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第10話 知識三マナで当選番号が分かるらしい

 山林の売買契約を締結した翌日、月曜日。

 啓介はスーツを着て満員電車に揺られ、何事もなかったかのように通常どおり出勤した。


 前日の日曜日は、異常なほど密度の高い一日だった。

 朝一番での三崎への体調報告から始まり、不動産会社での山林売買契約。土地カード化に必要な「現実の所有と管理権限」の条件検証。将来的な管理受託地の可能性の整理。新しい知識遺物である《思索の計数盤》の設計。そして、不動産契約の細かい特約内容をノートへ書き出す作業。

 《健全なる肉体》によって三十六歳なりの疲労がリセットされた身体でなければ、間違いなく夕方には音を上げて寝込んでいたはずだ。


 《思索の計数盤》が毎日知識マナを生み出すための【研鑽】条件は、「前日に三十分以上の学習、検証、設計、記録のいずれかを行うこと」。

 遺物としては作成途中であるためまだマナは生み出さないが、日曜日の圧倒的な作業量によって、条件そのものは十二分に満たしていた。


 昼休み。

 啓介は社内の休憩スペースで仕出し弁当をつつきながら、前日に書き殴ったノートの記録を静かに読み返し、赤ペンで追記していく。


『・契約書にサインして手付金を払っただけでは土地にならない』

『・不動産としての所有権がなくても、現在の住居のように実質的な管理権限と利用実績があれば土地化の可能性あり』

『・他人の土地を管理受託地として借りれば初期費用は抑えられるが、移動時間と維持管理の負担が増える。やはり自己所有の拠点がベスト』

『・マナ源が増えてきた。数だけでなく、それぞれの「停止条件」を一覧化してタスク管理する必要あり』


 斜め向かいの席に座った後輩の佐伯直人が、缶コーヒーを開けながら不思議そうに声をかけてきた。

「主任、最近ずっと昼休みに何か熱心に勉強してません?」

「ん? ああ、ちょっと個人的なプロジェクトを始めたんだよ」


「プロジェクト? また新しい資格試験でも受けるんですか?」

「いや、資格みたいな肩書きより、もう少し実物が残るやつだな」

 啓介は曖昧に濁した。


 さすがに「昨日、青梅に三十八万円の山林を買う契約をしてきた」とは言えない。

 ましてや、「これから毎日、魔法の力でマナを生み出すアーティファクトを作るための設計図を書いている」などとは、口が裂けても言えるはずがなかった。


 月曜日の夜。

 残業を終えて帰宅した啓介が玄関のドアを開けると、静寂が広がっていた。

 以前なら弾丸のように飛んできた小竜の姿はない。


 昨日、啓介は小竜の留守番訓練をやり直していた。

「ドアが開いてもすぐに出ないこと」「俺が決めた特定の合図をするまで、絶対に隠れたまま待機すること」。


 啓介はドアを閉めてしっかりと施錠し、玄関の廊下に他人の気配がないことを確認した。

 そして、指をパチン、パチンと二回鳴らす。


 その合図を聞いて初めて、リビングのソファの裏から赤銅色の小さな影がバサバサと飛んできた。

「あぎゃー!」

「よしよし。今日はちゃんと合格だ」

 啓介が頭を撫でてやると、小竜はゴロゴロと喉を鳴らした。


 夕食と入浴を済ませ、午後九時。

 啓介はローテーブルに、昨日知識マナを1点だけ注入した古い金属製のライフカウンターを置いた。

 現在の作成進捗は『1/3』。


 本日のマナ基盤を確認する。

 《借宿》:任意1。

 《五彩の魔石》:任意1。

 《生命樹の苗床》:生命1。


 啓介は、《借宿》と《五彩の魔石》から得られる任意マナを、両方とも「知識マナ」へと変換して引き出した。

 二つの青白い光球が、手のひらの上に浮かび上がる。


「《思索の計数盤》、作成継続」


 光が、古いライフカウンターへとスッと吸い込まれる。

 カチッ、カチッ。

 二つの数字盤が、誰も触れていないのに自ずと回転し、片方が「0」、もう片方が「3」の数字を示してピタリと停止した。


『作成進捗:3/3』

『遺物の作成が完了しました』

『次回の日次更新より起動可能です』


 バインダーの中に、正式なカードが定着した。


 《思索の計数盤/Scholar's Counter》

 遺物・魔力源・知識

 必要マナ:知識3


 長年、判断と記録に用いられた計数具を核として作成する。


【日次起動】

 知識マナ1点を得る。


【唯一】

 《思索の計数盤》は一つしか存在できない。


【研鑽】

 前日に合計三十分以上、学習、検証、設計または記録を行っていなければ、その日の日次起動を行えない。


 数えていたのは、ライフだけではない。

 失敗と、選択と、次の一手もだ。


 火曜日、午前零時。

 スマートフォンの時計が日付を跨いだ瞬間、日次更新が実行された。

 啓介はバインダーを開いた。


 最初のページには、

 《借宿》

 《五彩の魔石》

 《生命樹の苗床》

 《思索の計数盤》


 四つのカードが、日次起動が可能であることを示す淡い光を放って並んでいた。

