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20 オエステ領

「おや、ルシオ魔導師。亡霊はもう浄化しましたが、また何か?」

「新しい魔水晶を持って参りました。異空間収納庫を作れる知識が入っていますよ」

「おおー! なんと、私も早速、異空間収納を作れるようになれるのですね!」


ロス魔導師は意気込んでいる。ここで利用出来るのはロス魔導師だけだ。

ロス魔導師からノルテ領主の話を聞くことが出来た。

ルシオが教えた場所で魔鉄鉱が取れたと言うことだった。

魔鉄鉱を精錬して出来上がった魔鉄は、高額で売れて少し領の財政が持ち直したという。


ルシオはこの領に二,三日滞在してやることがある。

この後は魔鉄鉱はもう取れないだろう。

だから、また採れるように、浄化した魔水晶を地下の浅い場所に埋めてくるつもりなのだ。

そうすればまた魔鉄鉱が再び採れるようになる。


人か魔物か分からなかったが、それが閉じ込められていた魔水晶だ。

だが、もう穢れはなくなったはずだ。

五メートルもある魔水晶は砕けてしまったが、魔素は沢山含んでいる。


ロス魔導師にブルホの魔水晶の森のことを話して聞かせた。

ルシオが持っている魔水晶のことを、”ぼかし”て伝える。

「なんと! 穢れがなくなったのですか。然も魔水晶が再び手に入るようになったとは、凄い変わり様だ」


「穢れが無くなった物なら構わないでしょう。砕けてしまった魔水晶を再利用して頂けるのでしたら、有り難い。ここの領主の助けになるでしょう。彼は良い領主です。助けになりたい」とロス魔導師は賛同してくれた。


鉱山で、ルーカスとレオも一緒に魔水晶を埋めた。

土魔法で地中に埋め込んだのだ。少しだけ促進の魔法を掛けておく。

これで来年にはまた魔鉄鉱が取れるだろう。

ノルテの神殿にも、転移陣を敷くことが出来た。

ここでやることは総て終わった。


「今頃は祭事も終わってるだろうな」

「十年に一度しかない祭事を見られなくて残念だ」

ルーカスは、あの祭事がとても好きなのだそうだ。

明日からはまた旅が始まる。西の領地オエステ領だ。



「ルシオは凄いな。促進までできるとは。錬金術師でも出来る物は少ないぞ」

「出来る錬金魔導師だって? いないぞそんな者は。ルシオの同調が優れているのか?」

「……どうかな。「神」のお導き……?」

「何で疑問形なんだ! 神からの導きがあるなら出来るのだろうな。ルシオは大したもんだ」

「ところで、吸収バックルの検証、出来た?」

「ああ、出来た。一週間が限度かな。勿体ないな一週間で使えなくなって仕舞うとは」

「あ、それは魔水晶を変えれば使えるはず。ほら、こんな、くずの魔水晶で良いんだ。ベクトルを刻んで取り付ければ良いだけだ。自分で出来る」

「そうか! これなら出来そうだ。これ、貰っても良いか?」

「勿論だ、レオ達に使って貰うために作ったんだもの。もう少し検証して使いやすく改良したら、新人魔導師達にも作ってやりたい」

「パブロ魔導師に早速報告だな、ルシオ。錬金魔導師達に作って貰える」

次の領地に転移陣を敷いたら、それで一旦ブルホに帰ることにした。その方が王都にもすぐに行くことが出来る。


二週間後、オエステ領に着いた。

ここはブルホ市国から一番離れている。

ここにも神官魔導師はいるが八十二歳と高齢の神官だと言うことだ。


パブロ魔導師が、以前ここの領主に呼ばれて数ヶ月留守にしたことがあった。高齢の神官では対処出来ない問題があったのだろう。

ブルホ市国のホルヘ神殿長も百歳を超える高齢だ。彼の寿命は残り少ない。


神殿長が亡くなれば、ここの神官が新たな神殿長になる予定だ。

神官魔導師の場合、特に問題が無ければ年功序列制なのだそうだ。


ここへ代わりの神官が来るとすれば、大神殿にいる六十七歳の神官魔導師だそうだが、ルシオは会ったことがあっただろうか?


