078 奇襲と新たな任務
黒の蟷螂の援護を終え、ミィジャと大蛇は当初の予定通り、ミィジャの誘導で村の中をガルフたちの本陣へと移動していた。幸いにもゴブリンと遭遇する事無く、近くまで辿り着けたらしい。ミィジャが足を止め、大蛇が揃うのを待っていた。
「まだ距離があるけど、様子がおかしいわ。聞こえるでしょ?」
そう言われ、天馬が耳を澄ますと、遠くから聞くに堪えない罵詈雑言が聞こえて来た。「何が起こってるんだ?」と疑問が頭に浮かぶ。大蛇の皆も、その声が聞こえたのか、不思議そうな顔を浮かべている。
「ゴブリンの数が・・・、少ない。100体はいないんじゃないかしら? あと、戦ってる気配じゃないのよね。どうする?」
ミィジャが自分が知り得た情報を天馬と大蛇に伝え、判断を仰いだ。当然のように皆の視線がアルフに集まる。
「まずは、近づいてみねぇと、何とも言えねぇな。ミィジャ、ゴブリン達とガルフ達の位置は分かるか? どの辺で戦っているのか、分かったら助かるんだが」
「そうね、位置は出口の近く。でも、戦闘の気配がないのよね」
ミィジャの言葉を聞き、数瞬、思案したアルフは、
「ガルフの奴が、何かしらの罠を仕掛けたと考えるべきか? 一先ず、移動だ。贅沢を言えば、ゴブの至近、様子が分かる所まで近づきたい。ミィジャさん、ゴブとの距離が50mを切ったらマリオに合図を頼む。マリオ、音消しの魔術を使ってくれるか。それでゴブが気が付くまでか、ガルフの罠が分かる距離まで近づきたい。それでも15mを切ったら『光球』を頼む。それを合図に、俺とテンマで切り込む。警戒を怠るな。静かに、素早く。では行くぞ」
アルフの号令で移動を再開した天馬と大蛇、そしてミィジャ。陣形は先ほどと異なり、ミィジャが前、天馬とマリオが中、アルフとリーフが後ろで移動する。ミィジャが立ち止まり、マリオに合図を送ると、マリオが小さく、
「沈黙」
呟いた。すると、今まで聞こえていた冒険者達の声も、自分が歩く足音さえも消えた。その事に驚いてマリオを見た天馬に、大げさに口を動かして見せ、その後、微笑みを浮かべて頷いた。天馬はこれが魔術の効果だと思い、前を向いてミィジャの背を追った。
無事にガルフ達が守っている出口が見える距離まで近づけたミィジャと大蛇、天馬は息を殺して、村の出口とそこに群がるゴブリン達を窺う。
よく見ると、出口に駆け寄ったゴブリンの姿が消えていくのに天馬は気付き、アルフやマリオに聞こうと思って振り返った。そこには、互いのギルドカードで遣り取りをしている2人がいた。数回の遣り取りを終え、アルフが目を閉じると、天馬の懐にあるギルドカードが熱を帯びた。取り出してみると、そこにはアルフからの作戦が簡潔に記されていた。
「出口の周囲に罠がある。近づくな。マリオの魔術を合図に攻撃開始。 俺が右、テンマが左。 罠に追い込んでも良い。 好きに暴れろ。 俺が配置に就いたら行動開始。」
アルフに目を向けると、アルフも天馬を見ていた。互いに頷き、早速行動を開始した。
天馬は音を立てないように注意を払いながら、左にいるゴブリン達に近づくと、篝火の灯りでゴブリン達の様子が見て取れた。『沈黙』の効果範囲外に出たのか、マリオが呪文を解いたのかは分からないが、出口の方から罵詈雑言も聞こえて来た。腰に佩いていた剣を抜き、いつでも飛び出せるように低い姿勢で合図を待つ。その時、『光球』の声と共に、周囲に光が溢れた。
ゴブリン達は、突然の光に驚き、一斉に後ろを振り返った。そこへ、天馬が走り寄ると共に剣を横へと走らせる。何が起きたのかも分からないまま、数匹のゴブリンが絶命した。
