-9- オネエさんは心配性
「グエルション! いい加減にしろ!」
「キャー! やめて! そんな名前で呼ばないで!」
見かねたフランクさんが、エル? グエルション? さんを怒鳴る。でも聞きたくないと言った様子で自分の耳を両手で教え込んでいた。
「こんなむさっ苦しい場所に、女の子がいるの?! 誰よ連れてきたのは! 今、どんな時期だかわかって連れてきてるの?!」
「隊長すまない、グエルションが慌てて飛び出していったんだが……」
続いて走って来ただろう息を切らした男性が、開けっぱなしの扉を掴んで入ってきた。
「オルガン、エルならここにいる」
「副隊長も、本当にやめてっていつも言ってるでしょ?! それよりこれよこれ!」
「グエルション、落ち着け」
「フラン! やめてって言ってるでしょ?!」
「お前が落ち着けばやめてやる」
「っぐぅ……」
ギリギリと聞こえてきそうな程、歯を食いしばったエルさんは﹙グエルションとは呼ばれたくないんだろうな﹚言いたい事を色々と無理矢理飲み込んで腕を組みながら黙った。
「これは、昨日森で助けた女性の物だ」
「森で助けたって、大丈夫だったの?!」
「たいした怪我はしていない、無事だ」
「それなら良かった」
エルさんは組んでいた手を胸に当ててホッとしていた。この人は全然知らない人でも心配してくれるんだ、良い人だなぁ。
「それで、その子は何処に?」
連れ込んだのでもなければ、森で助けたとは言えたいした怪我も無いと聞いて少し落ち着いたエルさんに、そろーっと手を上げて見せた。
「エル、彼女はアリスだ」
「初めまして、アリスと申します」
ブンっと効果音でも聞こえてきそうな勢いで顔を向けられ、少しだけ引いてしまった。
じーっと上から下まで、穴が開くんじゃないかと思うほど見られた。さすがに恥ずかしいです。
エルさんは、サラサラの長い薄紫の髪をポニーテールにして纏めていて、じっと見られている目は切れ長で、透き通るような水色の瞳をしていた。
「貴方、何でそんな。……これだから此処の男共はっ」
苦虫でも噛み潰した様な、不愉快極まりない表情をしたエルさんは、私の目の前でパチンッと指を鳴らしてみせた。
突然の音にちょっとビックリした。目をぱちくりしていると、途端に体がフワッとした空気に包まれ何だか全身がスッキリとした。
「こんな状態で放置するとか、本当にあり得ないんだけどっ」
言葉尻に怒気を纏いながら、エルさんはギロリと、隊長を始めフランクさんとリュカにまでキツイ視線を浴びせた。
「は、配慮が足りず申し訳ない」
「あ、忘れてた……」
「ごめんなさいっ」
順番に、隊長さんフランクさんリュカに謝られた。フランクさんに関しては、エルさんがさらなる怒りを燃え上がらせていた。
不思議に思い体を触ってみる。ついでに髪の毛を触ると、その変化に物凄く驚いた。
「ゴワゴワしてない!」
「ホント脳筋ばかりでごめんなさいね、気持ち悪いとことかない?」
「ないです、スッキリしてます。凄いです!」
人生初の魔法を体験してしまった! 一瞬でスッキリだ! パチンッてしただけなのに!
「それとこの服なんだけどね、あんなところに干しておいちゃダメよ」
「すみません、昨日洗わせてもらったんですが、そのまま干しちゃって……」
「他の男たちは見てないから。早くしまった方がいいわよ」
「ん?」
制服だし、別に見られてもなんの問題もないんだけどな?
「え?」
エルさんの言ってる意味が全然分からない私は、たぶん相当間抜けな顔だったんだと思う。思っていた反応とは違う表情に、エルさんが戸惑う。
「隊長、この子大丈夫? 頭打ってたりしない?」
「昨日も先ほども、きとんと受け答えはしている」
「断絶された村から来たとか、とんでもなく箱入りとか?」
なんか、凄い言われようなんですけど……。
「いや、その事なんだが……。オルガン、その扉を閉めてこちらに来てくれ」
隊長さんは未だ扉の前にいたオルガンさんを呼び寄せた。とても背が高い。でもそれよりも凄く親近感がある。このオルガンさん、黒目黒髪なのだ。黒髪と言っても少しだけ紫がかってはいたけど、ほとんど黒だった。短髪のちょっとツンツンした髪。細目で少しかったるそうな表情をしていた。ちょっと、お兄ちゃんみたい……。こんなにカッコ良くないけど。
「アリスはどうやら、精霊にこの世界へ連れてこられたらしいんだ」
「この世界って?」
「私たちが知るラスティード王国がある世界ではなく。別の世界だ」
「そんなことがあるのか?」
驚きを隠せないながらも、精霊に気に入られている隊長さんがいる部隊だけあって、頭ごなしに疑われることはなかった。
「アリス、先ほどみせてくれた物をもう一度見せてもらえるだろうか」
「はい」
リュックの中から筆箱や教科書など、さっきだした物をテーブルに並べていく。
陸上ウェアを出したところで、エルさんがバッ! と引ったくってボスッ! とリュックに戻してしまった。
「え? 何?!」
「それは出さなくていい!」
「は、はい!」
ビックリする私を、少し顔を赤らめながらみんなが目をそらした。不思議に顔をコテっと傾けるとエルさんが小声で教えてくれる。
「アリスちゃん、これ下着でしょ? 男の前にだすものじゃないわよ」
「え? えっ? ち、違います! これは、陸上の、う、運動する時に着る服でっ」
ウェア﹙ランニング&短パン﹚を下着と勘違いされていたとわかり、顔がカッと熱くなる。必死に説明しようとしても、陸上も部活もないこの世界で説明するのは至難の技だった。
「あ、あんな物を着て運動って……」
「…………」
みるみるうちに顔が赤くなっていく隊長さんにリュカ。さらなる誤解を招いたと、パニックになる。
「やだやだっ、そうじゃなくてっ! 違うんですっ! 説明が間違ってて! もーっ! 異世界難しい!」
この後、部活から陸上競技。学校や日常生活のアレコレと、時間の許す限り私のいた世界を説明した。間違った説明で自爆はもう二度としたくない。
そして、制服のスカート丈はこちらの常識ではあり得ないほどの短さだった。膝出すとか淑女としても平民の女性にしてもあり得ないそうです。寝台から降りようとした時、リュカが慌てたのも納得である。
異世界語変換難しいです(汗)
アリスちゃん。色々とごめんね(>д<*)
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