 《思索の計数盤》のカードの下部には、啓介にしか見えないシステム補助表示が小さく出ている。


『前日研鑽時間:四十二分』

『起動条件:達成』


「……ご丁寧に、時間まで正確に計測してやがるのか」

 啓介は呆れつつも、その律儀なシステムに感心した。


 これで、現時点での一日分の使用可能マナは以下のようになった。

 任意1。

 任意1。

 生命1。

 知識1。

 合計、4マナ。


 ただし、完全に自由な「任意4マナ」というわけではない。

 熱量4、境界4、物資4といった、極端に偏った支払いはまだ不可能だ。


 一方で、「知識」属性の魔法を行使する場合の最大出力は劇的に向上した。

 《借宿》を知識へ、《五彩の魔石》を知識へ変換し、さらに《思索の計数盤》から知識を引き出す。

 これで、一度に「知識3マナ」という重いコストを支払うことができる。


 しかも、その大技を使った後でも、《生命樹の苗床》からの「生命1」が確実に手元に残るのだ。


「知識三マナを全ツッパしても、《日々の修繕》の一回分は残せる……」


 これは、以前の3マナ時代との圧倒的な違いだった。

 昔なら、重いカードを使った時点でマナが枯渇し、その日は完全に丸腰になってしまっていた。

 だが今は、大きな知識魔法で世界に干渉した上で、最低限の「日常の回復」を維持できる。リスク管理のレベルが一段階上がったのだ。


 啓介の脳裏に、能力を手に入れたばかりの頃、限界を探るために一度だけ試作表示させたあのカードの存在が蘇った。


 《約束された当選番号》


 当時のシステム概算では『知識3』。

 具体的な条件を一切詰めず、「宝くじの当たりを知りたい」という欲望だけで叩き出した試作だった。

 現在のマナ基盤なら、そのコストに手が届く。


 これまでは、魔法の安全な治療効果の検証、致命的な危険の予測、そして遺物の生成と土地のカード化を最優先にしてきた。

 だが、山林の売買契約を結んだ今、現実的な「費用」という壁が立ちはだかっている。

 数週間後には残代金の決済がある。仲介手数料、登記関係費用。さらに現地へ通うための交通費、草刈り機や工具、安全装備、雨水タンク、ポータブル電源、防犯カメラなど、初期設備だけでもかなりの額になる。


 もちろん、啓介のこれまでの堅実な貯蓄から十分に支払える額だ。

 しかし、異能によって得た土地を整備するために、会社員として地道に貯めてきた労働の対価を、一方的に削り続ける必要はどこにあるのか。


「そろそろ、この能力自体に、自分の運用費くらいは稼がせてもいい頃合いだな」


 治療、予知、土地の拡張。

 そしてここから、副題として隠されていた『金銭チート』の機能テストが本格的に始まる。


 啓介はパソコンを開き、数字を自分で選択して購入する形式の宝くじを調べ始めた。


 当然、数億円規模の一等賞金が当たる大型くじも候補には入る。

 しかし、初回の実験からそれを狙うつもりは全くなかった。理由はいくつもある。


 一つ。魔法の「未来予知」の精度が、現実の事象に対してどこまで完全か未検証である。

 二つ。仮に番号を正確に知れたとしても、啓介自身の購入手続きのミス(マークシートの塗り間違いなど)は防げない。

 三つ。もし数億円を手にしてしまえば、生活や周囲の人間関係が急変し、能力の秘匿が困難になる。高額当選は必ず銀行等に受取の記録が残り、短期間に繰り返せば社会的に異常性を疑われる。

 四つ。一番の懸念は、啓介が「当たりを知って購入する」という行動そのものがバタフライ効果を生み、未来の抽選結果そのものを変えてしまう可能性を検証していないことだ。


 以前、交差点で子供の飛び出し事故を予知した際、啓介が腕を掴んで介入したことで「事故が起きる」という未来そのものを変えることができた。

 未来は、一本の固定された映像データではない。予知した後に観測者が介入すれば、内容が変動する余地があるのだ。


「最初の稼働試験で、いきなり最大出力をぶっ放してリスクを背負う必要はない」


 啓介が選んだのは、翌日や来週に持ち越さず、その日の夜に即座に結果が確定する「四桁の数字選択式くじ」だった。


 一口数百円と少額。

 四つの数字と、その『順番』までを完全に一致させる方式。

 当選額は販売状況や他の当選口数によって変動するが、おおむね数十万円から百万円前後。

 人生を狂わせるほどの額ではないが、山林の取得費用と初期の設備投資を賄うには十分すぎる額だ。


 啓介はバインダーを広げ、《創世札典》の空白枠に指を置いた。


 最初のテスト要求。

「次に一番儲かる宝くじの買い方を教える」

 システムが弾き出した概算は『必要マナ:知識6・境界1』。


 高い。だが、当然だった。

「一番儲かる」という曖昧な要求を満たすには、どの種類のくじを選ぶか、何口買うか、購入方式はどうするか、他の当選者が何人いるか、最終的な払戻額はいくらか、さらには購入後の啓介の人生への影響や、受取時のトラブルの有無まで、あらゆる未来の可能性をシミュレートしなければならない。要求が広すぎるのだ。


