【57】和解
長い沈黙が怖くなって、そろーっと頭を上げて視線を二人に向けてみた。
「えっ?! ちょっと! なんで!?」
目に飛び込んできたのは、今にも涙が溢れ落ちそうなくらいの瞳と、それを我慢してうっ血してしまっているティナの顔だった。
よく見ると、隣のエマまで泣いている。
「えっ! あのっ、いや、大丈夫?!」
あんまりな表情に、動揺して何て言っていいか分からなくなる。
「あんたっ」
「はいっ!」
グッとこらえていただろう涙が、言葉と一緒にダーッと流れ落ちていた。それでも必死に顔を崩さないティナは凄いも思った。
「何で!」
「え? 何ですか?」
「何でそういうこと! 先に言わないのよ!!」
「えぇー……」
さっきまで凄く悲しい気持ちだったけど、これだけ泣かれてしまうと、そんな気持ちもどこかにいってしまう。説明不足も私のせいだけど、説明させてくれない勢いだったのもそっちなんでけどなぁ……。
「アリスちゃん、ごめんなさい……。辛かったんだね……グズっ」
「あんたの、事情も知らずに、言いたいことだけ、言って、悪かったわ……」
「いや、ちゃんと言わなかった私も悪いから……」
何となく誤解は解けたかな? と、ちょっと安心もするけど、こっちの人って、こういう話に弱いのかな?
ダバダバ流れる涙を乱暴に拭うティナに、 初日に可愛くて買ったハンカチをポケットから取り出して差し出した。
「使って、可愛い顔が台無しだよ?」
「自分だって使ってなかったじゃない……」
綺麗なハンカチにちょっと遠慮したのか、なかなか受け取ってくれなかったけど、私はティナの手を握ってグッとハンカチを握らせた。
「私はもう乾いちゃった」
もう涙が出ていないと、ティナに笑いかけた。
「あ、ありが、とう……」
ティナは、無理矢理握らせたハンカチをじっと見つめてから、一度私を見ると、恥ずかしそうに少しだけ笑ってくれた。
そんな私たちのやり取りを見ていたエマも、自分のハンカチで涙を拭いながら近寄ってきてくれる。
「ちゃんと、話をしなくちゃね……」
そうだった。その為にここに来たんだっけ。
「私も、ちゃんと聞くわ。もう、勘違いして人を傷つけたくないもの……」
アンリエットさんとルアンダさんの言う通り、ちゃんと良い子なんだなと思った。雰囲気が変わったのがわかったのか、リゲルも安心してピアスの中に戻っていった。
「改めて、今日はごめんなさい。あなたの事情も知らずに勝手なことばかり言ってしまって悪かったわ。今日はわたしの奢りだから遠慮せずに食べてね」
話が長くなるかもしれないって事で、夕食に誘われた。さすがにすぐに帰ると言って出てきてしまったので、一度お店に戻ってアンリエットさんに事の顛末を伝えると、誤解が解けて良かったねと、快く送り出してくれた。
まだ王都を知らない私は、言われるがままに二人について行き、入ったお店(さすがにシャルテの所は避けたらしい)でティナが店員さんにパパッと注文して(前払いらしく、その場で支払いまで済ませて)ざっと料理が並んだところで、奢りと言われてしまった。普段の私なら断って割り勘にしてもらうとこなんだけど、謝罪の奢りなら断る方がダメな気がした。なので、おとなしくティナの厚意を受けることにした。
「えっと、ありがとう? 私王都に来てから外で食事したことなかったから嬉しいです」
「アリスちゃん、王都に来てからまだそんなにたってないの?」
「はい、1ヶ月ちょっと前くらいに初めて来ました」
こっちの世界に来てまだ2ヶ月くらいなんだけどね。
「あー、そのしゃべり方やめない?」
「しゃべり方?」
何かおかしかっただろうか? 頭にはてなマークを浮かべて首を傾げる。
「ア、アリスのしゃべり方って、堅苦しいっていうか、落ち着かないなよっ」
