ある少女の嘆き3
【舞台】
地上200メートル、スイートルーム。
壁一面のガラス越しに、
暴力的なまでに眩い東京の夜景が広がる。
部屋には特注のソファ。
女はボルドーの最高級シルクドレスを纏い、
窓に額を押し当てている。
背後では、男がヴィンテージワインを傾け、
上機嫌で独り言のような成功談を語っている。
【本編】
男:(グラスをかざし、夜景を指差して)
「見てごらん。この光の粒、
一つ一つが僕たちの成功を祝ってるみたいじゃないか。
この58階の景色はね、選ばれた人間にしか許されない特等席なんだ。
……どうだい?
泥の中にいた君を、
ここまで連れてきてあげられた。
僕の選択は、やっぱり正しかったよ」
私:(窓ガラスに映る自分を見つめたまま、微動だにせず)
「……58階。ここから見下ろすと、
人間なんて一匹残らずバグにしか見えないわね」
男:(女の背後に立ち、ドレスの開いた背中に、執着に満ちた手を滑らせる)
「はは、バグか。面白い表現だ。でも君は違う。
君はこの完璧な景色に相応しい、最高の『背景』だよ。
このドレスも、ワインも、ソファも……
君を輝かせるために僕が用意したんだ。……
ねえ、僕を満足させてくれるだろう?」
私:(男の指先の温度を感じることなく、窓ガラスの向こう側を射抜くように)
「……ええ。本当に素敵。〇〇さんのおかげで、
私、自分が誰か分からなくなりそう」
男:(悦に入り、女の耳元で熱っぽく囁く)
「君には僕が必要なんだ。君を救えるのは、
この景色を見せてあげられるのは、世界で僕だけだ。
……愛してるよ」
私:(ゆっくりと男を振り返り、
絶望を完璧な笑顔で塗り潰して)
「……私たちの関係、『ピント』が合ってないの。
……ねえ、あんたが見ているのは私じゃない。その窓ガラスに映った、
自分自身の『成功』っていう幻影だけでしょ?」
男:(一瞬、言葉を失い、女の瞳を覗き込もうとする)
私:(その視線を冷たくあしらい、ソファの奥へ身を沈める)
「……いいわよ、もっと奥まで連れていって。
あんたの見栄と一緒に、まとめて泥の中に溶けて消えたいの」
(男が女をソファに押し倒す。窓の外では、
見栄という名の不法投棄の山が、ただ虚しく輝き続けている。)




