【97】孤児院へ行こう2
「まぁ状況を知ったところで、こうして孤児院に行ってくれるリビオやあんた達に、お菓子持たせるくらいしか、私にはできないけどね」
言いながら、悲しげな表情をして見せたアンリエットさんに、私は首をぶんぶんと横に振った。
「アンリエットさんのお菓子、喜んでくれると思いますよ! 何もしない人の方が多いんじゃ無いですか? 少しでも気にかけてくれる人がいるって、誰にとっても嬉しいことですよ!」
「アリス……、ありがとね。そうかい、こんなお菓子でも喜んでくれてるといいね」
「はい、そうだ! 今度私にも作り方教えて下さいね! 一緒に作りましょう!」
悲しげな表情は少し和らぎ、優しく笑うアンリエットさんが、母さんとダブって見えた。ちょっとだけ家族を思い出しキュッと締まった胸の真ん中は、ふーっと深呼吸した息と一緒に、静かに収まっていった。
孤児院はアンリエットさんの言うとおり街の外れにあり、森へ入る門寄りで広く開けた場所にその建物はあった。
私とリュカは、アンリエットさんの手見上げのお菓子を持って、孤児院の敷地の区切りである柵を入り、玄関の扉を叩いた。
「なんか緊張する」
「なんでだよ?」
「いや、なんとなく……」
初めての場所に緊張してるんだと思うけど、日本でも孤児院なんて行った事もなければ見たこともなかった。テレビは知識で知る程度だ。
建物の外観を見るに、少し古びてはいるけど荒れてるようには見えなかった。玄関周りもキレイに掃除がしてあって、柵からここまでの間もゴミ1つ落ちていない。ちゃんと管理されてる事が見て取れた。
キョロキョロと辺りを見回していると、ガチャッと玄関の扉が開き、中から品の良さそうな中年女性が姿を現した。身なりはまんま修道女のそれで、黒い修道服に白いエプロンを着けていた。
「はい、どちら様でしょうか?」
ニッコリと笑った顔に優しさがにじみ出る様な雰囲気を出した女性に、自然と背筋が伸びる。
「おはようございます。朝早くにすみません。先日うちの父からこちらの様子を見てくるように言われたもので。リュカと申します。その後ジャンの様子はどうでしょうか?」
誰!? と一瞬思ってしまった。隣でハキハキと喋るリュカは、いつもの年相応な感じとは違い、ビジネス仕様? な感じになっていた。ちょっとイイとこのお坊ちゃまみたい。いや、そこそこイイとこのお坊ちゃまなんだろうけどさ。大商会の出だし。
出て来た女性は一瞬考えて、リュカの顔を見てぱっと眉を上げた。
「あぁ、リビオさんの息子さんですね。私はこの孤児院のシスターをさせていただいておりますシェイナと申します。わざわざありがとうございます。ジャンなら元気に過ごしていますよ」
「それは良かったです」
隣でムズムズとした気持ちで笑いをなんとか堪えていた私は、不意にリュカに肘で小突かれハッと笑えるキモチを抑えてシェイナさんに向き直った。
「おはようございます。先日ジャン君と一緒に森で採取していたアリスです。先日はジャン君に迷惑をおかけして本当にすみませんでした」
ガバッと頭を下げ、先日のお詫びを伝えた。元はといえば、ジャン君を奥に連れて行かなければこんなことにはならなかったのだ。
「あらあら、あなたがアリスさんね。ジャンを連れて帰ってくれて有り難うございました。こちらからお礼を言いに行かなければと思っていたのですよ」
「いえ! 私がジャンくんを連れてったばっかりにっ」
「いえいえ、ジャンも自分で判断しなければならない事でしたのよ。そもそもそんなに焦ることもないといつも言っているんですけどねぇ」
あたふたとこちらがこちらがと、言い合いになってしまった。見かねたリュカが割って入らなければ、たぶんずっと続いていたと思う。
「ねぇ、それおかし? いい匂いがするー」
ヒョコっとシェイナさんの腰の辺りから、綿菓子みたいなフワフワしたピンク色の髪の小さな女の子が顔を出した。大きな目がキラキラと輝いていた。