 次。

「本日中に抽選される、指定した四桁の数字選択式くじの当選番号と、最終的な払戻額を表示する」

 概算は『必要マナ:知識4』。

 まだ足りない。当選番号だけでなく、「販売終了時の総口数」や「他の当選者の有無」まで予測して払戻額を計算する必要があるため、処理が1マナ分重くなっている。


 払戻額なんて知らなくていい。番号さえ分かれば、買うかどうかは自分で決められる。

 啓介は、要求を極限まで研ぎ澄ませた。能力を手に入れた直後に表示された試作名《The Winning Numbers》は、漠然と「当たりの数字」を求めただけの仮称だった。今回は対象を一回の抽選と一組の当選番号へ限定したため、英名も単数形の正式名へ改める。


 《約束された当選番号/The Promised Winning Number》

 術式・知識

 必要マナ:知識3


 使用時に指定した一回の公開抽選について、現在の因果関係が維持された場合の当選番号を表示する。


【単一抽選】

 対象にできるのは、開催主体、対象回および抽選方式を特定した一回の抽選のみ。


【二十四時間以内】

 使用後二十四時間以内に抽選結果が正式に確定するものに限る。


【公開結果】

 結果が一般へ正式に公開される抽選に限る。


【番号限定】

 表示されるのは、当選判定に使用される数字のみ。払戻額、当選口数、購入方法その他の付随情報は表示されない。


【現行因果】

 使用後、抽選設備、実施方法、開催条件その他の因果関係に重大な変更が発生した場合、表示結果と実際の結果が一致しない可能性がある。


【非干渉】

 このカードは抽選結果を変更せず、購入、申込み、受取その他の行為を代行しない。


 未来は、券を買ってくれない。

 ただ、書くべき数字を教えるだけだ。


 啓介は、完成したカードテキストを読み込み、少し考え込んだ。

「約束された」という名前は非常に強力に聞こえる。

 しかし、テキストには明確に『現在の因果関係が維持された場合』という条件がついている。


 これは、絶対に覆らない確定した運命を作るカードではない。未来を啓介の都合の良いように固定する能力でもない。

 例えば、抽選機が突然故障する。大災害が起きて開催が延期される。不正が発覚して抽選がやり直される。

 そうした「重大な因果の変更」があれば、予知した番号と実際の結果がズレる可能性は十分にある。


「当てる魔法じゃない。今のまま世界が進んだ場合の、結果だけを先読みする魔法か」


 そして、最大の疑問をシステムにぶつけた。

「システム。俺がこのカードで表示された番号を見て、実際にそれを『購入』することで、対象となる抽選の当選番号そのものが変化してしまう可能性はあるか?」


 回答が視界に流れる。

『指定された抽選方式において、購入者が選択した番号および購入口数のデータは、物理的な抽選番号を決定する機械の挙動工程へ直接影響しません』

『したがって、使用者の購入行動によって、当選番号そのものが変化する可能性は極めて低いと評価されます』

『ただし、当選者が増えるため、システム上の当選口数および払戻額は変動します』


 なるほど。以前の交通事故の時は、啓介が子供の腕を引っ張るという直接的な物理的介入を行ったから未来が変わった。

 だが宝くじの場合、啓介が窓口でどの数字を書こうが、遠く離れた抽選会場で回る機械のボールの動きには物理的に一切干渉しない。

 だから、予知は安定する。今回の検証対象として完璧だった。


 火曜日の朝。

 啓介は出勤前、対象を「本日夜に抽選される指定回の四桁くじ」に固定した。

 販売締切時間、抽選時刻、対象回、購入方式をすべて確認。


 三つの知識マナを引き出す。

 《借宿》から知識1。《五彩の魔石》から知識1。《思索の計数盤》から知識1。

 三つの青白い光球がバインダーの上に直列する。

 《生命樹の苗床》の生命1は、予定通り温存されている。


「《約束された当選番号》、使用」


 三つの光が一つに重なり、カードへと吸い込まれる。

 直後、バインダーのカード表面が、一瞬だけ無数の数字の羅列で埋め尽くされた。

 猛烈な速度で数字が切り替わり、やがてノイズが晴れるように、四つの数字だけがクッキリと残った。


『7』『1』『4』『8』


 同時に、『対象抽選』『対象回』『有効期限』、そして『現行因果評価:安定』というステータスが、啓介にだけ見えるシステム表示として浮かび上がった。

 未来の映像は一切見えない。抽選機の回る様子も、当選者の顔も、払戻額も分からない。

 ただ、冷徹な事実として、四桁の数字だけがそこにある。


 啓介はスマートフォンを取り出し、カードを撮影した。

 《創世札典》のバインダー本体とカードの枠は写真に映る。しかし、肝心の当選番号を示す数字や対象回などの補助情報は、画像には全く残らなかった。これまで三崎との検証で確認したとおり、現実に顕現した物体や光は記録できても、啓介の認識へ直接表示されるシステム情報は記録できない。


