2幼馴染
「まあ、加護無しの奥様だわ」
「加護無しのくせによく顔を出せるわね」
「見た目だけは良いけれど、結局見た目だけでしょう?加護無しじゃあねぇ」
「ベルナール卿もお可哀想」
この日、リディアとアレンは二人揃って社交パーティーへ出席していた。
(うっわ、めんどくさい陰口が始まった)
社交の場を訪れると、必ずと言っていいほど女性陣から陰口を言われる。
リディアは、見た目だけは本当に飛び抜けて良かった。
美しい金色の髪色は艷やかでつい触りたくなってしまうほどで、若草色の瞳はくるんと愛らしいのにどこか品がある。
桃ように淡く色づいて潤んだ唇は吸い付きたくなるような瑞々しさがあり、黙って微笑んでいればつい目を奪われてしまう顔立。
大きすぎず小さすぎない胸はほどよい女性らしさを醸し出し、肌は白くきめ細やかでつい触りたくなってしまうほど魅力的だ。
加護無しのくせに見た目だけはずば抜けて良く、多くの男性が好みそうな見た目なのだ。そのせいで、女性からは妬みや嫉みを向けられてしまっていた。
「結婚前は色んな男性に色目を使っていたのでしょう」
「まあ、厭らしい。加護無しだからって顔と体しか売りがないのね」
「ベルナール卿はあんな尻軽女で良いのかしら。公爵夫人があんなだと家名に傷がつくでしょうに」
「あれで正妻なのが信じられないわ。愛人なら納得できるのに」
陰口と共に、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
(色目なんて使ってないわよ!バカ男どもが勝手にほいほい言い寄ってきただけなのに)
加護無しでは相手もいなくて可哀想だ、寂しいだろうと一夜の関係を求められることもあった。そのたびにリディアはバカにするなとブチギレ、そのせいで相手は激怒しリディアから誘われたと嘘を言いふらされることが多かった。
(どいつもこいつも本当にバカばっかりで嫌になる!……でも、アレン様はそういう噂を知った上で結婚したのよね。本当にどういうつもりなのかしら)
なぜ自分なんかと結婚したのかわからない。ちらりと隣のアレンを見ると、不機嫌そうな顔で周囲を見渡している。
アレンと目が合った女性たちは、その厳しい視線にひっ!と小さく悲鳴をあげて陰口を言うのをやめた。
「アレン!」
突然、アレンを呼ぶ声がする。
「メイリーン……!」
アレンがそう言って名前を呼んだ先には、騎士服に身を包んだ女性がいた。
(確か、この国の騎士団を代々まとめるグランベール家のご令嬢で、騎士団副団長……アレン様の幼馴染なはず)
長い黒髪をポニーテールにして束ね、騎士服を颯爽と着こなしている。隣にいるリディアに気がついて、にっこりと微笑んだ。
「そちらが例の奥様か?」
「あ、ああ……」
メイリーンに言われ、アレンは渋い顔をして口ごもる。
(なんだろう、すごく嫌そう。まあ、加護無しの妻だものね。紹介したくないのかもしれない)
「はじめまして。アレンの幼馴染で騎士団の副団長をしている、メイリーン・グランベールです」
そう言って、メイリーンは片手を差し出した。
「はじめまして。メイリーン副団長のことは存じあげております。リディア・ベルナールと申します」
リディアはメイリーンの手をとり握手をする。
「ようやくお会いできた!アレンから結婚すると聞いてはいたんだが、遠征先から中々帰ってこれなくて。ずっと会いたいと思っていたから、こうしてお会いできて本当によかった!」
「メイリーン、やめてくれ」
「どうしてだ?照れるなよ」
(アレン様、困ってるわ。照れるわけでは絶対にないと思うけど)
それでも、自分のことをメイリーンに言っていたとは意外だ。
「そんなことより、ドレイクは来ていないのか」
「ああ、兄上はまだ遠征先にいる。私が一足先に戻ってきたんだ。アレンによろしくと言っていたよ」
「そうか」
「そういえば兄上が……」
メイリーンの兄であるドレイクのことを二人で和気あいあいと話している。ドレイクを含め、三人は仲の良い幼馴染だったようだ。
リディアは、二人の邪魔にならないよう、少し離れて静かに見守っていた。ふと、アレンの表情を見てリディアは驚く。
(アレン様、あんなに柔らかい表情をなさるの?本当に楽しそうで嬉しそうな顔……!)
領地を回っている時、自分に見せる偽りの笑顔ではなく、心の底から楽しいと言わんばかりの表情だ。
「!ああ、すまない、夫人を差し置いて二人で話に夢中になってしまっていた」
驚いた顔で二人を見ていたリディアに、メイリーンが気づいた。アレンもリディアを見てハッとする。
「あ、いえ!お二人は仲がとてもよろしいんですね」
「ははは、そうだな。あ、だが仲が良いと言っても、ただの幼馴染だ。そこは絶対に勘違いしないでほしい。な、アレン?」
「あ、ああ……そうだな」
アレンは、気まずそうに視線を逸らす。何かを言いたそうなのに言えない、そんな顔だ。
「それじゃ、アレン。今度は兄上も一緒にみんなで話そう。夫人、お会いできて嬉しかった」
「私もです」
メイリーンは笑顔で片手をあげると、颯爽と人混みの中に紛れていった。
「メイリーン様、とても素敵な方でしたね」
騎士団副団長として男女問わず人気が高いのも頷ける。そう思ってリディアが言うと、アレンは神妙な顔をして、口を開けたり閉めたりを繰り返している。まるで何かを言いたげだ。
「アレン様?」
リディアが名前を呼ぶと、アレンと視線がぶつかる。だが、アレンは目を大きく見開いくとすぐに視線を逸らし、眉を顰めた。
「いや、なんでもない」
アレンはそう言って、メイリーンがいなくなった先をじっと見つめる。その様子に、リディアは何かモヤモヤとするものを感じるが、それが何なのかはわからず首をかしげた。




