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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第三章

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84. 銀髪のエルフ


 厚い雲に月明かりが隠された真夜中。

 僕は魔術で作った空中の足場の上で索敵支柱を手に持ち、静かにその時を待っていた。


 索敵魔術の準備を整え、今日で五日目だ。

 ドワーフの戦士たちの協力もあり準備は早々に終わった。索敵魔術が作動したら最速で向かえるように上宮で待機しているが、未だヤルルアンナの気配はない。僕の方の備えも一通り終えたので、あとは待つのみだ。


 ドワーフたちとのやり取りで一悶着あったりしたが、黒鋼将軍がしっかりと説明してくれて事なきを得た。黒鋼将軍は初対面こそ微妙な感じだったが、戦士たちにはとても尊敬されている。それに、とても強かった。


 今回の作戦で、僕は一人でヤルルアンナの元へ向かうことを主張した。おそらく最も速い手法であるし、僕以外だとヤルルアンナを傷つける可能性があると思ったからだ。これには黒鋼将軍はもちろん、ティアロラたちからも大反対されてしまった。ティアロラたちはなんとか説得したが、黒鋼将軍は僕の強さを疑問視しており、話の流れで模擬戦をすることになってしまったのだ。


 黒鋼将軍は完全な近接戦闘タイプだ。

 特徴的なのは黒鋼と称される武技で、皮膚が黒く硬質化してあらゆる攻撃から身を守る。そのため、黒鋼将軍は戦闘時に防具を着用しないというのだから驚きだ。そして、巨大な斧を振り回すパワーとドワーフらしからぬスピードも兼ね備えており、長年の経験から戦術も多様という完成された戦士だった。最強格に名が挙がるのも頷ける。


 模擬戦ということでお互い全力ではなかったが、白熱した戦いだった。なんとか黒鋼将軍のお眼鏡には適ったので良かったけれど、大変だったな。


 ここ最近のことを振り返っていると、もう明け方近くになっていた。今日も空振りか、と思ったその瞬間。手元の索敵支柱に魔力反応。


 すぐさま行動を開始する。

 反応のあった場所は、それほど遠くない。


「……待っててね」


 魔術で空中に氷の道を造り出し、急行する。

 ヤルルアンナが現れてくれることを祈りながら。



 ……



 この辺りか。

 少し先にドワーフ戦士の部隊が野営している。反応のあったポイントと野営地の間を探せば、見つかるはずだ。


「……見つけた」


 しばらくして、ゆっくりと移動する気配を探知。

 闇夜に紛れてわかりにくかったが、なんとか見つけることができた。


 時間はそれほどない。

 すぐにその気配の元へ向かい、目の前に飛び降りた。


「きゃ!? え、ど、どこから……?」


 ちょうど雲間から月明かりが漏れたことで、はっきりと視認することができた。

  

 銀髪の美しいエルフ。

 夜に溶け込むような黒い衣服を身に纏ったその姿は、およそ戦場には似つかわしくないものだった。 


 間違いなく、ヤルルアンナだ。

 だが、様子がおかしい。 


「え、えぇと……。こんな時は、逃げる? そう、逃げるのよね?」


 虚な目で、オロオロと戸惑いながらそんなことを言っている。


「……こんばんは」


「え? はい、こんばんは。……あ、いえ、そうではなくて、逃げないと」


 そう言って来た道を戻ろうとするが、その動きは緩慢だ。思考や言動がチグハグな印象がある。


「……ちょっと、待ってもらえるかな?」


「ええ、もちろん。……いえ、待ってはいけないわね? 逃げなくては」


 ヤルルアンナは混乱している様子だが、構わず近づいていく。そうすると、今度は怯えたようにこちらを見た。


「ち、近づいたらダメ……! あら? そういえば、なぜ貴方は平気で……」


 闇精霊が力を発現しないことに戸惑っているようだが、僕が攻撃されるはずもない。敵意なんて欠片もないどころか、好感度のメーターがあれば振り切っている。

 

 それはさておき、狼狽えるヤルルアンナにどんどん近づいていく。そして、直近まで迫ることで確信を得た。


 微かに額に残っている魔力残滓。

 これは、思考誘導の魔術。禁術だ。


 エルフが魔術を? 今回の戦争は何者かが介入し、禁術によって扇動した? 確かにエルフは種族全体の傾向として流されやすい気質があるが、こんな大規模に展開できるものなのか?


 色々と疑問はある。怒りもある。

 だが、まずはヤルルアンナの魔術を解こう。その昔、ある王国を混乱に陥れた禁術ではあるが、今は対処法が確立されている。ある程度の魔術の心得があれば、この術を解くことは難しくない。


「えっと、なんで平気なの……? 貴方は、誰なの……?」


 目の前のヤルルアンナは硬直し、こちらをジッと見つめている。魔術を解くためには触れなければならないが、この際仕方がない。あとで困ったことになりそうだが、このままにするわけにもいかない。


「……君を解放する。お願い、僕を信じて」


「は、はい……。信じます」


 ヤルルアンナは目を閉じて、祈るようなポーズをしている。うん、信じてほしいと言ったのは僕だけど、警戒心がなさすぎて……。


 いや、今はそれどころじゃない。 

 そう気合を入れ直し、さらにヤルルアンナに近づく。


 そして、無防備に立ち尽くすヤルルアンナの額にそっと触れた。


 その瞬間、ヤルルアンナが小さく呟く。


「あぁ、やっと出会えた……」


 思考誘導魔術の解除には成功した。

 あとは、この状況をどうするか……。


 ヤルルアンナは僕の手を両手で優しく握り、潤んだ目でこちらを見ていた。そして、震えた声で言葉を紡ぐ。

 

「運命の、人……」


 ああ、やはりこうなってしまった……。

 頭を抱えそうになるのをなんとか堪える。


「……いや、僕は」


「あぁ、なんてことなの!! 生きていて、本当によかった……!!」


 ヤルルアンナは涙を流し、満面の笑みを浮かべていた。あまりの喜びように、僕は何も言えなくなる。

 

 ヤルルアンナには、[箱入り巫女]よりも有名な呼び名があった。それは……。


「貴方が、わたしの運命の人なのね……!!」


 [ちょろ巫女]ヤルルアンナ。

 孤独に生きてきた彼女は、闇精霊の守りを突破して、その身に触れた者に心を許す。僕としては全然ちょろくないと思うのだが、[不落の聖女]と比較してそう呼ばれていた。

 

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