第二十三話 お姫様の護衛
スピーダーには対障害物レーダーが付いている。
最高速度だと一秒で百三十八メートルも移動してしまうのだ。視認してから避けるのでは遅い。
一キロ範囲を捉える至近レーダーと、ニ十キロ範囲を捉える広範囲レーダーが備わっている。
リンは、外の景色では無く、レーダーを見て操縦しているのだ。
「ねえ、街道の外に何人かが密集しているよー」
「人?」
「乗り物は街道に置かれたまま。ちょっと気になるね」
「索敵魔法の範囲外だから、わたしには何か分からないね」
「うん、リン、速度落としてみて。行ってみましょう」
「オーケー」
速度が落ちてきたところで、毎度ぐったりしているエシュリーとニャンコを起こしてやる。
ゆっくり近付いていくと、段々と様子が見えてきた。
街道に停めてあるのは豪華な衣装の馬車である。
その扉が開いており、街道から外れた場所に数人の人の姿。
なんというか、貴族の令嬢のようなドレスを着た女の子とその護衛が、黒づくめの男たちに囲まれている。
なんというお約束のシチュエーション。
「野党か何か?」
「うーん、わかんないけど、取り囲んでいる連中が善人には見えないね」
「やっちゃう?」
「うん、人数も少ないし、ちゃちゃっとやっちゃって来るわ」
向こうにこちらが気付かれていると思うが、特にリアクション無し。
スピーダーから飛び降り、黒づくめに照準を合わせ、全力で走り出す。
女の子の護衛は銃を構えているが、周囲を囲まれ、銃を向けられ、身動きできないようだ。
わたしが走ってくるのを警戒した一人が、こちらに向けて発砲してきた!
それは軽く避ける。初対面の人間を撃つなんて、やっぱり悪い奴らだ!
「うおおおおおっ! ちぇすとおおっ!」
最初の一人を飛び蹴りで文字通り吹き飛ばし、もう一人にぶつけてやる。
さらにもう二人発砲してくるが、狙いが甘いので簡単に避けてやる。
うち一人に走り寄り、後ろ回転蹴り! 面白いように空中で錐もみ状態になりながら飛んでいった。
「さあ、残り五人!」
残りのやつらに向きなおったら、なんと女の子が平気な顔で、一人に向かって走り出していた。
「危ないって!」
駆け寄ろうとしたが、間に合わず銃弾が放たれてしまう。
だが、その銃弾はスローモーションのようにゆっくりと飛び、女の子は簡単に避けてしまった。
超能力かな?
何発も撃たれるが、それらもすべて同じくスローモーションとなってしまう。
完全に近付いた女の子が、何やら光る武器を一閃、黒づくめは切り倒されてしまった。
さらに別の黒ずくめに向けて手をかざすと、体がビクンと揺れて動かなくなる。そのまま近付き、切り伏せる。
なんか強いぞ、この子。
その子に意識が向いた瞬間、空砲が鳴った。
黒ずくめの一人が、上空へ放ったのだ。
残っていた奴らが一目散に逃げだす。しかも逃げながら倒れている仲間を撃った!?
「えっぐい……」
「証拠隠滅のためでしょう」
女の子が近付いてきていた。
金髪のストレートロングで、キツネ目のいたずらっ子のような顔立ち。目の色は青と言うよりサファイヤに近くキレイな色をしている。
歩く動作に気品が感じられ、ドレス姿だし、お嬢様と言う言葉がよく似合う。
「お、お怪我はございませんか、姫様!」
護衛の人も寄ってきた。
「わたしは大丈夫よ、それより……」
そのきれいな瞳で射抜かれてしまう。
ちょっとドキッとしてしまった。
「どなたか存じませんが、お助けいただきありがとうございました」
「いえいえ、っと、お姫様なんだ」
「このお方は、我が王国の第二王女アリス・ファルプス・ゲイル様であらせられるぞ」
「――頭が高いんだな」
「あなたは?」
「あ、ええっと、わたしは栗入モナカといいます、お姫様」
お姫様に対して、どうあいさつするんだっけ?
