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35.移民、そして……

「よし……これで完成だな」


 俺は【岩石生成】で門を建てると、そう呟いた。

 各地で中央国(セントラル)の亜人への接触が増えているため、いつかここにも来てしまうだろうと思い、【岩石生成】で強固な長城を造ることにしたのだ。

 長城は「元・枯れた大地」の境界に建ててあり、長さはおおよそ30キロ程度、高さは15メートル程度。

 武者返しのような形をしており、防御面でも優れている……と思う。

 ちなみに出入口は一ヵ所のみで、入ってすぐに俺たちの住んでいる家がある。

 こうすることで、もし門を突破されても俺たちの誰かが対処に当たれるというわけだ。


「お、お疲れ様です。あの……よければわたしの蜜を使ったジュースをどうぞ」

「ありがとうルゥ。ルゥの蜜を使ったジュースは美味しいからなあ……スーもたくさん飲みたいって言うぐらいだし」

「あっ、ありがとうございますっ……もっと蜜を出せるようにがんばりますね」


 俺はルゥからコップを受け取る。そしてルゥはお盆で口元を隠し、照れながらも喜んでくれている。

 それにしてもかわいい仕草だ。守ってあげたくなる。


「ありがとう、美味しかったよ」


 俺は喉が渇いていたのもあって、ジュースを一気に飲み干し、コップを空にする。


「はい、それじゃ片付けておきますね」

「ああ、お願いするよ」


 と、普段通りの会話をしていると……。


「ゴロー、客人だ。ワーキャットの部族のようだが」

「ワーキャットの……? 分かった、門を開けよう」


 現在、城壁周りの偵察はリーフに任せている。

 ウインドドラゴン……ゼファーからも逃げられるの機動力を持つので、そういった任務に最適だからだ。

 俺は、その報告を受け取ると、門を開けることにした。




「ありがとうございます、ゴロー殿」

「やはり……ミィの故郷の方たちでしたか。もしかして中央国が……?」

「……お察しの通りです」


 ワーキャットの族長が言うには、中央国の連中が里に押しかけ、隷属するか滅ぼされるかの二択を迫ったとのことだ。

 返答期限は一日。隷属は避けたいが戦力は圧倒的な差があり、どうしようもなくなった。

 その時、俺たちが南の国にいることを思い出し、里を捨てて夜通しここまで駆けてきたらしい。


「……私たちが逃げ出したことを知れば、追っ手を差し向けるかもしれません。ゴロー殿に迷惑をかけることになりますが……どうか、私たちをお助けください……」


 族長を始めとして、後ろに控える他のワーキャットたちの顔には疲労が見える。

 それもそうだろう。夜通し駆けた上に、いつ追いつかれて殺されてしまうかもしれないという恐怖が常にあったんだ。


「分かりました、俺でよければ力になります」

「ありがとうございます、このご恩は一生をかけてお返しします……」


 族長はそう言うと、ふらっとその場に倒れそうになる。


「おっと……相当疲れがたまっているんだろう……」


 リーフが族長を支え、地面に倒れ込むのを防いだ。

 ……まずは全員分の食事、それから家が必要になるな。


「リーフ、悪いけど近くに中央国が来ていないか偵察してきてもらえるか?」

「ああ、もちろんだ。出る前にみんなに声をかけて、食事の準備と家の建設の手伝いをお願いしておく」

「ありがとう、それじゃ頼んだよ」


 さすがリーフ、その辺りにまで気を配ってくれるなんて。

 俺にはもったいないぐらいの優秀さだな……。


「それじゃあ移動しましょう。まずは俺の家でゆっくりとしてください」


 俺はリーフに代わって族長を支えると、自宅へとワーキャットたちを招き入れた。




**********




「さて、ワーキャットのみんなが休んでいる間に家を建てなきゃな」

「ワタシも手伝いまス」

「よろしくお願いするよレム。家族単位だと14家族だから、予備や集会所、温泉を含めて20は造りたいな」

