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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第12章(全6話)

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栄光の次席・4

085



「あかんやろ、あれは。みんなびっくりしとったやん」

 メッティが溜息をついているので、俺はうなだれる。

「申し訳ない」

「艦長が一人で迎えに来るんやと思っとったわ」

「一人で迎えに行っただろ?」



 メッティはまた溜息をつく。

「シューティングスターごと来とったやん」

「そりゃ俺一人じゃ、メッティのボディガードなんて無理だし。ポッペン連れて行ったら騒ぎになるし」

 首都のど真ん中にあんな珍しい種族がいたら、かなりの騒ぎになると思う。



 だからこそ、大学正門前にシューティングスターを乗り付けて、空挺降下で確実に回収した訳だ。

 俺の目から見ると首都ファリオも十分物騒であり、とてもじゃないがメッティを一人で歩かせられない。大通りを一本外れれば、スリや追い剥ぎが平気で出てくる。

 しかしメッティには、俺の親心は理解できないようだ。



「過保護やねん、艦長は。もうちょっとクルーを信用して欲しいわ」

「信用はしてるけど、やっぱり心配だろ」

「一人で百人相手に大立ち回りする人間が何を言うとるねん……」

 一人じゃないし。ポッペンいたし。

 あと俺もバシュライザー改で変身してたし。



「とにかく艦長、明日からはああいう派手な出迎えは勘弁して。そんなに心配せんでも、町外れぐらいまでやったら歩いて行けるから」

「町外れまでって、だいぶあるだろ。特に城門を出た後はゴチャゴチャした下町だし、治安が悪い。ダメだ。絶対ダメ。大家さんとして許しません」

 顔見知りが多く治安が良いエンヴィラン島と違って、首都ファリオはやっぱり怖い。許可できない。



 こうして俺はメッティに文句を言われながらも、毎日お迎えを続けることにしたのだった。

 絶対に過保護じゃない。



 そして翌日。

「ほんまに来よった……」

 げんなりしているメッティを出迎える俺。

 そしてポッペン。

「増えとるやん!?」



「艦長の頼みとあっては断れんよ、メッティ。それに君は私の大切な戦友だ。艦長と気持ちは同じだ」

 上空のシューティングスターでは、七海もうんうんとうなずいている。

『市街地での要人警護は私の専門外ですからね。艦長のおっしゃる通り、ここは慎重に行動しましょう』



 メッティは大変お怒りだ。

「みんな過保護やねん! ちゃんと大人扱いして!」

「大人とか子供とかじゃなくてな」

 お前が八十歳のおばあちゃんだったとしても、俺はやっぱり迎えに来るぞ。当たり前か。



 それはそれとして、さっきからメッティの周囲には女の子たちが群がっている。

「うっわー、本当に海賊騎士だ……」

「あの変な鳥みたいなの可愛い! なんかしゃべってる」

「知らない言葉ね。ベッケン語でもライデル語でもないし、強いて言えば古代イシュカル語に少し近いような……」



 メッティと同年代の、それも結構身なりのいい女の子たちが三人。

「メッティ、さっそく友達ができたようだな」

「ちゃうで。なんかようわからへんけど、ライバル視されとるみたいや」

 すると女の子の一人が、メッティに声をかけてきた。



「ねね、メッティさん。私たちを海賊騎士さんに紹介してよ。あ、できればパラーニャ語でね」

「あ、はい。いいですよ」

 日本語だと関西風の訛りがあるメッティだが、母国語であるパラーニャ語は全く訛りがない。しかも丁寧だ。



 メッティはパラーニャ語を使って、俺に少女たちを紹介してくれた。

「艦長、こちらはアソン子爵家のサリカさん。こちらが学友のポーリンさんと、ピッレさん。サリカさんは入試で次席だったんですよ」

 おお、凄いな。メッティがいなけりゃ、この子が首席だったのか。

 しかも貴族なのに、ちゃんと入試を受けているのが偉い。



 俺はそんな彼女たちに敬意を示すため、雷帝グラハルドの船長帽を脱いだ。パラーニャ王室で何度も見た礼儀作法を思い出しつつ、丁寧に礼をする。

「はじめまして、サリカ、ポーリン、ピッレ。俺はメッティの友人だ。故あって名乗ることができないが、パラーニャの人々は俺を『海賊騎士』と呼ぶ」

 演劇部仕込みの所作、うまくいっただろうか。



 よく見ると、サリカたちは恥ずかしそうにしている。どっか失敗したか?

