↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/107

第二十五話 クレープ

 典型的な貴族像というのがある。

 やたら偉そうで、人を階級で判断し、庶民は完全に見下しているというもの。

 サロンに訪れたアリスの友人、グレイスとやらが、まさにそれだった。


「アリス様、最近襲われたのですって? 街の外は物騒ですわね」


 列席を許されたわたしたちには挨拶もろくにせず、さっきからアリスとばかり話をしていた。


「はい、けど今はモナカさんたちが護衛をしてくれているので、安心できますよ。ねえ、モナカ」


「はは、アリスにそう言ってもらえると嬉しいわ」


 わたしが答えた途端、グレイスが眉間にしわを寄せた。


「姫様とお呼びなさいな。まったく……アリス様、下々のお相手が大変ですね」


「モナカにはアリスって、呼び捨てにしていいと言ってありますから」


 それに対して横から否定が入る。


「グレイス様ですら、アリス様を敬称を略さずにお呼びしているというのに、下々のものは建前の言葉であることを理解せず、無教養無遠慮で困りますよね」


「まったくですわ」


 グレイスの取り巻きも二人来ていて、そいつのおべっかに大仰にうなずいていたりする。

 なんなのだ、この連中は。


「ふふふふっ、無教養とか言ったか、わたしの方が貴様らよりも教養があるぞ」


 エシュリーがいきなり神話時代の講釈を始めやがった。

 空気読まずに知識披露するのの、どこが教養のある態度なのだろうか……

 ベラベラとしゃべりまくるエシュリーの言葉に、興味津々で聞き入ってるのはテルトだけで、他はみんな唖然としている。


「もうよろしいわ、おだまりなさい」


 グレイスの言葉に、あっさりと黙るエシュリー。あれ、聞き訳がいい。


「つまりは、わたしの勝ちと言うことだな」


 偉そうにふんぞり返るエシュリー。


「バカな子供に付き合っていられませんわ」


「バカとはなんだ! バカって言った方がバカなんだぞ!」


 グレイスに指を突き付け、わめき散らすエシュリー。

 ホントに齢数千年の女神様なのだろうか……

 グレイスや取り巻きたちは心底嫌そうな顔をしているが、アリスは笑いをこらえるのに必死なご様子。


「エシュリー、恥ずかしいから、いい加減にしましょうねー」


 とりあえず圧を効かせて黙らせる。


「ごめんなさいアリス、アホの子が空気読まなくて」


「あはははっ、いいわよ、おっもしろいー!」


 もうアリスは涙目である。


「誰がアホの子か! もっとわたしは敬われるべきだ!」


「なら、もっと敬われるような態度をとりなさいよ」


 いがみ合うわたしとエシュリーに、アリスが突然抱き付いてきた。

 エシュリーと向き合う体勢になってしまう。勢いで危うくキスしてしまいそうになった。

 こんな近くで見るの初めてで、可愛いエシュリーの顔を、不覚にも意識してしまう。


「もーう、二人ともケンカしないの。仲良くしようねー」


 何やらわたしたちの体勢が気に入らないのか、グレイスの目つきが鋭くなっている。


「アリス様は甘すぎますわ」


 取り巻きの二人がうなずいている。


「だってー、この子たち可愛いし」


「グレイス様もお美しいですわよ?」


 取り巻きの一人がフォローに入る。


「うーん、わたしはこの中で一番かわいいのはモナカだと思うな、ねぇモナカ」


「ちょっ!」


 面と向かってそう言われると、なんかこそばゆい。

 じーっと、見つめないで欲しい。超かわいいお姫様に見つめられるとか、ドキドキしちゃう。


「えっと……アリスも可愛いと思うんだけど」


「わぁ、プロポーズされちゃった」


 いやいや、そんな嬉しそうな顔して、何を言っているんだ。

 というか、さっきから顔が近いです。

 お姫様って、やっぱり使っているボディーオイルや化粧品類が高級品なのかな。すごくいい匂いがする。


「いつまで抱かれてるんですか! はやく離れなさい!」


 グレイスはそんなわたしたちの状態が面白くないのか、とうとう吠え出した。


 結局、グレイスが終始怒りまくった状態でサロンは終わってしまった。


「サロンって、あんなもんなんですか?」


「普通は、お互いの近況とか意見や情報を交換する場なんだけどね。けど、今日はモナカたちがいて、退屈なおしゃべりにならなくて、ホント楽しかったわ!」


 いいのかなそれ?

