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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第12章(全6話)

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栄光の次席・5

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 俺は今日も、メッティの講義が終わるのを待っている。子供の平穏な日常を守るのは、大人の責任だ。

 でもメッティに怒られると困るので、今日は一人で来た。

 ただし、無人偵察機『モスキート』三機と無人攻撃機『ホーネット』二機を連れてきている。



 モスキート三機の索敵範囲が重なり合う三角形を作り、その中でメッティをガッチリ守る作戦だ。有事の際にはホーネットが二機出動し、連携攻撃で危険を排除する。メッティだけでなく、大学職員と学生たちも守りたい。

 俺も『バシュライザー改』を持ってきたし、何があろうが勉強の邪魔はさせないぞ。



 ただ暇だ。

 俺は大学の中庭で暇を持て余し、七海にお願いする。

「シューティングスターのデータベースから何か面白い本をダウンロードしてくれ。この眼帯で読む」

『了解しました。こういう本ですか?』

「いや、ここで読んでどうする……。艦長室のタブレットに入れといて」

『はい、三冊ほど入れときますね』

「ありがとう」

 いやあ、今夜が楽しみだな。



 代わりにダウンロードした『やさしい戦術入門~基礎から学ぶ武力闘争~』と『波乗り量子力学』、あと『積分いい気分』とかいう本を読む。

「知的でバカなのが一番覚えやすいな」

『艦長の嗜好や学習傾向がだんだんわかってきましたから』

「いろいろすまないな」

 少しは勉強しないと、メッティの話相手にもなれないからな。



 ベンチに腰掛けて右目を閉じ、左目だけで読書する。

 七海の世界の電子書籍は、挿し絵として動画や3D映像もついている。萌えフィギュアの断面積を積分でどうのこうのという話を熱心に読んでいると、画面に接近アラートが表示された。

 メッティじゃないな。



 周辺に展開しているモスキート偵察機から、背後の映像が送られてくる。

 あのお嬢様っぽい黒髪の美少女は、ええと……。あ、サリカ・ユイ・アソンか。メッティの同級生だな。貴族の跡継ぎで、とてもいい子らしい。

 俺は彼女を驚かせないよう、振り向く前に声を発しておく。



「サリカさんだな」

「えっ!? わ……わかるん、ですか?」

 あ、しまった。気づかないふりして、呼びかけられるまで待ってりゃ良かったんだ。

 俺は内心しまったと思いつつ、読んでいたページにしおりを入れてファイルを畳む。



 眼帯型ゴーグルのことは部外者にはあまり言うなと七海から釘を刺されているので、適当にごまかさないと。

 振り返った俺は、サリカに軽く手を挙げた。

「いつも誰かの気配に怯えている臆病者でな。悪く思わないでくれ」

「い、いえ……」



 もう少し他の説明方法はなかったのかと自分でも思うが、七海とメッティがパラーニャ語翻訳ソフトのアップデートを全力で拒否しているのでどうにもならない。

「メッティならまだだ」

「あっ、きょ、今日は……その、かん……艦長さんに御相談があって参りました」

 しどろもどろではあったが、サリカは俺を真剣な目で見つめている。



 何だかよくわからないけど、話があるなら聞こう。メッティの大事な学友だ。

 サリカはだいぶ緊張しながらではあったが、こう切り出す。

「艦長さんのことは、メッティさんからいろいろ聞いています。学者顔負けの知識があり、とても誠実で誰にでも優しい方だと」

 知識は現代日本人としては普通だし、特に誠実という認識はないし、優しい訳でもないと思うが、否定して話の腰を折るのも悪いので真顔のままで聞く。



「それでどうしても、相談に乗って頂きたくて……。あの、艦長さんがメッティさんと最初に会った頃って、メッティさんは秀才でしたか?」

「もちろんだ。彼女は当時から語学や史学に長けていた。数学や化学のセンスも抜群で、すぐに覚えたな」

「ああ……」

 なんでしょんぼりしてるの。



 サリカはそっと吐息を漏らし、哀しそうな瞳でこちらを見つめてくる。

「やはり私のような凡人がどれだけ努力したところで、努力する天才には勝てないのでしょうか」

 天才というと生まれつきの才能だけで生きていくような印象があるが、サリカは天才が多大な努力をすることをちゃんと理解しているようだ。賢いな。



 だとしたら、俺も変な気遣いはやめておこう。

「努力しない天才になら勝てるだろうが、天才は努力した人々のことを指す。そして努力する天才には誰も追いつけない。だが君が素晴らしい学生なのはメッティから聞いている」

「でも次席ですし……」

「次席も十分立派だろう」

「それはそうなんですけど……」



 しょんぼりしているサリカ。俺みたいな怠け者は次席でもかっこいいじゃんと思うんだが、やっぱりサリカのように真剣に取り組む子は首席にこだわりがあるんだろうな。

 サリカは少しずつ、自分のことを語り始めた。



「私は今まで、同年代の誰にも学問で負けたことはありませんでした。アソン家の初代当主が高名な学者でしたので、学問に秀でていることは私の誇りです」

 学者の家系なんだな。メッティから聞いたけど、古代なんとか帝国の頃から貴族なんだそうだ。千年ほどの歴史があるという。



「私は精一杯努力しました。でもメッティさんにどうしても勝てないんです。私の努力や資質なんてこの程度だったのかと……」

「無意味だったと思うのか?」

「そこまでは言いませんし、努力でつかみ取った次席に誇りは持っています。けれども私はメッティさんと違って大勢の家庭教師から教えを受け、実家には貴重な蔵書が山ほどあります。私の方が遙かに恵まれた環境だったのに、メッティさんにはそれでも及びませんでした……」



