大きな一歩
「ローガン! レミリア先輩とお姉様をお送りして頂戴!」
ソフィアの声に二人の姿がすうっと消えた。
ソフィアは続けて、
「これで聖魔法使いって証明出来たね?? だからって何百年に及ぶ王家の呪いが解けるかどうかは別の話だけど。で? フェルナンデス叔父様、そんでどうすんの? 解呪って奴をやってしまっていいの? 早く帰ってワルドの紅茶が飲みたいんでだけど」
とフェルナンデスに言った。
フェルナンデスは王族と魔術師軍団を見た。
「分かった」
フェルナンデスは再び王族の前へ跪いた。
「国王陛下、発言をお許しください」
国王が軽くうなずく。
「かの令嬢の呪いを解き、この者が聖なる魔法を使える事を証明いたしました。それは国家魔術師が証人となり、異議唱える者はおりませぬ。ですのでどうか、王族の方々へ、解呪の魔法を使う事を許可いただければと思います」
と言った。
「よかろう。ではまず、ダレン!」
と国王は第三皇子のなを呼んだ。
「はい、陛下」
三男のダレンは一瞬、ぎょっとした顔をしたがうやうやしく返事をした。
「まず、お前が解呪を受けてみろ」
「……は」
三男のダレンは小太りの背の低い青年だった。
王家の次男三男は皇太子殿下の万が一の身代わりか、国内の跡取りのいない貴族へ婿にはいるか、または政略結婚で他国へ婿として赴くのが主だった。
ダレンは十三才だがまだ決まった婚約者がいない。
王族とはいえ、傲慢な性格に不器量な容姿で他人に好かれる要素がなかった。
国内の貴族達はこぞって王族と繋がりを持ちたいのは常だが、三男のダレンにはどこからも申し込みがなかった。
国王の命では反論のしようもなく、ダレンは階段を下りてソフィアの前に立った。
ダレンは近寄り、ソフィアの美しさに目を見開いた。
白い肌に流れるような銀髪、じっと真っ正面からダレンを見つめるシルバーの瞳。
「お前のような子供が聖魔法使い?」
明らかに侮蔑した響きの声。
「聖女候補にも挙がっていないのに? おかしいだろ」
「うるせえ。解呪、かけて欲しいんだろ? 黙ってな」
とソフィアは言い、ダレンの前に右手を差し出しぱっと開いた。
「な! なんだその態度は……私は第三皇子だぞ……」
ソフィアの手の平から白い光が出て、それはダレンの身体の中心を通過した。
「な!」
ソフィアは光を発しながら、ダレンを注意深く見た。
「皇子、解呪したら何の褒美をくれるわけ?」
とソフィアが言った。それは小さな声だったので、ダレンの耳にしか入らなかった。
「は? お前、褒美を望むとか厚かましいぞ。お前達のような臣下が敬愛してやまない王族の呪いを解く任を与えられるなど光栄だと思え!」
「あったま悪いガキだな」
とソフィアは言った。
「何だと!」
「いいよ、いいよ。あんたからの褒美はいらないよ。第二皇子にでももらうからさ」
「何?」
「解呪出来るかどうかは神のみぞ知る。魔法を取り戻した者が次の国王ってのもあり得るんじゃね? 第二皇子はもう少し頭が良かったらいいけど」
ソフィアはけけけと笑い、
「聖なる女神様、この不細工の呪いを解きたまえ~~」
と言った。
「え……」
「あー、駄目みたいだ。残念でしたぁ。フェルナンデス叔父様! 第三皇子は聖なる女神の加護を受け取れないみたい、解呪は失敗だけど?」
「ちょ、待て! 褒美ならなんでも叶える! もう一度、やれ!」
慌ててダレンはそう言った。
しかし、その肩を引き戻した者がいた。
第二皇子のマシューだった。
「おい、ダレン! 終わったなら代われ! 次は私が解呪してもらおう」
次男のマシューは背のひょろ高い青年で、ダレンほどは不細工ではなかった。
第一皇子と第三皇子は国王に似ているが、第二皇子のマシューは王妃に似た容貌だった。王妃は公爵家から嫁いで来た大人しい地味な女性だった。
彼女は魔力を有し魔法も使えるが、生んだ三人の皇子は呪いの為に魔法を使えなかった。
「私を解呪できたら褒美は君の望み通りにしよう」
マシューはそう言い、ソフィアの前に立った。
「話の分かる皇子様で良かったですわ」
ソフィアが見る限り、マシューには魔法適性がありそうだった。
呪いが魔力の流れを断ち切っているのも見える。
「聖なる御力により、かの第ニ皇子の呪いを解き賜え……ブレイク!」
「え、私の時と違うではないか……」
と呟いたのはダレンだった。
ぱっとまばゆい光がマシューを包み、それが消え去った後にはマシューは信じられないという顔で自分の両手を見ていた。
身体中に流れる魔力の動きが感じられ、それが手の平に集まってくるのが分かる。
マシューはソフィアを見た。
「あなたの魔法属性は王妃様と同じ火属性と見受けられますわ。長年の呪いのせいで今はまだ魔力の動きは僅かですが、鍛錬すれば魔力も増えて大きな攻撃魔法も使えるようになるでしょう」
とソフィアが言い、マシューは目を大きく見開いた。
「どうぞ、今、ここで試しに詠唱されたらどうかしら?」
「し、しかし、こんな建物の中で火属性を使うと……」
「大丈夫ですわ。まだそれほど威力もありませんから、あなたの手の平に炎が灯るくらいですわ。でもそれは大きな一歩じゃありませんこと?」
とソフィアが笑った。
「たし……かに……」
マシュー皇子は生まれてこの方憧れ続け、何度も何度も練習した魔法の呪文を詠唱した。
「炎よ我を照らせ! 第一階梯ファイア!」
ぼっと音がして、小さな炎がマシュー皇子の手の平に現れた。
マシューの目は大きく見開かれ、その瞳には薄らと涙さえ浮かんだ。
「おお!」
と言う歓声が上がった。
壇上の国王や王妃さえ立ち上がり、身を乗り出した。
「す、素晴らしい……」
「マシュー様、あなたに魔法を取り戻しました私への褒美を約束して下さいましたよね」
「ああ、金か? 地位か? 国王にお願いすれば爵位さえ頂けるぞ!」
「いいえ、宝物庫にある品を一つ頂きたいのですが」
「宝物庫?」
「ええ」
「それは無理だ」
ソフィアはにっこりと笑った。
「無理と仰いました?」
「ああ、宝物庫は先祖代々、世界中の宝を収集して治めている場所だ。例え国王であろうとも簡単には持ち出せない」
マシューはふんと横を向いた。
「皇子、約束が違いますわ。何でも望み通りだと」
「無理なものは無理だ。金や地位ならそれなりに与えられる。しかし宝物庫の宝は例え陛下にお願いしても無理なんだ。諦めろ」
とマシューは突き放した声で言った。
「ふん、嘘つきかよ。カス野郎」
とソフィアが鼻で笑った。
マシューは騎士に向かって、
「おい! この娘を捕まえろ! 皇子の私に向かって暴言を吐いた。不敬罪の罪に問う!」
と叫んだ。