「分かりましタ、それでは始めましょウ」


 俺とレムは二人で家を建て、他の子たちには内装をお願いしている。

 旅で何度も家を建てたこともあり、みんなテキパキと動いてあっという間に1つの家が完成する。


 そして10軒ほど家を建てたところで、来客があったとアネットから声がかかる。


「あの……ゴロー様、ご依頼頂いていたものが完成しました」

「ありがとう、フー。……手が込んでいて素晴らしい出来上がりだね」

「あ、ありがとう……ございます」


 彼女はドワーフの族長の娘のフー。

 ドワーフは男性が鍛冶などの力仕事、女性は装飾品作製などの細工仕事を主に生業にしている。

 フーも細工仕事をメインに行っているのだが……作品を見た時に、この村に置きたいオブジェの作製を依頼したのだ。

 それは各種族を模したもので、この村の中心となる広場に置き、どんな種族がいるか一目で分かるようにする狙いだ。

 ちなみに最初に作ってもらったのは、初めての番でもあるミィの種族……ワーキャットだった。


「わー、すごいにゃ……。ミィも一つ欲しくなっちゃうにゃ……」


 俺の後ろから覗き見ていたミィがそう言う。

 確かに自分の種族だし、この出来なら欲しくなるのも無理はない。


「じゃあ、全部の作業が終わったら一つ作ってもらう? フーがよければ、だけど」

「あっ、もちろん大丈夫です。その時はミィさんっぽくなるように努力しますね」

「いいにゃ!? 楽しみが増えたにゃー!」

「ひゃっ!?」


 あまりに楽しみなのか、嬉しそうにミィがフーに抱きつく。

 ミィは割とスキンシップが激しい方だから、おとなしいフーにはなかなか刺激的だと思う。


「ミィ、あんまりしてるとフーが困っちゃうぞー」

「にゃっ!? ご、ごめんにゃさい……嬉しくてつい、にゃ……」

「あ、あの、驚いただけで迷惑ではないので、落ち込まないでくださいね……?」

「フー、ゴローみたいに優しいにゃ!」


 一瞬、落ち込んだ表情を見せたが、フーの言葉にまた笑顔が戻るミィ。

 くるくる変わる表情は見ていて楽しい。おかげで少しだけ不安が和らいだ。


「それじゃフーは引き続きオブジェの作製をお願いできる?」

「分かりました、精一杯作らせて頂きますっ……!」


 手をぎゅっと握りしめて、気を引き締めるフー。

 これなら後はフーに任せても大丈夫だな。


「さて、俺は引き続き家を建てることにしようか……」


 こうして、オブジェの話題で一息入れたあと、再び家づくりに取り掛かるのだった。




**********




「ゴロー! 中央国の連中が門のところに!」

「……来たか」


 ワーキャットの人たちに家を引き渡している最中、彼女たちを追ってきたのか、中央国の人間がここを訪れた。


「俺が話をしてくる。みんなは中にいてくれ」

「ゴロー……」


 みんなが俺を心配そうな目で見る。

 ……ちゃんとみんなを安心させてあげないとな。


「大丈夫、俺を誰だと思ってる? ドラゴンより強い人間なんて中央国にはいないだろうし、何かあっても追い返してみせるさ」


 実際、中央国の連中は北のファイアドラゴン……今の名前はアグニだが……に成す術もなく敗北している。

 それなら俺のスキルで完全に撃退できるだろう。


「……無理だけハ、しないでくださいネ……」

「ああ、レムやみんなを残して死ぬようなことはしない。大丈夫だ」

「ゴロー殿……私たちのせいでやはりご迷惑を……」

「いえ、亜人の町を作ろうとするなら、いつかは対峙しないといけない相手でした。それが早まっただけです」


 そう、この町が大きくなればいつかは中央国にも知れ渡ってしまうだろう。

 だから、少しだけやつらに相対するのが早くなっただけなんだ。


「それじゃ、行ってくる」


 そう言うと、俺は門へと駆け出した。




**********




「おや……誰かと思えば。ファイアドラゴンに遭遇して無事でしたか。運だけは強いようですね」