――若しかしてブルホ市国で始めに魔力を見て貰った人かな?


八人いると言うが、会ったことがない神官魔導師も数人いる。

魔導師達が大勢集まるのは十年に一度の祭事。

それ以外はルシオは見たことが無い。

錬金魔導師は屋敷に籠もっているようだし、戦闘魔導師は訓練したり迷宮に潜ったりしている。

神官魔導師はそれぞれの仕事で手一杯のようだ。


オエステ領都の中心に神殿はあった。

ここも大きな作りだったが、綺麗に改装されている。

驚いたことに、街民が祭壇に祈りを捧げにぽつりぽつりといる。


「ここでは町の人も来ているようですね。王都とはずいぶんな違いだ」

「ここは昔から、信心深い人が多いのだ。魔力鑑定をして貰いに積極的に神殿に来る。魔導師になる人数もここの出身者が多いのだよ」


ここの神殿を任されている、神官魔導師フアンが、しゃがれた声でそう教えてくれた。

フアンともう一人九十歳の神官魔導師がいるというので、ルシオは二度驚いた。

ここに二人も神官がいるとは、余程大切な場所として認識されているようだ。


「ローサン魔導師はご病気だ。もう長くはないだろう」


フアン神官は悲しそうにそう言った。

ローサン魔導師はこの領地に五十年いるそうだ。その頃は神官魔導師が今よりは多くいたそうで、各地に一人か二人は配属されていたようだ。

だが皆高齢で次々に寿命が尽き、今に至っているという。


「ブルホ市国の神官は如何しても穢れに近づく事が多かった。小舟に乗り知識の魔水晶に祈り、知識を刻む。その際間違って水に落ちる者もいたのだ」


高齢だと、中には溺れた者もいたようだ。

数少ない神官が益々少なくなったのだ。


「穢れは取り除かれました。もうブルホの魔水晶は穢れていません」

「な……穢れが取り除けられた……と?」

「はい、僕がここへ来たのは、新しい魔水晶を届けに来たのです。そして転移陣を敷くためです。祭壇の後ろに小部屋があるはずです。そこに転移陣を敷かせてください」

「そう言うことなら是非……ずいぶんな変わり様だの」


託された仕事が終わり、神官から領主を交えた会食を一緒にと誘われた。

ルーカスとレオが真新しい、赤い縁取りのあるローブに着替えているのを見て、ルシオが

「僕、正式な場所に出るような着替えを持っていない」

「何だって、見習いになればすぐに用意する物だぞ。錬金魔導師の正式な服、まだ作っていなかったのか?」


ルーカス達は、戦闘魔導師の式典用の服を着ている。

まさか魔導師の服装に決まりがあるなんて知らなかった。

見習いの内は師匠が用意してくれるそうだ。


マテオ魔導師が用意してくれているかも知れないが、王都には一ヶ月しかいなかったのだ。確認できる時間は無かった。

マテオ魔導師は孤児達を育てるのに汲々としていたのだから、王都では貴族との会食など有るはずもない。必要無くて忘れている可能性もある。


「僕はまだ見習いだ。今回は出席しなくても大丈夫じゃないかな」

「着る物が無いのなら仕方が無いな。じゃぁお前の分まで食ってくるか」

「美味しい物……少しだけ食べたかったな」


近くでその話を聞いていた近侍の下位神官が何処かへ走って行った。

そして暫くして戻った時には、神官服を手に持っている。


「ルシオ魔導師。フアン神官様からこちらをお召しになるようにと預かって参りました」


彼が持っていたのは神官服だった。

然もまだ袖を通していない、真新しい金色の縁取りと豪華な刺繍がビッシリ施された神官服と白いローブだ。


「こんなに上等なローブ……然も神官服だ。僕は錬金魔導師なので着ることが出来ません」

錬金魔導師のローブは灰色と決まっている。

「いえ、フアン神官様は、是非にと仰いました。どうかお召しになってください」

「……」

「ルシオ、貸して貰え。領主には事情が話してあるのだろう。服くらいなんてこと無いさ」


オエステ領主は、でっぷりと太った小男だったが、温和な人柄だった。

ルシオは事情を正直に話し謝罪した。


「何、大した事ではなかろう。魔導師様にとっては遺憾なことだろうが、我々は物知らずだ。気づきもせん。わはは」