「心配するな。メッティも数学や化学の知識を身につけたのは、一年前に俺と出会ってからだ。そこからの彼女の学習環境は非常に恵まれている」

 といっても俺は何にも教えてないので、大人としてダメな気はしている。

 だからダメな大人なりに、立派な若者にはなんかエールを送りたい。



「それに世の中は一番の人間だけで動いている訳ではない。仮にメッティ以外の学生を全て放校したら、この国の学問はどうなる?」

「いずれ大変なことになってしまいます。メッティさんといえども、全ての学問を研究することはできません」

 俺はフッと笑った。

「なんだ、君はわかっているじゃないか」



「どういう意味でしょうか?」

 きょとんとするサリカに、俺は説明する。

「次席やそれ以下の人間もいなければ、この国は成り立たない。一人に全てを託すことはできないからだ」

 一人の英雄が時代を切り開いたとしても、それを支える者や後に続く者たちがいなければ無意味だ。



 俺たち凡人に大きな貢献はできないかもしれないし、その人生は栄光とは程遠いともしれないが、それでも何かはできるはずだ。

 ましてやサリカほどの秀才なら、大きなことを成し遂げるだろう。

「人間の能力や価値は単純に数値化できない。だから序列に拘泥しても意味はない。俺はこの国の人間ではなく、身分の序列で言えば平民以下の最下層だが、そんなことは気にしていない」

 エアコンつきの寝室と、尊敬できる仲間たちがいる。俺ランキングではもはや俺史上最強といってもいい。



「でもやっぱり、メッティさんを意識してしまうんです。あの子に勝ちたい。勝てなくてもいいから、追いつきたいと思っています」

「君ならできるさ」

 メッティも別に天才って訳じゃないから、追いつくぐらいは十分できると思うけどなあ。何ならうちで勉強する?

 ああそうだ、これを言っておこう。



「そんな君に頼みたいことがある」

「な、何でしょうか?」

 サリカがぐぐっと身を乗り出してくるので、俺は笑ってみせた。



「メッティのライバルになってやって欲しい。あの子の良き競争相手、良き理解者になってやってくれないか」

 俺は立ち上がり、サリカに頭を下げる。

「君はいずれ、学問で名を遺す人間になるだろう。そういう友人があの子には必要だ。勝手な言い分だが、どうか頼む」

「わっ、わわっ!?」



 サリカが変な悲鳴をあげているので顔を上げると、彼女は耳まで真っ赤になっていた。

「お顔を上げて下さい! 私はそんな立派な人間ではありませんから!?」

「何を言う。君は大したヤツだ。君はパラーニャ大学入試で首席を争った秀才中の秀才、それも正々堂々と努力でつかみ取った栄光ある次席だろう」

 メッティが未来の学問でブーストされてるからおかしいだけで、サリカも同じぐらい凄い。

 こんなくたびれたおっさんやポンコツ軍用人工知能や武闘派のペンギンより、ずっとメッティに近い存在だろう。人柄も申し分ない。



「未来の君の値打ちを、今の君が決める必要はない。君は君が思っているよりも、ずっと凄いヤツなのかもしれないぞ」

「私がですか……?」

「君が自分を未熟だと思っているのなら、なおのことだ。未熟者が思い描ける未来など、たかが知れている。未来の君を信じろ」

 少なくとも俺には、君が果てしなく伸びていく未来しか見えないよ。



 ちょうどそのとき、メッティが向こうからやってきた。背後にサリカの友人、ポーリンとピッレも連れている。

「サリカさん、そこにいたんですか」

「サリカ様ー、メッティさんがお菓子焼いてくれたんだってさ」

「シューティングスターには凄いキッチンがある……ん?」



 俺に気づいたポーリンとピッレが、なぜか顔を見合わせる。

「あれ? 海賊騎士さんと一緒?」

「え? まさか本当に略奪愛計画を発動しちゃったの?」

 サリカが真っ赤になったまま、慌てて手をぶんぶん振る。



「ちっ、違……違う……」

 彼女の友人たちがニヤニヤ笑う。

「おんやぁ?」

「ほほう、これはこれは」

 ポーリンとピッレが疾風のような素早さでサリカの左右に回り込み、頬をつんつんつつき始めた。



「もしかしてサリカ様の初恋ですかぁ?」

「子爵令嬢が流浪の英雄との禁断の恋なんて、中世の騎士物語みたいでイカス!」

 サリカの背中をグイグイ押して、俺の方にくっつけようとしてくる二人。

 やめてあげて下さい。その子は単に人生相談に来てただけです。

「わた、私は艦長さんを尊敬してるだけで……」



 サリカが泣いてしまいそうな顔をしているので、ちょっと困った俺は二人を止めた。

「よしなさい、親友といえども言うべきではない冗談はある」

「はっ、はいい!」

「すみませんっ!」

 凄い勢いでポーリンとピッレが離れ、なぜか俺に敬礼までした。こういうところは、やっぱりみんな十代の子供なんだなと思う。



 ここは軽く笑いを取って雰囲気を変えとこう。大人の気配りってヤツを見せてやる。

 俺は子供たちの悪ふざけにつきあうつもりで、帽子を脱いで恭しく一礼した。こう見えても俺は「噛ませ犬のキザな悪役」なら演劇部で二番目に上手かった。俺もまた栄光ある次席なのだ。

「神聖な学び舎に、俺のような無法者は似つかわしくない。お嬢様方、海賊騎士はこれにて失礼いたします」

 会心の出来だ。これなら爆笑は確実だろう。



 そう思って顔を上げたら、サリカがよろめいて友人たちに支えられていた。

「サリカ様が死んだーっ!?」

「腰が抜けてるだけだよ! 私が支えるから、ピッレはベンチにハンカチ敷いて!」

 笑いは取れなかったし、後でメッティにめちゃくちゃ説教された。

 なんでだ。

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