 わたしたち、グレイスとその取り巻きにめっちゃ嫌われたけど。


「さて、お部屋で続きをしましょうか」


「続き?」


「モナカをもーっとぎゅってしてあげるね」


「をおおいいい!?」


 大丈夫かなこの子。


「仲いいよねーアリスとモナカは」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべるリン。


「あら? リンは嫉妬してるの? 大丈夫! 独り占めとかしないから」


「ちがっ! わたしはそんな趣味無いから大丈夫ですって!」


 反撃されると弱いなリンは。


「わたしたちも相手してほしいよねーテルト」


 ニャンコがめずらしくテルトを抱っこしていた。

 テルトは意外とまんざらでも無い様で、胸に顔をうずめている。


「おっぱいまくら気持ちいい」


「テ、テルト!? おっぱいとかモナカさんみたいなこと言っちゃいけません!」


「わたしみたいってなんだー! おっぱいがどうとか、言った憶えないぞー!」


 こいつめー。

 ニャンコの胸を思いっきり揉んでやる。


「このおおっ! ニャンコめ、けしからん体しおって!」


「にゃああっ! すみませんモナカさん、ちょっと調子に乗り過ぎちゃって」


 ニャンコめ、大人しい性格かと思ったが、最近タガが外れてきたようだ。

 ふと見ると、リンとアリスがお互いの体を見比べていた。


「モナカって、ああいう体付きが好きなんだね」


「リン、まだまだわたしたちは成長期ですわ」


「二人とも何の話をしているの!?」


 なんだか、今日はみんなハイテンションであった。

 こういうじゃれまくる感覚、久しぶりだなー。学生時代以来だ。




 アリスが街を散策してみたいとかで、みんなで一緒に行くことに。

 ほんとうはいつ襲撃があるか分からないから、不用意な外出は禁止なんだけど、ずっとお城の中では息が詰まるということで、無理言って来たのである。

 襲撃に備えて、わたしたちだけじゃなくアリスも剣を携帯していた。


 首都と言うだけあって、今までの街とは規模が違う。

 大きな建物が立ち並び、視界の向こうまで続いている。歩いている人の数も多い。

 様々なお店があり、見て回るだけでも楽しい。


「あ、クレープ屋さんだ」


 テルトが指さす先に、テイクアウト専門のクレープ屋さんがあった。

 日本ではよくある食品サンプルのディスプレーは無いが、表に出ている看板に、メニューがずらりと書いてある。

 通りに面した位置にカウンターがあり、そこで注文してもらう形式だ。


「モナカさんと初めて会った街でも、みんなで食べましたね」


 リンが懐かしそうに言ってくる。


「よし、クレープを買いましょう」


 アリスはクレープ屋さんをじーっと見ている。

 顔が少しこわばってる、緊張しているのか?


「アリスって、クレープ屋さん初めて?」


「今までの友達って、相手のお屋敷に行くか、演劇を見に行くかだけだったし、たまの外食もレストランだけだったの。こういうのは初めてで、ちょっと楽しみ」


 そういえばお姫様なんだよね。

 こうやって街歩きする機会もほとんどなかったかもしれない。

 たしかに、グレイスとか、庶民的なことは毛嫌いしそうだな。


「何食べます?」


「モナカが決めて」


 えー、自分で選ぶのが楽しいんだけどな。

 メニューを見ながらちょっと悩む。

 その間にみんな注文しだしてる。


「照り焼きチキンくださーい」


「テルトは食事系食うのか」


 食事系頼む子初めて見た。

 アリスのは無難にアーモンドチョコ生クリームを注文した。


「ありがとう、モナカ。あ、定員のお姉さん、モナカのも同じ奴で」


「あいよー」


「ちょっ、人のもの勝手にー」


「これでお揃いー」


 真似っこなのか、同じように語尾を伸ばすアリス。なんか可愛いぞ。


「アリス、違うの頼んで食べ合いっこするっていう手もあるんですよ?」


 リンがいたずらっぽく言ってきた。

 どんな知識を刷り込む気だ。


「リンは何頼んだっけ?」


「ジューシーカルビ、あとでシェアしよ!」


「クリーム系と全然味が合わないわ! テルトとしていなさい!」


「うーんシェアか、お姉さーん、モナカのやつショコラカスタードに変えてー」


「あいよー」


 アリス、シェアしたくてしょうがなかったのか?

