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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第二章

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52. 閉ざされたダンジョン


 ガチャリ


 何度も聞いた扉の閉まる音。

 そちらには目も向けず戦闘態勢をとる。この音を聞くたびに心がすり減っていくが、無視しなければならない。すぐに目の前の祭壇が輝き出し、犬型の魔獣が召喚された。


 相手がこちらに気づく前に加速して距離を詰める。

 この魔獣との戦闘は慣れてしまった。双剣を振るい、効率的に五体の魔獣を仕留める。亡骸はなぜか消えてしまうので、放っておく。


「ふぅーー……」


 戦闘が終わり、息をつく。

 次の召喚までは、少し時間がある。一旦、ここまでで分かったことを整理しよう。


 このトラップは機構的には魔獣巣窟と変わりないと思われる。閉じ込められたら内側から外に出ることができず、魔獣を倒しきらなくてはならないはずだ。


 だが、異なる部分も多い。

 まず、その広さ。通常の魔獣巣窟であればここまで広くはない。目につく祭壇を中心に半球状に広がる空間は、この迷宮内では見たことのない規模だ。


 次に、祭壇。

 魔獣巣窟には元々魔獣がひしめいている。しかし、ここでは祭壇から魔獣が出てくる。それが召喚なのか創造なのか転送なのかはわからないが、とにかく魔獣が現れる。そして……。


 考えをまとめているところで、祭壇が再び輝き出した。次の魔獣に対処するため、剣を構える。


 そう、このトラップは一度の戦闘で終わりではない。次々と現れる魔獣を倒さなくてはならない。


 鋭い角を持った兎型の魔獣に斬りかかる。

 二度目は犬の魔獣をなんとか仕留めた後、扉をこじ開けようとしているところに次の魔獣が現れて殺された。


 とにかくこの魔獣は素早い。

 だから、速度を出させる前に仕留めなければ二度目のように角に貫かれて殺される。


「グギャッ」


 兎型魔獣を斬り伏せ、祭壇から距離をとる。

 次の魔獣は猿型が三体。連携をとられると対処しきれなくなるため、遠距離から徐々に削り、一体ずつ仕留めていかなければならない。


「ふぅ……」


 まだ大丈夫。

 一度目も二度目も混乱しているうちに死んでしまったが、今回は落ち着いて対処できている。なぜ死んでしまうと時が戻るのかは全くわからないが、自分は幸運なのだと思うことにする。一度死んだら終わりの人生で、やり直す機会が与えられているのだから。


「うん、大丈夫……」


 声に出してみるが、思っていたよりも弱々しい。

 いや、そんなことない。切り替えないと。魔獣はだんだん強くなっていく。まるで迷宮を潜っていくかのように。


 魔獣を仕留めて、次の魔獣が現れるまでの間隔が少しずつ伸びていくことはせめてもの救いだ。休憩することができるし、これまでの戦闘を思い出して準備することも可能となる。


「大丈夫……!!」


 自分を奮い立たせる。

 これがトラップなら、終わりはある。出てくる魔獣を全て倒せば、脱出できるはずだ。


 だけど、あとどれだけ倒せば……??


 外からの救助は期待できない。

 こんな場所、見つかるはずがない。


 頭を振り、嫌な想像を振り払う。

 

 さあ、祭壇が光り始めた。


 次の戦闘が、始まる。


 ……


「はぁっ……はぁっ……」


 次で、十戦目だ。


 呼吸が荒くなっている。


 時が戻ることで体力も戻るが、こうして連戦となると辛い。それに、精神的な負荷はどんどん積み重なっている。広さはあるが、閉鎖的な空間にただ一人。現れ続ける魔獣をひたすらに仕留めていくことに疲弊していた。


 だが、これで十戦目だ。


 この大迷宮は十階層ごとに環境が変わる。

 いくら異様なトラップといえど、無限に続くわけではないはずだ。十戦目が最後というのは、期待できる推測であると思う。……そうであってほしいという、願望でしかないが。


 息を整えながら、その時を待つ。


 そして、祭壇が輝き始めた。


「グォォオオオオオオオ!!!!」


 空気が震えるほどの雄叫び。

 現れたのは、巨大な斧を持った二足歩行の牛人型の魔獣だ。同種の魔獣と比較しても大きく、筋肉が異様に発達している。


 大丈夫、やれる。

 あの系統の魔獣は、破壊力が突出しているもののそれほど速くはない。動きも単調で、読みやすい。普段通りに動けば、問題ないはずだ。


 魔獣の目がこちらを捉えた。


「グルァァアアアアッッッッ!!」


 雄叫びをあげながら突進してくる。

 予想よりは速いが、対処できないほどではない。


「くっ……!!」


 突進を避け斬りつけたが、皮膚が硬い。

 それなりに力を込めたにも関わらず、浅い傷しかつけることができなかった。これは、長期戦になってしまいそうだ。


 その後も魔獣の攻撃を掻い潜り、斬撃を重ねていく。苛立っているのか、魔獣の攻撃はどんどん大振りになり隙が大きくなっていった。


 そして……。


「グゥゥウウウウウ……!!!!」


 断末魔の叫びをあげ、魔獣が倒れ伏す。


「や、やった……!!」


 ここまでで一番長く戦っていたため、疲労困憊だ。

 なんとか倒すことができたが、身体が重い。強力な一撃を持っていないため、耐久力の高い魔獣は苦手だった。


 だが、これでやっと……。


「そんな…………」


 無情にも、祭壇が光り輝く。

 これで終わりという希望は、脆くも崩れ去った。


 もう、腕が上がらない。

 先ほどの戦闘で体力が尽きた。それに、次の魔獣までの間隔がこんなに短いなんて。


 落胆と疲労で、棒立ちになってしまう。

 頭ではダメだと分かっているのに、身体が動かない。


 狼型の魔獣が現れた。

 

