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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第13章(全7話)

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艦長の覚悟・2

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 こうしてシューティングスターは、海の平和を守るためにパトロールをすることになった。

 メッティは「またそうやって、面白そうなときに私をのけもんにする!」と大変お怒りだったが、学業優先だからと説得してサリカに預けてくる。

 ただし「魔物」を動画で撮影することも約束させられた。



「カッコイイ男に憧れる身としては女性や子供を大切にしたいが、どうすれば大切にしたことになるのかがよくわからない」

 俺が戦闘指揮所でぼやくと、ポッペンがおかしそうに笑う。

「まったくだ。私も妻と娘には叱られてばかりでな。出稼ぎなどいいから、故郷で暮らせと言われている」



 いや、それは俺も御家族の意見に賛成です。なるほど、客観視するとよくわかるな。

 ただし俺はポッペンを一人前の大人として尊敬しているので、彼の選択にいちいち意見はしなかった。彼が決めたことだ。責任は彼が取る。

 でもなるべく早く、家族一緒に暮らせるようにしてあげたい。



「本当は被害が拡大して、王室や海軍が懸賞金をかけるのを待つ方が儲かるんだが、タダ働きですまないな」

 被害が拡大するのを待っていられるほど、計算高くはなれないんだ。

 するとポッペンはクェークェーと笑う。



「謝る必要などない。確かに私は人間にあまり同情していないが、艦長は人間だ。同族にはそれぐらい情に篤い方がいい。そういう男なら、私も安心してついていける」

 そう言ってもらえるとありがたい。

 さて、今回もタダ働きといこう。



「七海、海中探査を行え」

 俺が格好良く命じると、七海がシュノーケルとゴーグルをつけて現れる。あれ、なんか困ったような顔をしているぞ。

『あの、本艦には対潜用の装備がほとんどありません』

 それは知ってる。俺の艦長権限、セキュリティクリアランス三レベルでわかる範囲でだが。



「水中に生体センサーを向けるぐらいはできるだろう? 生物なのか無生物なのか、それだけでも調べたいんだ」

『海水中では生体センサーの精度が低下します。特にこういう温暖な海ですと、ひどいときには海全体をひとつの生体として認識してしまうんです』

 しょんぼりしている七海。



 考えてみれば、この生体センサーって生存者の捜索に使うためのものだった。海の巨大生物を探す目的では作られていない。

「なるほど。で、対潜装備は何にもないと」

『九四式や九七式のオプションとしては存在するんですけど、私は空母仕様ですから積んでないです』

 前にも言いましたっけと、七海が頭を掻く。



 そうなると何もできないのか。

「じゃあしょうがないな……。航路をなぞるように哨戒飛行してくれ。何かあれば救助と記録を行おう」

『了解しました!』

 ビシッと七海が敬礼した。



 それから十日ぐらい経った。

「何にもおらへんやん……」

 休講を利用してパトロールに参加したメッティが、士官食堂で弛緩している。

「おかげで哲学と化学のレポートがはかどるわ……」

 大変結構です。きりきり勉強しろ。



 七海が首をひねっている。

『おかしいですね。近海ではこの十日間で七隻、海賊行為を働こうとした武装商船が撃沈されています。しかも航路沿いですよ』

「でもシューティングスターがいるときは何にも起きないんだよな」



 俺たちは上空から監視しているので、半径数十キロの範囲にいる船舶は全て把握している。

「シューティングスターの目の前で海賊行為を働くバカはいないから、俺たちがいると何も起きないのはわかるんだが……」

『望遠鏡でも見えないぐらい遠くだと関係ないですからね。でもそういう範囲でも、船舶の沈没は起きていません』



 俺は何となく嫌な予感がしてきた。

「もしかして、『海の魔物』は俺たちに気づいてる?」

『はい、その可能性はあります。この艦は空に浮いてますけど、重力波をアレしてアレですから』

「アレって何だよ」

『すみません、セキュリティクリアランスの都合で……』

 四レベル以上か。機密の壁が厚い。



「自然現象の可能性はまだあるが、もしかすると潜水艦みたいなものが航行してるのかも知れないな。お前の世界の潜水艦なら、飛空艦の重力波は探知してるだろ」

『確かに……。でも困りましたね、対潜装備ないんです』

 七海が頭を抱える。



 するとポッペンが発言した。

「つまり敵に察知されずに偵察できればいいのだろう? 私はちょうどいい方法を知っている」

「何だ?」

「征空騎士の出番、ということだ」

 ポッペンはクェックェッと鳴いた。



 ポッペンの話によると、ソラトビペンギンの中でも飛行能力に長けたエリートは『征空騎士』の称号を授かるらしい。

 彼らの多くは故郷を遠く離れ、見聞を広めたり出稼ぎをしたりする。

「まあ口実は適当で、本当はみんな好き勝手に飛びたいだけなのだがな」

 ダメペンギンの集まりか。



