おっさん、幼女とお風呂!
幼女は勝手に俺の家に入ると、辺りを見てしきりに感心する。
「ほほーっ、ここが噂のダンジョン宿屋かっ!」
「本当は宿屋じゃなくて、俺の家なんだけどね」
「ここは宿屋じゃないとか言って、追い出す気だろっ? そうはいかんっ! ほれ前金だっ! うけとれぃ!」
おっさんの手に無理やり金貨をねじ込む幼女。
おっさんの手には、くたびれた感じの一〇円玉サイズの金貨が五枚握らされていた。
この幼女、リリナとは種族が違うようだ。
リリナは尖った耳をしていたが、この幼女の耳の形は丸い。
身長が低いのも、胸がないのも、種族の違いから来るものかもしれない。
身長は幼女サイズだけど、このしゃべり方だと意外と歳をとってそうな気もする。
そんな僕の詮索を無視して、幼女は僕に催促する。
「もう金渡したからなっ! もう泊まるのを断ったりっ、追い返したりしたらダメだからなっ! あと金払ったんだから、宿帳に名前書かせろよっ!」
「宿帳?」
「ここは宿屋なんだろ? 宿帳なくてどうするっ!」
俺はテキトーなノートを見つけると、幼女に渡した。
「よし! 書くぞっ! 名前はドワーフの娘だからどわ子、いや、どわ美にしとくかっ」
「おい、なんだよ! いきなり偽名をカミングアウトかよ! そんなので宿帳書く意味有るのかよ!」
「金渡したんだから細かいことは気にすんなっ! 種族はドワーフ、年齢は三四歳、性別は女と、宿泊は一泊と、書くのはこんなとこでいいかな? これが金払った証拠だぞっ!」
「はいはい。どうぞどうぞ」
別に宿帳なんて作る気も無いから、どうでもいいんだけど。
このどわ美と言う女、見た目はどう見ても幼女なんだけど、幼女じゃなく三四歳だったんだな。
立派なおばさんじゃないか!
俺と同い歳じゃないか!
ロリータ風おばさん、通称ロリおばだったのかよ!
まあロリおばはいい。
それは置いといて、それよりも気になる事があった。
このロリおばが土足で部屋を歩き回ってる事だ。
フローリングや絨毯に、泥っ泥の足跡が思いっきりついている。
おっさんは慌ててロリおばから靴を脱がせた。
「ここは土足禁止だから!」
「そんな事もっと早くいいなよっ! 思いっきり歩いちゃっただろっ!」
自分のミスを逆切れして誤魔化すロリおば。
そんなおばさんの厚かましい口答えに屈せず、俺は文句を言った。
「それにその泥だらけの服、洗濯するから先に風呂に入ってくれよ」
「あっすまんすまん」
風呂場にどわ美を案内する。
リリナのラッキースケベイベントで既に経験済みなので、シャワーの使い方やシャンプーの使い方の説明は完璧だ。
着替えの下着はわざわざコンビニまで買いに行かないで、俺の使い古しを流用。
幼女じゃないんだから、それで十分!
