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【第二章完結】悪の貴族は美しき散り様を望む〜もしかして、君たちループしてる?〜  作者: 綾丸湖
第二章

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43. 大聖堂にて


「サリファ……!?」


 ティアロラが異変に気づき、駆け寄ってくる。


「剣を下ろしてください……!!この人は私の客人です!!」


 ティアロラは僕を庇い、聖騎士たちに向かってそう言った。


「ティアロラ様……? いや、しかしこの者は……」


 正面に立つリーダーらしき人が困惑した様子でこちらを見ている。他の聖騎士たちも動揺している様子だ。


「聖騎士長!これは一体どういうことなのですか!?」

 

「いえ、これは……大聖堂を守護する結界がその者を悪しき者であると判断したからでして……」


「悪しき者ですって……!?」


 ああ、なんだかティアロラがヒートアップしていってる気がする。こちらからは顔が見えないが、かなり怒っているようだ。僕のためだというのはわかるけど、こんな騒ぎにしてしまって申し訳ない。


 というか、こんなことになってる原因は十中八九魔神の力だろう。魔神の力を宿した人間なんて、どう考えても悪しき者だ。


「ティアロラ様、落ち着いてください。サリファ様を安全な場所に移すのが先です」


 フィライが冷静に諭したところ、ティアロラがハッとしたように振り返って僕を見た。


「確かにその通りですね……!!フィライ、サリファを門の外までお願いできますか?」


「お待ちくださいティアロラ様!聖騎士長としてその者を見逃すわけにはいきませぬ!!」

 

「なんですって……!?」


 ああ、なんだか場が混沌としてきた。

 ティアロラの立場が悪くならないようにしたいんだけど、ちょっと今は声を出すのも辛い。敵意も害意もないことを示したいのだが……。


 

「騒がしいと思って来てみれば……どういう状況かな?」



 なんとかしなければと思っていたところに、凛とした女性の声がかかった。大聖堂の方からやってきたのは、長い黒髪を揺らした長身の女性だ。


「いけませんヴェスティ様!!こちらは危険です!!」


「ヴェスティ様!!サリファは悪しき者などではありません!!」


 聖騎士長と呼ばれた人物とティアロラが同時に声を上げた。そうか、この人が……。


「ふむ、なるほど……。奇妙なこともあるものだ」


 女性が目を眇めながら僕の方を見る。

 そして、こちらに手を向けるとなにやら呟いた。


 その瞬間、身体の重さが嘘のように消え去る。そして、女性がこちらを見回して宣言した。


「聖女ヴェスティの名において、その者の大聖堂への入場を許可する」


 聖女ヴェスティ。

 ティアロラと同じ、シャイローニュ聖教の聖女。当代随一と称される治療師。

 

 場は静まり返っていたが、ヴェスティはそんな空気をものともせずにニヤリと笑った。


「なかなか面白いことになってるじゃあないか。話を聞かせてもらおう」



 ……



「ヴェスティ様!ありがとうございました!」


「……ありがとうございました」


 聖女ヴェスティの私室。

 無事に大聖堂へと入ることができた僕たちは、そのままここへ通された。聖騎士長は渋い顔をしていたが、聖女の言葉に従った。今頃、連れて行かれたフィライが事情聴取されていることだろう。


「礼はいいさ。それにしても、君がサリファなんだね。ティアロラから話は聞いているよ」


「……よろしくお願いします」


 ティアロラから何を聞いたんだろうか。

 少し気になるな。


「もう名乗ってしまった気もするが、私はヴェスティだ。世間では、聖女なんて呼ばれている。まあ、そんなことはどうでもいいさ。何があってそんなことになっているのか、是非とも聞かせてもらいたい」


 ヴェスティが興味深そうに僕の方を見ている。この人には一体、何が見えているのだろうか。


「サリファ、話してしまっても構いませんか?」


「……うん、大丈夫だよ」


 魔神の力については基本的に隠す方針にしているが、ここまで大事になってしまっては仕方ないだろう。それに、聖女であるヴェスティは信頼できると思う。


 その後、ティアロラがここまでの経緯について簡単に説明した。いろいろと省略している部分もあるが、概要は伝わったと思う。


「ふぅん、なるほどねぇ……。魔神の力、か」


 一通り話を聞くと、ヴェスティは目を瞑って考え込みはじめた。


「サリファは望んで魔神の力をその身に宿しているわけではないのです。ですから、決して悪しき者などでは……」


「ティアロラ、安心してほしい。私は彼を邪悪であるとは思っていないよ」


 目を開いたヴェスティがティアロラに向かって微笑んだ。その表情は柔らかく、なんというか、優しい姉が妹を見るような感じだった。

 

「良かった!!流石はヴェスティ様!!……それで、その、助けてもらった上にこんなことを頼むのも恐縮なんですが、サリファを診察してもらえないでしょうか?」


「ふふ、他ならぬティアロラの頼みだ。もちろん構わないよ」


「ありがとうございます……!!」

 

 なんだか話がどんどん進んでいる。

 展開についていけずにいると、ヴェスティが一転して真面目な表情でこちらを見た。


「さて、サリファ。君は私に診察してもらいたいのかな?」


 ふむ、どういう問いかけだろうか。

 診てもらえるのならば、それに越したことはないと思うのだけど。


「……お願いしたく思います。ですが、お忙しいのでは?」


「ん? ああ、私の治療を待っている連中のことかな? 聖女に治療してもらったという箔をつけたいだけの者などいくらでも待たせればいい。本当に私の治療が必要な者は、別口で受け付けているからそこも安心してくれ」


 ティアロラが言っていたのはこのことだったのか。なんというか、すごい人だな。


「………では、お願いいたします」


「ふむ、了解だ。では、すぐに始めよう。すまないが、ティアロラは退室してくれるかい?」


「え、でも……」


「聞かれたくないこともあるかもしれないからね。私の診察は一対一で行うことは知っているだろう?」


 ティアロラが一瞬だけ、こちらを見た。


「そう、でしたね。ヴェスティ様、サリファをよろしくお願いします」


 そう言って、ティアロラは頭を下げると部屋を出ていった。ヴェスティと部屋に二人きりとなったが、なんだか気まずい。


「まったく、あの子はわかりやすいな……」


 ヴェスティが扉の方に目を向けて苦笑している。ここまでのやりとりだけでも、ティアロラが大切にされていることがなんとなくわかった。とても喜ばしいことだ。


 そして、ヴェスティがこちらを向いた。


「さて、サリファ。まずはじめに聞いておきたいことがある」


 空気が変わったのを感じる。



「君は、生きたいと思っているのかな?」

 


 その眼光は鋭く、僕を射抜いていた。

 

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