ルシオはホッとして、美味しい食事を心ゆくまで堪能できた。

だが、そこで語られた話は、少々不穏な物だった。


「王は、派兵すると言っている。我が領からも兵を出せと言ってきたのだ。どうした物か今悩んでおる」

「困りましたな。和平と言うことにはならなかったのですか」

「ああ、王の命が風前の灯火だ。和平をしたところで王族は良くて取り潰し、悪くすれば粛正となるのだ」

「だが、国の財政が落ち込んでいる今戦争となれば、国自体の存続が危ぶまれませんかな」

「そうなのだ。だから困っておる。王に背いて反意を示すことは……したくはないが、国民のことを思えば……な」


ルシオ達は聞こえなかったことにして食事会を終えた。

ルシオが貸して貰った神官服は、もう一人の神官、ローサン魔導師の物だった。

フアンが、その神官服をルシオにもらって欲しいと言ってきた。

「これを記念に差し上げます。ローサンが是非、ルシオ魔導師に差し上げて欲しいと言っております。背格好が、若き頃のローサンと同じだと申しておりました。どうか受取ってやってください」

フアン魔導師は目に薄らと涙を浮かべてそう言った。


「……では有り難く頂戴いたします」


次の日、ルシオ達は初めて転移陣を起動して転移をすることになった。

馬をどうするか悩んだ。馬と一緒に三度に分けて転移した。

魔力はルーカスが、吸収バックルを着けてギリギリ間に合ったようだが、レオには無理だった。そのため、ルシオが転位陣を動かすこととなった。


無事にブルホに帰ってこれた。


パブロ魔導師に新しい魔道具の話をし、呆れられた。

「こんなにすぐにまた新たな魔道具を作ったのか」

「え、と。レオ達が困っていましたので……」

「確かに、魔力の問題には悩むところがあったが、そうか、それも解決してくれたのだな。ありがとうと言うべきだった」

「いえ、大した物では無いんです。土魔法さえ出来れば錬金術師でも十分作れる簡単な物です」

「そうか? まあ良い。ああ、迷宮は総て消滅したぞ。三つの塔、総てに農場になる空間が出来ていた。神殿の塔と会わせれば耕作地は四つと言うことだな。だが後の一つが少し変なのだ。見て見たくはないか?」

「はい、見せていただけるのなら!」


そこは山があった。もうもうと煙が上がり今にも噴火しそうだが、調べたところ大丈夫と言うことだった。

「何故この様な物を作ったのか不思議でな」

「そうですね、僕にも分かりかねます。もしかしたら鉱物が取れるのかも」

「ああ、取れるぞ。だが鉱物などロマゴでは腐るほど採れるのだ」

ロマゴ国は確かに山が多い。鉱物は採れる土地柄だ。


「グランデ大陸には少ないか、もしくは離れすぎて取りに行けないとか……ですかね」


大きな大陸だというなら、この国の常識と外れているに違いない。

その塔の空間は、農地には向かない空間だった。

だけど、大きな山からは豊かな川が流れて正に山紫水明だ。今までの無味乾燥な草原とは全く違い風光明媚。

空は高く、水は清く、山からは爽やかな風が吹き付けている。何という気持ちよさだ。景色を見るだけでも価値がある場所だった。

こんな空間がルシオにも作れたら、最高ではないか。


ルシオはふと、ここにさらに温泉があったら最高だなと思った。

「パブロ魔導師、山裾を少し掘ってみませんか?」

「鉱物か? 銀と金が少しだけ採れるぞ」

「いえ、温泉が湧くかも知れませんよ」

「あ、そうか、温泉……あるな、掘ってみるか」


迷宮の核となった魔導師達は皆生きて戻されていた。

だが、総て魔物のような見た目に変えられてしまっていた。


彼等の中に年老いた魔導師がいてその事情を知っている者がいた。


「かの大陸では、魔素の濃い場所にいる動物や人は長い時間を掛けて、皆この様に変質してしまうそうです。変質した物は強力な個体になって仕舞うのだそうです。魔素に特別な毒が含まれているためです。その濃縮した毒を使って身体に死ねない呪文を描かれました。そのせいで私はこの様になってしまった。私は魔法にあらがい、意識を保つことが出来たのです、身体が動けなくなっても、総ての行程を見ることが出来ました」