 啓介は、手元のメモ用紙にその四つの数字を丁寧に書き写した。

 さらに、オフラインのノートパソコンのテキストファイルに入力し、自分宛ての暗号化メールの下書きにも保存する。三重のバックアップだ。

 書き写した数字に間違いがないか、バインダーの表示と三回照合する。


「……どれだけ正確に未来を見ても、俺自身がマークシートの記入を間違えたら外れる。しかも今日は、未来を一つ知るために、ほかの未来を見る手段を捨てたわけか」

 魔法は、人間側のくだらない事務的なミスまでは修正してくれない。さらに、今日の知識マナはこれですべて使い切った。午前零時までは《危険判定》も《一歩先の未来》も使えない。残る生命1は、何か起きた後の軽傷や疲労を修復できても、事故そのものを避けてくれるわけではない。


 出勤。

 啓介はいつもどおり、トラブルの対応や後輩のコードレビューなどの仕事をこなした。

 だが、頭の片隅には常に『7148』という四桁の数字が、熱を持った刻印のように張り付いていた。


 終業時刻の少し前。

 佐伯が、申し訳なさそうな顔でノートパソコンを抱えて啓介の席へやってきた。

「主任、すみません。明日の本番反映に出す修正なんですけど、最後にもう一度だけ見てもらえませんか」

 啓介は時計を見た。販売締切まではまだ余裕があるが、普段なら気にも留めない残り時間が、今日はやけに短く感じられる。

「分かった。そこに置いてくれ」


 佐伯の修正を追うと、例外時に古い設定値が残る可能性のある処理が一つ見つかった。放置すれば、明日の本番で顧客データの一部が正しく更新されないかもしれない。

「ここ、正常系しか通してないだろ。失敗した時のロールバックも確認しよう」

「あっ……すみません。主任、何か予定があったんじゃ」

「予定はある。でも、これを本番へ出す方がまずい」


 結局、確認と修正に二十分ほどかかった。それでも販売締切には十分間に合う。

 未来の番号を知っていても、目の前の仕事が消えるわけではない。啓介は佐伯へ修正版の再確認を指示し、いつもどおり退勤した。


 仕事帰り。

 啓介は、駅前の宝くじ売り場の窓口へ立ち寄った。


 指定した対象回であること。販売締切前であること。

 備え付けのマークシートに、四桁の数字を順番通りに塗りつぶす。方式は、数字の並び順まで完全に一致させる「ストレート」。

 購入するのは、欲張らずに一口だけ。


 すべてを確認し、窓口のおばちゃんに用紙と数百円を渡す。

「はい、一口ですね」

 機械から打ち出された券面を受け取る。

 対象回。数字。購入方式。すべてメモと一致している。


「……未来が分かってるのに、たった数百円払うだけで、こんなに手汗かくもんか」

 啓介は小さく呟き、受け取った券を財布には入れず、鞄の奥に用意してきた折れない小型ハードケースへ慎重に収めた。今日は知識による危険予知が使えない以上、物理的な管理で事故と紛失の可能性を減らすしかない。

