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勇者パーティー in オーディナル聖王国 26



「君は何をしていているの?」



 兵器として調整を受けた妾の子であるセイラは声をかけられて顔を上げた。セイラがいる場所は本来普通の人が入ってこれるはずのない中庭だった。


 そこにセイラは兵器。王族の念願だった秘術の成功例として大切に保護されていた。


 それは王族の悲願であった。聖王国の“聖女”を生み出すことだった。聖王国は最初は聖女を支援するための国として生まれ、王も教会が選定したものだった。


 聖王国は“聖女”を長年支援していくうちにある思いが込み上げてきた。


 “聖女”を王族から出すことができないのか?


 何代か、前からそういう思想が生まれ、一族でそれを達成するためどうすればいいかを考えていた。


 この思想が生まれたのは常に“王竜の契約者”を輩出することができるワルシャル竜王国のことがあったからだ。彼の国のように“聖女”を輩出し続けることはできないのか。


 そんな思いに駆られ、彼らはワルシャル竜王国に嫁を嫁ぎ、そこで彼らが竜との生活をすることで“王竜”との接触する機会を小さいうちから受けることによって大きなアドバンテージを得ていることを知る。


 それと同様の事をするためにどうすればいいのか、聖王国は“聖女”の選挙に協力する傍ら、“聖女”の研究をしていった。


 セイラが生まれる頃には大体の補足や理論がわかり、“再生”の入り口である“鑑定”の能力を持てるかどうかを王族は子供たちに試した。


 そして、妾の子であり、元英雄の従者だった女神官の子供に“鑑定”の才を見出し、聖女候補だったレミアや元“聖女”達を教師にし、彼女を鍛えていった。


 幼いころから鍛え上げられたセイラは、普通の子供としての活動をほとんどしてこなかった。


 物心ついた頃から大人に囲まれ、本などを読んで育っていった。最近、教育係になったレミアという若い女性が心が貧相ではだめですというお達しがあり、外に出ることができた。


