062 矢と『付与』を施した杖の能力
「じゃあ、『炸裂』から試すね、お爺ちゃん」
そう言って、矢を番えて岩壁に向けて放った。一直線に飛んだ矢は、ピシッとした音と共に岩壁の前に落ちる。岩壁には亀裂が走っている以外の変化は無かった。矢を放ったリーフも納得できなかったかのか、直ぐに2射目を放った。放たれた矢は、先ほどと同じようにピシッとした音と共に岩壁の前に落ちた。
天馬を含めて、皆が首を傾げる。矢を射たリーフが岩壁に近付いて行った。それに倣うように皆も岩壁に向かった。
岩壁に生じた亀裂はリーフが放った矢の矢尻に因るものだと思えた。肝心の矢尻は岩にめり込んで確認できなかった。そして、矢尻から後ろの部分が岩壁の前に落ちていた。
天馬は、矢が岩に亀裂を作った事に多少の驚きを覚えて矢尻が消えた事を疑問に思ったが、イオは、その事実を意に介さずに、
「これだけなのかのぅ。もう少し、派手な事を期待していたのじゃが? テンマ、これが『炸裂』の効果かのぅ?」
「いや、イオ師。岩に矢が刺さったんですよ。矢尻は確認できませんが、間違いなく岩の罅は矢のせいですよ。それは、無視ですか?」
「お主の『付与』なら岩に刺さるくらい、当然と思わんといかんじゃろ。この先があるんじゃろ? 勿体ぶらずに教えてくれんかのぅ」
イオに言われて、無茶な事を言うと思いながら、天馬も考えていた効果が発現しなかった事に疑問を持っていた。天馬が『炸裂』の効果として考えていたのは、炸裂弾に近い物だった。火薬を積んでいるわけではないので爆弾みたいに爆ぜる事は無いと思ってはいたが、何かしら岩に変化が起こってもおかしくないはずだった。消えた矢尻の行方も気になった。
天馬は、生じた亀裂と落ちている軸を観察して気付いた事があった。矢尻を固定していた紐の部分から先が岩の中にあるらしい。2本とも同じ状況である事から自分の『付与』が何かしらの影響を与えたのだろうと考えた。そして、一つの仮定を思いついた。
「ガルフさん。お手数ですが、もう一度、巻藁を出して貰えませんか? 多分、イオ師が望むような派手な事が起こる可能性があります。岩壁に立て掛けるだけで構いませんから、お願いします」
そう言われたガルフは、担いでいた魔法の背負袋から巻藁を出し、隣の岩壁に立て掛ける。天馬の視線に気付いてリーフは、矢を番えて放つ。放たれた矢は、岩壁に斜めに立て掛けられた巻藁に当たった。その瞬間、巻藁が2mくらい滑る様に飛んで倒れる。矢は。倒れた巻藁の手前1mくらいのところに落ちた。
天馬を先頭に倒れた巻藁に近付く。天馬は、倒れた巻藁の表面を見てこの程度なら『貫通力上昇』の方が意味があるかもしれないと思い、イオ達に巻藁を見せた。巻藁はリーフの矢尻より一回り大きいくらいの穴が開いて心棒の白木の部分が見えていた。そこに無数の金属片が刺さっていた。
「どうして、こんな事になるのじゃ?」
「多分、『炸裂』の効果の為だと思います。矢尻が当たった先から砕け、砕けた部分が砕けながら飛んで行ったのではないかと思います。ただ、小さくなったので貫通力が減った。だから、心棒を穿つに止まったじゃないかと? それが僕の考えです。イオ師」
「なるほどのぅ。となると、先ほどの岩の中にも同じような物がある。という事じゃな? 岩を割る硬さの金属片が。これは、地味だが恐ろしいのぅ。テンマが『付与』した矢と弓が揃って成せるのか? 矢だけで出来るのか? 検証したいところじゃが、マリオの試しもお嬢さんの試しも残っておるからのぅ。試しを続けるとするかのぅ。
お嬢さん、次は『貫通力上昇』と『普通』の矢を試してくれんかの?」
「了解、お爺ちゃん」
そう言って、リーフは始めの位置に戻って行く。皆もリーフの後を付いて行く。始めの位置に戻ったリーフは、矢筒から2本の矢を出して番え弓を引き絞った。そして、狙いを付けて放つ。一直線に岩壁に向かって放たれた矢は、ピシッと音を立てる。上下に打ち分けられた矢は、どちらも縦長の亀裂を作って岩に刺さった。違うのは、この場からも分かるほど上に刺さった矢に比べて、下に刺さった矢の見えている部分が短かった。
リーフの矢は、その先端から羽根まで、1mを超えるくらいの長さがある。上に刺さった矢が半分以上見えているのに対して、下の矢は1/3も見えていない。その事が意味することを皆が理解して、驚嘆の表情を浮かべた、次いで揃って呆れた表情を浮かべた。リーフだけは納得の表情を浮かべて振り返り、イオに「ニカッ」と笑顔を見せる。