 一度発行された券の保管と受取りは、完全に現実側の責任だった。


 帰宅後。

 本日の知識マナ3点はすでに消費済みだ。

 残っているのは、《生命樹の苗床》から生み出された生命1だけ。


 啓介は、そのまま《日々の修繕》を使用した。

 一日のデスクワークで凝り固まった肩の張りと、モニターを睨み続けた眼精疲労が、スゥッと消えていく。


 未来予知という、世界の理を捻じ曲げるような強力な知識魔法を行使した後でも、こうして日常のコンディション回復を維持できる。

「四マナになった恩恵は、こういうところか」


 昔なら、未来予知のカードを切った時点でマナは枯渇し、疲労困憊のまま夜の抽選結果を待たなければならなかった。

 今は違う。危険を事前に避ける力は残っていないが、最低限の回復手段を確保したまま、結果を待てる。


 夜。

 啓介はノートパソコンで公式の宝くじ抽選結果の発表画面を開いた。

 横には、予知番号を書いたメモ用紙と、購入した券を並べて置く。


 小竜がパタパタと飛んできて、啓介の腕の隣にちょこんと座った。

「お前。これが当たったら、お前を山で安全に飛ばすためのリードとか、道具を色々買ってやれるぞ」

「あぎゃー!」

 意味を理解したのかは分からないが、小竜は興奮したように尻尾を振った。


 抽選時刻を過ぎ、画面が更新される。

 結果発表。


 最初の数字。

『7』

 一致。


 二番目の数字。

『1』

 一致。


 三番目の数字。

『4』

 一致。


 最後の数字。

『8』

 一致。


 完全一致ストレート


 啓介は、画面の数字と、手元の券の数字を交互に見比べた。

 一回。二回。三回。

 何度確認しても、結果は同じだった。四桁すべて、順番まで完璧に一致している。


「……当たった」

 小竜が首を傾げる。

「おい、本当に、本当に当たったぞ」

「あぎゃー!」


 小竜が喜んで、机の上の当選券に向かってダイブしようとした。

「うおっ! 待て待て待て!」

 啓介は慌てて券を両手で覆い隠し、回収した。

「これは絶対に噛むな! 燃やすなよ! 今、この部屋の中で一番高い紙なんだからな!」


 売買契約書よりも薄く、小さな、ただの印字された紙切れ。

 しかし、その紙切れの現在の価値は、啓介が買った山林の価格を軽く上回っている可能性が高い。

 啓介は震える手で券を透明なクリアファイルへ入れ、さらに山林の契約書や実印関係の書類を収めている鍵付きの机の引き出しへ、厳重に保管した。


 当選番号が一致しただけでは、最終的な払戻額までは分からない。

 数十分後。販売状況と全体の当選口数が集計され、正式な金額が公式画面に発表された。


 払戻額。

『897,200円』


 購入額は数百円。

 たった一度、知識マナ3を支払って未来の断片を見ただけで、約九十万円の現金が確定した。

 青梅の山林の本体価格(三十八万円)の、二倍以上の金額。


 残代金。諸経費。登記費用。初期設備。

 それらをすべて、この一枚の紙切れが賄ってくれる。


 啓介の背筋に、嬉しさよりも先に、ゾクッとするような寒気が走った。


「……これ、明日以降も知識三マナを用意できれば、またできるのか?」


 カードは消滅していない。同じ条件を満たせば、別の抽選にも使用可能だ。

 毎日とは限らないが、知識3を出せる日であれば、何度でも繰り返せる。

 一日4マナ体制になった時点で、啓介は「小規模な運命の偏り」を、継続的に「合法的な現金」へと変換できる存在になってしまったのだ。


 啓介は、浮かれて次のくじの抽選日を探す前に、ノートをバンッと開き、強引に理性を総動員してペンを走らせた。


【確認できたこと】

 ・カードは対象の抽選番号を完全に正確に表示した。

 ・俺が一口購入した程度では、抽選番号自体にバタフライ効果は起きなかった。

 ・表示された順番も正確だった。

 ・ただし、購入手続きは自分で手動で行う必要がある。

 ・払戻額までは予知できない。

 ・予知後に重大な因果の変更(災害や不正)がなければ、結果は一致する。

 ・知識3を使っても、生命1の回復魔法は残せる。


【リスク】

 ・同一人物が、短期間に何度も当て続ければ、統計的に不自然になり目をつけられる。

 ・同じ売り場や同じ種類の抽選に集中すると目立つ。

 ・大型くじで億単位を当てれば、生活そのものが変わり隠蔽が破綻する。

 ・当選券の紛失・破損という物理的リスクがある。

 ・高額当選は必ず銀行に受取記録が残る。

 ・何より、金銭感覚が完全にぶっ壊れる可能性が高い。

 ・予知を金策に使う日は、未来予知による危険回避など、他の知識魔法を使えなくなる。

