083 強制依頼の終わり
大蛇とミィジャ、天馬は、騎士たちを率いて本陣があるガルフ達が守る出口の前まで辿り着いた。
「まだ埋めてなかったのかよ?」
出口の前に口を開けた落とし穴の前で、アルフが呆れたように口にした。
穴の上にはロープネットが張られ、冒険者なら問題なく渡れる状態にはなってはいた。「しかし、これでは」と後ろを振り返って率いてきた騎士たちを見た。
騎士たちに大きな身体的な傷はなかったが、心に負った傷が癒えていない者もいることにアルフは気づいていた。その数名にここを渡らせるのは酷だと感じ、マリオに視線を移した。
マリオは一歩前に出ると、
「『岩蓋』」
と静かに唱えた。すると、落とし穴の上に橋のように岩の塊が現れた。そこに軽々と飛び乗ったアルフが、
「テンマ、お前も上がれ。リーフとミィジャさんは、騎士たちに手を貸してやってくれ」
そう言って、マリオが作り出した橋を渡り、出口の向うに歩いて行く。
アルフ指示で橋代わりの岩に飛び乗った天馬は、マリオやリーフ、ミィジャと共に騎士たちに手を貸し、橋を渡る手助けをする。橋の向うでは、アルフが橋から下りる騎士たちに手を貸していた。
騎士たちを出口の向うに渡し終えた時、
「おお、無事に戻ったか?」
そんな声と共にガルフが歩いてきた。天馬達も橋を渡り終え、ガルフの前に並ぶ。
アルフが代表して、ガルフに何があったのかを報告し、最後に救えなかった者たちがいた事を悔しそうに話した。
「そうか、それは残念だったな。しかし、お前らが無事であったことと、騎士たちを助けたことは喜んでいいと思うぞ」
とアルフを気遣い、ガルフは言葉を続けた、
「アルフ、お前も疲れただろ? 取り敢えず、お前達は昼まで休め。『黄色の熊』の報告だと、中の瘴気は殆ど消えているそうだ。ゴブリン達の姿も殆ど見なかったと報告があった。一応、昼には教会から浄化師が来るが、この状況だと無駄足になるかもしれん。
不測の事態は起こったが、当初の予定通りに冒険者ギルドは中の掃討に移る」
そう言うと、ガルフはその場を離れて行った。ガルフと入れ替わるようにこちらに向かって来る冒険者達に道を譲った。
「私は、パーティーに戻るわ。貴方たちはどうするの?」
ミィジャが問いかけると、大蛇の面々と天馬が顔を見合わせて、
「すまん、俺達はガルフの言葉に従って、休ませてもらう事にするよ。色々と疲れたから」
とアルフは言い、陣幕が張られている方に歩き出した。直ぐにリーフが、そんなアルフを追いかけた。
「ミィジャさん、すいません。アルフの言葉の通り、私達は休ませていただきます。同行していただいて助かりました。ありがとうございました」
とマリオはミィジャに頭を下げた。天馬も慌ててミィジャに頭を下げる。
「気にしなくていいわよ。ダンドとマスターの指示に従っただけだから。じゃあ、またね」
ミィジャはそう言いと村の中へと戻っていた。
ミィジャを見送ったマリオは、陣幕の方へと歩いているアルフの後ろ姿を見て、
「アルフにも困ったものですね」
ため息交じりに零すと、
「テンマ君、私達も行きますよ」
と天馬を促して、陣幕の方へと歩き出した。
天馬が陣幕の中に入ると、すでに中にいたアルフが片膝を抱えたまま、入ってきた天馬を一瞥し、
「好きに休め」
と短く言った。そんなアルフの隣で、リーフは心配そうな顔を浮かべ、天馬とアルフの様子を窺っていた。
天馬も陣幕の隅に腰を下ろし、剣を抱えて目を閉じると、直ぐに睡魔に襲われ眠りに落ちた。
鼻に付く匂いに天馬が目を覚ますと、陣幕の向うで上がる黒煙が見えた。陣幕の中に大蛇の姿がないことに気づき、慌てて外へ出ると、