「どうだった?お爺ちゃん。上の矢が『普通』の矢。下が『貫通力上昇』を『付与』して貰った矢。満足の行く結果だった?」
「そうじゃな、厚さ50㎝の岩を貫通する弓と矢か。その弓と矢の前では金属の鎧も意味をなさんじゃろな。『普通』の矢でも似たようなものかのぅ? お嬢さんの弓矢もアルフの剣も埒外の性能じゃて。さて、マリオ。お主は、何を見せてくれるのかのぅ?」
「師よ、プレッシャーをかけないで下さい。では、私の番という事で宜しいでしょうか?」
そう言って、マリオは、進み出て詠唱を始めた。
「清浄なる風よ、一陣の風と共に我が敵を吹き抜けろ『風乱斬』」
マリオが『風乱斬』と唱え終わると足元から風が吹いて、その風が岩壁を吹き抜けた。
「清浄なる風よ、集いて重なれ、我が敵を妨げる壁となれ『暴風』」
マリオの唱えた『暴風』は、文字道理の暴風を生み、先ほどの岩壁にぶつかった。暴風が当たった岩壁は、積木を崩すように崩れていった。よく見ると岩壁は10cm▢ぐらいの大きさで切れていた。つまり、『風乱斬』で切られていたから『暴風』で崩れたのであった。マリオは涼しげな顔で皆の方を振り向いた。
イオとエルンは、納得の顔を浮かべ、ガルフは呆れた顔をして、アルフとリーフは口笛を吹いて囃した。天馬は、本来の『風乱斬』の破壊力を知らないため素直に、
「凄いですね。マリオさん」
「ありがとうございます、テンマ君。でも、凄いのはこの杖ですよ。本来、『風乱斬』であの厚さの岩壁を切る事は出来ないんですよ。私も切れるとは思っていませんでした。ただ、魔力が壁の向こうに届いた気がして『暴風』を放ったんですよ。そうしたら、御覧の状況です。私の魔術がこれほどの威力を持つとは、我ながら信じられません」
「テンマの『付与』を強請ったガルフ殿の気持ちが良く分かったのじゃ。ワシも同じ気持ちじゃからのぅ。マリオ、魔力の減りはどんな感じじゃ?」
「そうですね。思ったほど減っていません。感覚の話になりますが・・・・・・、普段の魔術行使と比べて、2/3と言った感じです。我が師よ」
「そうか、そうか。それでマリオよ、ちょっとその杖を貸してくれんかの?テンマの『魔力操作上昇』、『使用魔力減少』、『魔術威力増大』の効果を確かめたいのじゃ。ワシとエルンでのぅ」
イオの言葉に聞いたマリオが天馬に視線を向ける。天馬が頷くのを確認して、マリオはイオに杖を渡した。杖を受け取ったイオは、
「『火球』、ひょっえ」
イオは、『火球』を唱えた直後におかしな声を出した。
イオの『火球』は、岩壁の足元から突如として顕現して岩壁を炎が包んだ。5分くらい燃え続けた炎がおさまる。岩壁は赤く光り、一回り小さくなっている。見ると、外周部が溶けて足元に赤く光る水たまりを作っていた。
「これは、これほどとは。エルン。其方も試してみよ。凄いのじゃ。この杖、いやテンマの『付与』は。この『付与』も革命的じゃ。それ、サッサと試すのじゃ」
イオから杖を受け取ったエルンが、杖を岩壁に向けて呪文の詠唱を始めた。
「清浄なる風よ、集いて畝り、渦とかせ、その力を持って我が敵を吹き払え『旋風撃』、へっ」
エルンも『旋風撃』と唱えた直後に妙な声を上げた。岩壁に向けられた杖の先から渦巻く風が吹き出して岩壁に当たる。風が止むと見て分かるほどに岩壁が傾いていた。よく見ると、足元の土が盛り上がっている。
「いやいや、いやいやいやいや。これは、これは凄いですね。ホントに魔力の減りが違います。威力もこれほど上がるとは」
「そうじゃろ。そうじゃろ。この『付与』は凄いのじゃ」
「そうです。テンマ君の『付与』は凄いんです」
いい歳の男たちが、杖1本に騒いでいる。「女の子なら「キャキャウフフ」と形容詞が付くのかな?」などと天馬が考えていると、
「ドーーーン」
という音と共に修練場が揺れる。音がした方を見ると岩壁が倒れていた。それを見たイオが「コホンッ」とわざとらしく咳払いをしてエルンから杖を取り上げる。それをマリオに返して、
「さて、次に移るとするかの。お嬢さんもマリオも岩壁を用いた試しは十分じゃろ?」
「そうね。マトを使って試したい事も出来たし」
「私も十分です。次は、水属性を試してみようかと思います」
「そうか。そうじゃの。では、いこうかのぅ」
そうイオが言うのを合図に皆が揃ってマトに向かい歩き出した。




