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宰相殿下は肉食系?!

息抜き作品であるこの小説、四話完結しました☆

ありがとうございました(^^♪


感想等、お待ちしてます(>ω<)

 理州の州牧邸宅の大広間。理州の高官達が呼ばれ、酒宴がもよおされていた。

 宴もたけなわといったその場所には、黄金に輝く装飾をふんだんに付けて、派手な服を着込んだ三十手前の男が上座に座っていた。茶に近い髪はふわりとした癖が付き、頭のてっぺんできつく結いとめてある。

 その男の隣には、何故か簀巻(すま)きになった小麗が脱力して椅子に括りつけられていた。そして、小麗の後ろには、彼女の父―――この国の関所を守る将軍位の武孫(ぶそん)が槍を片手に控えている。


「……武孫殿。簀巻きはいくらなんでも小麗ちゃんが可哀そうでは?」

「いえいえ! 昨夜から奇怪な行動が目立つのです。州牧である貴方に何かあったら一大事です」

「奇怪な行動? いつもそうじゃないか。いきなり変な声で笑ったり、変な歌を歌ったり踊ったり。見ていて飽きないよ」



 注がれた酒を煽りながら、思い出し笑いを浮かべる州牧。

 彼のその表情を見て、武孫は州牧の思っている事とは違う行動であると否定し、鉄よりも重いため息を吐きだした。

 それを受けた州牧は、おや、と怪訝な顔をして背後で立つ武孫を仰ぎ見た。武孫は州牧から気まずそうに視線を外すと、奇怪な行動を説明すべく口を開いた。


「……その。昨晩の夜中から、男とみると老若関係なく見境なく抱きつくようになったのです。胸元に顔をうずめて匂いを嗅ぎ、何かを探しているように呟きながら次々と……。私が気付いた時点では時すでに遅しで、我が家の護衛達が壊滅状態でした。隙をみて小麗の意識を落とし、簀巻きにした次第でございます」

「―――はぁぁっ?! 匂いを嗅いだだけで、護衛が壊滅? ……武孫殿、子細を省き過ぎで意味がわからないが?」

「失礼を。被害者に話を聞いたところ、幽鬼のようにフラリと現れ、匂いを確かめた後に『ちがう』と呟きながら攻撃を仕掛けていくのだそうです。小麗はこの理州の中でも群を抜く武を持つ娘です。それが仇となり、我が家の護衛は……。玄関を抜ける前に、私が娘の意識を落とさなければ被害は広まっていたと思われます。ですから、小麗はこのままの状態で」

「う~ん。暫くの間、都に行っていたそうだし……妙な薬でも使われたのでは? そういった症状ではないのかい?」




 武孫は簀巻き状態で脱力する小麗を見ながら、首を横に振った。

 小麗が理州に帰ってから十日ほどが経っているのだ、妙な薬の禁断症状が出るのならとっくに出ている。その事を説明し、それでは何故こんな症状が出たのかと州牧と共に頭を捻っていた。

 小麗と州牧の婚姻を祝う酒宴の上座で、何とも言えない雰囲気が漂い始めたその時、木で出来た回廊が騒がしくなった。とても急いでいるのか、乱雑に複数の足音が響いている。

 誰かが制止を振り切り、こちらに向かっているようだ。


「……?」


 州牧と武孫は互いに顔を見合わせ、回廊と繋がる扉に目をやった。

 ―――その時、

「小麗は居るか!」

 襤褸(ぼろ)をまとった男が、三名の兵を連れ部屋へと押し入った。

 一瞬にして、それまで騒がしかった酒宴に沈黙が下り、襤褸の男へと視線が集まる。

 男は部屋を見回すと上座に目を留めた。

 簀巻きにされている小麗を見つけたのだ。



「小麗! ……なんて事を!」



 男は酒宴を蹴散らすように走り寄ると、小麗の簀巻きに手をかけた。

 いきなりの珍妙な来客に唖然としていた州牧と武孫だが、襤褸の男が近づくと我に返り、男を突き飛ばし彼へと一瞥をおくった。

 襤褸の男を守らんと剣を構えた護衛達に向かい武孫は槍を構え、それ以上は近づくなと男の護衛を威嚇した。しかし、護衛達の構える剣の柄紐が禁色の色である、紫と金の混ぜ紐を使っている事に気付き、目の前の襤褸をまとった男が帝の公子である事に驚き、槍が手から滑り落ちた。

 


「こっ、こっ、公子様! そうとは知らずご無礼をっ!!」



 鶏のようにどもりながら、平伏しようとする武孫は、目の前の男の腰についている玉印に目を留め固まる事となった。

 玉印を留める紐は、紫と金の禁色。帝の末子のみが許されている色だ。玉印が表わしている官位は―――、

「宰相……殿下」

「武孫殿だったか。……それに、理州州牧殿。どういった経緯で簀巻きにしてるのか知らんが、今すぐに解け。俺は小麗に用がある」



 目の前に宰相殿下が居る事に驚きながらも、震える手で簀巻きにを留めてある紐をほどいた。それを見届けた宰相殿下は小麗を抱き上げると、意識を失っている彼女を起こすべく思いっきり頬を叩いた。

 背後で「小麗が起きる」と悲鳴が上がり、小麗の奇妙な行動を知る男たちが部屋を走り去るのも気にせず、宰相殿下は彼女が目を覚ますまで、名を呼びながら頬を何度も叩いた。



「……んんん……?」



 頬が痛むのか、赤くなった頬に手を当てながら、うっすらと目を開けた小麗に、父である武孫が危機感を感じて宰相殿下を守ろうとしたが、抱きかかえられている小麗の反応の方が早かった。

