英雄伝「乙女と海賊」
※パラーニャ語の文章を作者が日本語に翻訳しています。
010「乙女と海賊」
私はメッティ・ハルダ。
エンヴィラン島に住む、本が好きな十四才です。島では「ハルダ雑貨店の長女」と言った方が通りがいいです。
一応、将来は科学者になることを夢見ています。
まあ、そう簡単になれるもんじゃないんですけど。
私は本土の大学を受験するために船に乗りましたが、凶悪な海賊の襲撃を受けてしまいました。
なんとか海賊に捕まるのだけは免れましたが、おかげで無人の船で漂流することになってしまいました。
正直、とても怖かったです。
でもあの人が、私を助けてくれました。
皆がもう忘れてしまった古代語をしゃべる、異邦の……でも、とても優しい男の人。
私のニホ語はだいぶ訛っているそうで、あの人にどんな風に思われているのか少し不安です。
変な子だって思われてないかな?
あの人は私を救助してくれただけでなく、私の願いを聞き入れて他の子を助けてくれました。
あの劇場での光景は、今でも忘れることができません。
崩れ落ちた天井から差し込む光に照らされ、舞台の上で微笑むあの人。
まるで神話の一場面のようで、とても神々しかったです。
「もう大丈夫だ、何も怖がらなくていい」
そう微笑まれたときには正直、ドキッとしてしまいました。
思い出すだけで、今でも胸が高鳴ります。
でも、こんなにいろいろしてくれたのに、あの人は私たちに何も見返りを要求しませんでした。
ただ、「助けたかった」とだけ。
海賊も奴隷商人も……いえ、この世の理不尽や恐怖の何もかもを打ち砕く、鋼のような頼もしさ。
それと同時に、まるで神話の聖者のような優しさも備えていて、まるで……うーん。
本当に不思議な人です。
あの人は捕まっていた女の子たちを、みんな故郷まで送り届けてくれました。
その後の予定は特にないそうです。
あ、そうだ。
エンヴィラン島に来てもらうのはどうでしょうか。
私の命の恩人だって言えば、たぶん町の人たちも怖がらないでしょうし。
行くあてがないみたいだから、安心して休める場所を提供できたら、少しは恩返しができる気がします。
それに、あの不思議な空飛ぶ船のことも、もっと調べたいし……。ふふふ、あの船凄い。
パラーニャだけでなく、近隣の国にあんな船を造れる技術力はありません。絶対に無理。
だからあの人と船は、どこか遠い世界から来たに違いありません。
本人たちもそう言ってますし。
エンヴィラン島には昔から、遠い世界から来た不思議な旅人たちの伝承が残っています。
ニホ語もそうで、私たちの先祖が使っていたと伝えられています。
そう、私は遠い世界からやってきた不思議な人々の子孫。
ということは、あの人とも遠い親戚なのかも知れません。
うん、やっぱりエンヴィラン島に滞在してもらいましょう。
そして、遠い世界の発達した科学をたっぷり学べば……大学に行くより、よっぽど勉強になりそうな気がしますよ!
よーし、未来が開けてきたかも!
ふふふ。
やっぱりあのとき、最後まであきらめずにがんばって良かった。
ありがとうございます、艦長。