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37.町の発展

「ふぅ、とりあえず家の建築は終わりか……レム、お疲れ様」

「ゴローもお疲れ様でしタ。これでみんなが凍えなくてすみますネ」

「ああ、まだまだ外は寒いからな……とりあえず雨風が凌げるからだいぶ違うだろう」


 理想は木の家を作ることだが、材料もだが人手も時間も足りないからこうやって【岩石生成】で家を作っている。


「それと食料も大量に必要だからな……この『成長促進』の魔法がなければ危ないところだった」

「1000人ですからネ……一気に国の規模になった感じでス」

「もっと収穫が多くできるように品種改良もしていかないとな」

「ぱぱ、ひんしゅかいりょうってなに?」


 家を作る見学をしていたスーが俺に尋ねる。


「ああ、いいところ同士を掛け合わせた果物や野菜を作るものだよ。例えば甘くておいしいリンゴと、病気に強いリンゴを交配して、おいしくて病気に強いリンゴを作るんだ」

「すごーい! そんなことできるの?」

「ああ、普通なら数年かけてやるものなんだけど……魔法のおかげで一ヶ月もあればだいぶ改良されるはずだよ」


 他にも遺伝子組み換えなどもあるけど、この世界じゃできないからこの方法が一番だろう。

 品種改良が楽にできるのは【鑑定】スキルのおかげだな。

 どんな特性を持っているかが一目で分かるし。


「ゴロー、大物をたっくさん獲ってきたにゃ!」

「あたしたちだけで狩ったんじゃなくて、中央国(セントラル)から解放された子たちも手伝ってくれたんだ」

「ありがとう。……これからは狩りだけじゃなくて畜産のことも考えて行かなきゃな」

「ちくさん?」

「そう、狩りをするんじゃなくて、食べるために動物を育てていくんだ。鳥を育ててタマゴを産んでもらってそれを食べたり、動物を育てて食べたり……狩りだといずれ狩り尽くしてしまっても困るしね」