「おお、起きたかテンマ」
とガルフの声が聞こえ、その傍らで、ゴブリンの山となった死体が盛大に燃え上がっていた。
「大蛇の皆から聞いたが、大活躍だったそうじゃないか?」
そう声をかけられ、ガルフの方へと歩きながら、
「そんなことはないと思いますよ」
と照れ笑いを浮かべて答えると、ガルフは真剣な表情で、
「魔樹について、どう思った? 素直な感想を聞かせてくれ」
と尋ねてきた。天馬はしばらく考えた後、
「何なのかは分かりません。ただ、あんなモノが自然発生するとも思えない、と言うのが正直な感想です」
それを聞いたガルフは腕を組み、黙り込んでしまった。
「ガルフさん、大蛇の皆さんは?」
天馬がアルフ達の行方を尋ねると、
「ああ、今は教会から来られた連中と一緒に中に入っている。もう直ぐ戻って来ると思うが、・・・噂をすれば、だな」
ガルフと共に出口に目をやると、アルフ達がこちらに向かって歩いてきた。大蛇の後ろには、白のローブを纏った3人が続いていた。
アルフ達はガルフの前まで来ると、後ろにいる者たちに道を譲るように脇へ移動した。
ガルフが姿勢を正し、て先頭に立つ女性に頭を下げ、
「助祭殿、お勤めお疲れさまでした」
挨拶をした。隣にいた天馬もガルフに倣って頭を下げた。
「いえ、これも仕事ですから。しかし、ガルフさんが言われたように『浄化』の必要はなかったかも知れませんね。同行していただいた大蛇の方から伺ったのですが、魔樹とは何なのですか?」
と尋ね、問われたガルフは、魔樹について分かっている事だけを説明すると、
「そうですか。つまりは、何も分からないという事ですね。分かりました、こちらでも王都の教会に報告を上げておきましょう」
と落胆の溜息と共にそう言い、言葉を続けた。
「そちらの黒髪の方は?」
そう天馬について尋ねてきた。その言葉に、マリオが何とも言えない表情を浮かべる。
天馬はガルフの方へ判断を仰ぐような視線を送ると、
「こいつは、テンマと言います。大蛇の仮メンバーとして、今回の強制依頼に参加している者です」
ガルフが天馬を紹介した。天馬も目の前に立つ女性に、
「天馬と申します。以後、お見知りおきを」
挨拶をすると、
「そう、貴方がテンマ君なのね。初めまして、光の女神様の助祭を務める、セレナといいます。以後、よろしくお願いします」
セレナは答えた。
「帰りの馬車の用意も整っております。さあ、こちらへ」
とガルフがセレナを促すと、3人はガルフと共にその場を離れていった。
「これで、今回の強制依頼は終わったな。マリオ、リーフ、テンマ、3人ともお疲れ。俺はガルフと話してくることがあるから、この後はマリオの指示に従ってくれ」
そう言ってアルフはガルフ達が向かった方へと駆けていった。
「さて、まずは食事にしましょうか? その後、私達も周囲のゴブリン討伐に参加。夕食を食べて、明日の早朝にゴメナに向けて出発します。向こうの陣幕の中に竈があるはずです。テンマ君、食事の支度をお願いできますか?」
マリオに言われ、
「はい、直ぐに支度します」
と答え、食事の支度をするべくマリオが示した陣幕に、天馬は向かった。
その後、アルフも戻って来て皆で食事を済ませると、マリオが言っていた通り、周囲のゴブリンを討伐に向かった。しかし、夕食までの間にゴブリンに遭遇する事はなかった。
夕食は、アルフの指示で持って来た食材を使い切る勢いで豪勢なモノとなった。それを酒と共に流し込み、翌朝、一行はゴメナへ向かい、野外迷宮だった場所を後にした。




