第二十四話 王宮での暮らし
「――そこで一瞬舞台が暗くなって、明るくなった瞬間、巨大な巣が岩山に変わっていたのよ!」
「えええっ! すっごい劇的な舞台演出なんですね、わたしも見てみたいな」
お姫様の自室に招かれたわたしたちは、今までの体験談などを聞かせて欲しいとせがまれた。
よくよく考えたらこっちの世界に来てから、戦闘以外にすごいことって経験してないなと思い、前世の話をしていたわけだ。
「モナカさんの見られた舞台とか遊園地とか、わたしも聞いたことのないものばかりですが、どこにあるんですか?」
ニャンコが興味深そうに聞いてくる。
「遠くよ」
他に答えようもない。
お姫様の自室は、リビングルームとベッドルーム、衣装室に分かれていて、さらに専用のバス・トイレなんかも付いている、いわゆるスウィートルームタイプの構造をしている。
なぜかわたしたちはベッドルームに通され、お姫様はなんと寝転がってわたしたちの話を聞いていた。
ベッドで寝ながらの方が楽でいいとか。
お姫様のわりに、結構砕けているというか無作法じゃないかとこっちが思っちゃう。
ちなみにベッドルームと言っても、二十畳くらいあるんじゃないかと言うデカい部屋である。さすがは一国のお姫様。
「さて、そろそろ夜もふけってきたことですし、わたしたちは部屋に戻りましょう」
リンの言う通り、もう夜の十一時だ。
「そうね、アリス、また明日お話ししましょう」
わたしが立ち上がると、服の裾を掴まれた。
「アリス?」
「ねえモナカ、一緒に寝ましょうよ」
なんかめちゃくちゃ目が輝いていらっしゃる。
「いやでも、すぐ近くのお部屋を用意してもらったし、それにベッドも一つしかないし」
なにやら危険を感じ、全力で言い訳を探してみる。
「護衛なら近くにいた方がいいじゃない。それにほら、ベッド広いからもう一人二人余分に寝ても問題ないよ」
たしかにダブルベッドより横幅が広い、寝返り打ちやすそうなベッドではあるが……
「一理あるな――よし、モナカ、今日からお前の寝室はここだ」
「エシュリー、何を言ってるか!」
「まあ、女性同士ですし、友達同士で寝ることってよくあることなんじゃないですか?」
「お泊りすることはあっても、同じ布団で寝ることは無いと思う……」
「では、みなさんのお許しが出たということで、さあ、モナカさん遠慮せずに」
「えっ!?」
「じゃねーモナカ」
「では、また明日」
なんかみんな手を振って出て行ってしまった。
「ほら、ベッドに入ってきて。続きの話とか聞きたいな」
「えーっと、いいのかこれ?」
結局、事情を聞きつけたメイドさんたちが駆け付けて、なぜか姫と一緒にわたしも叱られて、部屋に連れ戻されることとなった。
なんだったのだいったい……
翌日、アリスの部屋でみなと一緒に、しゃべったりゲームしたりしながら過ごしていると、晩さんに呼ばれた。
王侯貴族の大勢集まる晩さん会ではなく、国王一家の食卓にわたしたちだけが招かれる、こじんまりとしたものだ。
国王一家に招かれるのだから正装しなきゃまずいだろう。
ニャンコは神官衣が正装だと言い、エシュリーも神の衣以上の正装は無いと言い張った。テルトは普段着で問題ないと、特に気にしていなかった。
わたしとリンは、正装っぽいのって、この前の街で買ったゴスロリ服しかないんだけど……
「これ、着るの? 普段着でもいいんじゃない?」
「いいの、かなー? 普通の服もこの前の街で買ってて、新品同然だし……うーん、けど、二人だけ浮くのもなー……」
結局、ゴスロリ服を着用して行くことに。
食堂に着いた時、アリスに「リンとモナカがテルトのコスプレしてるー!」って爆笑されてしまったが……
「正解は、城のメイドに言って衣装を貸してもらう、だったな」
「そう思っていたなら、先にそう言えー!」
エシュリーの胸ぐらを掴んで思いっきり揺すってやった。
さらにアリスに笑われ、他の人たちも笑いをこらえるのに必死な様子。
ああ、恥ずかしい……
他の人たち、国王様とアリス、それと国王様と同い年くらいの気品ある女性と、アリスにどことなく似ている落ち着いた女性がいた。
「えっと、来た早々、お恥ずかしいところをお見せてしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、お聞きしていた通り、大変楽しそうな方たちですね」
「はい、どうも……」
喜んでいいのかなーこれ。
「あ、申し遅れました、わたくし、グレッグの妻のエレノアと申します。それと、アリスはもうみなさんと親しいようですが、こちらはアリスの姉で、シャーロットと申します」
「シャーロットです。妹がお世話になっているようで」
「いえいえ、こちらも王宮生活を楽しませてもらってます。わたしはモナカといいます、よろしく」
他のみんなも自己紹介をする。
みんなが席に着き、国王の一声で晩さんが始まった。
食事はコース料理形式で、始めにオードブルが出てきた。
薄皮生地で作った小さな器にペーストが詰められ、ハーブとトリュフ? が添えられている。茹でた葉物と揚げた芋料理も置かれている。皿にある二色のソースでいただくのかな?