「あなたは?」


 セイラがいうと


「ネヴィルっていうんだ」


「よろしくね。ネヴィル」


「君は?」


「セイラ」


「セイラっていうんだ。よろしくね。セイラ」


 そして、そのネヴィルはセイラに二人の友達を紹介した。彼が英雄の子供ということで城に入ることが許されていた。


 その他の子供達も、英雄の子供であり、よく聞けば、セイラの母も彼らの父親たちの仲間だったらしい。


 その頃はレミアの許可をもらって4人で遊び、その後、担当者も4人で遊ぶ時間をくれた。一人は魔術学園に行き、二人は騎士学校に行き、そして、セイラは修道院に入った。


 すでに英才教育を受けていたセイラはそこで圧倒的な成績を収め、“蘇生”もやってのけた。


 魂の修復まではできないらしいが、それでも物の修復だけで十分な才能があるとされ、生まれた時からの期待にこたえ続けていた。


 そんな中、初めて友達になってくれたネヴィルが才能がないことに苦しんでいるという話をサミットから聞いていた。


 彼に求めれるものがあまりにも大きく、ネヴィルは努力をしているが、その才能が開花することなく、苦しんでいる。


 そんな話がサミットからあった。


 サミットもそんなネヴィルを見て、嫌な思いになっているが、ネヴィルもしっかりとした目を持っているため、サミットの手を抜くとそれがすぐにわかった。


 そんなネヴィルは普通の成績で騎士学校を卒業し、サミットは首席で卒業した。


 セイラはそんなネヴィルが最近、家を追い出されるかもしれないという話を聞いた。本当に優しい子なのだ。


 理不尽だと思う。


 セイラは彼の助けになりたいと思った。そのためには力が必要だった。だから、聖女候補になった。


 元から、セイラは聖女候補だったが、その思いがより強くなった。


 何故なら、彼は孤独な自分を初めて照らしてくれた太陽だったからだ。苦しい時に彼を照らせなければいけない。それがこんな力を手に入れた自分の存在価値だ。


 理不尽な環境にある彼を照らすために、セイラは周りを圧倒できる力が欲しいと思った。


 だから、彼女がなりえる力ある存在“聖女”になろうと近年思い始めた。


 そしてその機会がきた。


 すべてはこれは彼のために、不遇な環境になっている彼を助けるために、あえて、神というものに身を捧ぐのだ。


 この身は神ではなく、あの日、あの時、自分に光を与えてくれた存在に・・・


 セイラはそう思って生きてきた。




「会場までついてくんな」



 ネヴィルの背中を追いながら、セイラは答えた。以前よりもはるかに強力になった魔力を感じながら、セイラは嬉しそうに笑った。


「デートでしょ」


「シスターが何を言っていやがる」


 修道女に付きまとわれているネヴィルは嫌そうな顔になって言った。


 ネヴィルは闘技会が行われる会場に向かって歩いていた。


「大丈夫。言い訳考えてるから」


「ロクでもなさそうだな」


「そうでもないよ」


「どういうことだ?」


「だって、その剣には魔王の呪いがかかっている。その呪いを解除したのが私だとしよう」


「・・・・・・」


「その経過を見る必要があるでしょ」


「・・・・・・」


「で、私がその呪いを解除できました。経過も大丈夫です。さすが“聖女”となると思わない?」


「悪女」


「ふっふふ、その剣が呪わているからできるんだよ。まあ、呪われていないけどね」


「そうなのか?」


「だって、所持者に対して不利益を与えなければ、呪われた武器にはならないのよ。本来は」


「へえ」


「だから、それ別にあなたに不利益与えてないでしょ。しいていうなら、うるさいくらいで」


『小娘!』


「だから、大丈夫。そもそも、“怠惰の魔王”なんて存在そのものがあるんだか、ないんだがわからないもので、ネヴィルが有益に使わないと逆に大変なことになるわよ」


「そうなのか?」


「うん。だって、その魔力。下手に流れていると地を怪我したり、獣を魔物に変えてしまう質の悪いやつだから」


「そうなのか」


「ただ、製作者さんが凄くて、“怠惰の魔王”の魔力を綺麗にして所持者に流してくれるみたい。その剣で呪われることなんてないわ。その気なれば、魔王の魔力を取り込める可能性もあるくらい」


「凄いな」


「“聖女”の“鑑定”をなめない方がいいわよ」


 ちっちっと指を振ってうれしそうにセイラが言った。音は口に出していない。


「“鑑定”ができるって生産職のやつならできるだろ?」


「再生ができるのはかなりの深度とそもそもの才能が必要なのよね。こればかりは“再生”が光の魔法なのよね」


「そうなのか?」


「そうそう、多くの“聖女”が光の魔法系の使用者なの。たまに水の魔法系がいるけど、彼女たちでは蘇生はできないわ」


「ああ、蘇生ができる“聖女”とそうじゃない聖女って使える魔法が違うのか」


「治癒魔法にも再生のように元に戻す魔法や対象の生命の活力を増やすことで治すことができる魔法があるの。活力を増やす系の魔法はそもそもが無属性系の魔法なの」


「そうなのか。セイラが得意なのは再生なのか」


「そういうこと。私は光、でもって、一般的な治癒魔法は無属性って感じね。私は“蘇生”以外は無属性を使うわ」


「何故?」


「だって、相手の情報を読み解くってことは痛みのフィードバックなどがあったりするから、やっかいなのよ。それにプライバシーを覗くことになるかもしれないしね」


「ああ、さっきみたいに」


「普通の光の魔法使いはそこまで読むことはないのだけど、私レベルになると・・・」


「読んじまうってことか。強すぎる力の弊害ってとこか」


「そうなっちゃうんだよね。まあ、痛みになれる訓練をしていれば、大丈夫なのでしょうけどね」


「やるのか?」


「目下検討中。さすがに積極的にやる気にはならないわよ。“魔王”との本格的戦争になれば、そうもいってられないのでしょうけど」


「まあ、そうなるよな」


「自分から痛いのを望むのはちょっとね」


「なるほどな」


「・・・・・そうか、ネヴィルの旅について行って、痛みの練習をすればいいのか」


「おいおい」


「それはいい考えね。お父様に報告しないとね」


「あれがお前をこの国から出すとは思わんが、今も城の中が大変なことになっているような気がするぞ」


「いいのよ。生まれて10年以上ろくに会話をしなかったんだから、心配させておくべきよ」


「勝手な奴」


「それぐらい許されるでしょ。あたし不幸だったし」


「わりきってんな」


「お互い様でしょ」


 セイラがそういうとネヴィルの剣をみた。ネヴィルも背負っているものを見た。


「確かに」


「じゃあ、どこかで会いましょう」


「気をつけろよ」


「転移の魔法使うから大丈夫!」


『おい、なんて奴だ!』


 それまで黙っていた魔剣が騒ぐ。ネヴィルがそうこうしているうちにセイラが姿を消した。


『あやつとんでもない物になるかもしれんの』


『おいおい。魔王が恐れるな』


『何を言う。魔王といえど、元はただの異世界から呼ばれた力が強いだけの一般人だぞ』


『・・・あれは一般人ではない』


『だろ?』


『お前も大変だな』


『うっさい』


『惚れているのか?』


『ほっとけ』


『かわいいのう』


『うっせ』


 ネヴィルは心の中で悪態をつくと、頭の中でやたらと冷やかす声が響き渡っていたが、無視するようにした。


 そして、そのまま、闘技会会場の受付に向かって行った。




 やたらとうるさい冷やかし、そういう意味でこの剣は呪われているのかもしれないとネヴィルは思った。



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