表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/107

第二十六話 緊張の夜

 街中でアリスが襲われたという報せは、またたく間に王宮に広まった。

 当然今後は王族は理由なく外出禁止となった。

 ちなみに国王一家からは、またも助けたということで、感謝された。


「はやく犯人捕まらないかなー、つまんなーい」


 アリスはあんなことがあったのに怖がるわけでもなく、ベッドの上でゴロゴロしていた。

 ぬいぐるみ替わりか、テルトを抱いている。テルトは嫌がっていない。アリスを気に入ってるのかな?


「心当たりはあるんですか?」


「おいモナカ、王族を狙う相手なんて、政敵から他国の刺客まで、いろいろといる。心当たりなんて山盛りだろう」


 エシュリーの言う通りか。いくらでも考えられるなら、犯人特定も難しいよねー。


「こんなのでも、行けたらまだマシだったかなー」


 アリスが何か紙をこっちへ放り投げてくる。

 なになに、手紙?


「演劇の招待状ですか」


「演劇ってじっと見てるだけで、そんなに好きじゃないんだけどね」


「あ、これ、グレイスさんからなんですね」


「この前はごめんねー、あの子、身分とかすごく気にするたちで。それが無ければいい子なんだけど」


 いい子なのか、あの子。


「もーモナカ、そんな顔しないの。あなたの方が可愛いよ」


「いや、そういうことを考えていたわけでは無いので」


 噂をすればではないが、グレイスが訪ねてきた。

 この前サロンをやった部屋で出迎える。


「アリス姫様! また襲われたんですって!? お怪我はありませんでしたか?」


「ありがとうグレイス。大丈夫よ。モナカたちが片付けてくれたから」


「そうですか、それは良かった……」


 グレイスは心底安堵したような表情をしている。


「安心せいグレイスよ。わたしたちがどんな刺客もぶっ倒してやるから」


「お子様が無礼でしょう!? グレイス様とお呼びなさい、グレイス様と!」


 エシュリーに向けて、グレイスの取り巻きの一人が怒鳴り散らした。

 何か言おうとしたエシュリーを、アリスが手で制する。


「アンヌさん、ごめんなさいね。大目に見てあげてくださいな」


「は、はぁ、姫がそうおっしゃられるのなら……」


 アリスのフォローに、しぶしぶ引き下がるアンヌと言われた取り巻きさん。


「アリス姫様、我が家の方でも志望者の洗い出しの協力を行っております。早く犯人が見つかり、また演劇などご一緒出来る日を楽しみにしています」


「はい、わたしも早く表に出たいわ」


「そうすれば、いつまでも下々の護衛が付いてくることも無くなるでしょうしね」


 グレイスのトゲのあるその一言に、アリスは眉を上げ、わたしを引っ掴んだ。


「あらあら、モナカはこの事件が終わっても、ずーっとわたしの大親友として一緒にいてもらいますわ」


 ほっぺにキスをされた。


「ああああっアリス!?」


「姫!? なんということをおおー!」


 わたしとグレイス、同時に叫んでいた。


「そんなに動揺しなくても。あいさつよ、あいさつ」


「わ、わたしは、そちらの、あ、あいさつをされたことは、ないのでしてよ」


 グレイス、口がうまく回っていないな。


「それでは、わたしたちはこれで。グレイス、お父様たちにもあいさつされるんでしょう?」


「そ、そうですわね。今日はこれで」


「行きましょ、モナカ、みなさん」


 アリスにうながされ出ていくわたしたちを、グレイスは茫然とした表情で見ていた。


「いいの? アリス?」


「いいのいいの。グレイスも少しは地位とか気にしない人との接し方を、学んでもらわないと」


 なんか、グレイスに恨まれなければいいんだけど……




「モナカ、起きて」


 夜中、リンの声に起こされる。


「うん? どうしたの?」


 時計を見ると午前二時だ。俗にいう丑三つ時。


「敵が近付いている」


「お城にまで来たの!?」


 他の三人も起こす。


「――静かに、もうこの部屋の窓の外に来ている」


 小さな声でリンが警告を発してくる。

 今はみんな寝間着で、武器も携帯していない。

 とりあえず見つからないように、みんなベッドの陰に隠れる。

 小さなきしみ音だけ響かせ、窓が開く。起きていなければ気付かない程度の音しかしない。

 ベッドから顔は覗かせられないから姿を見ることが出来ないが、足音から、四人くらいかな?

 何かくぐもった、布を刺すような音が数度聞こえた。問答無用に寝ている所を刺し殺す気だったのか。

 足音が段々と近付いてくる。目の前まで来るのを待つ……

 もう少し……今!