あ、【あんた】から【アリス】呼びになった。ちょっとは進展したかな? なんて、少し嬉しい気持ちが顔に出てしまったのか、ティナは私の反応を見てちょっと口調が乱暴になってしまった。照れてるなこれ。
「えーっと、癖っていうか。初対面でいきなりため口とかって、失礼かな? って思って」
「タメグチ?」
おっと。ため口は通じませんか。気をつけなきゃ。
「と、友達口調で話していいのかわからなくて」
「むしろ、丁寧に話される方がむず痒いよ。アリス、エマと同じくらいなんでしょ?」
「同じくらい?」
ふとエマを見る。目が合ったエマはニッコリと可愛い笑顔で微笑んでくれた。つられて私も笑顔になる。
「ちなみにエマは何歳、なの?」
聞きながら、これはアレだなと直感でわかった。いつものやつだ。
「私は15だよ」
ほらきた。どこにいっても年下と思われる。もう慣れっこになってしまった説明を、この二人にもする。
「私はこう見えて18歳です。一応成人しています……」
「「…………」」
二人は目を丸くして、お互いを見合った後に私を見た。ティナなんかは、エマと私を交互に何度も見ていた。そこまでかなぁ……。
「嘘! 私よりいっこ上?! アナ姉と同じ年!」
「アリスちゃん……、おんなじかと思った……」
15に見えたかぁ。こっちは成長が早いんだなぁ。ちょっと遠い目をしてしまったのは仕方ないと思う。アナ姉って、きっとアナベラだよね。さすがにあの人と比べられるとへこむわ。
「嘘ついてないし、もう毎回同じ様な反応されるからなれたけど、さすがにアナベラと比べられると辛い……」
ずーんとあからさまにしょげて見せると、二人は慌ててフォローしようと、言葉をさがし始めた。
「いや、ほら、アナ姉はさ、特別っていうか、もう旦那もいるしさ、もう子供じゃないっていうか、子供もいるし。ほら、お母さんになると雰囲気も変わるじゃない? アリスが特別幼いって訳じゃなくてねっ」
「アナ姉ちゃんは、そうだよ、特別なんだよ! ここら辺じゃ一番の美人さんだし、アナ姉ちゃんみたいに大人っぽい人の方が少ないんだよ!」
なんともフォローになってないフォローを頂き、さらに落ち込む。ワチャワチャと一生懸命慰めてくれる二人が可笑しくなって笑えば、一瞬キョトンとされたけど、すぐに二人も笑いだした。
「アレは反則だよねー」
「アナ姉ってば、いつも上に見られてたしね」
「アナ姉ちゃんはずるい」
今度は3人で顔を合わせて笑ってしまった。誉められたんだか貶されたんだか嫉妬までされ、アナベラも今頃くしゃみでもしているかもしれない。アナベラには悪いけど、共通の知り合いで場が和んだことに、私は感謝した。
ひとしきり笑いあった後、冷めないうちにと食事をしながら、助けられた経由やリュカに色々と教わったことなんかを話すと、大変だったんだねと涙ぐまれた。もちろんリゲルや魔法の事なんかは省いたけどね。話せる範囲で砦での事を話し終えると、ティナはようやく本題というか、ずっと聞きたかっただろう事を聞いてきた。
「アリスはさ、どうしてリュカんとこに来ることになったの?」
「んー、こっちのこと全然知らなくて、色んなことリュカに教えてもらってたんだけど、お金の話しになった時に、仕事探さなきゃって思って、リュカに住み込みで働ける所がないか聞いたの。知り合いゼロだし、飛び込みで探すにも全然情報もなかったから。そしたら、姉が出産で人を探してるって、家で働かないか? って言われてね、すぐにやります! って返事したの」
「そうだったんだ。いきなり王都に来て仕事探すって大変だもんね、リュカもたまにはいい事するね」
「うんうん、人助けはいい事だよね。リュカくん見直したかも」
私の中でのリュカは男前なヤツなんだけど、この二人にしてみればちょっと違うらしい。今度昔のリュカのことでも聞いてみようかな? と思ったのだった。
読んでいただいありがとうございました!
次回更新は明日です( ≧∀≦)ノ