 ・当選額がどれだけ大きくても、マナ源そのもの(魔法の出力)は直接増えない。


 啓介は、自分自身への戒めとして、厳格な『金銭チートの自主運用ルール』を書き連ねた。


 ・初期の検証中は、一回につき一口のみ購入する。

 ・同じ種類の抽選を連続して狙わない。

 ・同じ窓口を続けて使わない。ネット購入と分散させる。

 ・一度に人生が変わる規模の当選(億超え)は絶対に狙わない。

 ・他人名義を使用しない。

 ・借金や信用取引には手を出さない。

 ・当選記録と使用カードを必ずセットで保存し、収支を管理する。

 ・短期間に高額当選を繰り返さない。

 ・得た資金の用途を、事前に明確に決めておく。

 ・予知を、ただのギャンブルや快楽のためには常用しない。


 ただし、「危険だから二度と使わない」と完全に封印するつもりもなかった。

「リスクを管理し、目立たない範囲で、必要な運用資金だけを稼ぐ」


 まずは、山林の取得費用、マナ基盤の拡張、医療検証の経費、設備投資のための「専用資金」として扱う。

 生活費の足しにしたり、高級車を買ったりするような娯楽や浪費には一切使わない。


 一瞬、三崎にこの件を相談することも頭をよぎった。

 だが、すぐに思い直した。三崎との協力範囲は、あくまで「人体へ使用する医療カードの検証」だ。未来予知や金銭チートのことまでは話していない。


 記憶を消す魔法ほど危険な隠し事ではないにせよ、これを説明すれば、

「お前、どこまで未来が見えるんだ?」

「患者の病気の予後も分かるのか?」

「災害を予測して人を救えるんじゃないか?」

 という、倫理的な問題が一気に噴出する。


 今は、医療検証を安定させる時期だ。啓介は、当選番号の件については三崎には伏せておくことに決めた。

 ただし、三崎の治療費を払ったり、彼の病院へ匿名で寄付したりするような、独りよがりな使い方も絶対にしない。

 秘密を増やせば増やすほど、金の流れと人間関係が複雑になり、破綻のリスクが高まるからだ。


 水曜日。

 啓介は有休の半休を取り、必要な手続きを確認した上で、指定された銀行の当選金受取窓口へと足を運んだ。


 本人確認書類の提示。券面の確認。当選番号の照合。必要書類への記入。

 魔法を使う場面は一切ない。窓口の行員は、慣れた手つきで通常の当選者として淡々と処理を進めていく。


「お振込みの手続きが完了いたしました」

 啓介は、通帳を受け取った。

 印字された最新の行を見る。


『897,200円』


 空中に浮かぶ半透明のシステム表示ではない。

 現実の日本円。夢でも予測でもない。今日から実際に啓介が自由に使える金。

 銀行を出てから、啓介は初めて小さく、力強く拳を握りしめた。


 帰宅後、啓介はさっそく資金の用途を割り振った。


【山林関係】

 残代金、登記・司法書士関係費用、仲介手数料等。

 当面のレンタカー代や交通費。

 森林所有者届出などに伴う行政書類の準備費用。


【初期設備】

 安全靴、作業用革手袋、保護眼鏡、ヘルメット。

 工具一式(ドライバー、レンチ、ノコギリ等)。

 雨水タンク、ポータブル電源、防犯カメラ、鍵付きの屋外用収納箱。契約書や魔法関係の記録を保管するための、小型耐火金庫。


【予備費】

 危険木診断の業者依頼費用。

 緊急時の対応資金。

 三崎の病院での医療検査費用(自費診療分)。


 全額をすぐに使い切るわけではない。九十万円あれば、同じ価格帯の小さな山林をもう一つ買うことさえできる。

 だが、土地は代金を払った瞬間にマナ源になるわけではない。青梅の一か所でさえ、決済も引渡しも初期整備もまだ終わっていない。平日は会社に勤め、現地へ通えるのは主に休日だ。所有地や管理受託地を増やすほど、巡回、草刈り、近隣対応へ使う時間も増えていく。まずは十万円程度だけを初期の工具と安全設備へ回し、残りは用途別に記録してプールする。


「……金は、もう最大のボトルネックじゃない。次に足りなくなるのは、俺自身の時間と管理能力か」


 その制約を抱えたまま、異能のチートと現実世界の資本主義を結ぶ循環が始まった。


 その日の夕方。

 啓介は車を借りて、郊外の大型ホームセンターへと向かった。

 購入するリストはすでに決まっている。


 頑丈な金属製のツールボックス(工具箱)。

 各サイズのドライバーセット。ラチェットレンチ。ペンチ、ニッパー、モンキーレンチ。しっかりした重さの金槌。長いメジャー。水平器。折り畳み式のノコギリ。大型のカッターナイフ。作業手袋、保護眼鏡。小型のクランプ。結束バンド。補修用の金具。


