084 別離
ゴメナに着いた「大蛇」の面々と天馬は、ガルフに連れられて冒険者ギルドを訪れた。
ギルドの中は明るい雰囲気が充満し、帰還した冒険者たちが祝杯を上げていた。「大蛇」の面々もすぐに「黄色の熊」と「黒い蟷螂」に捕まって、料理が載っているテーブルに攫われていった。
そんな中、天馬はガルフと共に地下の修練場で持って帰った糧食の確認をしていた。
「テンマ、干し肉と水以外は悪いが上に運んでくれ。ギルドからの振る舞い酒、と言ってくれれば、勝手に飲むだろう」
ガルフに言われて、天馬は酒が入った樽を『亜空間収納』に「収納」し、ガルフと共に上に向かう。
「明日になれば、討伐証明の買取りと、今回の討伐数に応じた報奨金を渡せる。アルフ達と一緒にギルドに顔を出すのを忘れるなよ」
「俺は仕事がある」と告げ、ガルフは天馬と別れた。1人残された天馬は、ホールの適当な場所に酒が入った樽を「展開」して、ガルフからの言葉を声高らかに冒険者達に伝えた。
ガルフからの頼みを終えた天馬は、アルフ達「大蛇」の面々を探して周囲を見回すと、
「テンマ、こっちだ! こっち!」
アルフの声が聞こえた。声のする方を見ると、ダンドと一緒にアルフが杯を掲げていた。
天馬がアルフ達のテーブルに着くと、すでにエールが用意されていた。それをアルフが無理矢理に天馬の手に渡すと、その場にいた皆が天馬の言葉を待っている事が、天馬にも伝わった。
「無事の生還に、乾杯!」
天馬が音頭をとると、「生還に!」と皆が唱和して、杯を空けた。天馬も一気にエールを喉に流し込んだ。
杯を空けた天馬は、この宴会を心から楽しんだ。途中、ダンドやミィジャが天馬に魔法について尋ねてきたが、マリオが巧みに話をそらしてくれた。空腹が満たされ、疲れもあって眠気を覚えた天馬は、マリオに明日の予定を確認して宿に帰った。
翌朝、天馬は、「大蛇」の仲間たちと共に冒険者ギルドを訪れた。そこにはすでにガルフが待っていた。簡単な挨拶を済ませると、天馬はゴブリンの右耳が詰まった袋を3つ、カウンターの上に「展開」した。
「数えてはいないが、300以上はあると思う」
アルフが言うと、
「そうか、今回はお前らに助けられたと思っている。買取りは中銀貨4枚、色を付けてやる。他に報奨金があるぞ」
とガルフは答え、言葉を続けた。
「アルフとリーフは小銀貨5枚、マリオとテンマは中銀貨1枚だ。それとアルフを除いた3人はランクアップの資格を得たぞ。それと魔術ギルドからそれぞれ『指名依頼』が出ている」
そう言って、ガルフは天馬達の前に書面を配った。
天馬の前に配られた書面には、「装備持参の上、担当者の話し合うこと。期間は1週間。報酬は中銀貨1枚」と書かれてあった。書面から天馬が顔を上げると、
「テンマは是非にと、マリオには拒否権は無いとも言っていたぞ。アルフとリーフは、好きにしていいそうだ。『出来れば』って感じだったな」
ガルフの説明に顔を見合わせて、天馬は、マリオと共に依頼を受ける事にした。アルフとリーフは、保留と答えた。
「それでは、テンマは俺について来い。マリオとリーフは、アルフとランクアップの件でも相談しておいてくれ」
そう言い残して、ガルフがカウンターを離れて、マイルの部屋の方に向かう。天馬もガルフを追いかけていった。
天馬がホールに戻ると、マリオが待っていてくれた。天馬が『Eランク』になったことを伝えると、マリオは自分のことのように喜んでくれた。アルフとリーフの姿が見えないことをマリオに尋ねると、
「二人は用があると言って、ガルフの部屋に行きましたよ。我々も魔術ギルドに行きましょう」
天馬はアルフとリーフの用件が気にはなったが、マリオに誘われ冒険者ギルドを後にした。
魔術ギルドに着くと、すぐにエルンが天馬たちを出迎えてくれた。エルンは共に訪れたマリオに指示を出すと、天馬をいつもと違う部屋に案内をして、
「ここは私の研究室です。テンマ君、貴方は『鑑定』と『付与魔法』が使えますね」
と、いきなり核心を突くような質問を投げかけられ、天馬は言葉に詰まってしまう。その様子に、エルンは自身の結論に至った理由を説明してくれた。