 まあ、高級レストランとか貴族の家とか、そんなところでシェアとか経験しないだろうからな。

 先にアリスのクレープが出てきた。お姉さんから嬉しそうに受け取っている。


 いきなりきらめくものが視界に入った。

 とっさに反応し、アリスを抱き寄せる。


「きゃあっ! なになに!? モナカ、こんな人通りの激しいところでダメだって!」


「なにを言ってるの! 襲撃だよ!」


 アリスに刺さろうとしていたナイフが、道に落ちていた。


「大丈夫ですか!?」


 ニャンコたちが気付いて近寄ってくる。


「クレープは落としませんでした!」


「ええい、何をがんばってるか! 敵襲よ」


「モナカ、敵さん出てきたようだよ」


 リンの言葉に周囲を見ると、黒ずくめが六人、わたしたちを囲んでいた。


「こんな昼間に襲撃って、すごい度胸ね。リン、他には?」


「こいつらだけ。少なくとも近くに敵はいない」


 これだけの人数なら問題ないだろう。


「無粋な方たちですね、人のデート中に乱入してくるとは」


 アリスが抜刀すると、その刀身が輝きだした。


「デートなのか!? まあ、それは置いといて、ここは任せて」


 久々に、力を使ってやろう。

 黒づくめたちを全員見て、魅了の力だ!

 とたんに黒づくめたちは、武器をしまい込み、こちらに寄ってきた。


「モ、モナカさまー」


「ええい! 野太い声で合唱するな、気持ち悪い!」


 この力、男に対して使うとキモイから、女性限定にしようかな?


「えっと、モナカ、これは?」


「わたしの能力で魅了してあげたんです」


「暗殺者すら魅了されてしまうとは、モナカの美貌はそれほどなのね!」


 なんか、アリスが微妙に勘違いしているような……

 まあ、尋問を先に始めておくか。


「あなたたち、誰? なんの目的で襲ってきたの?」


「お、おれはドクト、三十一歳で嫁を募集中です。家は農家をやっていて、優しい家族が自慢です」


「暗殺者やめて農家で働け! てか、おっさんのプロフィールはいらん! 依頼人とっとと教えろ!」


「依頼人は全身黒ずくめで顔を隠してて、声から壮年の男としか……ギマと名乗ったが本名かは分からん」


「襲った理由は?」


「理由は聞いていない。護衛を殺し、姫を連れて来いと言われた。おしゃべりな依頼人でない限り、普通は殺し屋に理由を言わないものだ」


「わたしを連れてって、わたし一人でも、この人たち全員倒せてたよ」


 お姫様、強いな。

 それはともかく、うーん、こいつらから敵の素性は分からないか。


「どこかで会えたりする?」


「襲撃が成功したら、賞金を受け取る場所は決めていたが、失敗したら現れないことになっている。たぶん来ないだろう」


「モナカ、こいつらからはあんまり情報は聞けそうにないね」


 リンの言う通り、こんなもんだろう。


「さて、あなたたち、いろいろ教えてくれてありがとうね。みんな、これから衛兵の詰め所に言って事情を全部話して、捕まりなさい」


「はい、わかりました」


 六人そろってゆっくりと歩いて行く。


「捕まると分かってても行くんだねー」


 テルトが面白そうにその後姿を眺めつつ、照り焼きチキンにかぶり付いている。

 なんか、ごはんが食べたくなってくるな。


「そうゆうプレイだと思ったんじゃない?」


 エシュリー、それは高度過ぎるぞ。

 一気に食欲がうせてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。