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19 迷宮の排除

カタイは魔力が無くなったこともあり、今後の身の振り方を考えなければならない。


「カタイ、君はこれからどうしたい?」

「私には知識はある。教師は出来る……だがこの見た目では……」


皆で話し合って、暫くは下位神官としてパブロ魔導師の近侍をして貰うことにした。また新しい弟子が来る。その教育の助けになるのだろう。

フードを深く被れば何とかなるはずだ。


ルシオがミゲル魔導師に、迷宮の排除に次回も同行したいと告げると、


「いや、ルシオは連れて行けない。私達だけでやる。お前が解析した転移陣がある。安全地帯から転移すれば、核が現れていることが分かったのだ」

「でも、核は生きた人間です。殺してしまうのですか?」

「場合によってはそうなるだろう。迷宮を排除することが肝心なのだ。そんな顔するなルシオ、出来るだけ助ける方向でやるから」


魔導師達は、カタイから話を聞き呪いの除去の方法を思い付いたそうだ。

そういうことならこれ以上粘っても仕方がない。

戦闘魔導師達が十人体制で臨むというのだから。


そして、ルシオには新たな仕事が与えられた。

各地の神殿を回り、転移陣を敷く仕事だった。


「ルーカスとレオも付ける。二人はお前の護衛だ」

次々と新しい発見をするルシオを、危険から遠ざける狙いもあるようだ。


ブルホを出発する朝、パブロ魔導師に、

「また何か発見があったら、すぐに転移してきなさい。手紙などまどろっこしい方法はとらないで、ここに直接来なさい。私の居住区に転移陣を敷いた。いつでも構わないから。分かったな、これが転移陣の鍵だ」

「……はい」


パブロ魔導師は、大神殿の塔にあった転移陣を解析した。それは相互に稼働する転移陣だと判明したそうだ。

大陸からも入って来られることを知り、鍵を作ったのだという。

余計な者が転移出来ないように独自に鍵を作り出したようだ。魔水晶が先端に付いた、十センチメートルくらいの小さな金属の棒だった。


「この材質は……ミスリル銀! こんな珍しい金属、何処にあるんですか!」

「銀を錬金すれば出来上がるのだ。ルシオ、鑑定だけではないのだぞ、知識の魔水晶は。神に同調すれば、師がいなくとも錬金は出来る。目の魔法陣は伊達ではない。魔水晶に今までの知識が蓄積されているのだから。お前が編みだした異空間収納も知識として入れておいた。それも神官の役目の一つなのだ。その事をマテオはまだ教えていないのか?」


マテオ魔導師からはまだ教わっていない。

ルシオがすぐにあちこち飛び回っていたせいだ。マテオの所には一ヶ月しかいなかったのだから。

これからは、是非知識の魔水晶の「神」とやらに同調して見よう。


転移という、とてつもなく便利な物が手に入ったのだ。

転移陣を設置し終われば、これから魔導師達は国中を転移で駆け回るようになるのだろう。

他国との交渉の行方はどうなったのか。

詳しい話はルシオには知らされていない。


――僕が考えることではないな。僕の仕事は、サッサと転移陣を設置して、安価な魔法鞄を作るだけだ。


もうすぐ、十年に一度の祭事がまた始まる。魔導師達は忙しくて手が回らないようだ。


ウゴの所へ寄って馬を連れてくる。

馬はやっと迎えに来てくれたと喜んでいるようだった。


「オレ達も、外街へ寄って馬を借りるか」


レオとルーカスも馬に乗り、まずは東を目指す事になった。

ブルホ市国は、ロマゴ国の大体中心に位置する。ここから東へ行き、反時計回りで各領の神殿を廻ることにした。最後に王都に行くという。


「パブロ魔導師から新しい魔水晶を預かってきた。各神殿に設置するためにな」


新しい知識が詰った魔水晶だそうだ。

魔水晶の森が復活して、各地の古くなった魔水晶と交換するようだ。

パブロ魔導師はこの知識を大きな魔水晶から移すのに、さぞ大変だっただろう。

知識は魔導師しかアクセスできないから、よそ者に悪用される心配も無い。


「神官の知識も入っているの?」

「勿論そうだが、神官の印がないと同調できない。俺達は戦闘魔導師だから、錬金の知識にも同調できないんだ。残念だが、神がお決めになられたことだ」


――そういう仕組みか。では僕は神官の知識にアクセス……同調できる!


総ての知識に同調できる神官は、やはり魔導師のトップということになるのだろう。

東へ東へと進む。

ロマゴ国は小さな国だ。徒歩でも20日もすれば着いてしまいう距離だ。

馬なら半分の時間で着くことだろう。

近くには村など無かったため野営になる。異空間収納が出来たため荷物は殆ど無い。食糧もタップリ異空間収納に入っている。


「ルシオのお陰だな。楽になった」

「野営だって、以前は地べたに寝そべるだけだったが、今はテントでゆっくり出来る」


馬たちの世話をしながらルーカスがゆったりした口調で言う。

野盗が出る場所もあるが、野盗など魔導師達にとっては赤子同然だ。

たき火を囲み、それぞれの思いを語る一時。

彼らの話は、師匠などいないため忌憚のないものだった。


「俺は迷宮がなくなるのは、実は嫌なんだ」

「え、どうして? 危険な物でしょう迷宮は」

「確かに危険だ。何時も魔物を間引いていなければ、何時また溢れてしまうかも知れない。だけど、迷宮のお陰で、戦闘魔導師達はレベルを上げることが出来るんだ。あれがなくなれば、鍛えることは難しくなる」

「そうだよな、俺もレオと同じ思いだ。あそこでどれだけ魔力が上がったか……これから育つ魔導師のレベルは格段に下がるだろう」


魔力のあげ方は、魔力操作だけになってしまうと、二人は嘆いた。

ルシオは、その話を、真剣な思いで聞いた。


――迷宮に変わるものを考えなくてはいけなくなった。魔力を上げる方法……か。


ルシオの場合、幾らでも魔力が入ってくるため必要性を感じなかった。

だが、穴を塞いだあの時だけは、とても窮屈な感じを持ったのだ。


――魔力を囲っている膜に穴を開ければ良いだけでは?