とりあえず、スカートの端をつまんで、足を交差させて会釈してみた。
「あははははっ、会釈だけでいいわよ。短いスカートをそんなにつまみ上げたら見えてしまうわよ?」
そうなのか!? ちょっと恥ずかしい。
「あああっ、すみません。こういうあいさつ慣れてないので」
「堅苦しいことはいいわよ。モナカって呼んでいい」
「あ、はい、結構でございます」
「面白い言い方!」
また笑われてしまった。
「わたしのことはアリス、でいいわよ」
「いえいえ、滅相もございません!」
ぶんぶん手を振ると、またも姫様に笑われた。
うーん、礼儀作法の勉強とか、しておけばよかった~。
「モナカ、大丈夫?」
リンたちが追い付いてきたようだ、みんなが走り寄ってくる。
「あの方々は、お友達?」
「はい、旅の仲間です」
「あんなに大勢で旅って、楽しそう」
心底うらやましそうな、うっとりとした視線を向けられてしまう。
なんか、表情に色気があって、ドキドキしちゃうな。
「あ、初めまして、そちらのモナカさんと共に旅をしております、ニャンコと申します。お見受けしたところ、高貴なお方の様ですが、もしよろしければ、お名前をお教えいただけますでしょうか?」
ニャンコが会釈し、丁寧に対応した。こういう対応が出来るの凄いな。
「モナカさんには自己紹介したんですが改めまして、この国の第二王女をやっています、アリス・ファルプス・ゲイルと申します。この度は暴漢の襲撃から救っていただき、感謝申し上げます」
「ええええっ! お姫様!?」
リンが慌てて片膝をついて頭を下げた。
「ファルプス・ゲイルの国民、魔法技師をやっているリンと言うものです。この度は姫の危機を救えたこと、一国民として誇りに思います」
いつもは見ない態度だな。
やっぱ、お姫さまってすごいんだな。
「この国の人間で魔法技師というのも珍しいわね」
「よく言われます」
このお姫様、意外とフレンドリーで話しやすいな。
「ニャンコさんは白銀の髪、ということは北の国の方かしら?」
「はい、偉大なるナンバー〇〇一の教えを広めるべく、旅をしております。なお、モナカさんには信者になってもらっています」
なんか名前とかいろいろと引っかかったのか、軽く会釈だけで返される。
「それと、輪っかのある子は幻魔かしら、それともう一人子供。こんな珍しい組み合わせの方々初めてです」
「もう一人子供で流すなー! わたしはエシュリー! 偉大なる女神さまであらせられるぞ!」
姫様に対しふんぞり返ってるので、慌てて頭を下げさせる。
「いやすみません無礼な態度で、不敬罪だけはかんべんで」
こちらを見てまたも笑う姫様。
「襲撃に合ったのは驚きましたが、こんな楽しい出会いがあるなんて。お礼もしたいので、みなさん、王宮へ来ていただけませんか?」
「王宮!?」
それってお城か!? シンデレラ城か!? 玉座の間とかで謁見か!?