 草刈り機やチェーンソーのような危険で高価な機械は、まだ買わない。

 実際の山林の土地の状態と、本当に自分に扱えるのかを確認してからだ。必要なら、最初から専門の業者に頼む。


 工具箱と基本工具一式だけでも、かなりの重量と体積になった。

 これまでは少しの出費も惜しんで悩んだかもしれない。だが今日は、魔法で得た当選金の使途として最初から計上している。財布の痛みは全くなかった。


 帰宅後。

 啓介は、購入したばかりのピカピカの工具たちを床に並べ、システムへ質問した。


「システム。この工具一式を、物資属性の魔力源の『核』にできるか?」


 回答。

『候補として指定可能です』

『ただし、現時点では対象物に「製作」「修理」または「維持管理」の実質的な使用実績が皆無です』

『物資属性との概念適合性は極めて低い状態にあります』


 買っただけでは、まだそれは「工房」ではない。

 道具として実際に使い、使い込まれることで初めて意味が生まれる。

 学生時代から使い込んでいたあの古いライフカウンターとは違い、長年の「履歴」がないのだ。


「なら、今から最初の履歴を作ってやるよ」


 啓介は、小竜がオリーブの鉢植えの葉に顔を近づけているのを見た。

「ちょうどいい。最初の仕事は決まったな」


 啓介は、ホームセンターで工具と一緒に買ってきた木材、キャスター、金具、細い支柱、そして取り外し可能な園芸ネットを取り出した。

 オリーブ鉢用の「移動台」兼「小竜の食害防止ガード」を作るのだ。


 簡単な設計図を書き、採寸する。

 木材に印をつけ、ノコギリで切断。金具をネジで固定し、底面にキャスターを取り付ける。支柱を立て、園芸ネットをピンと張る。

 DIYなど全く慣れていないため、一時間以上かかった。


 ネジが斜めに入ってやり直す。

 一度、キャスターの取り付け位置を間違えてバランスを崩す。

 水平器で確認すると、見事に傾いている。

 ブツブツ文句を言いながら、やり直す。


 それでも最終的には、

 ・日当たりに合わせて鉢をスムーズに動かせる。

 ・水やりの時はネットを簡単に外せる。

 ・小竜が直接葉を噛めない。

 という、不格好だが機能を満たした簡素な台が完成した。


 小竜が、ネットの外から不満そうにオリーブを見つめている。

「あぎゃ……」

「お前対策だぞ」

「あぎゃー!」

 文句を言うように鳴いたが、諦めてソファの方へ飛んでいった。


 完成後、啓介は汗を拭いながら、再び工具一式を核としてシステムに評価させた。


『対象工具による現実の製作実績を確認しました』

『所有者による継続的な使用意思を確認しました』

『物資属性との概念適合性が成立しました』


 一回使っただけで強大なアーティファクトになるわけではない。

 しかし、「何のための工具か」「誰が使うのか」「今後も使うのか」「実際にそれで物を作ったか」が明確になったことで、核としての最低条件を満たしたのだ。


 啓介は、《小さな工房箱》の設計に入った。

 最初の要求。

「この工具一式を核に、毎日物資マナ1点を生み出す遺物を作る」


 概算。

『必要マナ:物資4』


 新品に近く、使用履歴が圧倒的に浅いため、《生命樹の苗床》や《思索の計数盤》の3マナよりも重い。

 啓介は、条件を追加してコストを圧縮する。


「【唯一】属性をつける。工具一式全体を核とする。そして、直近七日間に一度以上、俺が現実の製作・修理・整備へ使用すること。使わなければ起動は停止する。核となる工具の主要部分を紛失した場合は機能停止。単に工具を撫でて触るだけでは条件達成にならない」


 再計算。

『必要マナ:物資3』


 正式設計が確定した。


 《小さな工房箱/Workshop in a Box》

 遺物・魔力源・物資

 必要マナ:物資3


 実際の製作、修理または整備に使用された工具一式を核として作成する。


【日次起動】

 物資マナ1点を得る。


【唯一】

 《小さな工房箱》は一つしか存在できない。


【稼働】

 直近七日間に、この工具一式を用いて合計三十分以上、現実の物品の製作、修理または整備を行っていなければ、日次起動を行えない。


【工具一式】

 核として指定された主要工具の過半を喪失した場合、カード効果を停止する。


 手を動かさなければ、

 道具はただの重い荷物になる。


 水曜日のマナ。

 《借宿》:任意1。

 《五彩の魔石》:任意1。

 《生命樹の苗床》:生命1。

 《思索の計数盤》:知識1。


 当選金の受取前後も、啓介は手続きの記録やカードの設計作業を行っていたため、《思索の計数盤》の【研鑽】条件は達成済みだ。


 啓介は、《借宿》と《五彩の魔石》から得られる任意マナを「物資マナ」に変換した。

 合計、物資2。


「《小さな工房箱》、作成開始」


 二つの灰銀色の光球が、金属製の工具箱へと吸い込まれていく。

 箱の内部の工具たちが、一斉にカチャッ、カチャッと小さな金属音を立てた。


『作成進捗:2/3』

『核との関連づけを固定しました』


 残り1マナ。


 翌日、木曜日。

 仕事から帰宅した啓介は、《借宿》から物資1を取得した。

 本日残っているのは、《五彩の魔石》の任意1、《生命樹の苗床》の生命1、《思索の計数盤》の知識1、そして《借宿》から引き出した物資1。最後の物資1を支払った後も、三点が残る計算だ。


 啓介は工具箱へ最後の物資マナを注入した。


「《小さな工房箱》、作成完了」


 灰銀色の光が、工具箱全体を脈打つように巡る。

 工具の傷が消えて新品に戻るわけではない。箱の容量が四次元ポケットのように無限になるわけでもない。

 ただ、物理的な存在に、魔法のカード情報が正式に定着しただけだ。


『遺物の作成が完了しました』

『次回の日次更新より起動可能です』という表示を確認した後、啓介は生命1を《日々の修繕》へ使い、任意1と知識1は無理に用途を作らず、その日の午前零時に消滅させた。マナが増えたからといって、毎日すべてを使い切る必要はない。


