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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第2章(全9話)

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黒翼の騎士・7

017



 俺たちがエンヴィラン島に到着したとき、眼下には縦形陣を組んだ船団が停泊していた。

 あの船団、俺たちが出航したときに途中で見かけたヤツだな。

 海賊だとわかっていれば、さっさと撃沈してやったのに。



 七海が双眼鏡片手に報告する

『艦長、砲炎を確認しました!』

「くそ、間に合わなかったか!」

 すると七海が首を横に振る。

『いえ、それが……陸側からの砲撃です』

 なんですと?



 七海の説明によると、エンヴィラン島の港には大砲が四門備え付けられており、盛大にぶっ放して応戦中だという。

『おかげで敵艦隊は入港できなくて、遠距離から砲撃してるみたいですね』

「海賊の割に、意外と臆病だな」



 そこにポッペンが割り込んでくる。

「しょせんは弱者から奪うしか能のない連中だ。真の戦士の勇敢さなど持ち合わせていない。……あなたとは違って、な」

 そこで俺を無理に誉めなくてもいいです。



『艦長、島民による砲撃は散発的です。また火砲が旧式なのか、射程で劣っている模様です』

 海賊たちは反撃が届かないギリギリの距離を探りながら、慎重に接近しているようだ。

「まずいな、さっさとケリをつけるぞ」



 俺は腕組みすると、七海に攻撃命令を下すことにした。

 あれだ、五百五十ミリ……なんとか砲だ。なんだか忘れたので、副砲でいいや。

「副砲用意。警告なしで当てろ」



 大砲を担ぐCGを表示していた七海が、「おや?」という顔をしてこちらを見る。

『いきなり撃っちゃっていいんですか?』

「この状態で説得が通じると思えんし、海賊船の乗組員について考慮する余裕はない。港に被害が出ないよう、威力は前回より落とせ」

『了解しました』



 七海は敬礼し、モニタの中でよっこいしょと大砲を担ぎ上げる。

『五百五十ミリ湾曲光学砲、左舷一番砲門開放します。照準、敵艦隊二番艦。出力を演習モードに調整』

 俺は躊躇しなかった。

「撃て」

『了解、発射』



 その瞬間、湾曲する光の帯が三隻の船を薙ぎ払った。

 たき火に投げ込まれた藁のように、武装した帆船が一瞬で炎に包まれる。

「おおおっ!?」

 ポッペンが驚きの声をあげるが、俺はそのとき内心で心配していた。

 島の名物のタコ、大丈夫かな……。




 帆を張ったマストが盛大なトーチになり、瞬く間に焼け崩れて海面に没した。

 その頃には船体も黒焦げになり、火薬の誘爆らしい爆発が散発的に発生していた。

『なんか、中途半端にやったから地獄絵図になっちゃいましたね』

「明るい口調で言うなよ」

 乗員の被害状況はまだわからないが、あれだけの熱線をくらったら即死だろう。



「七海、海洋生物への影響は?」

『水蒸気爆発を起こさないようにしましたから、影響は海面付近に限定されると思います……たぶん』

 あまり自信なさそうに答える七海だった。

 後で怒られないといいんだけど。



 一方、ポッペンは小刻みに震えていた。

「艦長、今の壮絶な光の一撃は何だ!? 神話に語り継がれる神の雷のような……」

「ただの艦砲だ」

 本当はもう少し詳しく説明したいんだけど、まだ専門用語の辞書ファイルが完成してないんだよ。

 またいずれ説明しよう。



『敵艦三隻の轟沈を確認。敵艦隊全滅。全システム異状なし。砲門閉鎖、警戒モードに移行します』

「御苦労」

 俺は重々しくうなずく。

 命令するだけで全部片づくから楽でいいけど、毎回かなりの人数を殺しちゃってるんだよな。

 殺してる実感が全くないのが、ちょっとまずいと思う。



 ま、それはそれとしてだ。

「港の損害状況を調べるぞ。七海、要救助者がいないか確認してくれ」

『了解しました、艦長』

 派手にやっちまったからな。

 あとこの空飛ぶ軍艦のこと、ウォンタナたちにどう説明しよう……。



   *   *   *



 俺はいろいろなことにビクビク怯えながら着水し、ビクビク怯えながら下船したのだが、結果的には杞憂だった。

「おう、艦長さんだ!」

「あらあら、艦長さん! ありがとね!」

 古めかしい大砲をゴロゴロ引っ張りながら、島民たちがにこやかに手を振っている。



「あんたの船、すげえな! 空飛ぶ船の伝説は聞いたことがあったが、本物を見たのは初めてだよ!」

 伝説があるの?

