)がり、訓練生の連帯を深める結果をもたらした。



 そんな訓練終盤のある日、日が明けたばかりの深夜、01:12(マルヒトヒトニー)に、撃たれた衝撃は実弾と変わらないペイント弾を使用して、同行する判定官が負傷の度合いを判定しつつの模擬戦が始まった。条件は敵リーダーのみを奪取(だっしゅ)し、他は殲滅(せんめつ)というもので期間は4日間、敵はとある国の特殊部隊を指導する教官チームだ。



 この実戦さながらの模擬戦の指揮者に、要は指名された。開始時刻になると同時に、要は最低限度の装備と、持てるだけの銃弾、スナイパー銃2丁を準備させ、5分と決めて、テント内に在住しているかのような工作と、そのあちこちに発煙弾、MK3手榴弾、M84スタングレネードのトラップを仕掛けるよう指示し、13分後には陣地の西側にある山に移動し始めた。



 目的地に到着すると、グリッド表示された地形地図を囲むように、車座(くるまざ)に座るチーム総員に要は「陣地は捨てる」とだけ告げて意見を聞く。1時間に及んだ話し合いの間、要はほとんど口を挟まず、チームの意思に任せて共通認識ができるのを待った。



 作戦が決まった後、要はもう一度、厳密に決めた行動時間、要点(ようてん)を確認する。そして最後に一言「敵は実戦経験のない僕たちを、ただの訓練馬鹿だと思ってる。難(なん)なく勝利して奴らを笑ってやろう」ゲキる訳でもなく、淡々と、白目に青筋を立ち昇らせて、不敵な笑みを口元に浮かべながらそう言った。



 この頃から要は気持ちが戦闘モードに入ると、白目に青筋が浮くようになっていた。宗弥は生存本能がそうさせるのだろうと、その蒼き目を解釈する。



 チームが立案した作戦は、敵陣地を迂回したスナイパーを、約1000M の距離をとったポジションに1人、着弾の重なりが無いよう計算して、その対角に敵の野営地から800m後方にスナイパー1人を配置(はいち)し、強襲班は2人一組で各ポジションから、敵陣地の後方を守るようにそびえ立つ、傾斜角(けいしゃかく)34度の樹が生茂った崖(がけ)を、亀よりも遅い速度で、迷彩同化して2日間かけて降り、一気に強襲するという戦法だった。意志伝達は傍受があるだろうと、あらかじめ決めておいた鳥の声で、食事は要がテントから持ち出していた1パック、1350カロリーの炭水化物強化飲料のみ、生理現象はおしめにて対処とした。



 敵は隊を守備と攻撃の2グループに分け、背後の崖からの奇襲を、考慮に入れていない陣取りを引いていた。陣地から追い出されるように、見渡しの良い平地に狩り出された敵を、2人の味方スナイパーが着実に仕留めてゆく。迂回した1000mのポジションに潜(ひそ)み、2発撃つごとに移動して、狙撃していったのは現アルファー所属のファイターだ。



 要たちは勝利する。この結果は厳しい訓練を裏付けるものとなった。要たちは死なない訓練をされていたのだ。



 日本国は、戦闘を仕掛けてはならない。

 専守防衛から始める。



 だが、敵は、初回の戦闘で最大の打撃を計算した作戦を、容赦無く実行に移す。だから、要たちは死なないよう鍛えられていた。



 訓練終了の間際から、人を取り込む工作、拿捕(だほ)の支配心理、服従心理の講義が始まり、拷問に耐え、拷問を与える訓練が始まる。この訓練を要と宗弥を導いた男は楽しんでいた。



 要は男に拷問されながら、男の瞳に高揚が浮き立ち、踊っているのを見逃さず、いつか、この男を殺そうと考えながら耐える。



 要は拷問を加える側の開始直後、その場で吐いた。



 2年におよんだ訓練を経て、要と宗弥を含む他10名は、特殊戦群部隊の第1期メンバーとなる。



 要は24歳になっていた。宗弥は医師である内心と、職務内容との折り合いが付けられず、葛藤を深めて入隊を一時保留し、考え抜いた末、3ヶ月後に入隊した。



 要にこの国の門番たる特戦群、先鋒アルファーチーム・チーム長の任(にん)が下(くだ)る。理由は訓練中、数多(あまた)の模擬戦で、要が指揮した作戦の死亡認定が0だったからだ。



 人命を預かり、その命を指示一つで動かすのだからまずは、チームの結束力の強化からだと考え、要は要望書(ようぼうしょ)を作成する。希望が叶わなければ、チーム長を辞退するつもりでいた。



1、1年間、各国特殊部隊との訓練遠征を行う事。

2、その派遣地は、チームメンバー並びに、自分にも不明とする事。

3、2ヶ月ごとに、チームを他国に移動させる事。

4、作戦行動中、チーム長が指揮権を持つ事。

5、資金は潤沢にする事。

6、チームに、特殊戦群所属の医師を入れる事。

7、チーム内の問題は、チームで解決させる事。

8、装備は個人の希望したものとする。

 

 経験を積まなければ、他国には追いつかない。



 提出した要の目前で、男は書面を読んでサインしたが「6の手配は難しいかな」と軽く言う。命を軽んじる発言に要は憮然としたが、表情には出さず「わかりました。本陣(ほんじん)が推薦する医務官で構いません。ですが、素水(モトミズ)が復帰した場合、できればアルファー所属としてください。宜しくお願い致します」深々と頭を下げた要は、宗弥は帰ってくると信じていた。



 その手配を全て完了させた男は、要を召集(しょうしゅう)し「これでお前も、武人だな」と言った。



 要にそう言った男は、その2年後、忽然(こつぜん)と姿を消す。男のコードネームはスパルタン。スパルタンは姿を消す前日、妻を殺そうと計画していた。だが、妻の愛人だった男はどうやってか、事前にこの事を察知(さっち)して妻と共に逃亡する。今も、この3人の消息(しょうそく)は掴めていない。




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