「ぜひ喜んで!」
姫様の乗る馬車を先頭に、首都へと向かう。
襲撃者の遺体は一旦放置。お姫様の馬車に乗せるわけにいかないし、うちらのところに同席も勘弁。
あとで門の衛兵に言って、取りに来させることとなった。
段々と首都が見えてきた。
城壁に囲われた大きな都市。中央にひときわ高い建物が見える。いくつもの尖塔を持つその白亜の城が、王宮なのだろう。
正門から目抜き通りを真っすぐと。
城に付いたら、一旦お姫様とお別れ、スピーダーを駐車スペースに置き、待合室に通された。
「ここの待合室、なんか懐かしい感じがするわ」
最初の街でも領主の館の待合室に通されたっけ。
調度品なんかが古めかしく、なんか似ているのだ。
ついでに置かれているお菓子を、みんなでバクバク食べるのも、そんときと同じだ。
「エシュリー、まさかここでもお金を請求する気?」
「うむ、助けたのならお礼があってしかるべきだろう。もらえるものはゴミでももらっておけというのが、わたしの座右の銘だ」
座右の銘なんだ。
「襲撃者の調査依頼とかも、されたりして」
「あの者たちは何者だったのでしょう?」
確かに気になる。ミステリーサスペンスだ。
「それ受けて、解決できる面子かな?」
テルトが冷ややかに言う。うーん、確かに、前方からぶっ潰すのが得意だからなーうちら。
少年探偵とか、どっかの名探偵の孫とか、あんな風にはいかない。
しばらくしてメイドさんに案内され、とある応接室へ。
アリス姫と、凄く偉そうなおっちゃんがいた。
アリス姫がわたしに手を振ってきたので、わたしも軽く返した。なんか喜んでくれている。
おっちゃんに促され、みな席に着く。
「わたしはこの国の国王でありアリスの父、グレッグ、グレッグ・ファルプス・ゲイルだ。この度は、わが娘を救っていただいたこと、感謝する」
「あ、いえいえ、こちらはたまたま通りかかっただけなもので」
わたしたちも全員自己紹介をする。
王様も、面子が多彩だなと、興味を持ってくれているようだ。
「アリスの命を助けてくれた礼だ、とっておきたまえ」
ずしりと重い袋を渡される。
それはそのままエシュリーに回した。
そしたら歓喜の声をあげて、あろうことか、その場で中身をぶちまけて数えだしやがった。
「えー、オホン!」
王様、咳払いだけで特には言ってこないな、寛大でありがたい。
アリスは、なんか笑いをこらえるのに必死である。
「ほんとうに、おかしな人たち」
いや、恥ずかしいです。エシュリー酷すぎるぞ。
「お父様、モナカさんはほんとうにお強い方なんですよ」
「おまえよりもか?」
「はい、遥かに強いんです」
「いやー、そんなに言っていただくと、照れちゃいます」
「実は、最近王族を狙った襲撃が増えてきていてな」
おや、きな臭い話題になったぞ?
「どこの誰が、何の目的でやっているのかは現在調査中だが、犯人が捕まるまで警護を強化しないとならん」
「はあ……」
「ときに、モナカさんたちはどのような目的で、この街に来られたのだ?」
「えっと、目的地は北の国で、その途中で立ち寄った感じです」
「お急ぎの御用ですか?」
アリスが身を乗り出して聞いてくる。なんだ?
「観光みたいな理由なんで、特に急ぎじゃないです」
「それなら! わたしの護衛として雇われませんか?」
「ええええっ!?」
「喜んで!」
わたしの驚きとエシュリーの声が重なった。
「衛兵たちもいるのですが、やはり男性が四六時中近くにいるというのは気疲れしてしまいまして……それで、同性のモナカさんたちにお願いできないかと。わたしからお父様に進言しましたの」
なんか、すっごい期待の満ちた顔をされていらっしゃる……
「モナカ、王城でお姫様の暮らしが見られるなんてめったにないことだぞ」
「たしかに、興味あるな」
「モナカさんは、わたしに興味がおありなので?」
「変な言い方するなー! けど、王宮にいれるというなら、受けてみたいかな?」
「おお、ありがたい! 感謝する!」
「それで、報酬は――」
「王宮で住み込みで頼む。護衛任務なので、基本アリスと行動を共にしてくれ。泊まってもらう部屋はあとでメイドから伝えさせよう。護衛費用はそうだな……」
悩む王様に、エシュリーがさらに顔を近付ける。テーブルに乗ってるし、マナー違反だらけだな、この女神様。
「えっとですね王様、われわれは高レベルの人材でして、雇うとなると結構お高いんです! 本来なら一人一日金貨五十枚のところ、割引で三十枚にさせて頂きましょう!」
おお、エシュリーが妥協した。いや、感覚がマヒしてるな。いるだけで毎日百五十枚の収益か。
そう思ってるわたしに、エシュリーが小声で耳打ちしてくる。
「今回はコネを作るのを第一優先して、収入は犠牲にした」
「毎日百五十枚は犠牲レベルなのか?」
小声で話し合うわたしたちを特に気にした様子も無い王様。
「うむ、では金貨三十枚で請け負ってもらおう」
「わーい! やったー! よろしくね、モナカさん!」
「は、はい、よろしく、アリス」
こうして――わたしとお姫様との、奇妙な王宮生活が始まるのであった。




