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脇役艦長の異世界航海記 ~エンヴィランの海賊騎士~  作者: 漂月
第14章(全8話)

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忘れ得ぬ貴方に・6

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 俺は久しぶりに、昔の夢を見ていた。



『君ねえ、うちで何年給料もらってると思ってんの!?』

『客のことなんかいいから、会社のことを考えろよ! お前に給料を払ってるのは誰だ!? 言ってみろ!』

『いつまでも学生気分で甘いことばっかり言ってるようじゃ、社会人失格だよ!?』



 くそっ、好き放題言いやがって。正しいのは俺だ。負けてたまるか。

 そう思っていたら、フッと場面が切り替わった。



『経営者や管理職には、それぞれの立場と責任があるからね……。だからといって、まじめに仕事してる艦長さんがそれに配慮する必要は全然ないよ。彼らは自分の責任を履き違えているし、立場を悪用してる』

 ですよね。やっぱりシュガーさんはわかってくれてる。

『弱い立場の人に忍耐や屈従を強いる世の中なんて、長続きしない……というか、してほしくない。たぶん誰も幸せになれない』



 やっぱりシュガーさんはいい人だなあ。会ったこともない俺の愚痴に本気になって怒ってくれてるし、マジいい人。

 ちょっとホッとしたのもつかの間、また場面が切り替わった。



『有休? あるけど取れないよ。当たり前でしょ、カツカツで回してるんだから。甘ったれたことを言うな』

『青臭い正義感で上司に刃向かう気なら、社員証を返してくれないか。コンプライアンスより結果出せ』

『世の中ねえ、役に立つか立たないかなんだよ。君、どれぐらい役に立ってるの?』



「うるっせえな!」

 俺は自分の叫び声で目を覚ます。久しぶりに会社の夢を見ていたようだ。

 手首に鈍い痛みが走っている。寝ぼけて壁をブン殴っていたらしい。ずいぶん暴力的になったもんだ。



『あのー……艦長?』

 七海がいつも以上に心配そうな顔をして、モニタの端からおそるおそる顔を覗かせた。顔が見切れている。

『だいぶうなされていたようですが、カウンセリングアプリケーションを起動しましょうか?』

「いや、大丈夫だ」



 俺はベッドから這い出そうとして、枕がないことに気づく。きょろきょろと見回すと、枕は壁際の床に転がっていた。ブン投げたらしい。

「もう忘れたつもりだったけど、なかなか忘れさせてはくれないな」

 ベッドを出て枕を拾い上げながら、俺は溜息をつく。



 俺を大事にしない連中なんか全員滅びろ。俺は俺を大事にしてくれる人たちと生きるんだ。

 元の世界に帰ったら、絶対に会社を辞めてやる。職場がどうなろうが知ったことか。



 でもできれば、元の世界に帰りたくはない。だってもう一年以上経ってるんだぞ。二つの世界で時間の流れ方が同じとは限らないが、とにかく帰りたくない。

『艦長ってもしかして、会社勤めが辛かったタイプですか?』

「俺の性格を診断したのなら、どういう感じだったかわかるだろ」



『はい。周囲の評価よりも自分の中の判断基準を重んじるタイプで、そのために周囲との軋轢が生じていたと思われます。しかし独善的に振る舞うこともできず、無理矢理周囲に合わせていたという診断結果が』