 うつろとしながらも、間髪いれずに宰相殿下の首に腕を回し、胸元に顔をうずめたのだ。宰相殿下は小麗の背に腕を回し、彼女の行動を愛しむように笑みを浮かべた。

 武孫は青ざめながら、小麗が暴走しないように神に祈りを捧げ、近くでそれを見た州牧は驚きに目を見開いた。

 


「ああ、この匂い。随分と薄まって汗臭いけれど、ずっと探してた匂い。大好きだった人の……」

「―――だった? やはり過去形なのか。だが、現在進行形に戻してもらう。……小麗、俺はお前に刑を与える為に迎えに来た」

「刑っ?! 宰相殿下っ!! 小麗は、我が娘はどのような罪を負ったのでしょうか!? ……宮中で娘が殿下にした愚かな行為、殿下が御自らおいでになるほどの重罪なのでしょうか」

「―――ああ、大罪だ。この俺を狂わす程の……」



 その言葉を聞いて驚いた武孫は、床に額を擦りつけながら娘を掻き抱く宰相殿下に温情を願い出た。

 武孫の心境は複雑だ。

 宰相殿下は小麗を愛おしそうに抱きしめているというのに、刑を与える為に迎えに来たと言う。しかも、宰相殿下を狂わす程の大罪だと言う。何をしたのか皆目見当が付かない……。

 痛み始めた胃の部分を撫でながら、未だに宰相殿下の胸元に顔を擦りつけ続ける娘を見た。その光景に、お家断絶、一家曝し首、といった言葉を脳裏によぎらせたその時、

「小麗、理州州牧との結婚など許さん。お前はあの夜に俺を押し倒し、あまつさえその桃色の唇で俺を蹂躙した」

 宰相殿下の言葉に、あまりの衝撃を受けて武孫は気を失いそうになった。

 真っ白になった頭の中に、一家曝し首どころではなく、一族晒し首、その映像が浮かんだ。

 公子を押し倒した揚句に、蹂躙したという彼の言葉は、武孫の手に槍を握らせた。

 自らの罪を言われているのに、匂いを嗅ぎ続け聞いてすらいない娘と共に心中し、一族晒し首は免れようと思ったのだ。

 しかし、武孫の不穏な動きを感じた宰相殿下の護衛は、武孫から槍を取り上げると動けないように取り押さえた。

 圧迫されながら武孫が耳にした言葉は、まったくもって思ってもいなかった言葉だった。

 

「おそらくあの夜がきっかけで、俺はお前に心を盗まれた。心の天秤が、(まつりごと)よりも匂いフェチのお前に傾いたらしい。お前が他の男の嫁になるなど許さん。すべてぶち壊してくれる。……だから、俺と共に都へ帰れ」


 その言葉を受け、胸元に顔をうずめていた小麗がボソリと口を開いた。

 十分に宰相殿下の香りを堪能した為か、先ほどまで目一杯叩かれていた為か、頬は赤く染まり、見上げる黒い瞳は潤んでいる。


「……嫌です。宰相殿下とは、お別れしましたから。定期的に殿下の匂いを送ってくれれば、禁断症状もでないと思いますし。その襤褸い服を置いてお帰りください」

 小麗の顔に浮かぶ表情とは反対の胸元から囁かれた返事に、宰相殿下のこめかみに青筋が浮かび上がった。

「……俺の事を毎日追いかけまわして匂いを嗅ぎ逃げしただけではなく、毎日、刷り込み教育の如く愛を叫び続け俺を洗脳した挙句、口でのやり逃げとは許し難い所業。責任をとって一緒に都へ帰れ」

「一途なんです。い、ち、ず!! でも、一年経っても私の事を知ろうともしなかった人が、いきなり迎えに来て一緒に都へ帰れって横暴ですよ。……でも、どうしてもって言うなら付いていってあげます」

「どうして上から目線なんだお前はっ!」


 宰相殿下は腕の中ですり寄る丸く柔らかな片頬をつねって伸ばす。

 痛そうだが、彼女はとても幸せそうな顔を浮かべている。宰相殿下はそれを見て、自然と目尻を下げた。


「私から離れたのに、宰相殿下が襤褸になってまで勝手に迎えに来たんじゃないですか。偉いのは私。だから上から目線なんです。 ……どうしても一緒に都へ行って欲しいのなら、毎日腕枕をして、毎日抱き枕になって、毎日匂いを嗅がせて欲しいです! 使った手巾や腰帯や乙女の夢である赤い下着も欲しいです!!」

「……お前、何気に最後に変な事を言わなかったか? まあいい、俺が叶えれる事なら叶えてやろう。だから俺と共に来い。―――いや、お前は俺の心を盗んだ大罪人だったな、問答無用でお前を連れていく」



 宰相殿下は小麗の顎を掴むと、返事をする前に性急に唇を重ねた。

 何かの誓いの様に、それでいて、この間の夜の仕返しの様に。

 この広間で彼女の父や家族州牧や地方官が見守る中、お互いが満足するまで何度も唇を重ねあった。



 ―――その後、

 前帝の姉である紫瑶の孫。そして、理州関所を守る将軍武孫の娘でもある小麗は、宰相殿下の元へと嫁ぎ毎日、飽くことなく伽羅の香りを嗅ぎ続けたとかいないとか。


 

 

 

ちょっとした小話(?)



「宰相殿下、気になっていたのですが、なんでそんなに服が襤褸になっているんですか?」

「俺は文官だ。早馬なんぞに乗ったことなど無かった。何度も樹の枝に引っ掛かり、川の水に流されて、七日も山を彷徨っていたら気付いたらあのような状態になっていたのだ」

「…………都から理州までは、三、四日日もあれば十分ですよ」

「―――う、うううるさいっ! 方向音痴で悪いか!」

「ぷぷっ!」


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