 金曜日、午前零時。

 スマートフォンの時計が日付を跨ぐと同時。

 バインダーを開いた啓介の目に、五つのカードが起動可能であることを示す光が飛び込んできた。


 《借宿》:任意1。

 《五彩の魔石》:任意1。

 《生命樹の苗床》:生命1。

 《思索の計数盤》:知識1。

 《小さな工房箱》:物資1。


 合計、5マナ。


 まだ青梅の山林の残金決済は終わっておらず、土地カードにはなっていない。

 それでも、能力に目覚めた初日の「一日1マナ」から、固定混成とはいえついに「一日5マナ」の領域へと到達したのだ。


 ただし、維持のための条件も確実に増えている。

 住居の賃貸契約を維持する。水晶の魔石を壊さない。オリーブを枯らさないように世話をする。毎日、前日に三十分以上学習か記録を行う。七日以内に、必ず工具を使って何かを作るか修理する。


「……マナ源が五つになったんじゃない。毎日確認しなきゃいけない『運用保守のタスク』が五つになったんだな」


 力が強くなることと、それを維持するための保守負担が同時に増えていく。システム運用と同じ摂理だ。


 啓介は、ここ数日の激動の流れを整理した。


 マナを使って知識の遺物を作った。

 知識遺物のおかげで、知識3を同時に出せるようになった。

 知識3で当選番号を取得し、約九十万円を得た。

 その当選金で工具を購入した。

 その工具を核に、今度は物資の遺物を作った。

 物資遺物によって、さらに毎日のマナが拡張された。


 最初は、給料と貯金という「現実のリソース」を切り崩して、魔法の基盤を作るしかなかった。

 今は違う。

 魔法が金を生み、その金が物を買い、その物が次の魔力源となる。

 システムが自己増殖の循環サイクルに入ったのだ。


 ただし、完全自動化された不労所得ではない。

 毎日の研鑽、植物の世話、工具の物理的な使用、秘密の徹底した管理、資金管理、そしてこれから始まる土地管理。

 それら泥臭い「人間の労働」が伴って、初めてこの循環は回る。

 それでも、明確に人生のフェーズが変わったことを啓介は感じていた。


 啓介は、ノートの新しいページに、今後の利益化候補をメモとして書き出した。


『別形式の数字抽選での再現性確認』

『スクラッチくじの選別』

『中古品や骨董品の価値判定』

『株式の短期的な値動きの予測――税務・取引記録・法規制の確認が済むまで保留』

『事故や故障を事前に避けることによる損失削減』

『希少品の発見』

『医療上の予後予測の補助――三崎へ未来予知を開示し、合意した後に限る』


 株式の項目には、さらに赤ペンで大きく「今すぐ手を出さない」と書き足した。宝くじとは違い、継続的な異常利益がすべて取引履歴として残り、税務や法規制への説明も段違いに面倒になる。未来が分かるからといって、無警戒に踏み込んでよい市場ではない。

 医療上の予後予測まで書いたところでは、ペンが一度止まった。それは先ほど、自分で「今は三崎に話さない」と決めた用途そのものだった。項目を消す代わりに「三崎への開示後」と条件を付け、秘密のまま患者へ使わないことを決める。

 その上で、同じ《約束された当選番号》を繰り返すだけではなく、「未来を知る」以外の知識カードも試し、知識マナが現代社会でどこまで価値を持つかを調べていく。


 金曜日の昼。

 高梨真紀からメールが入った。

 売主、司法書士との最終調整が完了したとのこと。

 青梅の山林の残代金決済と引渡しは、翌週の土曜日に決定した。


 必要な持ち物、実印、そして振込手続きの案内。

 啓介はスマートフォンで口座残高を見る。

 当選金のおかげで、残代金と諸費用を支払っても、初期設備費を十分に手元に残すことができる。

 魔法を得る前からのなけなしの貯金を崩す必要は、もうほとんどなくなっていた。


 帰宅後。

 ローテーブルの上には、山林の売買契約書、当選番号を記録した紙、当選券の控え、古いライフカウンター《思索の計数盤》、そして真新しい金属工具箱《小さな工房箱》が並んでいる。


 小竜は、完成したばかりの鉢ガードのネットの外から、オリーブの葉を恨めしそうに見つめている。


「一週間後には、あの山が本当に俺のモノになる」

「あぎゃー!」

「その前に、今度こそ外で飛ぶ時のルールを徹底的に叩き込んでやるから覚悟しろよ」

 小竜は聞こえないふりをして、プイッと顔を背けた。


 啓介は、バインダーに並んだ新しいマナ基盤を確認する。

 一日5マナ。

 来週、山林の決済が終われば、6マナになる。

 そして、最初の利益はすでに現実の口座に入っている。


「……一日一マナの肩こり治療から始まったのに。ここからは、増やしたマナが、次のマナを連れてくるのか」


 今までは、目の前の小さな奇跡を一つずつ試すだけで精一杯だった。

 これからは、奇跡を使って、次の巨大な奇跡の『基盤』を構築していく。

最後までお付き合いいただき感謝します。


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― 新着の感想 ―
いや、うん、わかってるけど知り合いが山間部の分譲地を30坪買ったことをあの山は俺のものになるとか言ってたら凄く突っ込みそうというか馬鹿にしそうというか。 自分の性格が悪いだけか?
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