英雄伝「再びの眠り」
027「再びの眠り」
……これらの実験結果により、「バシュラン化現象は土壌中の極小生物による感染症」というニドネ仮説は、ほぼ立証できたものと考えている。
今後はニドネ仮説に基づき、予防法および治療法の確立を急ぎたい。
現時点では治療法は存在せず、予防法としても土壌に食塩を散布する措置が執られているが、この方法では農地への被害が大きく、より効率的な手段が必要である。
感染者への有効な措置も限られており、この感染症との戦いは端緒に就いたばかりである。
原因となる極小生物についても、本格的な研究が必要であろう。
以上をもって本書を終えたいと思うが、最後に個人的な感謝を述べさせていただく。
この長年に渡るバシュラン病の研究に、道筋をつけてくれた人物がいる。
彼の名を記したいのだが、『艦長』としか名乗ってくれなかったため、ここでは『エンヴィラン島の親友』という一節を勝手ながら付け加えさせていただく。
エンヴィラン島の親友、艦長には、研究の支援ならびに助言を多数賜った。
彼の知識と発想、そして不屈の勇気に支えられたことを改めて記し、感謝の意を表したい。
彼の支えなくしては、この研究を人類の発展に寄与させることは不可能だっただろう。
いずれバシュラン病は予防と治療だけでなく、新たな利用法を模索する段階にも入ると思われる。
艦長の言葉を借りるならば、これが「困難な環境に人類が適応するための備えのひとつ」となりうるからだ。
一方で、「人の道を外れた利用法が生み出されないよう、謙虚かつ慎重に扱うこと」も必要となるだろう。
私は彼の言葉のひとつひとつを、決して忘れない。
この研究が後世に真の知恵と慈悲をもって役立てられるよう、祈ってやまない。
なぜならば、この力を誤った方法に用いれば、今度こそ我々は滅び去るであろうから。
この書を読む者全てが私と同じ志を抱くよう願いつつ、筆を置くこととする。
本書をエンヴィラン島の親友、我が艦長に捧げる。
※ニドネメモ:大学提出用は、これより後の部分を削除しておくこと(絶対!)
……しかしだね、君は本名ぐらい名乗っていくべきだったと思うよ。
私をこんなもどかしい気持ちにさせたまま、悠久の時の中に私を置き去りにしてしまったんだから。
君は尊敬すべき賢人だったけどね、そういうところはちょっと感心しないな。
あ、しまった。
そういえば私も本名教えてなかった。
ああ、艦長にもう一度会いたい。時の流れを戻すすべはないのだろうか。
だけどようやく、バシュラン病も寛解が期待できる時代になった。
長かったよ。
あと何十年か研究を頑張れば、私も元の体に戻れるかもしれない。
そしたら私も普通の人々と同じように、老いて死ぬことが……つまり、二度寝ができるはずだ。
今度こそ見られるであろう永遠の夢の中で、君に会いまみえんことを祈るよ。
……なんだか恋文みたいになってしまったね。
でも私の本当の気持ちは、ここに遺しておこう。
ああ、死にたい。
いろんな意味で。
※次回から週2回更新となります。次回更新日は10月16日(月)です。