 尋ねようとしたところに、横からしわくちゃのお婆さんたちが割り込んできた。



「それにしても艦長さん、ただの居候じゃなかったのねえ! あの憎たらしい海賊どもを、一発で海の藻屑にしちまうんだからさ!」

「これでウチの人たちも漁に出やすくなるよ。海賊がどうのとか言って、すぐにサボるんだから!」

「三隻も沈めてくれてありがとうね。大助かりですよ」

「いい魚礁になるよ、あれはね!」

 漁師のおかみさんたちが豪快に笑っている。



 俺はというと、この怒濤のパラーニャ語に翻訳が追いつかず、ものすごい勢いで流れていく日本語字幕のログを必死に追いかけていた。

「この人ったら平然としてて、ほんとに貫禄あるわねえ……」

「メッティお嬢ちゃんの話じゃ、この間も四隻沈めたばかりなんですって」

「あらやだ、艦長さんにとっては、いちいち大騒ぎするようなことじゃないのね……。アタシったら恥ずかしいわ」



 傍目には悠然と立っているように見えるかもしれませんが、俺は必死です。

 頼むからいったん会話を止めてくれ。ログが流れる。

 しょうがないので、俺は無言で静かにうなずき、もうちょっと口数の少ない人たちのところに行くことにした。



 大砲の後片づけを指揮しているのは、やはりメッティの父・ウォンタナだった。

「おう、艦長さん! すげえな、あの空飛ぶ軍艦は! どこから持ってきたんだ?」

「……拾った」

 エンヴィラン島の人たちは、俺が長文をパラーニャ語に翻訳するまで待ってくれない。

 だから俺は簡潔な表現に終始する。



 それが逆に面白かったのか、ウォンタナは豪快に笑った。

「拾ったのか!? はっはっは、どうやら訳ありのようだな! 心配すんな、俺も訳ありだ! 他にも訳ありの連中は結構いる。無理に聞き出したりはしねえさ」

「……感謝する」

 俺はもともと結構なおしゃべりなんだが、翻訳が追いつかなくてもどかしい。



 俺の視界の片隅で、七海が首を傾げている。

『艦長、思ったよりも島民の皆さんが友好的ですね?』

「本来なら怖がられたり怪しまれたりするところだが、俺はここに来てからずっと、おとなしくしてたからな」

 島民たちが内心では「こいつヤベえよ……」と思っている可能性はある。



 だが一方で、俺は街を攻撃していた海賊たちを一瞬で全滅させた。

 その前には、名士の娘であるメッティを救出している。

 だからそのへんを天秤にかけた上で「敵に回すと大変だし、今まで通りに接しておくのが一番いい」という結論に達したのではないだろうか。



 俺がそう七海に説明したところ、彼女はうんうんとうなずく。

『説得力のある仮説だと思います。でも一応、身辺には用心してくださいね』

「ああ、そうする」

 これまで通り、艦内で寝起きしよう。



 幸い、街には被害らしい被害は出ていなかった。岸壁の一部が損壊した程度で、石材さえあれば明日にでも直せるだろうという話だった。

 おそらくそれも、島民が俺に優しく接してくれている一因だろう。

 もし犠牲者が出ていたり、街が廃墟になっていたりしたら、俺は間違いなく追い出されていたはずだ。

 まったく海賊どもめ、ロクなことしないな。



 その夜は鬱陶しい海賊たちを全滅させた祝宴が開かれ、俺は主賓として歓待された。

 だがメッティは御機嫌斜めだった。

「なんで私を連れて行かへんかったねん」

 ふくれっ面の彼女に、俺は日本語で遠慮なく反論する。



「子供を戦場に連れて行けないだろ?」

「子供扱いせんといてって、なんべん言うたらわかるねん」

 パラーニャでは成人かもしれないけど、俺の郷里では君はまだ子供だよ。

 俺は苦し紛れに、フッと笑ってみせる。

「お前は学生で、まだ何者にもなっていない。お前が何者かになったとき、俺と共に戦ってくれ」

 それまでに元の世界に帰るけどな。



 メッティは俺をじっと見て、何度か瞬きした後に真顔でうなずいた。

「う、うん……。せやな、わかった」

 お、やけに素直だな。

 子供は素直なのが一番だ。

 俺は安堵の笑みと共にうなずき返す。

「それでいい」



 命の値段がバカみたいに安い世界なんだろうけど、大人が殺し合いしてるところに子供を連れて行きたくないんだよ。

 俺は島民たちが注いでくれる酒をちびちび嘗めながら、でもあまり子供扱いするのも良くないのかな、などと少し悩んでいた。

 微妙なお年頃だからな。


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