着替えのジャージもちゃんと用意しておいたから、裸で部屋を歩き回って、悪い意味で目の毒になる物を見ることもあるまい。
これでどわ美が裸で部屋をうろついて、バットエンドルートのどわ美ルートのフラグが立つ事は回避できた。
泥だらけの服を洗濯機にかけ、俺はどわ美が汚した床掃除を始める。
絨毯に染みついた泥汚れはかなりしつこく、なかなか落ちなかった。
クローゼットの入り口に何か用意しておかないと、また誰か来た時に同じ目に遭いそうだ。
おっさんが必死こいて床掃除を終わらせたころ、どわ美は鼻歌交じりで風呂から出て来た。
「ふふふふーん♪」
体が綺麗になったせいか上機嫌である。
髪をバスタオルで拭きながら俺にほほ笑む。
「ところでお主の用意してくれた下着だけど、これって男物の下着じゃないよなっ?」
「な、なにを根拠に、そ、そんな事?」
「いや、パンツに穴が空いてたからなっ。随分と変わったパンツだと思ってなっ」
「そ、それはこの宿のオリジナルなんだよ。ほっ、ほらダンジョンの中だと湿気が凄いだろ? だから女用の下着でも、通気性を良くするために穴を開けてるんだ!」
「そうなのか。でも、それにしてはブカブカだし。女用としては少しサイズが大き過ぎないか?」
「そ、それも通気性を良くする為に大きめに作ってあるんだ。この宿のオリジナルで」
「ならいいんだけどな。ほら、ドワーフ族の習慣で、男が女に求婚する時は男物の下着を送って、それを履いたら愛を受け入れたという事で、一緒に初夜を過ごすって言う習慣が有るんだよっ。わたしとしては、これがお前からの告白なら、受けることもやぶさかではないぞっ!」
「えっ! 何!? それ! マジ! マジやべー!!!」
なんだよ、告白って!
なんでこの俺が、こんなつるペタロリおばに告白せにゃならん!
俺は超特急でコンビニに下着を買いに行った。
今回は一分三〇秒でパンツ買い出して戻る。
パンツ買い出しギネス記録を三〇秒も更新だ。
「はーーぁ、はーーぁ、はーーぁ、ほらっ、どわ美っ、女物の下着を買ってきたからっ、これに着替えてくれ。はーーぁ、はーーぁ、これで告白は無しだからな!」
「求婚ってなんだっ?」
「男物の下着を着ると、告白になるって話だよ」
「あー、あれかっ。あれは全部嘘だっ! 私が作った創作小話っ、作り話だっ!」
「なぬー!」
息も絶え絶えでダイニングテーブルにへたり込むと、どわ美は冷蔵庫を勝手に漁り始めた。
「さ、ごはんごはん! なんか食わせてくれよっ! 美味しい物限定なっ!」
勝手に冷蔵庫を漁るどわ美。
──ちゃらららーん!
──どわ美は高級和牛すきやき肉|(一パック一九八〇円)を手に入れた!
「なんかウマそうな肉見つけたぞっ! これ調理してくれっ! これっ!」
「いや、それは……」
それはリリナに買ったものの結局会えずに食べられなかった高級和牛だ。
結局一人では食べられず、冷凍して取って置いた。
いつかリリナが戻って来た時に一緒に食べる為に。
「もう宿代払ってやっただろ? 美味いもの食わせろよっ! もっと金が欲しいのか? しょうがないなー、ほれっ!」
どわ美は金貨をさらに二枚、僕の手の中にねじ込んだ。
この金貨がどの位の価値が有るのか解らないが、少なくとも一〇〇〇円位の価値は有るだろう。
金貨を売って、リリナが戻って来た時にそれでまた肉買えばいいか。
「わかったよ。今作ってやるから座って待っててくれ」
「やったっ!」
僕は牛肉を調理することにした。
既にすき焼きの肉以外の具は食べてしまってなかったので、牛肉の大和煮を作る事にした。
牛肉を焼いて、醤油を掛けて砂糖を掛けてさらに焼くだけの簡単な料理だ。
でも意外とこれが美味い。
手間はかからないのにどことなくすき焼きに通じる味がする焼肉だ。
「出来たぞ!」
「おうっ! 美味そうな匂いだっ!」
「どや? 美味いやろ!」
「うまいうまい! こんなうまいものはじめてだっ!」
無我夢中で大和煮を胃に掻き込むどわ美。
ロリおばなのにスゲーかわいい顔してやがるぜ!
美味しいもの食うと幸せになれるって言葉は本当だな。
大和煮を大満足で食べて、一息ついたどわ美が言った。
「さてと、噂のウマいものも食ったし、本題に入るかなっ」
その落ち着き払った目は商売人の目だった。




