082 魔樹討伐の代償と救えなかった者
「倒せた?」
天馬は、空気に溶けように霧散していく魔樹を見上げてそう呟いた。「ふーーー」と大きく息を吐き出すと、その顔に安堵の色が浮かぶ。ふと、握りしめていた剣が消えたように感じ、手元を見た。そこには、剣の影も形も無くなっていた。握った拳を開いて見ると砂のように細かい粒があるだけだった。それも風に舞うように消えていった。
そんな天馬をジッと見ている視線が在った。
「アルフ、どうしたんですか? テンマ君の元へ行きますよ」
マリオに声をかけられて、
「ああ? ああ、そうだな」
と、マリオと共に天馬の方に向う。そんなアルフに、心配そうな顔をしたリーフが声をかけた。
「どうかしたの? 何か変だよ、アルフ」
「変? そうか、俺は変か」
そう言って、アルフは自嘲的な笑いを浮かべた。
「やりましたね、テンマ君。おや、どうしましたか?」
声に振り向いた天馬の顔が不安げに見え、マリオはその理由を尋ねた。天馬は、自分の剣が細かい粒になって、風に舞うように消えた事を話した。その話を聞いたマリオは、
「テンマ君、最後の攻撃にまほ、魔術を乗せて放ちませんでしたか?」
魔法と言いかけて、魔術と言い直した理由に天馬もすぐに気づいた。「倒したのね!」と喜色の声を上げながらミィジャが天馬達の方へ駆けて来ていた。
「はい、多分」
マリオの問いに自信ない様子で答えた天馬に、
「それが原因かもしれませんよ。テンマ君、剣の付与、品質上限まで付与していたのではないですか? それより、予備武器を出しておいた方がいいと思いますよ。そろそろ、ミィジャさんもこちらに来ますから」
マリオに言われて、剣が消えた理由に納得できた。そして、予備の長剣を右手に「展開」した。
「凄かったよ、最後の一撃は。あんな怪物を倒しちゃうなんて、正直、驚いちゃったわ」
そう声をかけ来たリーフに照れ笑いを浮かべ応じた天馬は、アルフの姿に安堵の表情を浮かべて、
「アルフさん、無事でよかったです。最後の攻撃、本当に助かりました。魔樹を倒せたのもアルフさんのおかげです」
天馬の素直な言葉を聞いて、アルフはすぐに言葉が出なかった。一拍置いて、
「ああ、テンマは凄いな」
とだけ、天馬に返した。その言葉に歯切れの悪さを感じた天馬だったが、駆け付けたミィジャが、
「テンマ君、怪我とかしてない? 大丈夫? アルフも地面が凹むくらいの衝撃だったみたいなのに、気を失っただけって、さすが魔術ギルドの付与という事かしら? それより、向こうに何人か倒れているわよ」
と言ってきた。ミィジャに言われて、ミィジャの視線の先を追うと、言葉の通りに数人の騎士が倒れていた。
天馬達は倒れている騎士たちに駆け寄り、助け起こした。その騎士達の姿を見て、天馬達は息を呑んだ。その顔は老人のように皺くちゃで、歯は抜け落ち、頭髪も見ている前で抜け落ちた。どうしたものか、と思った天馬の目の前で騎士の変化は続く、見る見るうちに痩せ細り、骨と皮だけになったかと思ったら、空気に溶ける様に霧散していった。
顔を上げて周りを見ると、ミィジャと大蛇の面々が助け起こした騎士が同じ様に消えていく。それだけではなく、まだ倒れている騎士たちも空気に溶ける様にその姿を消していった。
「魔樹に取り込まれたためですかね? 誰で在っても彼らを救う事は出来なかったでしょう」
そうマリオが言った。
その時、瘴気の間から陽の光が差し込み辺りを照らし始める。その光が徐々に広がり、大きくなっていく。
「魔樹を倒したせいかな? 随分と瘴気が薄くなったわね。これでは迷宮とは言えないわね」
「そうですね。アルフ、ガルフさん達の所に戻りますか? 助けた騎士たちと一緒に」
ミィジャの言葉を聞いて、マリオが言葉を続けた。
「そうだな、戻るか」
そう言って、全員が来た道を戻るべく歩き出した。
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