【59】キモいリュカ
お話しも食事も終わり、シャルテと話しをする機会を作ってくれると約束してくれたので、遅くなる前にと帰宅。
ティナとエマと店の前で別れ、住宅の入り口である裏手にまわって扉をノックする。しばらくすると、ガチャっと扉が開いてリュカが顔を出した。
「あ、リュカ帰ってたんだ。おかえり」
「ただいま。って、今これ逆じゃない?」
「アハハ、そうだったね。ただいま戻りましたー」
「……おかえり」
ジト目で見てくるリュカの横をすっと通って、家の中に入ってしまう。言いたいことは何となくわかるのだ。たぶん誰と何処に言ってたかは、アンリエットさんから聞いてるだろうから。
とりあえず帰ったことを報告するのに、階段を上がっていくと、無言でリュカがピッタリとついてくる。いや、2階に上がるのは一緒だからついてくるのは当たり前なんだけど……、ち、近い。
「アンリエットさん、ただいま戻りましたー」
「アリス、お帰り。その顔じゃいい感じになったんだね。よかったね」
「はい、誤解も解けて仲良くなれました」
「そうかい。リュカ、あんた何やってんだい?」
「別に……」
私の後ろにピッタリ張り付いているリュカに、アンリエットさんが眉間にシワを寄せながら見ていた。息子気持ち悪い。みたいな感じ。
心なしか、リュカの声もいつもより低い感じがする。
「じゃ、じゃあ、荷物置いてきます。あ、浴槽使わせてもらってもいいですか?」
「今は誰も使ってないから使ってきな。私は先に寝るから、適当にしてくれていいからね」
「いつもありがとうございます。お休みなさい」
そこまで遅い時間じゃないんだけど、子供達が小さいから、この家は基本的に夜が早い。リビオさんはそこまで早く寝ることはないんだけど、今日はアミラちゃんの寝かしつけをしていたようで、先に部屋に戻っていた。
さてと、2階に上がり借りている部屋の前に来ても、リュカは私の後ろに張り付いていた。
ドアノブに手をかけたところで、はぁっとため息をついて後ろを振り返ると、さっきと同様ジト目のリュカが目の前に。
「リュカ、何かな?」
「……今日。ティナとエマと会ってたって聞いた」
「うん、そうだよ。今日はティナとエマとごはん食べてきたの」
「いつそんなに仲良くなったの? ってか、何の話ししてきたの? まさか、余計なこととか言ってないよね?」
「ちょっと、リュカ、近いし早いし、キモいし!」
「き、キモい?! なんか、良くない言葉なのはわかる気がするけど、キモいって何!?」
聞きたい事が多すぎてグイグイくるリュカを手で押し退けてキモいと言ってやったら、意味が分からなかったようで、さらにグイグイ来た。
『もー! リュカはキモいって! アリスから離れてよね!』
状況から察して、慌てて出てきてくれたリゲルは、光の玉のままリュカのおでこをグイグイ押して私との間に距離を作ってくれた。
「今日だよ今日、今日仲良くなったの! 私だって女の子のお友だち作ってもいいでしょ!? 話してたのは世間話だし、余計な事は言ってないよ!(直接的には!)リュカが心配するようなことは何もないから! シャルテは今日はいなかったから!」
シャルテの名前を出したとたんに、リュカが固まった。次いでブワッっと顔が赤くなった。すっご。ゆでダコだ。
「じゃ、お風呂入りたいから」
そのままリュカを放置しようかと思ったけど、何となくテンパってるのも、自分の気持ちに振り回されてるのも見て取れたから、ちょっと気の毒になって放っておけなくなってしまった。
「リュカもお湯浸かる? 私が上がった後だけど、洗って溜めておこうか?」
「い、いや。今日はもう入ったからいい。ごめん、ちょっと最近余裕なくて……」
『リュカ、【キモい】は【気持ち悪い】の意味だよ』
ちょっと切り替えてあげようかと思ってたのに、空気を読まないリゲルがさらっと追い討ちをかけて、フワッとピアスに戻っていった。赤かったリュカが今度は土気色だ。一気に覚めたのか、急がしい顔だ。そして、ちょっとシュンとしてるし。
「き、気持ち悪い、か……。アリス、ごめん……」
「あー、最後のキモいは、ついって言うか、軽くいっただけだから、そこまで深い意味はないから。半分冗談みたいなもんだからね。でも、距離感気をつけた方がいいよ」
「はい。今後気をつけます……」
じゃぁ、と今度こそ部屋に入ろうとした。
「あ、そうだった。アリスに隊長からの伝言があったんだった」
「隊長さんから?!」
扉を開きかけたまま、あわてて振り返った。
「やっと知り合いの都合がついたから、3日後の2刻半くらいに迎えに来るって。アリス、なんか約束してたの?」
あれ? マルクさんの話じゃ、フラッと立ち寄るだけって言ってなかったっけ?
知り合いの都合がついたってことは、あれかな? 適性調べてくれる知り合いかな?
だったら、マルクさんに知られたらまずいから誤魔化したのかな?
「あぁ、うん。それだったらたぶん属性調べてくれるって話だよ。ほら、私色々と特殊みたいだし、こっそり調べてくれるらしいのよ」
「へぇ。まぁ、アリスは特殊も特殊だからね。隊長の知り合いなら安心だね」
特殊も特殊。何てったって異世界から来たんだからね。うっかり教会に調べてもらっちゃったら、何処に連れていかれるかわからないからね!
「教えてくれてありがとう、3日後ね。アンリエットさんにお休みもらえるか聞かなくちゃ」
「もらえるか聞くって……アリス、普通貴族からの面会を平民が断るなんて事は出来ないから。いくら相手が隊長で非公式だからって、それはやっちゃダメだよ」
普通に知り合いとの約束感覚でいた私は、ハッとしてリュカを見た。
「そうだったね。そういう世界だったね。リュカありがとう、よくよく覚えておきます」
「僕もあまり詳しい方じゃないんだ、礼儀作法なんかは母さんの方がよく知ってるよ。貴族相手の対応もこなしてるからね。ちょっと違うかもしれないけど、少し聞いておけば安心なんじゃない?」
「そうする! 明日アンリエットさんに教わってみる! 色々とありがとう!」
そう言って部屋に入り、ふぅーと一息つく。隊長さんの話にちょっとテンションが上がってしまった。昼間、マルクさんから聞いた時もだけど、やっぱり隊長さんの事となるとどうしたってドキドキしてしまう。
それにしてもだ。隊長さんや他のみんなは大丈夫って言ってくれてたけど、失敗して隊長さんに恥はかかせたくない。気合いを入れてアンリエットさんに教えてもらわなくちゃと、私はぐっと拳を握りしめたのだった。
じめじめ、キノコみたいなリュカでした(笑)
では、また明日~( ≧∀≦)ノ