 そして、呆気なく噛み殺された。


 


 ガチャリ


「あ、あぁ……」


 三度目の挑戦。

 先の見えない状況に、心が折れそうになる。だが、魔獣は待ってくれない。動き出さなければ。


 犬型の魔獣を仕留め、考える。

 とにかく体力を温存しなければならないことが分かった。効率的に素早く倒すことが重要だ。

 


 

 ガチャリ


 十二度目の挑戦。

 牛人型の魔獣は攻略できたと思う。多少の危険を冒さなければならないが、急所を突くことでかなりの時間短縮ができた。だが、十一戦目からも耐久力のある魔獣が多く出現したため苦労した。時間をかければかけるほど不利になる。仕留めきれないまま一定時間が経過すると、次の魔獣が出てくるということもわかった。そうなったら、もう対処できない。


 


 ガチャリ


 ……何度目の挑戦だろう。

 なんとか三十戦目までは到達した。現れたのは蠍型の魔獣だ。殻は硬く、鋏は凶悪で、猛毒まで持っている。弱点を探り、風魔術を使ってなんとか仕留めたが、もう何度死んでしまったかわからない。毒がじわじわと身体を蝕んでいく感覚は、筆舌し難い苦痛だった。二十、三十という区切りで終わることを期待したが、まだ続く。

 


 

 ガチャリ


 …………なんだか、頭が働かない。

 対処法を確立したはずの魔獣で躓くことが増えた。原因はわかってる。集中力が欠落してきていた。それに、戦闘回数が増えることで覚えることも多くなる。


 頭が痛い。



 

 ガチャリ


 四十戦目を乗り越えた……!!

 どうせ時が戻るなら、いくらでも無茶なことを試せる。こんな簡単なことにも気づかなかったなんて。


 あははっ!!




 ガチャリ


 なんのために外に出たいんだっけ。

 こんなに頑張る意味はあるのかな。




 ガチャリ


 一つ、決めた。

 五十戦目の攻略を目標にしよう。


 このトラップがあるのが五十階層。

 ならば、五十戦が最後だと考えた。

 

 それ以上は、無理だ。


 ……


 五十戦目。

 ここまで到達した回数は二桁をとっくに超えている。

 

 目の前には、地竜種。

 竜種なんて危険度でいったら上から数えた方が早いくらいの魔獣だ。その上、地竜とは相性が非常に悪い。

 

 まず、外皮が凄まじく硬い。

 そして、一撃が重すぎる。爪も牙も尾も、当たれば致命傷だ。何度も、何度も殺された。接近戦は非常に危険だが、距離をとっても鋭利な礫を飛ばしてくる。この攻撃も厄介だった。


 遠距離攻撃を避け、一撃必殺の攻撃を掻い潜り、地竜に肉薄する。これまでの戦闘の経験から、自身の攻撃が通る場所は限られている。眼球、口腔内、腹側の首や関節の柔らかい部分だ。懐に潜り込まなければ傷すら与えられない。それに、当然弱点は警戒されている。


 接近した後の行動は頭に叩き込んだ。

 振るわれる爪を紙一重で躱し、牙を見せれば魔術で口を狙う。地竜の巨体に張り付くようにしながら、絶え間なく動き、攻撃し続ける。


 こんな戦い方は神経をすり減らす。

 幾度も諦めそうになったが、これが最後だと自分に言い聞かせて踏ん張ってきた。


 やがて……。

 


「グ、ガアアアァァ……」


 地竜が音を立てて倒れ伏した。


「や、やったの……?」


 喜びや達成感よりも、やっと終わったという安堵感の方が強い。ここでは魔獣の亡骸は消えてしまうが、地竜の素材は貴重だ。これほどの魔獣であれば、高品質の魔晶石が採れるかもしれない。せっかくだから、解体をして……。


 頭を振って、現実を見る。


 わかってる。

 地竜を倒しても、扉が開く気配がない。


 目を背けていたい。

 だが、ゆっくりと視線は祭壇の方を向く。



 祭壇が、光を放ち始めた。



「あ、ああああ…………」


 呆然として、膝をつく。

 五十戦で終わりというのは、ただの願望だった。それは、わかってる。だけど、そんなに的外れな推測ではなかったはずだ。


 涙が頬を伝う。

 これまで生きてきて、自分の意思で扉を開けてから涙を流したことなんてなかった。心がもう、折れてしまっていることに気づいてしまった。

 

 もうダメだ。


 もう、頑張れない。


 だれか、だれか、だれか……。


「たす、けて……」


 掠れた声で呟く。

 だが、無情にも祭壇からは次の魔獣が現れる。


 涙で滲んだ瞳が、朧げにその姿を捉えた。

 地竜に比べると、随分と小さい。だが、そんなことどうでも……。


「え……?」


 目をこすり、祭壇の方を凝視する。


 なんで? どういうこと? なにが起こって……。


 なぜ、()()()が……。


「……ウィンロル?」


 |とても綺麗な色をしたサリファが、困惑した様子でこちらを見ていた。

 

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