「それで、ここに来た目的はなんですか?」

「ええ、我々が手に入れるはずだったワーキャット。彼女たちを引き渡してもらいましょう。ここにいるのは分かっています」

「……断ったら?」

「……」


 北でも会ったフードの男は、黙って腕を振りかざす。

 すると、後ろで控えていた40人程度の魔術師たちが一斉に魔法の詠唱を始めた。


「ドラゴンをも撃退する我らが魔術師たちの一斉攻撃です。塵一つ残らないでしょうね」


 ……ここは先制して【岩石生成】で防御壁を築くか……?

 そう俺が考えていると。


『ほお……ドラゴンをも撃退する、か?』

「……ん? 喋るトカゲとは珍しい。喋るぐらいの知能があるなら我々と共に来なさい。王に珍重されるでしょう」

『はっ、俺様は強いやつにしか従わねえ! テメーらなんてクズには尻尾なんて振らねえよ!』

「……言いましたね。全員! あのトカゲに魔法を!」


 アグニに魔術師の魔法が集中する。

 辺りは衝撃で土が舞い上がり、視界が砂で覆われる。


「ふん……おとなしく従わないからこうなるのですよ」

『はぁ……この程度か。面白くもなんともねえ!』

「な……ファイアドラゴンだと!?」


 視界が晴れると、そこに現れたのは通常の大きさに戻ったイグニ。

 そして、中央国の魔術師の魔法でイグニの鱗には傷一つ付いていない。


「総員、退いて立て直せ!」

「了解……っ!?」


 中央国の魔術師たちが下がって陣形を立て直そうとすると、突然地面から岩がせり上がり行く手を阻む。


『まったく……我らが町でこのような狼藉を働くとは』

「あ、アースドラゴン……ッ!?」


 更に、魔術師たちの身体が水の鎖でがんじがらめにされる。


『……お仕置きが必要なようね……』

「うぉ、ウォータードラゴンまで……!?」


 そして、突風が吹き、魔術師たちが全員その場に倒れ込む。


『頭が高いぞ』

「ウインドドラゴン……!? なぜ全てのドラゴンがここに!?」

『簡単なこと……我らは全員ゴローに敗れた。ゴローに協力するのは当然のことだ』

「バカな……こんなやつが全てのドラゴンを倒しただと……!?」

『信じる、信じないはあなたの自由だけど……ゴローのことをバカにするなら、私たちがあなたの国のお相手をするわ』


 ティアマトがフードの男に睨みを利かせる。


「ぐ……! し、しかし我が国には賢者様がいらっしゃる! 我々が総出でも敵わない賢者様ならお前たちなど……!」

『ほう……ならそいつを倒せばゴローに敵うやつはいないということになるな?』

「お前たちなどが相手になるはずもないだろう!」

『それなら、もし勝てばゴローの言うことを聞いてもらおうか』


 ……なんか話が勝手に進んで……いや、これは俺にもメリットがある、か。


「……それなら俺が勝ったら、中央国でおそらく奴隷として働かされている亜人を、全て解放してもらおうか」

「……いいだろう! どうせ勝てるはずもない! ……後悔するがいい!」


 そうフードの男が言うと、中央国の人間全員の身体が半透明になり、消えた。


『逃げ足だけははえーな』

『ほんと、それには同意するわ』

『まったく、ワシたちの土地で勝手なことをするなど……』

『ゴロー、我は疲れたのでデザートを所望する』


 中央国の連中が去り、いつも通りのドラゴンの面々。

 切り替わりが早いな……。




 こうして俺は中央国に捕らわれている亜人を助けるため、中央国の賢者と決闘をすることになった。

 みんなを集めてそのことを説明したが、みんな『中央国にいる亜人の子も、自分たちのように幸せになって欲しい』と口を揃える。また、『ゴローなら必ず勝てる』とも。




 そして翌日。俺はアグニ、ゼファー、ティアマト、クロノスと共に、中央国に向けて出発した。

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