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死の狩人・7

※今回は短いので2話同時掲載です。

069



 バフニスク連邦軍の飛空艦格納庫。

 恐ろしく広大な地下空間は、奥まで見通すことができない。申し訳程度の照明のせいだ。

 だが見渡す限り、そこに飛空艦の姿はなかった。



 ポッペンがキョロキョロと左右を見回し、それからつぶやく。

「いないな」

 格納庫には艦艇を格納すると思われる、巨大な窪みがいくつもある。数えてみたら、全部で九隻分あった。

 だが一ヶ所以外は全部空っぽだった。



 一ヶ所だけ、それっぽいものが安置されている場所がある。

「ダークギア、これはシューティングスターによく似ているな」

 狩真が飛空艦らしい物体を見上げるが、七海が否定した。

『シューティングスターは、こんなに怖い顔してませんよ? それにもっとスタイルがいいです』

 違いがわからん。



「七海、こいつは何だ?」

『あ、えーとですね……。バフニスク連邦軍の有人型巡航艦です。無人艦の指揮を担当する旗艦仕様だと思われます』

 無人艦?



「お前たちは無人で航行したら怒られるんじゃないのか?」

 すると七海は肩をすくめてみせた。

『一応、人間が一人だけ乗る場所がありますので、そこに名前だけの艦長を積むみたいですよ』

 積むって。

『だいたい懲罰部隊の兵士だそうですが、勝手なことをしないように生命維持装置に組み込んで最後まで戦闘させるみたいです』



 生命維持装置『を』じゃなくて、生命維持装置『に』なのが恐ろしい。

 想像するだけで怖くなってきた。

「いいのか、それで」

『どのみち、条約が守られないのはザラですから……。実は私も、あっ、なんでもありません』

 おい、最後まで言え。



 まあいいや、それよりも気になるのは空白の八隻分だ。

「七海、もしかしてここには無人艦が八隻いたとか?」

『どうでしょうね……。その可能性は高いと思うんですが、記録を調べてみないとわかりません』

 問題はそいつらが「いつ」「どこで」出航したかだ。



「まさかこっちの世界に来てから、勝手にどっか行ったんじゃないだろうな?」

『それもわかりません……』

 専門外だからしょうがないか。

 非常に不安になるが、とにかく今は敵がいない。



 有人艦は完全に無人で、動力も停止していた。七海の見立てによると、そもそも稼働できる状態ではないという。

『たぶんこれ、整備の途中ですね。あっ、航法システムのセキュリティが空っぽになってる。ラッキー!』

「何をするつもりだ」



 紙袋を被ってごそごそやっている七海が、紙袋の穴から目だけ覗かせる。

『今のうちにシステムにこっそり侵入して、バフニスク軍の機密を拝見しちゃおうかなって……』

 後で国際問題になっても知らないぞ。



 とりあえず当面の脅威はなさそうなので、俺たちは狩真の用事を手伝うことにした。

 ライデル連合王国内のゾンビパニックを終わらせるには、ゾンビ化の原因となる『博士のウォトカ』をどうにかするものが必要だ。



 俺はバフニスク連邦軍の有人艦を見上げた後、仲間たちを振り返った。

「ここは後回しにして、次は医務室を調べてみよう。あと食堂と倉庫もな」

「わかった」

 狩真とポッペンがうなずいた。



   *   *   *



 そして俺たちに、別れの時がやってくる。

「『博士のウォトカ』に関する手引書のようなものを、いくつか発見できたのは幸運だった。艦長、君のおかげだ」

 狩真は笑顔で書類をブリーフケースにしまう。もちろんコピーは取らせてもらった。



 俺の方も笑顔だ。

「悪いな、バシュラン化に関する研究資料を全部コピーさせてもらって。大切なものだろう?」

「いや、知識は広めてこそ意味があるものだ。役立ててくれ」

 狩真は気にした様子もない。



「本当は私がパラーニャまで出向いて、ニドネに説明できれば良かったのだが……」

「そこまで頼る訳にはいかないだろう。お前はお前で、なすべきことがあるはずだ」

「そうだな。それにしても、私の世界と七海の世界、それに君の世界の全てで、電子機器の規格が同じなのには驚いた。不気味だ」



 俺も狩真がマイクロSDカードを差し出してきたときには、正直言って驚いた。

 でも考えてみたら、俺も自分のスマホをシューティングスターで充電している。洗濯機にしてもエアコンにしても、操作するときに違和感はない。

 バシュライザーの充電も普通にできた。異世界同士なのに変な話だ。



 俺は肩をすくめる。

「その辺りに、元の世界への手がかりがあるのかもしれないな。こちらでも調べてみよう」

「ああ、楽しみにしているよ」

 狩真はうなずき、それからふと寂しげな表情になる。



「しかし君と別れるのは、正直惜しいな。世界は違っても現代の日本人同士、しかも君は教養ある人物だ。話が合った」

「俺はこっちで海賊扱いされてるような男だから、教養なんてものは持ち合わせていないが……」

 俺は船長帽を脱ぎ、頭を掻く。



「お前みたいな頭のいいヤツには、凡人にはわからない苦悩があることは何となくわかる。これからもお前は苦しみ続けるだろう」

「……ああ」

 狩真は素直にうなずき、こう続ける。



「人の心はこんなにも美しいのに、人の作る社会は恐ろしく不完全で醜悪だ。改善すべき点は明らかなのに、決してそれを選択しようとしない。そして有史以来、しなくてもいい苦労で苦しみ続けている。それがもどかしい」

 わかるような、わからないような悩みだ。というか、はっきり言ってわからない。



 だが俺は何となくうなずいておく。

「お前自身が持て余すほどの苦悩を、凡人が受け止めきれるはずもない。だからお前はその苦悩、心の闇をずっと抱えて生きていけ」

 するとポッペンがクェークェーと口を挟む。

「艦長、さすがにそれは厳しすぎないか?」



 しかし狩真は首を横に振る。

「いや、そう言ってもらえると、むしろ気が楽になる。人はわかり合えないが、だからこそ言葉を尽くし、少しずつでも歩み寄る努力が必要なのだ」

 あ、それはよくわかるな。ここぞとばかりに、うんうんとうなずく俺。



 狩真は晴れやかな笑顔で俺に手を差し出してくる。

「私は君を尊敬している。バシュカイザーはそのまま使ってくれ」

「ありがとう。俺もお前は凄いヤツだと思っているよ。戦力が必要なときは呼んでくれ」

「ああ、そのときは世話になる。ありがとう、また会おう」

「もちろん」

 俺は狩真の手をしっかりと握り返した。


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― 新着の感想 ―
これ、主人公が元の世界に戻れても異様に戦闘慣れしていて、変身できる異世界帰りの変身ライダー(メカニックな海賊コスプレ)とかいう謎の存在なのは確定していて草
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