「モナカさん、改めて、アリスの護衛を受けて下さりありがとう。今のところ問題は無いようですが、これからもよろしく頼む」
「いえいえ、こちらこそ」
わたし、いえいえばっかり言っているな。なんか緊張する。
「アリスから聞きましたわ、モナカさんのお話しはとても面白いって」
シャーロットさんが興味津々に聞いてきた。
アリスよりも気品があって、食べる仕草も無駄な動きが無く、とても優雅である。
「あー、まあ、普通は無いような体験の数々をこなしてきているので」
「ネズミを題材にした遊園地があるとか、モナカの地元は大変変わっているようなんです」
リンが話に加わる。
「そうなんです、お姉さま。そこには岩山を走り抜けるすごく早い乗り物とか、童話の世界を旅できる乗り物とかがあるという話ですわ」
「まあ! いろいろな乗り物があるんですね」
「はい、そこは夢と魔法の国と言われていまして、そこへ行くと現実の辛いことを全部忘れて楽しめるんです!」
シャーロットさんがあまりにも楽しそうに話してるんで、ついつい調子に乗ってしまった。
「現実の辛いこと……モナカさん、いろいろとお辛いことがあったんでしょうか」
いや、王妃様、そこ突っ込まないで。他の社員との口論とか、残業続きで辛かったとか、そういうのだし、どう説明するんだ?
「えーと、友達とのケンカとか、お勉強の時間が長くて疲れたーとか、そういうことですよ」
とりあえず、十五歳少女らしい回答にした。
「まあ、そのお年頃ですといろいろと悩んだりするものですよねえ」
なにか可愛いものでも見るかのような、優しい笑顔を返される。
よし、王妃様乗り切れた。
オードブルのあとはサラダが出てくる。細切りにした各種野菜を束ね、横にトマトピューレみたいな赤いソースが添えられている。
凝った仕事のされたサラダだ。いつも街で食べている、ざく切りの生野菜を盛っただけとは全然違う。
「そういえば、アリス姫の護衛はしていますが、シャーロット王妃や国王自らはよろしいのですか?」
エシュリーが国王に問いかけた。
言われてみればそうだな。
「そちらはそちらで護衛を用意しておる。問題はない」
「実はシャーロット姉さんの護衛って、超イケメンの騎士で姉さん好みなのよ」
「こら! アリス!」
シャーロットさんが顔を真っ赤にして怒り出した。あら可愛い。
たしかに、邪魔しちゃ悪いな。
噂のイケメン騎士だけ、あとで見に行こう。
そのあとも楽しい晩さんは続き、おいしいひと時を過ごすことが出来た。
翌日、サロンを開き、そこにご友人も来るから一緒にと誘われた。
国王一家の分家の令嬢だとか。
ちょっと緊張するけど、国王一家みたく少し砕けた感じならいいな。
「あ、モナカとリンは、またあのドレス着て来てね」
「着ないわ!」
わたしとリンの声がハモった。




