21話 村の若者たち
「いいえ、殺すためのものです」
若者たちは手にした鎌について、そんなふうに説明した。
「ならばそれで誰を殺す?」
「僕たち自身をです。この話をするためには、死を覚悟しなければなりません」
「自害か」
若者たちがいっせいに首肯する。
ムアは少し呆れた。
これは脅迫のつもりだろう。もし話を聞かないのならば、自害するぞという意味だ。ならば勝手にするがいい。どうせ死ぬ気もないくせに。
「ほう、そういうことか。ならば話を聞かず、わたしがこのまま帰ってしまえば、お前たちはここで死ぬのだな?」
「少し違います。話を聞かずに帰られた場合には、死ぬ必要はありません。この鎌は、話を聞いていただいたうえで、NOの返事があった場合のものです」
だったら普通は聞かないぞ。
それにしても下手な芝居だ。しかしそこまでしようとする話とはなんなのか。
逆に少し興味が湧いてきた。
「聞いてやろう。ただしNOの返事をする可能性は、高いものだと思ってくれ」
「はい、覚悟しています」
若者たちが語る――。
このゴゾナ村は母なる川のおかげで、農作物の収穫は多く、また品質も高いといわれています。それなのに村人たちの貧しさは尋常ではありません。すべて領主様の過剰な搾取によるものです。
ムアは鼻で笑った。
「貧しいのはこの村の人間だけではない。わたしは各地の村や町を旅してきたが、ゴゾナ村の人々は比較的裕福に見えるぞ。たとえばきのうのことだ。昼も晩も食事に招いてもらったが、実にすばらしいご馳走だった」
若者たちが反論する――。
喜んでいただけて何よりです。その実情を明かしてしまうのは、とても気がひけますが、正直に話すことにします。
僕たちが普段、あのように贅沢な食事をしているわけではありません。あの場にいた村人たちが自分たちの空腹を我慢し、あなた方のために提供した食料です。それほどあなた方をもてなしたかったのです。それに、あそこの農家は少し特別なのです。実は、ある長老院の一員の遠縁にあたりますので、財産については他の家々よりいくらか余裕があります。
「ならばそれほど貧しい者たちが、嗜好品でしかない地酒を造るというのか?」
丸太小屋に持ってきた地酒のことだ。
それについて若者たちはこう説明する――。
僕たちの村で、酒は嗜好品ではありません。祭りのときに神へ捧げるものです。村に酒好きはいません。神へ捧げたあとも、それを飲みたがる者はおりません。ですから神への酒を拝借し、あなた方に召しあがってもらおうとしただけです。
「神への酒を拝借だと?」
若者たちが苦笑いする。そしてこういった――。
バチが当たるのは僕たちのみです。拝借したものだとは知らなかった方々に、決してバチはあたりません。どうぞご安心ください。
ついでに桑の実のことも話しておきます。あれは採れる量があまりにも少ないため、正規の農作物とはなりませんし、租税対象としても免除されています。
桑で必要な部分は葉っぱのみです。お蚕さまの餌となります。桑の実は人間がいくら食べてもお腹の足しにはなりません。
まあ……あれほど集めるのは非常に苦労しましたが。
「お前たちが貧しいという説明はもういい。真偽はどうあれ、話を進めよう。それでわたしに何を求めたいのだ?」
途端にこの場の空気が引き締まった。
若者たちの中には震えだす者もいた。
「もう村人を苦しめないでほしいと、僕たちは領主様のもとへ嘆願にいくつもりです。どうかご同行をお願いいたします」
領主のもとへだと?
彼らは世の中を甘く見過ぎている。
「無駄だ。人間に過ぎない民が嘆願したところで、それを素直に受け止める領主がいるとでもいうのか」
「いいえ、僕たちもそうは思ってはいません」
「では、領主に無視されたあとでどうする?」
若者たちはそれぞれの顔を見合い、互いに小さくうなずいた。
「はい。仕方なく懲らしめることになります」
「懲らしめるというのは、殺すという意味か?」
「おっしゃるとおりです」
鎌を所持している意味が明確になった。
人間が魔物に反逆することは許されない。企てただけで極刑となる。だからこのような話を持ちかける場合、非常にリスキーであり、命を賭けなければならない。
若者たちの自害する覚悟も、領主を殺す覚悟も、本気だ。
皆、死ぬつもりできたのだ。
「お前たち、やめておけ。領主に逆らうなど、非現実的だ。お前たちがいま話したことは忘れてやる。だから自害の必要はない。命を粗末にするな」
ムアは踵を返し、歩いていく。
背中にすすり泣きを聞いた。
ふと子供の頃を思いだした。
剣術を覚えようとしたのは、強くなりたかったからだ。
強くなりたかったのは、人間を支配している魔物らをぶった切りたかったため。
たった一人で革命を起こしたかったのだ。
それで大王家の傭兵となり、いつか魔物を殺すために、魔物から剣を学んだ。
しかし次第に現実を知っていくこととなった。
腕力があり魔法も仕える魔物の大群に、一人の人間が勝てるわけなどない。
だから野望は後世に託すことにした。
いつか人間が魔物から解放される日がくると信じて。