バックステップをするように、身を翻した天馬の剣が数匹のゴブリンを屠る。そのまま距離を取った天馬は正眼に剣を構え、襲って来るゴブリン達を迎える。歩幅を合わして剣を振り下ろし、胴を薙ぎ、切り上げ、また剣を振り下ろす。背後に気配を感じて、振り向きざまに剣を横に振り、さらに2匹のゴブリンの胴を薙いだ。天馬は呼吸を整えながら、周囲を見回した。
天馬の周囲にいるゴブリンは、村の出口の方に数匹いるだけだった。アルフの方も同様の状況に見えた。正面から村の方へと逃げ出したゴブリンは、リーフとミィジャが戦っていた。
天馬は村の出口の方にいる数匹のゴブリン達に視線を向ける。剣を威圧するように構え、1歩、ゴブリン達に向かって踏み出すと、ゴブリン達が後退った。それを見た天馬は、「僕を恐れている? それなら」と思い、大きく足を踏み出して、力の限り踏み込む。
「ドン」と言う音と共にゴブリン達が天馬に背を見せて逃げ出した。そして、天馬の視界から消えた。「ああ、これが罠か。どんな仕組みになってるのかな?」と興味を惹かれるが、直ぐに頭を切り替え、周囲を警戒した。そこに、
「終わったか? あれが最後だな」
と、大剣を肩に担いだアルフが天馬に声を掛けた。その言葉に後ろを振り向くと、ミィジャが槌でゴブリンを屠ったところだった。
『光球』と聞こえてから、然程の時間を要さず、ここへと向かって来たゴブリンが全て倒された事に気付いたガルフは、急いでリフターに幻影の解除を指示して、
「アルフ、そこで止まれ。その先には大穴が開いている。それで、何でお前らがここにいる? 後ろは大丈夫だったのか?」
ガルフの問いに対してに、アルフは後ろもゴブリンの集団が襲って来たが、それを撃退した事。黒の蟷螂と青の風の状況、そして、ダンドの判断でミィジャを伴って黒の蟷螂の援護し、ここにいる事を伝えた。それを聞いたガルフは、
「こちらから、青の風の持ち場に援護を送る。ここを通れるようにしたら、中からも送る。それより、ミィジャが一緒なら中心部に向かってくれないか? 騎士団が入ったまま、戻ってきてねぇ。あと、1時間もすれば日が出るだろう。その前に中の強行偵察と、生きていれば騎士団の救出を頼む。おそらく、騎士団長がした事が原因だと思うが、出来れば証言者が欲しい。後は情報だ。
今の話で黒の蟷螂は動けると思うが、青の風は分かんねぇ。朝からの討伐に支障が出ないとも限らん。粗方のゴブリンは村から出て来ていると考えてはいるが、上位種がいるか、いないかが分かるだけでも助かる。どうだ?」
そう問われたアルフは、ここまで来たメンバーを振り返り、
「マスターはああ言っているが、どうする? ミィジャさん、貴女は大蛇のメンバーじゃない。ダンドに確認して指示を仰いでくれ。マリオ、MPはどんな感じだ? デカいのを何発か放てるほど残っているか?」
アルフの言葉を聞いてミィジャは、ギルドカードを触っている。
「行くつもりなんでしょ。MPは十分に残っていますよ。貴方たちに渡した『光球』の巻物を返してください。ガルフさん、目立っても良いんですよね?」
「ああ、強行偵察って言っても、相手はゴブリンだからな。目立つって何をするつもりだ?」
「暗い道は危険ですからね。明るく照らして動こうかと? ミィジャさんに同行して頂けたとしても、リスクは回避したいですからね」
「ダンドはOKだって、私も同行するわ」
ガルフの言葉にマリオが答えると、直ぐにミィジャも同行してくれると言ってくれた。それを聞いたアルフが、
「ガルフ、大蛇と黄色い熊のミィジャが強行偵察を引き受ける」
と高らかに宣言した。そして、村の中に向かって歩き出す。慌てて、その後を追いかけるマリオと天馬、ミィジャの3人。その様子を見て、溜息を吐いて首を横に振ったリーフが前を行く4人を小走りで追いかけた。
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