 ベッドの陰から飛び出して、一人にタックル!

 倒れたヤツの足首掴んで、手近なやつに放り投げる。

 残った奴らが気付いたらしく、みな手に短剣を持ち、襲ってくる。


「【念力テレキネシス】」


 リンが手をかざすと、一人が吹き飛んだ。


「【捕縛キャプチャ】」


 続いてテルトの魔法で、二人が動きを止めて倒れた。

 吹き飛ばしただけの奴らを、わたしが押さえ込み、縄で縛りあげる。


「衛兵さーん! 敵が来ましたー!」


 エシュリーが衛兵を呼び、全員連れ出してもらった。


「しっかし、王城にまで襲撃に来るなんて」


 リンの敵感知には反応しなかったから問題ないと思うが、念のためアリスの部屋も訪れる。


「あ、モナカ、ピンクのウサギ柄パジャマ、可愛いですね」


「ありがとう、じゃなくて、こっちに襲撃があったの。アリスは大丈夫?」


「なんにも無かったですよ。けど心配だから、今日はみなさんで、わたしのお部屋に泊まっていってください」


 うーん、今回は状況が状況だから仕方ないのかな?

 メイドさんたちに言って、今夜はアリスの部屋に泊まることになった。


「モナカ、ちょうどいい大きさなんですねー」


「揉むな!」


 なぜかアリスと同じベッドに、わたしとリンが寝ていた。

 寝ようとすると、アリスがイタズラしかけてくるので、これはこれで緊張の一夜である。


「リンちゃん、ふわふわー」


「わわわっ、アリス、モナカ派じゃあなかったの!?」


 派ってなんだ!?



「グレイス! どうゆうことですの!」


 翌日、グレイスとその家族が呼び出された。

 こちらは、国王一家と衛兵長、それとわたしたちが列席している。

 糾弾されているグレイスは黙ったまま、うつむいていた。


「アリス姫様、今回のことは、わたくしの監督不行き届きが原因です。ご迷惑をお掛けし、大変申し訳ない」


 グレイスのお父さんが深々と頭を下げた。

 国王様は厳しい表情のままだ。


 あの後、刺客を尋問したら、グレイスに雇われ、護衛を討伐するよう依頼を受けていたと、発覚したのだ。


「わたしが自宅で、グレイスに事情を聴きました。今回の襲撃については――」


「いいわ、お父様、わたしからお話しします」


 顔を上げ、泣いていたのか、赤くなった目をいっぱいに開き、全員を見回している。


「今回は、わたくしの独断で動いたことで、我が家には何の非もございません。罰するならわたしだけにして頂けますよう、お願い申し上げます」


 頭を下げたグレイスの体は震えていた。


「もう一度聞くわ、なんで刺客なんて送ってきたの? しかもモナカさんたちの殺害なんて」


「悔しかったから……」


 グレイスがポツリとこぼす。


「今までは、アリス姫の一番の友達はわたしだった。演劇だって一緒に行きましたし、お互いの家にも何度も伺っています。ただ、アリス姫は王族、わたしは公爵家の娘。一歩引いた関係しか築けませんでした。それが、昨日今日来たばかりの平民と、敬称略で呼び合ったり、遊びに行ったり、あまつさえ、キ……キス、なんて、許せなかったの……」


「グレイス……あなたの気持ち、分かったわ。けど、命を奪おうというのは、やり過ぎよ」


 アリスはグレイスを睨みつけてていた。

 グレイスはその視線を真っ向から受け止めている。


「あなたとは絶交です」


 アリスのその一言で、またもグレイスはうなだれた。

 うわぁ、空気が重い。


「い、いやあ、アリス……怪我人とか出てないことだし、そこは考えてあげて」


「モナカさん、優しいんですね。ただ、今すぐに仲直りは出来ません。いいですか、グレイス」


「はい……」


 うつむいたまま小さな返事が返ってきた。

 アリス、容赦ないなー。


「ザイール卿よ」


 国王が重い口を開いた。


「は、はい!」


「先ほどモナカ殿から進言があったように、今回は死傷者は出ておらぬ。よって謹慎処分と賠償レベルの処分で済ませよう。詳細は追って知らせる」


「温情、ありがとうございます」


 グレイスの一家みんなが頭を下げた。


 グレイス一家が退席した後、今度はわたしたちが国王一家から頭を下げられた。


「ええっ! あ、頭を上げて下さい国王様!」


 この国の人間であるリンが一番驚いたようで、あたふたしだした。


「この度の件、モナカさんたちに多大なご迷惑をお掛けした」


「いえいえ、それで、今までの襲撃も全部グレイス?」


「いや、ザイール家の子女の仕業と分かったのは今回だけだ。動機からも、今回が初めてだと考えられる。それに、今までは依頼人の素性が不明で、今回はすぐ発覚するずさんなもので、手口が違う」


 衛兵長さんが、状況説明してくれた。


「モナカさん、リンさん、エシュリーさん、テルトさん、ニャンコさん、これからも、よろしくお願いね」


「こちらこそ!」




 同日夜、わたしたちは国王様に呼ばれた。


「キミたちであれば信用できるであろう。あるものを見せておきたい」


「あるもの?」


 何を見せてくれるのか?

