英雄伝「黒翼の騎士」
019「黒翼の騎士」
諸君、私の顔を覚えているかね?
そう、ポッペンだ。
もしかすると「嵐のポッペン」とか「黒翼の騎士」とか名乗った方が、通りがいいかも知れんな。
あー、いや……「空戦バカ」が一番よく知られているだろう。
ははは。
大きなお世話だ。
さてその空戦バカの私だが、人間たちにはほとほと愛想が尽きていた。
彼らは私を見た目で侮り、そして欺こうとする。酷い場合は捕まえて見せ物にしようともした。
もちろん、躾のなっていない人間たちには騎士道と道徳心というものをたっぷりとお見舞いしてやった。
結果的に人間たちの法律を多少破ったかも知れないが、まああれだ、どうせペンギンを罰する規定はあるまい。
それに人間たちの法律は、我々を守ってはくれないのだからな。私が法律を守る道理もあるまい。
だがいささか、疲れ果てた。
そんなときに、私はついに巡り会ったのだ。
あの「艦長」と名乗る、不思議な男に。
彼は他の人間たちとは、何もかもが違っていた。
まず、彼は嘘をつかない。常に正直で誠実だ。
そして無用の争いを好まない。彼がその気になれば人間たちの船……ああ、船を知らないか?
あれだ、泳げない人間たちが無理矢理海を渡るために作った、無駄にデカい木材の集合体だ。
ともかく彼は、その船を一瞬で何隻も撃沈できる。
それなのに、争いを避けようとする。
だがひとたび戦いが避けられないと判断すれば、寸毫の躊躇もなく彼は戦う。
『翼を広げた』彼の強さは圧倒的だった。
彼の『翼』は大空を征く無敵の船だ。
雷を降らせ、敵対した全てを焼き払う。
さらに、天を埋め尽くすほどの空飛ぶ怪物を操る。
私も一族の試練を乗り越え、征空騎士として認められた身だが、あれに勝てるとは全く思えない。
里の征空騎士全員で立ち向かったところで、一太刀浴びせることができる者はほとんどいないだろう。
そしてあの恐ろしいほどの巨艦は、我々の一撃で墜とせるような生易しい代物では決してない。
人間は畑を作り、家を作り、貨幣を作り、船を作り、大砲を作り、他にも様々なものを作る。
そしてあれほどの脅威を作り出せるとなれば、もはや我々に勝ち目はない。
ソラトビペンギンはいずれ、人間たちに征服される。
そう思った。
幸い、艦長はそのような悪事を企む男ではなかった。
むしろ我々の未来のために、見返りも求めずに協力を申し出てくれたのだ。
つくづく物好きな男だと思う。
お人好しで、軽はずみで、無謀だ。
そのくせ、言ったことには最後まで責任を持つ。
つまりどういうことかといえば、これこそが「本物の男」というヤツだ。
諸君も早く、本物の男になるがいい。
そして私と共に、ソラトビペンギンの街を作ろう。信頼できる人間たちと一緒なら、それは決して不可能ではない。
安心して子を育てられ、穏やかに老いていける場所を。
私は今ようやく、夢の入り口にたどり着いたのだ。
生涯を懸けて取り組む価値のある、男の夢にな。
……あー、こんなところかな。ありがとう七海、急に親切になったな。
しかしこれで、本当に声や姿が記録できてるのかね?
えっ? まだ録ってるのか? もういい、止めてくれ。
それより私も自分の歴史的名演説を見
< 録画を停止しました >