061 『衝撃反射』の破壊力と剣の性能
岩壁の前に大蛇と天馬が並んで立つ。誰から始めるかを伺うような空気、大蛇の3人は、自分が先に試したくて堪らない感じが周囲に伝わる。そんな空気の中、天馬が1歩進み出て、岩壁目掛けて駆け出した。
天馬は、勢いよく肩から岩壁にぶつかる。その瞬間、天馬の肩を中心として細かい亀裂が無数に走り、岩壁が陥没した。天馬が岩壁から離れると拳大に生じた細かい亀裂が崩れる。
『衝撃反射』を付与した時、こうなったら良いなと考えていた天馬は、自分の考えた以上の破壊力に驚いていた。肩の埃を払いながら皆を見ると全員が固まっていた。
天馬が、皆の方に歩き出すとイオとエルンが駆け寄って来た。見るからに興奮状態なのが分かる。
「テンマ、何をしたのじゃ。何が、どうなって、あれほどの事が起こるのだ?」
「『衝撃反射』とは、攻撃を目的としたモノだったのですか? それなら、武具に『付与』しなかったのですか? 答えて下さい。テンマ君」
天馬は、自分の顔に唾が飛ぶのではと心配になるくらいに顔を近づけて、質問をしてきた2人を両手で押し戻し、
「2人共、落ち着いて下さい。イオ師もエルン師も、説明しますから」
と落ち着ける様に言葉をかける。そこに、2人を追いかけて来たガルフとマリオが、
「イオ殿、まずは、『衝撃反射』の効果を確認しねぇか? こんな所よりも岩壁を見ながら聞いた方が良いんじゃねぇか?」
「エルン師、落ち着いて下さい。テンマ君が困っていますよ。まずは『付与』の効果を検証してからでしょう。一緒に確認しましょう」
そう言ってくれた。その言葉で、イオとエルンは落ち着きを取り戻した。元の場所から前の4人を見ていたアルフが、岩壁を指して駆け出した。岩壁の方に歩き出した天馬たちを追い抜き、天馬が体当たりした隣の岩壁にアルフが体当たりをすると岩壁が大きく陥没した。
それを見てイオとエルンが駆け出した。駆け出した2人を見て天馬が振り返る。ガルフとマリオが揃って額を抑えて俯き、溜息を吐いていた。
天馬とアルフが体当たりした岩壁の前に天馬、マリオ、ガルフが立つ。遅れて、リーフがやってくる。アルフは、右手で丸盾や肩当てを叩いて、感触を確かめていた。イオとエルンは、アルフが陥没させた岩壁を見ている。
「テンマ。これ、『衝撃反射』って言ったっけ、面白いな」
そう言って、天馬が試した岩壁の前に来ると体を捻り、裏拳の要領で丸盾を当てた。先ほどの様に大きく陥没はしなかったが、盾大に陥没して細かい亀裂が走っていいた。
「これで、ゴブを殴ったらどうなるんだろうな?・・・でも、頭を殴ったら討伐証明がダメになるか? どう思う、テンマ」
「どうでしょうね? 岩と魔物や魔獣が同じ様になるのかも分かりません。ただ、破壊力があるのは確実なので、ゴブだと血とかが飛び散って大変なことになると思いますよ」
「そっか。そうだよな。そうだ、テンマ。剣で切るコツってあるか? あったら教えてくれ」
唐突、アルフに聞かれて、
「左手を意識するぐらいでしょうか? 左手を引く。あくまで、本当に引くのでは無くて、イメージ、気持ち。そんな感じで僕は、剣を振るっています」
「そうか。やっぱ左手か」
そう言うと、岩壁の前にいた天馬を始めとした4人に壁の前を開ける様に言って、素振りを始めた。
「ふんっ」
気合一閃。岩壁を切り付けた。切り付けられた岩壁は、見事にアルフの大剣で両断された。
「おお、切れた。切れた。切れるもんだな、岩って。しかも、曲がっていねぇし、刃も潰れていねぇ。大したもんだな、テンマの『付与』は」
「いや、アルフ。言って良いか? 魔鉄の剣ならまだしも岩は普通切れねぇぞ。岩を欠くくらいは出来るだろうが、岩を切れるって事は、鉄の鎧も切れるって事だぞ。分かってんのか? そこんとこ」
「わぁーってるよ、そんな事は。だそうだ。テンマ、ここにいる奴以外に武具への『付与』はするなよ。この『付与』は、凄い。と喜んで良いレベルを超えているからな。『表面硬度上昇』『内部靭性上昇』『鋭刃鋭利上昇』だったか? 多分、どれか1つなら問題がない気がするが・・・・・・」
「そうだ。アルフの言う通り、『防刃』もそうだが、武具に関しての『付与』は、暫くの間、秘匿した方が良い。その辺り、イオ殿とも相談するが。テンマ、それで良いな」
「構いませんけど・・・、ドランさんの店に帰りに寄ると約束してしまったんですが、どうしましょう?」
「ドランか~、アイツも癖が強いからな・・・差し当たり、こっちで対処しておくから気にするな。帰りに寄る必要も無い。いいな、テンマ」
「はい、分かりました」
気が付けば、イオとエルン、マリオが戻って来ていた。
「イオ殿、テンマの『付与』をどう扱うか、この後で時間を貰えるか?」
「構わんよ、ガルフ殿。このエルンも同席するが、良いじゃろ?」
「構わない」
「それより、大剣で岩が切れるのか? これも凄い『付与』じゃな。それよりも、テンマ。なぜ『衝撃反射』であんな事が起きるのじゃ?」
そうイオに言われ、天馬は、『衝撃反射』の副次的効果の説明を始めた。
「物と物がぶつかるとそれぞれに当たった事による衝撃が生まれます。お互いに、1の衝撃が生まれたとして、『衝撃反射』は、一方の1を『反射』するので、残った方に2の衝撃が伝わる事になります。
体当たりの様に『衝撃反射』を付けている物が、短い時間でも動き続けると、この2の衝撃が連続して生じる事になります。もしかしたら、それ以上の衝撃が生まれるかもしれません。その結果、御覧のような破壊につながったのではないかと?」
「そうか、そう言う事になるのか。『衝撃反射』で叩かれたモノは、最低でも、2倍の衝撃を受けるという事か。それが、この破壊を生んだのじゃな?だが、武具に『付与』せなんだのは何でじゃ?」
「それは、アルフさん達の武具に棍棒や槌が無かった事、リーフさんの矢だと軽い為に効果が、少ないと思ったからです。棍棒や槌、槍の石突なんかに『付与』したら面白い事になるかもしれません」
「そうじゃな。試してみたいのは山々なんじゃが、今は、我慢するのじゃ。それより、お嬢さんとマリオの試しじゃ。お嬢さんから始めてくれんかのぅ?」
そう言って歩き出したイオについて、皆が岩壁から改めて、距離を取る。