 そこは城の地下。

 そこは幾重にも扉が続く、厳重な場所であった。

 最初は鍵で開けるタイプだったが、最後の方は顔人称と合言葉になっていた。


「西の妖精族に作ってもらった、魔道具アーティファクトの一種だよ」


 国王の言葉に、興味津々のリン。

 やがて、最奥へと到達する。

 そこは小部屋になっており、一振りの剣が置かれていた。

 刀身がわたしの身長くらいありそうな巨大な剣である。柄には特に装飾も無く、非常に簡素なつくりだ。


「おおおおっ! こいつかああ!」


 エシュリーが興奮している。知ってるのか?


「モナカ、わたしも昔はこうだったんだ!」


「え?」


 エシュリーがそうだったということは……


「これが、我が王国の神、リーシェインだ」


 国王が紹介してくれた。

 剣が神様なんだ。


『エシュリーか?』


「しゃべったー!?」


 ビックリした!


「しゃべるのを初めて知りました……」


 リンも驚いている。


「わたしは、国で神の声を聞いたことがあります」


「わたしもあるよ」


 ニャンコとテルトは神様の声の経験者か。


「リーシェイン様、この者たちをご存じで?」


『そこのエシュリーだけは昔からの知人だ』


「やあ、リーシェイン。元気そうだな」


『神器に元気も衰弱もなかろう』


「それもそうか」


 なんか、神様二人で会話が進んで行ってるな。


「エシュリー、紹介してよ」


「ああ、この剣はリーシェイン。ファルプス・ゲイルを治める神だ。持つ者に神に匹敵する力を与えるとされる」


 パワーアップ装備か。


「リーシェイン、こっちはモナカでわたしの信者。あとニャンコ、テルト、リンという下僕たちだ」


「だれが下僕だよ」


 テルトの抗議に無言のエシュリー。

 無視されたのが気に食わないのか、襲い掛かっていく。


「こ、こら!? テルト、やめろー」


「あらあら、いつもながら仲いいですよね」


「微笑んでないで助けろニャンコ!」


 うーん、やっぱり子供だなーエシュリー。


『ふふふ、リア・ファイルにやられたと聞いてたが、思ったよりも元気そうだな』


「ああ、今度はやり返してやるさ」


 神様同士の会話を聞いて、ふと思った。


「神様同士って、基本仲いいの?」


「仲良かったり、時にはケンカしたり絶交したり、いろいろだよ」


 神様の世界って、存外人間臭いんだな。


「うん? ちょっと待ってくれ……」


 国王が何かあったようだ。


「たぶん、念話テレパシーで会話してる」


「そういえば超能力の国だったわね」


 携帯・スマホが発展しないのは納得。


「ふむ、ふむ……わかった……」


 念話テレパシーが終わったのか、こちらに向きなおる。


「まずいことになった、アリスがさらわれた様だ」


「えええええっ!」


 めっちゃまずいじゃん!


「急いで戻るぞ!」


 わたしたちはアリスの部屋まで全力で向かった。

 たどり着くと、すでに衛兵が何名も集まっていた。

 部屋の中には当然アリスはいない。

 窓は閉められており、争った形跡も無い。どうやったかは不明だ。


「わたしたちがいなくなっているタイミングを狙われるとは」


「国王!」


 衛兵が走ってきた。

 表情から、悪い知らせを持ってきたのだと分かる。


「なんだ」


「神器が、我が国の神が盗まれました!」


「なんだと!?」


 タイミング悪すぎるうううう!

 どっちもいないタイミングで奪われるなんて!?


「その場にいなかったとはいえ、連れ去られたのはこちらの失態。取り返すことで、見事挽回して見せましょう!」


 エシュリーが自信満々で言い放つ。


「連れ去られた場所に心当たりがあるのか?」


「ええ、行くぞ、モナカたちよ!」


 大丈夫かな?

 エシュリーの自信がどっから来ているのか分からず、不安になってくる。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

第一~二十ニ話まで、修正させていただきました。(2017/9/23)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