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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第二章

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49. お祈り姫


 セブファン主人公の一人、ウィンロル。

 彼女を一言で表すならば、自由という言葉がしっくりくる。一つの場所に留まらず気の向くままに世界中を旅していて、その先々でちょっとした騒ぎに巻き込まれるタイプの主人公だ。


 一見頼りなさそうに見えるが、一人で旅しているだけあって知識や経験が豊富で腕も立つ。双剣と風魔術を駆使して、トリッキーに戦うその姿は凛々しくてカッコよかった。風魔術は応用の幅が広く、索敵や隠密もこなす器用な一面も持っている。


 さらに、ウィンロルには特別な能力がある。


 それは、魔眼。

 この世界において魔眼は固有魔法の一つとして考えられている。とても稀少な能力かつ保有している人間が極端に少ないため、その能力はほとんど知られていない。さらに、魔眼の持つ力は人によって異なる。ウィンロルの持つ魔眼の能力は、現時点では相手の感情を視ることができるというものだ。地味に思えるかもしれないが、たいていの嘘を見抜くことができるため、世の中を渡り歩いていくには強力な能力だと思う。


「いやー、ありがとねお兄さん! 絶対お金は返すから!」


「……うん、いつでもいいよ」


 ニコニコとウィンロルが笑っている。


 お金を立て替えて、店を出た。

 お金を落としたというのは本当のことだろう。もしかしたら盗まれたのかもしれないが、警戒心の強い彼女から盗むのは至難の業だ。


 ジャネルとは解散したが、ウィンロルのことは疑っている様子だった。まあ、それも無理のないことだとは思う。僕だって、ウィンロルじゃなかったらこんな対応はしていない。……他の主人公は除くが。


「ほんと、お兄さんみたいな人がいて良かったよ! さっきこの都市に着いたばっかりなのに、いきなり牢屋にいれられるとこだったね!」


 僕の方を見ながら、ウィンロルは楽しそうにしている。


「そういえば、自己紹介がまだだったね! アタシの名前はウィンロル。色んなところを旅してるんだー! よろしくね!」


「……サリファだよ。僕もここには最近来たんだ」


「そーなんだね! 見たところ探索者かな? アタシも探索者なんだよねー。こう見えてC級だから、すぐにお金稼いで返せるからね!」


 ウィンロルの言うことに嘘はない。

 C級探索者なら半日も迷宮に潜れば、普通の人の一食分などすぐに稼ぐことができる。……彼女は見た目に反して大食いなので、もう少しかかるかもしれないが。


「……うん、いつでもいいよ」


「ふふ、いやーすごいね! キミみたいな人もいるんだね!」


 ウィンロルはずっと僕から目を逸らしていない。

 きっと、僕が嘘をついていないか、何か企んでないかを読み取ろうとしているのだろう。しかし、負の感情はなにも読み取れないはずだ。


 なんせ、推しに出会えたファンの如く嬉しい感情しかない。善意100%だ。投げ銭くらいの感覚だ。たくさん食べてくれ。


「お金を落としたのは災難だったけど、なんだか幸先がいい気がしてきたよ! ()()()()()この都市に来て正解だったね!」


 さて、[お祈り姫]と呼ばれている理由はこの一言に詰まっている気がする。ウィンロルはとにかく、行動が読めない。そして、それはゲーム内にも反映されていた。


 導入からしてどこから始まるか完全にランダムで、他の主人公と出会う場所も毎回異なる。そして、仲間になったあとでも唐突にフラッとどこかに行ってしまったりする。覚醒するタイミングも様々な上に、その能力さえもランダムなので僕は毎回新鮮な気持ちで楽しめた。


 もちろん、そのランダム性に振り回されている人たちも存在する。効率的な攻略には不可欠なキャラだったので、最速でゲームクリアを目指す界隈の人たちからはずっと祈られていた。


 さらに、ウィンロル推しの有名ゲーム配信者が「はいここで姫に祈りを捧げます」「姫様ぁ!どこへ行こうというのですか!?」という感じでプレイしている動画が流行り、みんなが面白がって[お祈り姫]と呼ぶようになってしまったのだ。

 

「それじゃ、ほんとにありがとね! 明日には返せるように頑張るから!」


 手を大きく振って、ウィンロルは去っていった。

 狙って会いに行くのは不可能だと思っていた主人公だから、ここで偶然会えたのは本当に嬉しかったな。


 そんなことを思いながら、拠点としている宿へと向かう。


 ……そういえば、お金ないのに宿はどうするんだ?


 ……


「重ね重ね、本当にありがとう……!!」


 とりあえず追いかけて、宿代も渡しておいた。

 流石にあの状況から野宿させるのは忍びないというか、そんなことさせるわけにはいかない。


「……それじゃ、僕はこれで」


 まあ、ウィンロルならなんだかんだ上手くやっていただろうから、余計なおせっかいだったかもしれない。あんまり恩着せがましくもしたくないし、さっさと帰ろう。


「あ、ちょっと待って!……なんでそこまでしてくれるの?」


 呼び止められ、心底不思議そうに聞かれてしまった。なんでって、そんなの……。


「……だぃ、……」


 危ない。

 大好きだからと正直に答えるところだった。初対面でそれは流石に不味い。とはいえ、嘘をついたらバレてしまうし……。


「……ひ、秘密」


 苦し紛れにそう言うと、ウィンロルはこちらをジッと見つめたあと吹き出した。


「ぷっ、あはは! 何かあるんだ? でも、うん、そうか。秘密なんだね!」


 なんとか乗り切ったか?

 ウィンロルは笑ってるし、大丈夫そうだ。


「サリファ、本当にありがとう。この恩は必ず返すからね!」


「……あんまり気にしないでね」


 こちらがやりたくてやったことだ。

 僕の行動は裏があると思われてもおかしくないが、幸いなことにウィンロルには善意だと伝わっている。


「ふふっ、すぐに返すよ! それじゃあ、またね!」

 

「……またね」


 別れを告げて、宿に向かう。

 シナリオ的にはどのあたりなのだろうと気になったが、考えるのをやめた。エンデンスとティアロラのストーリーさえおかしくなっていたのに、あのウィンロルのシナリオなんて考えても仕方ない。


 自分の目的のために動きつつ、それとなくウィンロルの手助けができるようにしていこう。



 ――――――――


「あ、サリファ! 待ってたよ!」


 ウィンロルと出会った翌日。

 迷宮探索を終えて組合に入ると、ウィンロルがこちらに駆け寄ってきた。


「はい、これ返すね!」


 そう言って差し出されたのは、お金の入った小袋だ。とりあえず受け取ったが、重さ的に貸した分よりかなり多い気がする。


「……多くない?」


「感謝してる分を上乗せしといた!」


 ニコニコと笑っているが、それにしては多いな。


「実は、アタシってば結構感動したんだよね! だからお礼として受け取ってほしいな!」


「……わかった」


 なんだかわからないが、ここで返すというのも野暮かと思い受け取ることにする。律儀だなぁ。


「それじゃ、またね! ちょっと迷宮潜ってくるよ!」


「……え、今から?」


 外はもう暗くなりかけている。

 この金額を稼ぐには朝から迷宮に潜っていたはずだ。疲れもあるはずだし、危険なのでは。


「いやー、なんか楽しくなっちゃってね! いってきまーす!」


 ああ、行ってしまった。

 まあ、あの感じでもちゃんと危機管理はできていると信じよう。


 ウィンロルは、自由にしている時が一番輝いている。

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