 ポッペンは足首に発信器を付け、腹ごしらえに冷凍アジをもりもり呑み込む。そうして旅支度を整えると、シューティングスターのハッチ前で俺に挨拶をした。

「昔の仲間たちに声をかけてくる。居場所のわかっている連中が何羽かいるのでな」



 俺は艦長として、ポッペンに挨拶する。

「わかった。くれぐれも気をつけてくれ。仲間と出会えなくても、無理せず戻ってくるように」

「ありがとう。そうさせてもらう」



 そこに七海がハッチ開放を告げる。

『艦尾ハッチ開放します。乗員はただちに退避し、安全装具の確認を行ってください』

「では!」

 ポッペンはハッチの隙間からスルリと飛び出すと、そのまま南の空へと飛び去っていった。



 それからまた、俺たちは「海の魔物」を探して内海を何日もぐるぐる航行した。

 ときどきカレンがやってきて「囮作戦思いついた! 私の船が海賊役になるから!」と言ったり、メッティが「襲われそうな船に乗って中継しよか? 海賊に襲われるんやったら慣れとるし」と言ったりするので、全部丁重にお断りする。



 そのうち、徐々に目撃情報が集まってきた。だが誰も「海の魔物」そのものは見ていないという。

「彼らが見たのは巨大な水柱と轟音、炎と閃光。そして粉々になって沈む海賊船か」



 巨大生物の襲撃にしてはおかしい。捕食行動が一切見られない。

 大砲がうるさくて鯨か何かが突撃してきたとしても、武装商船は大きいもので全長数十メートルある。ぶつかった方だって無事じゃ済まない。

 そもそも炎と閃光はどこから発生したのかという疑問が残る。



 かといって、自然現象でもなさそうだ。パラーニャには過去に同じような事件はひとつもない。急に自然環境が変化したということもなさそうだ。

 大砲の暴発や火薬の誘爆などの純粋な事故だとしたら、他のケースでも少しは発生していると思う。



 七海が鹿撃ち帽を被ってパイプを持ち、探偵みたいに腕組みする。

『やはり艦長の見立て通り、相手は潜水艦のようですね。魚雷攻撃だと仮定すれば矛盾しません』

 やだなあ。せっかく文明水準が低い世界でハイテク軍艦乗り回して悦に入ってるのに、ハイテク軍艦が出てくるのは反則だろ。

 ただ幸い、あっちは潜水艦だ。



 残る問題は、どこの世界から来た潜水艦なのか、ということだ。

 重力推進機関で空を飛ぶシューティングスターを避けているのだとしたら、重力波を察知している可能性が高い。俺の世界の潜水艦には、そんな装置はついてない……と思う。

 やっぱり七海の世界から来たのかな。



「ところで七海の世界じゃ、潜水艦は空を飛ぶ?」

『うーん、求められる能力がぜんぜん違うので無理ですね。浮力と水圧を考慮して構造計算してますので、重力推進装置の影響下では変な力が加わり、耐圧殻に負荷がかかります』

「飛空艦は逆に水圧がかかると壊れるから、お互い様ってとこだな」



『あと重力推進機関は発電機にもなりますが、不自然な重力波がダダ漏れなので潜水艦の主機としては不向きです。潜水艦は隠れるのが一番大事ですから』

 そのため低出力の重力推進機関で重力波を偽装しつつちまちま発電し、バッテリーに蓄えた電力で航行するのが限界らしい。もちろん空は飛べない。



「原子力発電は?」

『原子力……ああ、核分裂ですか。研究用に何基かありますけど、まさか艦長の世界ではあれを軍艦に載せてるんですか?』

「載せてるよ! 悪かったな!」



 七海の世界では重力推進なんていう便利なものが先に見つかったので、原子力関係のスキルツリーは放置状態らしい。お金にならないと誰も研究しないのは、異世界でも同じか。

「何にせよ、潜水艦なら空は飛べない。こっちが圧倒的に有利だな」

 シューティングスターに潜水能力はないが、いざとなったら飛んで飛んで逃げてしまえばいい。潜水艦じゃ絶対追いつけないだろう。



「ところで七海の世界では、潜水艦は飛空艦を攻撃できたりする?」

『VLSを搭載した艦でしたら可能かと』

「なにそれ」

『垂直発射式のミサイルランチャーですよ』

 ゲームで見たことあるような気がするな。カッコイイやつだ。



 しかしそれだと、少々まずいことになる。

「その場合、シューティングスターにとってはかなりの脅威だな」

『海上を航行しているときに、いきなり攻撃される危険性がありますからね……』

「だとしたら、他の可能性よりも優先して検証する必要があるな。この艦を沈められたら、俺もお前もおしまいだ」



 七海は青い顔をして、おろおろと画面上をうろつきまわる。

『そ、そうでした。艦長、ただちに追跡作戦を開始しましょう!』

「落ち着け。ポッペンの帰りを待て」

 しばらくはメッティの送迎もできないな。



「焦っても仕方ない。当面はエンヴィラン島で警戒態勢だ。ポッペンが帰ってきたら、あいつに偵察を頼もう」

 友よ、早く帰ってきてね。



   *   *   *



 私は艦の頭上を確認しながら、部下に問う。

『任務を続行できそうか?』

『問題は見あたりません、艦長。人工重力波は検知されなくなりました。また本艦は依然として、温度境界層の下に位置しています』

『よろしい』

 敵のアクティブソナーを警戒しなくてもいいのは大変助かる。

『ならば戦争を再開する』


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