077 ガルフ Side
時間は少しだけ遡り
騎士団長とその一行を見送ったガルフは、直ぐに妖術師を起こしてくるように指示を出し、隣に立つサーシャに、
「逃げ出してくる者を確実に倒すのが我々の役目と指示を受けたんだが、お前も聞いていたな」
「はい、この耳で確かに」
と、尖った耳を器用に動かして答えた。その言葉を聞いたガルフは再び前を見据えたまま、問いかける。
「言葉の通りに動いても良いと思うか? 本当に、逃げ出してくる者、全てを倒しても?」
「それが騎士団長様の命令でしょ? 逃げ出してくる者が何者かを気にする必要ないんじゃない? 私、アイツは気に入らないし、いい機会でしょ」
サーシャはそう言うと冷たい笑みを浮かべ、慌ててその笑みを消すと、ガルフと同じように眼前に広がる闇を見据えた。
妖術師を起こしてくるように言われた者が本人を伴って戻って来た。
「さて、私を呼んだと聞きましたが、何用でしょうか?」
「起きてはいたのか? 団長様が中に入っていった。村の中にこれから篝火を置いて来るから、その篝火からここまで穴を開ける事は可能か? 深さは・・・、深いほど有難い」
「そうですね、埋める事を考えなくて良いなら、深さは20~30mくらい、奥行きは・・・、この間口だと、3m程度になるでしょうか?」
妖術師から答えを聞いたガルフは、その答えに満足して頷くと、
「それで十分だ。それでは頼む」
ガルフの指示で、冒険者たちが篝火を村の中に5mほど入った場所に並べた。その作業が終わると、妖術師が高らかに詠唱を始める。
「大地よ、我が敵を深き所へ導く道となれ!『大地の溝』」
呪文名と発声と共に目の前に在った地面が消え、大きな穴になった。ガルフが松明を穴に投げ入れ、穴の底を窺う。松明の灯りは途中で消えて、闇が支配する空間となる。それを見て、身震いをしたガルフは、
「陽が昇るまでは、ここに近づかないようにしろ。落ちたら助からん。助けにも行けんからな」
皆の方を向いて指示を出した瞬間、村の中から閃光が走った。
ガルフは急いで振り返り、村の中を窺う。その場にいた者たちもまた、何が起きるのかと固唾を呑んで見守る。無数の赤い瞳がこちらへと駆けて来るのが、皆の目に映る。緊張が頂点に達し、ガルフ達は油断なく武器を構える。しかし、その目の前で、押し寄せ来たゴブリンが次々と地面に空いた穴に落ちていった。その様子に緊張を緩め、ガルフが誰に言うとでもなく、
「村の中で何が起きたんだ?」
呟いた。その言葉を耳聡く拾ったサーシャが、
「魔術の気配を感じたわ。多分、巻物の補助を受けて発動したんだと思う。それより、これからどうするの?」
その間にも、次々と穴に落ちていくゴブリン達。
「妖術師、名は何ていったか? まあいい、これが落ち着いたら、出来るなら幻影の魔術を使って貰いたい。この穴の上に幻の地面を出して貰いたい。サーシャ、お前のパーティーに『挑発』のスキル持ちがいたよな、あいつ等が落ち着いたらスキルを使ってくれ。投擲武器、弓を持っている奴は『挑発』が効いて無い奴を屠っていけ。その他は、石を投げるでも、罵倒するでも何でもいい、あいつ等を挑発しろ」
「リフターと申します、ガルフ殿。先ほどの問いの答えは、可能です。今から出しましょうか?」
リフターと名乗った妖術師が、詠唱を始める。サーシャは、パーティーの盾士を呼ぶためにガルフの傍を離れる。
恐慌状態から抜け出したゴブリン達が、穴の前で武器を構え、ガルフ達に襲い掛かろうと構えている。だが、穴があるために殺気をぶつけて来るに留まっていた。その時、リフターの詠唱が終わる。
「その姿は、虚。此処に在って、此処に無いモノ。『蜃気楼創造』」
ゴブリンの前で地面が現れる。一斉にガルフ達に襲い掛かろうと駆け出したゴブリン達は、次々とガルフ達の前から消えていく。そんな中、盾士を伴って戻って来たサーシャがその光景を見て、
「これはどんな魔術? ああ、分かった。結構、えげつない事考えたわね。それで、次はウチの盾士の出番と。ダード、気を付けな、その先の地面は幻だよ」
ダードと呼ばれた大盾を持った騎士は慌てて足を止めて1歩下がった。そこで、持っていた大盾を正面に構えると、
「挑発」
静かに呟く。ダードの正面にいたゴブリン達が一斉にダードを襲い掛かろうと駆け出し、地面に消えていった。それを確認して、ダードは「挑発」と機械的に繰り返し呟く。周囲では、ガルフの指示通り、石を投げる者、弓でいる者、ゴブリンに罵声を浴びせる者、石や矢を運ぶ者とそれぞれが出来る事をする。
ガルフの作戦が上手くハマり、ゴブリンの数が十分に減った頃、ゴブリン達の更に後方から『光球』との声と共に、周囲が照らされ、戦いの音が聞こえて来た。




