表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/82

21話 開始の笛

 どうしよう! これから競魔稽古だというのに、食いすぎて腹が重たい。

 もったいないからといって、デザートまで無理して食べるべきではなかった。


 ユーリアや同級生たちに連れられ、魔導館へと歩かされている。

 他の多くの生徒たちも、ぞろぞろと同じ方向に歩いていく。

 まもなく競魔稽古が始まることは、全校生徒の耳に入っているのだ。


 ああ、腹が苦しい。

 ユーリアには悪いが、開始とともに降参しようか。


 やっとの思いで魔道館に到着。

 とうとうこのときがやってきた。


 ユーリアは大勢から注目されて表情がコチコチだ。

 ごめん、ユーリア。そんな緊張せずとも、オレすぐ負けるんで。


 魔法科教師のミチニーカが魔導館の中央に立った。

 大観衆を見回す。


「皆さん、これよりアミレロス・インザケトアさんとユーリア・ウィルハイザさんの競魔稽古を始めます。これは互いの魔法を高め合うためのものであり、学校教育の一環として認められた練習試合です。在学中の『使い魔召喚』は極めて稀なことでして、その時期が重なったのは、当校の長い歴史において初のこととなります。両生徒ともこの稽古を通じて、多くのことを学びとってください。以上」


 ミチニーカは観衆の大拍手の中で退場した。


 オレの周囲にはユーリアと同級生たちがいる。

 金髪縦ロールのシャナレミアが正面にきた。


「使い魔様、わたくしたちの名誉のため、必ずや勝利をお掴みください」


 イヤだね。

 即、降参するさ。


 ところが……。


「凛、絶対勝ってきて」


 ユーリアが顔をあげ、強い口調でオレにいった。


 忘れていた……。

 どういうわけか使い魔は、主人の命令が絶対なのだ。

 その気がなくとも不思議な力で強制されてしまう。


 これは困ったぞ。全力を尽くさなければならなくなった。

 降参や逃亡という選択肢が消えてしまったのだ。


 くそ、くそ、くそ。

 こんな腹のコンディションの中、勝負を投げだすことは許されないのか。


 オレはユーリアたちに送りだされた。魔導館の中央へと歩いている。


 ああ、腹が……。

 最悪だ。食い過ぎて苦しんでいるところに運動なんて無理だ。

 ユーリアよ。お前、オレを殺す気なのか。


 ふたたび拍手がどっと湧きあがった。

 頼むから拍手はやめてくれ。きつくなった腹に響く。吐きそうだ。


 しかし拍手はさらに高まるのだった。

 いよいよ相手の使い魔が登場するらしい。


 白煙が立ちあがった。

 相手の上級生が、使い魔を顕現させたようだ。


 あ・・・・・・・・・・・・。


 そいつを見た瞬間、死を確信した。

 ふざけんな。卑怯だぞ。なんだよ、それは!


 ドラゴンじゃん。


 無理無理無理無理無理無理無理。

 命がいくつあっても足りゃしない。脳みそは勝負を激しく拒否しているのに、この体はそれを無視して戦おうとしている。


 生徒たちはドラゴンと山神の対決に歓喜している。

 オレ、山神じゃないんだけどなあ。


「シノ、シノ、シノ! いっしょに戦ってくれ」


 なんの応答もない。

 巨大なドラゴンと目が合った。


 右手が熱くなる。だけど今回は無理だ。弱小怪異ならばこの右手で何度も倒してきたが、相手があんな大物ではこっちが瞬殺されてしまう。


 壁に背をつけたミチニーカが、笛を口もとへと運ぶ。

 すぐに理解できた。笛が戦闘開始の合図なのだ。


 もうおしまいだ。

 オレの頭の中は真っ白になった。


「お待ちください、ミチニーカ先生」


 開始を止めようとする声があった。

 ユーリアたちのいる方からではなく、敵側からだ。


 一人の生徒が歩いてくる。


「この勝負もとい稽古は、延期とさせてもらえませんか」


 救いの天使かと思った。

 誰だよ、このお方は。


 彼女がまっすぐこっちに近づいてくる。


「凛くんだよね」


 オレのことを知っているのか。

 そんな馬鹿な。こっちの世界にゃ、知り合いなんていないはずだ。


 じっと彼女の顔を見据える。

 懐かしい気持ちになった。


「アミちゃん?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