-19- フィーの契約
『じゃあさっそく!』
フィーはちょっと弾みながら、隊
長さんのオレンジ色の宝石に近づき、スピードを落としてそっと中に入ろうとした。
『あれ?』
「どうした?」
『ちょっとまって』
何度か宝石に触れるも、一向に中に入れない。
『え? なんで? どうしてよ……』
『えー、フィー何で入れないの?』
『知らないわよそんな!』
『こんなに簡単に入れるのにー?』
リゲルは自分の(私のだけど)ピアスから出たり入ったりを繰り返す。立場がさっきと逆転してるみたいだった。さっきの根にもってるな……。
「まあ、入れないのなら仕方がない」
『そ、そんなぁ……。残念だわ……』
「そう落ち込まなくてもいい。入れなくても契約はしてくれるのだろう?」
『そう、そうよね! 入れないからって契約できない訳じゃないし! そうよそうよ! クロードすぐに契約しましょ!』
落ち込むフィーをフォローする隊長さんは、すごく優しい顔をしていた。超カッコイイです。
「契約とは、どのようにするんだ?」
隊長さんも契約の仕方を知らなかったらしく、フィーに聞いていた。
『契約はね、お互いの意思と接触で可能になるの』
「そんなに簡単なものなのか」
『うん、私も他の子たちが契約しているところを見たことないんだけど、精霊王さまがやりかたを教えてくれたの』
そう言うと、フィーはフヨフヨと隊長さんの額に近づきピトっとくっつき、隊長さんが目を閉じる。
しばらくして、フィーがまた強く光る。
『これで契約できてるはずなんだけど……』
「……」
『クロード?』
目を閉じたまま動かない隊長さん。フィーも少し不安げだった。
「あぁ、これは凄いな……」
「凄いんですか?」
何が凄いのか。ゆっくりと目を開けた隊長さんが、手を開いたり閉じたりと何かを確認するような動作をした。
「魔力の増加を感じる……」
「魔力、ですか……」
『よかったー、初めてだから失敗しちゃったのかと思った』
フィーはまた隊長さんの肩に止まり、安堵の声を出した。そんなフィーを隊長さんは、優しい目で見ていた。
「良かったですね」
声をかけると、隊長さんは少し驚いてから、照れ臭さそうに頭を掻いた。
「あぁ、ありがとう」
「隊長さんは、魔力が増えたって言ってましたけど、そういうのって分かるものなんですか?」
「自分の中にある魔力は、常にどの程度残っているかは把握しているからな」
「すごいですね」
「まぁ、職業柄だ」
「もしかして、私にも魔力ってあるんですか?」
「まったく魔力を持っていない人は居ないとされているからな。多かれ少なかれ、誰でも持っているはずなんだが……」
「調べたりってできないんですか?」
「あー……、調べるくらいなら出来るが……」
隊長さんが少し言い淀む。
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、なんの問題も無い。アリス、手を出してもらえるだろうか?」
「はい」
隊長さんが言いながら、両手の平を上にして差し出してきた。私はそれを見て躊躇いもなく両手を隊長さんの手に重ねた。
少し暖かい手のひらの温もりが、じんわりと伝わってくる。そっと握られ、今更ながらドキッとしてしまった。
たたたたた隊長さんと、手繋いでるし! キャー! これ恥ずかしい!!
「今から私が魔力を流すから、それを感じ取ってみてくれ」
「魔力を流すんですか?!」
「痛みは感じないはずだから、そう構えなくても大丈夫だ」
「は、はいっ」
「では……」
ゆっくりと隊長さんが目を閉じて、意識を集中させているのが分かった。うわぁ、睫長いなぁ……。なんて全然違うことを考えていると、握っている手の平から、腕にかけて暖かいようなものが上がって来るのが分かった。あ、私も集中しなくちゃダメよね……。
目を閉じ、体のを巡る暖かさを集中して追いかけていく。まるでコピー機スキャンされてるみたいに暖かさが頭の上から足の先まで駆け巡り、戻ってくる途中、鳩尾あたりを過ぎた時、何か違和感を感じた。
「ん?」
頭まで暖かさが戻り、もう一度足先まで下りる途中、やっぱい鳩尾くらいでさっきよりハッキリと違和感を感じた。
「あ、なんかある?」
そういうと、隊長さんが目を開け繋いでいた手を離してくれた。私も目を空けて自分の鳩尾を押さえる。
「なんか、ここら辺に変な感じがしました」
「アリスの魔力は何か、包まれているみたいだ。あることは分かるんだが……」
「これが魔力なんですか?」
「少し普通の状態とは違う感じだ。これでは生活魔法も使えるかどうか……」
「え? あるのに使えないの?!」
なんと言うことでしょう! 魔力はあれど、使えないなんて!!
「このままではな、エルが戻ったときに一度診てもらうといい」
「エルさんですか?」
「エルはこの隊の中で一番魔法が得意なんだよ。私より詳しいから、なにか分かるかもしれない。夕食の後になると思うがエルには話しておく」
「ありがとうござます……」
言葉尻が心なしか下がってしまう。魔法使えるって思ったのに、残念だ……。
「そんなに落ち込まなくても、魔力はあったんだ。きっと使えるようになる」
隊長さんが私を元気付けようと、笑いかけてくれた。その笑顔に心臓が跳び跳ねる。いちいちカッコイイな、隊長さんは。
『うわぁーーっ!』
「え?! なに?!」
フィーの突然の叫びに、しょんぼりしていた気持ちも、ドキドキしていた気持ちも一気に飛んでいった。何かと隊長さんの肩を見れば、なんと隊長さんのピアスにフィーっが半分だけ入っていたのだ。
「どうした?!」
自分の肩を見てもいたはずのフィーが見えなくて、隊長さんは少し慌てていた。
「た、隊長さん。フィーがピアスに……」
『入れたーーーー!! クロード! 入れたよ! すごいねこれ! 面白ーい!!』
言いながら、ピアスの中に入ったり出たり、世話しなく動くフィーは、すごく嬉しそうだった。
「フィー、分かったから、少し声を落としてくれないかっ」
耳元で騒がれて、少しうるさそうな隊長さん。フィーが急に動きを止めた。
『嬉しくってつい……』
「でも良かった。隠れる場所に困ることはないな」
『うんうん! これでいつでもクロードと一緒にいられるわ!』
ひょいっとまたピアスに入るフィー。よほど嬉しかったのか、ちょこっと出ては戻り、全部出てみては戻りを繰り返して、遊んでいた。
『それにしても、さっきは入れなかったのに、なんで今度は入れのかしら?』
「先ほどと今の違いか……」
『契約。しかないわよね』
「そうとしか思えないんだが……」
フィーと隊長さんが、私を見ている。なぜ?
「アリスはリゲルと契約しているのか?」
『アンタ、この人と契約してるの?』
私とリゲルへ、隊長さんとフィーから同時に聞かれ、思わずリゲルを、の入っているピアスを見てしまった。そして、しばしの沈黙の後……
「『さあ?』」
声を揃えて答えるのだった。
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