「おおむね合ってるよ。俺、会社勤め向いてない」

 俺は頭を掻く。異世界での暮らしの方が性に合ってるようだ。



 士官食堂に行ってソラトビペンギン航空隊の朝食を用意し、自分の朝食の支度もしていると、ジュナがやってきた。

「おはようございます、艦長」

「おはよう、ジュナ」

 七海の翻訳ソフトもだいぶ精度が向上してきて、日常会話には不自由しなくなった。



「朝食はミオのところで買っておいたパンと、ベーコンエッグだ。食事に禁忌やアレルギーはないよな?」

「はい、大丈夫です。それに魔力を回復させるためにも、肉や卵は必要ですから」

 アスリートみたいだな、君の世界の魔術師。

「よし、座ってくれ。今運ぶから」

「あ、手伝います」



 テーブルに朝食を並べていくと、ポッペンたちが向こうの方で醜い争いをしている。

「アジは俺のものだと言っとるだろう!」

「黙れジジイ、もっと孫の顔が見たいのなら私に精をつけさせろ」

「だったら少しは故郷に顔出せよ、ポッペン。アジはもらっとくぜ」

「なあおい、イカないの? たまにはイカ食いたい! あ、アジだ!」

「アジならまだあるし、いちいち喧嘩するなよ。もうないけどな! ひゃあ、アジうめー!」



 征空騎士って浅ましいな……。海賊騎士はもっとスマートにいこうと心に誓う。というかあいつら、いつまでここにいるんだ。

 ジュナの方を見ると、彼女はにこにこ笑っていた。ここに来た当初より、ずいぶん落ち着いた気がする。まだ子供だし、子供は笑っている方が嬉しい。



「艦長さんは、とても親切ですよね。どうしてですか?」

「親切かな?」

「私の世界でも、この世界でも、艦長さんみたいに親切な人はあんまり見たことないですけど……」



 現代人だから、かな? 現代人なら、だいたいみんな親切……待て待て、俺の上司たちは親切じゃなかったぞ。

 思い出したらまたムカついてきた。チャンスがあれば、シューティングスターを本社ビルに突っ込ませてやる。やらないけど。



「ところでそのジュナの世界のことを、もう少し聞かせてもらってもいいか? メッティも興味があるみたいだし、俺も知りたい」

「はい」

 くすくす笑っていたジュナが、ふと暗い表情をした。



「私の世界はもうダメです。いずれ人間は滅び、世界の線は途切れることでしょう」

「人類が滅んでも世界は滅びないぞ。それとも、世界が本当に滅びるようなことがあったのか?」

 冷たいようだが、人間は世界の一部でしかない。



 ジュナは小さくうなずいた。

「実は異世界転移の方法が判明したときに、他にも多くの技術が発見されています。その結果、物理法則そのものを書き換えてしまうことが可能になりました」

「ちょっと待て、じゃあ好きな場所を無重力にできたりするのか?」



「はい」

 ジュナは再びうなずくと、ぎゅっと小さな拳を握った。

「ある国の迷宮の最深部で発見された『巨石』の内部に、その方法が記録されていたんです。王はそれを使って、宿敵だった隣国を滅ぼしました。故郷に伝わる神話のように塩の雨を降らせて、壊滅的な飢饉を生み出したんです」



 隣国の全土に回復不能なレベルの塩害が発生し、隣国は凄まじい飢餓と共に衰退した。神話の神々に匹敵する力だ。

 だが「神の力」を手に入れた王は、次第に暴走していく。

「敵国の同盟国が慌てて和平を申し入れてきましたが、王は燃え盛る岩を無数に落とし、その国を跡形もなく焼き払ってしまいました。別の国には未知の疫病、また別の国には窒息の瘴気を」



「隕石雨とバイオハザードと低酸素か……」

 エグい上に防御手段がほぼ存在しない。いきなりそんなことをされたら、たぶん皆殺しだろう。

「周辺国を全て滅ぼしてしまうと、今度は国内の敵が標的になりました。巻き添えも厭わない攻撃で、反国王派の勢力が次々に滅ぼされました」



 結局、そのイカれた王は相応しい報いを受けることになった。ある夜、王は『巨石』と共に消滅した。

 何が起きたのか知る人はいないが、魔法で探知したところによると、王の現在位置は「世界の外」を示しているという。それも他の世界が存在しない、完全な虚無の座標らしい。

 もちろん、救助しようなどと思う者は誰もいなかった。因果応報だ。

 今は新しい王が国をまとめ、周辺の土地を何とか正常化させようと努力しているそうだ。



「無秩序に書き換えられた世界はメチャクチャになってしまい、元に戻せなくなりました。物理法則を書き換えることができた『巨石』も、もう失われています」

「じゃあもしかして、君が異世界を渡り歩いているのは……」

 ジュナがうなずく。



「私の世界を救う方法が、どこか別の世界にならあるかもしれないと思ったんです。特にこの世界にはいくつもの異世界から人や物が漂着しているようなので、その可能性に賭けました」

 その結果、君は危うく死にかけたんだぞ。無茶しやがる。

「君はまだ子供だろうに、家族がよく許可してくれたな」



「私の家族は父しかいませんが、この探索行は父も許可してくれました。戻ってこなくても大丈夫だから、お前だけでも生き延びろと」

 親の情だなあ。ちょっと泣けてきた。

「それで、まだ良い方法は見つかっていないのか?」

「はい……。同じ『巨石』がどこかにあれば、それを調査して何とかできると思うんですが」



 巨石か。特に心当たりのない俺は、首を横に振る。

「残念だが、俺が知る限りではこの世界にそういう代物はなかった。俺の世界にも巨石信仰はあったが、ただの崇拝対象でしかなかった。たぶん違うと思う」

「やっぱりないんですね……」

 ジュナは溜息をついたが、すぐに明るい笑顔を取り戻す。



「大丈夫です。いざとなったら、私と父だけでもどこかの異世界に引っ越しますから!」

「そうだな、それでいいと思うよ」

 異世界への移住も案外悪くないもんです。

 がんばれ、ジュナ。

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