 いくら自然が多くて動物がいたとしても、この人数だといずれ数が減り出してしまう。

 その前に自分たちの手で動物を育てて繁殖させていかないと。

 さすがに魔法やスキルで命を生み出せはしないからね。


 一気に人口が増えたのもあって、こういった問題はどんどん出てくる。

 でも、みんなのおかげでなんとかなっている。感謝しないとな。


「あとは海があるから、魚を獲りに行くのに船が欲しいな……」

『あら、私が海に潜って獲ってきてもいいのよ?』

「ありがとうティアマト、それじゃ船が造られて漁が安定するまでしばらくお願いしてもいいかな?」

『ええ、もちろん。ゴローのためだもの』


 そう言うとティアマトは俺の身体に巻きついて抱きしめてくる。

 ……家族の前だといいんだけど、今は獲物を獲ってきてくれた子たちもいるので少し恥ずかしい。


「いいなあ……」

「わ、わたしもいつかああいう風に……」

「ゴロー様って家族想いで理想的よね」


 様々な声が聞こえてくる。

 この子たちにもいつか相応しい旦那さんが現れてくれるといいな。


「さて、それじゃ料理を始めよう」

「ふふふ、わたくしも料理の腕を磨いてますからね。期待しててくださいませ」

「ボクも【浮遊】が進化したおかげで手伝えるんだ! がんばるよっ!」


 今日の料理当番のティーネやアネットが張り切っている。

 特にこの二人の料理の上達は早く、いつの間にか料理の腕が抜かれていた。

 もちろん他の子たちも料理をしていて、今では持ち回りで料理当番をしている。

 それぞれ得意な料理があって、今では毎食がとても楽しみになっている。


「ああ、期待してるよ二人とも。俺もがんばらないとな」

「あらあら、ゴローさんはちょっとがんばり過ぎだから休んでてくださいませ」

「そうそう、ゴローが疲れて倒れちゃったら大変だからね。ボクたちに任せて!」

「あ、ありがとう……それじゃお願いするよ」


 みんなの心遣いが嬉しい。

 こんな子たちと番になれて俺は幸せ者だな……。




**********




 そんな日々が続き、ドワーフたちの協力もあって石の家から木の家への建て替えが行われ、水道周りも整備されつつある。

 果物や野菜の品種改良も進み、一本の木から収穫できる量も二倍、三倍と着実に増えていっている。

 そして……。


「あの……ゴロー様、全ての種族のオブジェが完成しました」

「ありがとうフー、完成披露宴は後日行おう」

「あ、ありがとうございます……そ、その……」

「ああ、報酬なら約束通り俺ができることならなんでもいいよ」


 オブジェを完成させてくれたドワーフのフー。

 彼女に支払う対価は『俺ができることならなんでも』と、作業開始時に伝えておいたのだが、実は今の今まで聞かされていない。

 決めかねていたのか、それともサプライズなのか、はたまた……。

 それはおそらく……。


「…………えっと、その……」


 フーが顔を赤くしながらこちらの様子を伺っている。

 おとなしい性格の子だから、なかなか言い出せないのだろう。


「あ、あのっ……わたしと……つ、番に……なって、くだ、さ……」


 後半が少し聞き取りづらくなるほど、か細い声で告白される。

 うん、思っていた通り。

 他のドワーフの子で俺と番になりたいと言っている子がいなかったこと。

 そして今までの反応などから察してはいた。

 だけど、今まで待っていたのには理由がある。


「もちろん。こんな素晴らしい作品を作れる子と番になれるなんて、幸せだよ」

「……っ……! あ、ありがとう……ございます……」


 泣きだしそうになるフーを抱きしめて落ち着かせる。

 ……フーはおとなしい子だから、番になりたいと思っていても、自分が俺にふさわしいかどうかずっと迷っていたのだろう。

 だから作品の完成を待った。彼女に自信をつけてもらうためにも。

 自分も誰かに認めてもらえるぐらい、良い作品を作れるんだ、と。


「それじゃあ、これからは番としてよろしくね」

「はい……」


 目をそっと閉じたフーと、そっと口付けを交わす――。




「イイナア……」


 その光景を見ていた【能力無効化(スキルキャンセル)】のスキルを持つ子が遠くで呟く。

 彼女もフーと同じく、番になりたいと言いだせない理由がある。

 おそらく、中央国で俺を危険な目に遭わせてしまったから、スキルを使う時以外に俺の傍にいるのはふさわしくないと思っているのだろう。

 だから、ずっと中央国で道具として使われていたせいでまだ名前のない彼女に名前を付けてあげようとしても、断られてしまうのだ。

 ……いつか、彼女とも番になれる機会が来るといいのだけど……。




**********




「あっ、ゴローだ!」

「ねえねえ、今日はなにして遊ぶの?」

「遊んだあとは本よみたい!」

「はいはい、それじゃあまずはいっしょに遊ぼうか」

「「「はーいっ!」」」


 更に月日は流れ、中央国で奴隷同然に扱われていた亜人の子たちに、徐々に笑顔が戻り始めた。

 きちんと三食を食べ、運動もして、健康的な身体にも戻りつつある。

 また、共通語として教えている『日本語』も普及してきた。

 こどもは覚えるのが早いな……と痛感する。

 でも、おかげで読み書きができる子が増え、知識を伝えやすくなっていっている。


 ちなみに、ミィたちにも『日本語』を教えている。

 最初は大変かと思ったけど、フィーリアのスキル【成長促進】のおかげで、みんなとても飲み込みが早くなり、一ヶ月も経たないうちにマスターしてしまった。


「ねえねえゴロー、知ってる?」

「なにかな?」

「中央国が他の国から攻められて滅んだらしいの。ゴローがわたしたちを助けてから国がうまく回らなくなったんだって」


 あー……確かに解放した亜人の子たち、生活面で便利なスキル持ちばっかりだったからなあ……。

 【能力無効化】持ちの子みたいに、戦闘面で有利になるスキル持ちの子はその次に多い。

 その子たちが一斉にいなくなったんだ、国力は衰えるわ、生活は不便になるわで国外に脱出した人も多そうだな……。

 そしてその人たちが中央国の現状を他の国に教えて……みたいな感じなんだろう。

 しかし、あの賢者がいるのに攻め滅ぼされるとはなあ……あの人は結構強いはずなんだけど。


 まあ、考えていてもしょうがないか。

 今はみんなが暮らす町を豊かにするのが先決だ。



 こうして、町は少しずつ豊かになっていくのだった。

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