22話 再会
「何年ぶりかしら。またあなたに会えるなんて信じられない」
オレだって信じられないし、ビックリしたさ。
アミちゃんがこっちの世界の人だったなんて。
「な、七年ぶり……になるね」
「七年かあ。凛くん、すぐにわたしだって、わからなかったでしょ?」
「ごめん」
そりゃ、わからなかったさ。こんなにも大人っぽくなっているんだから。
思わず見惚れてしまったじゃないか。
「ねえ、競魔稽古なんて、やめにしない?」
「やめに?」
「このドラゴン、わたしが召喚した使い魔なんだ」
てことは、アミちゃんがユーリアの相手だったのか。そういえばミチニーカという教員が稽古開始前の挨拶で、アミレロスとかなんとかいってたけど、それがアミちゃんの本名なんだな。
もちろん競魔稽古はやめにしてもらたい。でなければ殺されてしまう。だって相手はドラゴンじゃないか。
しかしオレはユーリアから命令を受けていた。勝ってこいと。
この体はそれを拒否できないのだ。
「勝負だ、アミちゃん。オレは勝つ」
意思に反してそんなセリフを吐いてしまった。
いや、不思議な力によって吐かされたのだ。
「うん、わかった。わたしの使い魔と勝負がしたいのね。ちなみにボワーって名づけたのよ」
おいおい待ってくれ。そんな簡単に納得しないでくれ。
本当は戦いたくなんかない――そういいたいのに、いえなかった。
アミちゃんはミチニーカに一礼し、中央からさがっていった。
ボワーとかいうドラゴンと目が合った。
その僅か一瞬で、オレは身をすくめてしまった。
シャレにならないほど恐ろしい。ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
ミチニーカが笛をくわえる。
そして笛が吹かれた。
その勝負開始の合図は、ドラゴンにも理解できたようだ。床に足をつけたまま翼を広げ、口を大きく開ける。
殺される――。
ところがドラゴンは体を右に向けた。
どうしたっていうのだ。
おーい。オレ、そっちにはいないんだけど?
ドラゴンの視線の先には何もない。
そういうことか。
「そこにいるのはシノだよな?」
何もない空間が、白く霞んだ。
白色が次第に人の姿を為していく。
現れたのはシノだった。
シノ……。
ドラゴンにはもっと早くからシノが見えていたのだろう。
シノが長い黒髪を掻きあげると、端麗な横顔が露わになった。
「凛。反省した?」
「うん、した、した。ずっげー反省した。だから頼む。手を貸してくれ」
「面倒だけど、仕方ないわね」
アンニュイな表情ながらに、確かにそういってくれた。
でも相手はドラゴンだぞ。勝てるのか?
ドラゴンが巨大な口から灼熱の炎を放つ。
たちまち赤色がシノを包んだ。
シノ、シノ、シノ! 大丈夫か?
観衆の生徒たちがザワついている。
「あのドラゴンはどうしたのでしょう?」
「どちらに向いて火を噴いているのかしら?」
「やる気が見えませんわ」
「所詮は大きいだけの爬虫類ですわね」
彼女たちがドラゴンをやんわりと貶している理由は明白だ。この場にシノの姿を認識できている者はいない。つまり観衆の目には、ドラゴンが誰もいない方向に火炎を放ったように映ったのだ。
しかしドラゴンの猛火は確実にシノを捕えていた。
シノ……。オレが助けを求めたせいだ。山神とはいえあんな小さな子に、なんと酷いことをさせてしまったんだ。
唇を噛み締めた。眼前には絶望と悲嘆しかない。
あれ?
燃え盛る炎の中から、小さなシノの姿がでてきた。その顔は平然としていた。まるで何事もなかったかのように、目も口も涼しげだった。
シノは無事だったか。ああ、よかった。
安堵したせいか、全身の力が抜けていく。両膝がぐったりと床に落ちた。
心配させんじゃねえよ。
しかし彼女はドラゴンなどそっちのけで、こっちを見据えている。
な……なんだよ。
「あたしが死んだと思った?」
「そ、そんな話はあとにしてくれ。いまはそれどころじゃないだろ」
シノはオレを小馬鹿にしたように、口元に微かな笑みを浮かべた。
勝負中にもかかわらず、さっきから隙を見せっ放しだ。
ドラゴンの長く鋭い爪が襲ってくる。
ほら、よそ見してるから!
ところが恐ろしげな爪はピタッと止まり、動かなくなってしまった。あと数十センチというところまでシノに迫っていたのだが。
不思議に思って巨大なドラゴンに目を凝らしてみると、全身に目の粗い縄のようなものが巻きついていた。それがドラゴンの動きを封じているようだ。
これってシノがやったんだよな? やっぱりシノはスゲェーや。
ドラゴンは首や尾の先ならば、少しは動かせるようだ。それらを小刻みに動かし、必死にもがいている。とても苦しそうだ。
やがて力尽きたように、バタンと巨躯が床に沈んだ。
ピィーーーーーーッ。
大きな笛の音が鳴り響いた。
吹いたのはミチニーカだった。勝負の決着を知らせたのだ。
勝った。
シノがドラゴンを倒した。他者の目から見れば、きっと勝者はオレだ。すなわち名目的にはユーリアが勝利を獲得したことになる。
生徒たちからパチパチと拍手が起きた。
だがその拍手はぞんざいなものだった。まるで気持ちが篭っていなかった。
そりゃ納得いかないだろう。こんなクソ試合。
だってドラゴンは対戦相手のオレには見向きもせず、誰もいない方ばかりを見て戦っていたのだ――観衆の目にはそのように映っていたはずだからな。
シノの姿が認識できていた者は、きっとオレとドラゴンだけだ。
とりあえずシノに礼をいわなければ。
彼女のもとへと歩いていく。
「シノのお陰で助かった。感謝してるぜ」
「でもあなたのこと、まだきちんと許したわけではないのよ」
彼女は一欠片の笑みも見せず、くるりと背を向けた。
まだ怒っているのか?
「なんてね」
そういって姿を消した。