しかし、ルシオの場合は、魔素を取り込んだ後、魔素を変還し浄化しているようなのだ。魔素をそのまま使う事は出来ない。

自分の魔力なのに、詳しくは分かっていないことに気が付いた。


――僕はどうやって吸収した魔素を変換浄化しているんだろう。


その時、カタイのことを思い出した。カタイは魔力を変換していた。

魔水晶が突き刺さった場所で。タダ、穢れもそのまま取り込んで瘴気を発散していたのだった。


「……魔力は上げることは出来ると思う。だけど危険な方法だ。魔道具にしてみればどうだろう……」


独り言が漏れていた。ルーカスとレオがその言葉を聞き色めきだった。

「どうやれば良い? 危険でも良い、実験台になるから!」


ルシオは、自分を解析してみた。

魔力が集まる場所に堅い膜がある。その膜で魔素の雑味を濾していた。

濾されて残った雑味は堅い膜によって燃焼浄化されている。

この燃焼浄化に多くのエネルギーが使われている。

このせいでルシオの身体の成長が阻害されていたようだ。


「うん、簡単に魔道具が作れそうだ!」

「「……ッ! 何だと」」


異空間収納から、二センチメートルほどの小さな、くず魔水晶を取り出し、外から内側へのベクトルを刻む。漏斗型の魔水晶をそのまま使えるので楽だ。


土魔法で、五センチメートルの土台を作り、魔法陣を書き込み、さらに魔力漉し器を表に付け加える。中心に魔水晶を差し込んで出来上がりだ。


「出来ました。これをおへその下に付けて魔法を使ってみてください」

レオは、恐る恐る、言われたとおりへその下にそれを手で押さえ、魔力を放出した。

初めは半信半疑だったレオは時間が経つほどに目を大きく見開いた。

「こ、これは……ッ。幾ら魔法を放っても魔力が尽きないぞ!」

「こんな物で、レオの魔力が急成長したのか?」

「違います。魔力はそのままです。魔素を取り込めるようにしただけです。実は僕の魔力は小さいのです。僕の場合は特殊で、外から魔素を取り込めるので、それを参考にして作ってみました。どうでしょう、これがあれば、魔力の大きさなど意味が無くなりませんか?」

「………………」


ルーカスも是非欲しいというので作ってやった。

ベルトのバックル型に加工し直し、ベルトに装着するようにしたのだ。

「ただ、毎日純水に晒して雑味を洗い流さなければならないので、手間が掛かりますが」

「そんな事、手間でも何でも無いさ。凄いことなんだぞ、これは。もっと早くこの魔道具があったら……」


ルーカスはきっと、神官になりたかったのではないだろうか。でも、彼の仕事は神から与えられた物だ。今更変える事は出来ない。


魔力吸収バックルの使用期間にも検証が必要だ。

彼等に実験台になって貰い。毎日どれくらいの魔力を使えばバックルの効果が切れるのかを検証しながら、ルシオ達は旅を続けた。


彼等が魔法を使うのを見ていると、ルシオは微妙な気持ちになる。

大きなバックルを付けた彼等の姿は、前世の子ども番組で見た***ライダーのようなのだ。形まで似ている。

狙って作ったわけでは無かったが、期せずしてそうなってしまったのだ。


――自分しか分からない、笑いのツボだ。


十二日後、東の領地エステ領に着いた。

ロマゴ国には四の領地しかない。北はノルテ領。西はオエステ領。そして王領だ。以前はブルホ領もあったが、今はロマゴとは切り離されブルホ市国になっている。

王都から離れるほど、魔導師に対して忌避感が薄れていくようだった。

街の店舗を覗いても、街民達は至って親切に接してくれた。


小間物屋に入って、手袋を買い換えたルシオは、王都の無愛想な小間物屋を思い出していた。

皮革屋にも寄った。皮の加工には悪臭を放つため街外れにあった。

ここで大量の羊の革を買うことが出来た。


エステ領は羊毛の加工も盛んだ。羊毛の生地や毛糸が大量に売られていた。

羊飼いが多くいるこの領の特産らしい。値段も手頃だった。

神殿は街の中心から僅かに外れた場所にあった。

周りに疎らに木立が生えた広い敷地だった。


建物は、やはり古びている。ロマゴから切り離されてから殆ど手を入れていない。魔導師達は今、大変な収入があるのだ。ロマゴに頼らなくても、これから修復されるようになるだろう。


エステには神官が常駐していた。

神官一人戦闘魔導師二人に錬金魔導師一人。そして戦闘魔法兵が五人いた。下位神官もかなりいるそうだ。


「新しい属性をやっと学べる」

魔導師達はこぞって新しい魔水晶に祈りと魔力を捧げ始めた。

――魔導師達が祈りを捧げる理由がやっとわかった。

ルシオは今まで漠然と祈っていた自分の尻を蹴りたくなった。

「パブロ魔導師は何故もっと早く教えてくれなかったのだ!」

と思ったすぐ後に、魔導師にならなければ知識は得られないのだと、思い出した。


ここの神官に、転移陣を敷くことを告げ、祭壇の後ろの小部屋を、転移陣を敷く場所として開けて貰った。

この転移陣はまだ使えない。次に派遣されてくる神官が鍵を持ってくるはずだ。

エステの仕事が終わり、次はルシオも行ったことのあるノルテ領だ。




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