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-3- 洗濯は良く落ちる薬剤で


 鼻を押さえつつ待つこと数分。急いできてくれた男の子は、さっき持っていた桶を棚に置くと、自分と同じような濃紺の軍服?みたいな洋服と数枚の布を手渡してくれた。


「僕の服でごめんね、ちょうど良い大きさのがこれくらいしか無くて。大丈夫! 昨日洗ったばかりだから!」

「ありがとう、大丈夫です。むしろ本当に感謝しかないです」


 そういって、洋服を受け取ろうと寝台から出ようとした時……


「ちょっとまって! 今はまだ降りなくていいから!」

「え?」


 掛けられていた布を剥ごうと、布を持ち上げたら、男の子は慌てて後ろを向いてしまった。


「え? なに? 何で?」


 意味も分からず頭がハテナでいっぱいになる。


「そのっ、その君の格好っ!」


 言われても全然意味がわからない。いたって普通の制服だ。半袖のブラウスに春夏用のニットのベストに、プリーツスカート、紺のハイソックス。うん。普通だよね? むしろ公式だよね?


「扉の外で待機してるから、終わったら声かけてね!」


 振り向きもせず、洋服を後ろ手に渡され慌てて受け取ると、男の子はすぐに部屋から出ていってしまった。


「なんだったんだろう?」


 不思議に思うも、まずは着替えだ。お風呂に入れないのはイタいが、この際贅沢は言ってられない。鍵が掛からない部屋は少し心もとないので、近くにあった椅子をドアノブに引っかけてなんちゃって施錠した。

 とりあえず状態の酷い上半身から制服を脱ぎ、体を拭いていく。ゴシゴシと擦って汚れを落とすと、所々擦り傷がありピリッとした痛みが時々走る。


「はぁ、もう嫌だなぁ……」


 さっきは人がいたから平気だったけど、1人だと気分がどんどん落ちてくる。


「ここ何処なんだろう……、私これからどうなっちゃうのかな……」


 体を拭き終え、髪の毛をなんとかほどいて、残ったお湯に浸ける。ドロドロの汚れは1度では落ちるものでは無かったけど、そのままよりは全然いい。ある程度水分を取って洗ったゴムで簡単に纏めておいた。

 持ってきてもらった服の中に、ワイシャツみたいながあって、その上に濃紺の軍服を着るようだった。

 少しだけ大きかったけど、誤差の範囲だった。

 身支度が整い、扉に掛けてあった椅子を退かす。


「あのー、終わりました」


 ガチャリと扉を開けて顔だけで覗くと、あの男の子は本当に扉の横で待っていてくれた。


「あ、服大丈夫だった?」

「はい、少し大きかったけど、大丈夫です」

「良かった」


 心配してくれてたのか、ホッとした表情の男の子から笑みがこぼれた。



 あ、可愛い……



「これ、洗いたいんだけど、何処か洗える場所ってありますか?」

 

 汚れてしまった畳んだ制服を男の子に見せる。


「水場があるから、そこで洗えるよ。今日はもう遅いけどどうする? 明日にする?」


 そう言えば、外は暗かったなと思い出す。いったい何時なのかは謎だった。部屋の外はあまり音がしないけど、他に人がいない訳じゃないだろうから、やっぱり皆さん寝ている時間なのだろうか……。

 出来れば今日中に洗ってしまいたかった。時間が経っては落ちるものも落ちなくなるかもしれないし、何よりこの状態のものを部屋に置いておくのが嫌だ。


「迷惑じゃなければ、今すぐ洗いたい、です……」

「うん、分かった。良いよ、案内するね」


 すぐに部屋を出て、先を行く男の子の後ろをテクテクと付いていく。石畳の階段を下りて廊下を歩く。沈黙が嫌で何か話しは無いかと思い、そう言えば名前聞いてなかったなと男の子に話し掛けた。


「あのー、お名前、何て言うんですか?」

「ん? そう言えばまだ言ってなかったね、僕はリュカだよ」



 リュカって言うのか。ますます日本じゃないな……。

 リュカは、歩きながら振り返りコテっと頭を傾けた。


「君は?」


 名前を聞き返されてドキッとした。可愛い仕草もそうだけど、名前。散々揶揄われた名前。とょっと躊躇ったけど、下だけで良いよね……。


「あ、愛星……」

「アリス?」


 リュカは名前を反復しながら、一瞬で笑顔になった。


「可愛い名前だね!」


 名前負けしてるね。とか、似合わないね。なんて言われなくて良かった。日本人でアリスは珍しいのだ。さすがに初対面でそんなこと言われないか。


「ありがとう」

「さあ、着いたよ」


 名前を伝え合うだけで水場に着いてしまった。あの部屋から近かったのだろう。外に繋がる扉を開けると、井戸とキャンプ場なんかにある水場があった。所々に桶や瓶、洗った布なんかを干してある場所もあった。


「ここで洗えるから。そこの薬剤使うと魔物の血も良く落ちるよ。僕は食堂でなんか用意してもらえるように伝えてくるね、すぐ戻るから」


 そう言って、水場の使い方と薬剤の説明を簡単にしてくれたリュカは、元来た道を戻っていった。


「魔物の血……。やっぱりあれはそんなんだったんだ……、ますます異世界転移の線が濃厚になってきたなぁ」


 私はリュカに教えてもらった薬剤が入った瓶を手にして蓋を開けると、癖で匂いを嗅いでしまったが、


「あ、変な匂いはしないや。さてと、やりますか」


 ちょっとホッとしつつ、さっき使っていた桶の水を流して、井戸から新しい水を汲んで桶をさっと洗う。初井戸。汲むのがなかなか大変だ。慣れない作業だったけど、使い方は分からないことはなかった。

 そして、何故か水はそこまで冷たくなかった。今着ている服が長袖長ズボンで、良い服なのかそこまで寒さも感じない。こっちに来たときは半袖だったし、寒いと思ったけど冬ではないのかな?

 桶に制服を入れて、薬剤をそーっと入れてもみ洗いをしていく。


「わぁ、これホントに落ちるよ。なに入ってるんだろ」



三話まで読み進めていただきありがとうございました!

本日の更新はここまでです。

次の更新は明日21時となります。


もしよろしければ、応援よろしくお願いします(*´艸`*)

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