彼がいたのは火の迷宮だそうだ。

彼は核になっている間、恨みを抱き、魔力を持つ物を根絶やしにしようと言う感情に支配されていたと正直に語った。

以前ルーカスが感じたことは本当の事だったのだ。


異空間の農場は、大きな魔水晶が使われ、複雑な文様が書き込まれて作り出されたと、彼は語った。


「かの大陸の魔導師は、魔水晶があれば何でも作れると、喜んでおりました。グランデ大陸には大きな魔水晶は見付からないと言っておりました」


大神殿の地下にいた穢れの元も、魔導師だった。

その当時、一番期待されていた力ある、”ガガロ”という名の神官魔導師だったそうだ。

魔物にされた魔導師総てが、迷宮を作る主要な部分の手伝いをしていたという。

迷宮だとは知らされずに、ブルホの為に耕作地を作っていると聞かされていたそうだ。

最後に彼等の口封じも兼ねて迷宮の核にされてしまったのだ。


彼等は皆大神殿の預かりになった。

魔力は無くなったが、彼等には迷宮を作った実績があり、知識もある。

彼等は魔導師達に新たな知識を教えてくれるかもしれないのだ。

もしかしたら、瘴気が無く危険の少ない迷宮が出来るかもしれない。


――それは期待しすぎかな?


彼等の不遇な長の年月は取り戻せないが、これからは穏やかに生きて行って欲しい。


「ルシオ、そう言えば預かっている穢れの元はどうなった? 今なら私が汚れを祓うことが出来る。出しなさい」


ルシオは慌てた。まさかもう穢れを祓って仕舞ったとも言えない。

然も魔水晶まで使って仕舞った後なのだ。だらだらと汗が噴き出してくる。


「まさか、何かに使ったのか? 穢れた魔水晶など何に使った!」

「……穢れは祓いました……」

「……ん?……今何と言った?」

「穢れは祓いました。神が祓えと言ったので」

「……神が祓えと言った……? ルシオ、私に隠し事が有るのではないのか?」


 ――どうすれば良い? ご先祖様!

【仕方が無い。手を見せてやりなさい。今後のことは儂に任せよ】


ルシオは両手のグローブを外し、パブロ魔導師に見せた。

パブロ魔導師は眉間にしわを寄せて、ルシオの手をじっと見ている。


「両手? 神官の印……と言うことか」

「僕にはよく分からないのです。こんな印は普通ではないですよね」

「手に印があるのは始めて見る。ただ、このペケーニョに渡った始祖の記述には、手にも印があったとある」

「始祖、ですか?」

「ああ、隠された歴史なので、神官以外には同調できないが、始祖は顔や手に印があったと書かれている。何故私に言わなかった?」

「目にもあって、手にもあるのです。迷いました。でも本当の事を言うと、錬金術をしたかったと言うのが正直な気持ちです」

「……そうか。だが、お前は神官でもあるのだ。それは分かっているな!」

「……はい。神官の仕事から逃げることはしません。ですが神から、世界へ出ていきなさいと言われたのです。僕はどうすれば良かったのですか?」

「いや――興奮してしまった。私の言い分は間違っていた。勿論神の言う通りにするべきだ。余りにも神官が少なすぎたのだ……私の我が儘だった」


【パブロよ】

「!!!はっ?」


【パブロよ、其方の杞憂は直ぐに晴れる。心配せずとも良い】

「い、今のが、神の声!」


パブロ魔導師は、跪き、涙を流して一心に祈り始めた。

――ご先祖様。パブロ魔導師にも声が聞こえるようにしたんですか?

【今だけじゃ。あまりにも可愛そうでな。おまけじゃ】


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