「こら、ナタリー、お行儀が悪いですよ」
「ごめんなさい、シスターシェイナ」
シェイナさんは怒りながらも、しゅんとしたナタリーちゃんの頭を優しく撫でていた。撫でられたナタリーちゃんもリュカが持ったお菓子の籠をチラチラと見ながらも、ちゃんとシェイナさんに謝っていた。
「母から少しですが預かってきています。みなさんで召し上がって下さい」
「アンリエットさんのお菓子は子ども達にとても人気なんです。いつも本当にありがとうございます」
リュカはスッとしゃがんでナタリーちゃんと目線を合わせてから、持ってきた籠の中身を見せてあげていた。
「今日は、リッカとポテのマフィンだよ。沢山あるからみんなで食べてね」
「わぁー! やったぁ! 私リッカ大好き!!」
リッカとポテとは、林檎とサツマイモだ。いや本当、名前に苦労するよね。見た目同じなんだから、名前も同じならいいのに……。食材の名前だけ聞いても、想像すらできませんよ……。
リュカは立ち上がり、マフィンの詰まった籠をシェイナさんに渡した。
「ありがとうございます。いつまでも玄関先ですみません、今お茶もお出ししますので中にどうぞ」
「ありがとうございます」
中に入ると続く廊下をシェイナさんを先頭に、後ろについて歩いた。ルンルンのナタリーちゃんは、シェイナさんが持つお菓子入りの籠をチラチラと見ながら隣を歩いている。後ろから見ていてとても微笑ましかった。
「ナタリー、ケートをに私の部屋に呼んできてくれる?」
「はーい!」
シェイナさんに言われたナタリーちゃんは、元気いっぱいに返事をして先を走って行った。
「お行儀が悪くてすみません」
「いえ、可愛いですね。うちにも同じくらいのお転婆な妹がいますから、気にならないですよ」
行儀が悪いと言うけど、あのくらいの年の子なら、あの反応は普通ではないだろうか? とても可愛いと思う。
シェイナさんに案内され入った部屋は、対面する形でソファーとテーブルがあり、その奥に机がある砦の執務室みたいな部屋だった。横に扉があるし、私の部屋って言ってたからあっちが寝室なのかな? どこも同じような作りなんだろうか。でも、砦の執務室と違って、テーブルの真ん中にレースの刺繍が施されたクロスが置いてあったり、棚には子ども達が作ったであろう、木のオモチャなんかが飾られていた。
子どもたちに貰ったのかな? ちゃんと飾ってとってあるなんて、良い人なんだなぁ。
ソファーを進められ、リュカと2人で座って棚を見ていると扉をノックする音がした。
「ケートです」
「入ってちょうだい」
シェイナさんの返答に扉を開けて入って来たのは、私と同じくらいの身長の女の子だった。見た目中学生はいったくらいかな? 少し幼さが残る顔だけど、子どもから少し成長したような雰囲気があった。
「ケート、こちらはリビオさんの息子さんのリュカさんと、この間ジャンを助けてくれたアリスさんよ。ジャンを呼んできてくれる? それとアンリエットさんからお菓子を頂いたから厨房に持って行ってもらえるかしら。今日のおやつに出してちょうだい」
「わぁ! アンリエットさんのお菓子! ありがとうございます!!」
ここでもアンリエットさんのお菓子は大人気だった。アンリエットさん、とっても喜ばれてますよ! よかったですね!!
「それから、お茶の用意をお願いできる?」
「はい! わかりました! 少々お待ちください!!」
籠を受け取りケートさんは嬉しそうに部屋から出て行った。
「やったー! マフィンだ!!」
扉の外から喜ぶ声がして、私とリュカは思わず笑ってしまった。
「す、すみません。お恥ずかしい限りです」
シェイナさんは、頬を赤らめ困った顔で頭を下げたのだった。
読んでいただきありがとうございます(*´艸`*)
タイトル思い付きませんでした(・ωく)
ではまた来週~( ≧∀≦)ノ