 いや、そうではないようだ。

「ひょわああぁ……かか、海賊騎士かっこいい……」

「あ、握手していただけませんか?」

 ポーリンとピッレがグイグイ寄ってくるので、俺はなるべくそっと握手する。あんまり長時間かっこよくしてると、化けの皮が剥がれてしまう。



 一方、サリカは遠い目をしていた。俺を見ているようだが、実際はどこも見ていない。

「これが……メッティさんの憧れの……。あっ、こらあんたたち! 海賊騎士様から離れなさい!」

「えー? いいじゃん、握手ぐらい」

「そうだよ、サリカ様。ほらサリカ様も握手してもらいなって」

 ポーリンたちが笑うが、サリカは二人を俺から引き離す。



 それから俺たちに背を向けると、こしょこしょ囁いた。

「いい? メッティさんの想い人なんだから、邪魔しちゃダメでしょう!?」

「挨拶ぐらいはいいんじゃない?」

「ダメ! メッティさんと海賊騎士様の間の神聖な空間が汚染される!」

「なにそれ……」

「私たちは観測するだけでいいのよ。目だけに……いえ、そのへんの地面になって見守っていればいいの!」

 あの、全部聞こえてます。この眼帯型ゴーグル、集音性能も結構いいから。



 よくわからないが、サリカはメッティをライバル視というよりも神聖視しているような感じだ。

 七海がそれを見て、ふむふむとうなずいている。

『日本語の会話は彼女たちにはわかりませんし、艦長とメッティさんは神秘的な存在に見えるんでしょうね』

 関西弁で漫才やってるだけなんだけどな。



 まあいいや、多感な年頃の子だ。夢を壊したらかわいそうなので、俺は早めに撤収することに決めた。

「帰ろうか、メッティ」

「せやな。重要な手がかりもつかんだことやし」

「重要な手がかり?」

 するとメッティはニッと笑った。

「異世界の話や」



 シューティングスターに戻り、エンヴィラン島への帰路に就きながら、俺たちは士官食堂で早めの夕食を摂る。

 そのついでに、メッティが今日の講義の内容を教えてくれた。

「世界学概論の講義内容を、簡単にまとめてみたで」

 メッティのノートがモニタに映し出される。

「昔からこの世界には異世界から人や物が結構来とったんやけど、その理由について仮説がいろいろあるみたいや。どれが正解かはわからんけど」



 神や悪魔など、大いなる意志が異世界から使者を送り込むのだとする説。

 複数の世界は常に隣接しており、偶発的な綻びや人為的な技術によって異世界から人がやってくるという説。

 異世界はこの世界に内包されており、普段は見えないだけで常に存在しているとする説。



 よくもまあ、これだけいろいろ考えついたもんだ。

 だがどれも仮説であり、実証には至っていない。異世界から来た者たちに直接問いただす機会が少なく、質問してもはっきりした答えが得られないからだという。

 そういや俺もそうだな。



「せやけど艦長や七海の場合、自分で来ようと思って来た訳とちゃうやろ? おまけに二人の世界は似とる」

「そうだな」

『狩真さんの世界も似てるんですよね。まさかSDカードが全世界共通だったなんて』

 七海が妙なところに感心しているが、確かに変な話だ。



 メッティはアジフライをもぐもぐ食べながら、こう力説した。

「せやから図書館に行って、仮説を全部調べてみたんや。明らかに違うのを除外していって、残ったものを見とったら面白そうなのがあった」

「ほう」

 メッティのノートに書かれているのは「超かご仮説」という文字だった。

 超ひも理論じゃなくて?



「世界を歴史の流れで捉えて、一本の線として考える仮説があるねん。その仮説からさらに発展して、いくつもの世界の線が交差して絡み合って、互いに影響を与える。それが『超かご仮説』や」

 別に『超』いらなくない?

 そう思ったが、とりあえず黙って続きを聞く。



 メッティはさらにこう言う。

「この仮説やと、近い世界同士は頻繁に交差するんや。艦長の世界と七海の世界、それに狩真の世界は、見た感じだいぶ近いやろ?」

「お、おお。確かにな」

「それにこの世界は、艦長たちの世界で言えば何百年か前の外国に似とるらしいやん? 少しズレとるけど、やっぱり近い世界なんやと思う」



 だとすればお互いの世界は過去に頻繁に交差し、これからも交差するってことになるな。帰れる希望が出てきた。

「ちなみになんで『かご』かというと、複雑に立体交差して互いの軌道を曲げとるからやな。少し数学が絡んできてややこしいんやけど」

 あ、数学はいいです。



「じゃあ世界の線同士が交差するタイミングで、俺や七海はこの世界に吸い寄せられた訳か」

「たぶん……」

 なんてついてないんだ。いや、最近はむしろラッキーだったような気がしている。ちょっとだけ。

 俺は腕組みして、メッティのノートを見つめた。



「俺や七海は、この世界をどう変えていくのか……」

「いや、もうだいぶ変えとるやろ?」

 それもそうか。

 ポッペンが生のアジを丸呑みしてから、少し残念そうにつぶやく。



「では次に世界と世界が交差するとき、艦長は元の世界に帰れるという訳だな」

「そういうことになるな。七海、これ予測できそうか?」

『座標を持った線に置き換えられるのなら、多少複雑なものでも弾道計算プログラムとか軌道予測プログラムとかを使えば何とかなりそうです。ただ、設定する値や関数がわからない以上、何を計算すればいいのやら……』

「まあそうか」

 どんな凄いプログラムがあっても、値を入れないと答えは出てこない。



 俺は少し考え、それから笑った。

「しょうがない。次のタイミングがわかるまで、気長に待つか」

『そうですね。まだ仮説の段階ですから、この説の検証自体が必要です。まだまだ道のりは遠いですよ』

 七海が苦笑して、それから俺たちに頭を下げた。

『でも御協力に感謝します。帰還の可能性が少し見えてきただけでも、かなり心強いです。ありがとうございます』



 メッティとポッペンも笑う。いや、ポッペンは表情が読めないが。

「帰れる可能性はあるし、帰った後にまたこっちに戻ってくることもできそうやな。楽しみが増えたわ」

「それなら私もいつか、艦長の世界に行ってみたいものだな」

「機会があれば招待しよう。よし、とりあえずメシだ、メシ」



 レモン汁と塩で味付けしたアジフライをかじりながら、俺はいつか来るかもしれない別れのことを考える。

 まだ、みんなと離れたくないな。

 そう思った。


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[一言] お嬢様が限界オタクみたいになっとる……w 可能性は見えたけど、その交差頻度が彗星並みでも待てないな……うーん。
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