説明を聞いた天馬は初めて『魔術インク』と『魔法文字』について知った。そして、この世界では『漢字』が『魔法文字』と呼ばれていることに驚いた。これ以上は誤魔化しきれないと思って、
「その通り、僕は『鑑定』と『付与魔法』を使えます」
と、天馬は認めた。その答えを聞いたエルンが満面の笑みを浮かべて、
「そうですか。やっぱり、そうだったんですね。聞きたい事、教えていただきたい事が山のようにあります」
そう言いて、頭を下げるエルンに、戸惑いながら「いいですよ」と答えて天馬だった。
しかし、それからが大変だった。エルンは棚から山のように「魔術書」を取り出して天馬の前に積み上げると、『魔法文字』の意味や天馬が『付与』した『魔法文字』の効果など矢継ぎ早に質問してきた。天馬もエルンの質問に答えながら、『漢字』の意味を教える苦労を痛感した。
連日、魔術ギルドに通い、エルンの質問に答えて宿に戻る。天馬は慣れない事をしているためか、宿に戻ると1人で夕食を済ませ、部屋に戻る生活を送っていた。その間、アルフを始めとした「大蛇」の顔を見ていない事を気にする余裕は、天馬にはなかった。
魔術ギルドからの指名依頼を終え、冒険者ギルドを訪れた天馬は、久しぶりに「大蛇」の面々と再会した。会えたことを嬉しく思い、
「アルフさん、それに皆さんもお久しぶりです」
そう言って、駆け寄った天馬に、
「おお、元気そうじゃねぇか? 完了報告か?」
「そうです。やっと魔術ギルドから解放されました」
アルフの問いに、天馬は笑顔で答えた。アルフはテーブルの上にあった杯を天馬に渡し、
「まあ、飲め」
と有無を言わさぬ雰囲気で言った。アルフの態度に戸惑いつつも、天馬は受けた取った杯を空にし、
「皆さんは今まで何をしてたんですか?」
と尋ねた。すると暗い空気が「大蛇」の面々に漂った。
「ああ、テンマ、誘っておいて何なんだが、『大蛇』は、・・・解散、ではないな。ここを離れることにしたんだ」
アルフの言葉に天馬は、「えっ?」といった表情を浮かべが、アルフは気にせずに言葉を続ける。
「俺とリーフの2人は、ダンド達と共に北の方へ向かう予定だ。マリオはここに残って、魔術ギルドで仕事をするそうだ。そういったわけで、惑わすようなことをいって、悪かったな」
天馬は他の「大蛇」の顔を見ると、リーフは頷いて天馬に答え、マリオは首を振りながら溜息を吐いていた。2人の様子から、アルフの決心は変わらないのだと思った天馬は、感謝の言葉と口にした。
「アルフさん、今まで、ありがとうございました。出立の予定は? いつ、街を出るんですか?」
出立の予定を尋ねられ、アルフはバツが悪そうに、
「明日だ。明日の朝、ゴメナを出て行く。見送りは無用だ。・・・・・・それとな、俺達の部屋、マリオと二人で使ってくれ。置き土産だと思ってくれればいい」
「置き土産ですか?」
「ああ、テンマには助けてもらってばかりだったからな。あの部屋は、俺の部屋なんだ。冒険者になりたての頃、宿代にも苦労していてな、見かねたオジキが用意してくれたんだ。好きに使ってくれたら有難い」
アルフの言葉を断ることも出来ずに、
「ありがたく、使わせてもらいます」
と天馬が答えると、アルフは嬉しそうに笑った。
それから天馬は、「大蛇」の皆と朝まで飲み明かし、別れを惜しみながら城門まで見送った。
馬車が見えなくなって天馬は大きく深呼吸をして、精一杯の声で叫んだ。
「ありがとうございました!」
と叫んだ。
この世界に来て、初めて出会ったのがアルフたちで本当に良かったと、天馬は心からそう思った。そして、それぞれの道を歩み始めたアルフとリーフの未来に、幸多きことを願わずにはいられなかった。
これで、第一章を締めたいと思います。今後は改稿を進めながら、第二章の構想を練っていきます。回収していない伏線だらけですから……(^▽^;)
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