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説明会

中学校の卒業式の2日後、私は車で1時間ほどのところにある「東部結婚奨励センター」なる施設に母と向かった。急増とはいえ、なかなかしっかりした施設で、母は「いつのまにねぇ」と驚いていた。私は買ってもらったばかりのスマホを触りながら、ぼんやりと返事を返した。



「華!こっちこっち!」

「あっ、真子!」

中に入ると、小中、そして高校も同じになる近所の親友、真子が手を振ってきた。真子の母親もぺこりと頭を下げる。母親同士、さっそく「あら!」と話し始めた。

「よかったー同じ日で!」

真子はくしゃくしゃと笑う。

「それは思った。」

私も、少し安心して答えた。

「説明会の会場はあっちの中ホールだって、行こ。」

真子に腕を引っ張られる。

「うん、じゃ、終わったら連絡するね。」

私は母の方を向いて叫んだ。

「はーい。」

先ほどまで不満げだった母も、真子ママとあったせいか、少し安心したらしく、何かで盛り上がりながら、保護者向け説明会の方に消えていった。





会場につくと、受付で名前を聞かれ、「ご自由にお座りください」と案内された。机の上には、パンフレットや何かの書類、記念の安っぽいボールペンなどがまとめて入ったビニール袋が置かれている。



私たちは、早速中身を見始めた。



最初に入っていたのは、以前中学校で配布されたものと内容のよく似たパンフレットだった。結婚奨励法の意義やしくみを、イラストや漫画を加えて説明したものだ。



「なみちゃん」と「けんとくん」が「しょうしかたいさくだいじん」と話しながら進む漫画は、なかなかチープな内容だったが、わかりやすく少子高齢化の現状や原因を説明している。「なみちゃん」が「従兄弟のお兄ちゃん、車の研究のお仕事が忙しくて、恋愛をしたりする暇がないって言っていたな」といえば、「しょうしかたいさくだいじん」が「そう、社会で働き始めると、仕事が忙しかったり、仕事でもっと活躍したいと思ったりして、仕事ばかりになってしまいがちなんだ。気が付いたら仕事ばかりで、家庭を築くタイミングをつかめなかった、という人も多いんだ。だから、若いうちに家庭を築いておいて、大人になった時に思いっきり活躍できるようにするのが、新しい法律のねらいなんだよ!」などと説明してくれる。最後に「けんとくん」が「なるほど、結婚っていいことがたくさんあるんだね!」と言い、「なみちゃん」が「私も興味が出てきたな。でも、誰と結婚すればいいの?」と尋ねる。「しょうしかたいさくだいじん」は「それは、なみちゃんが選んで決めていいんだよ。もちろん、わたしたちが全力でお手伝いをします!」と豪語する。なみちゃん、けんとくんがいるじゃないか、と私はちょっと突っ込んだ。



漫画で意義を説明された後は、結婚にいたるまでの過程をイラストや図で説明したものだ。



「1、説明会に参加しよう」から始まっている。「説明会では結婚奨励法のしくみをきちんと説明するよ。必要なことはきちんとメモをしておこう。」ずいぶん子供向けの内容だ。いや、まだ私たちも子供だ。



「2、個別相談で結婚の条件を決めよう」とある。説明会の後、担当者なる人と保護者込み、そして本人と担当者のみ、と段階を踏んで、改めていろいろ話し合うらしい。結婚の時期とか、結婚相手に求めるものとか、結婚後の生活についてとか具体的な希望を決めていくそうだ。



「3、相手を決めよう」らしい。現時点で相手が決まっていない人は、プロフィールとか写真とかを登録し、条件に合う人を紹介してもらえるそうだ。この施設内で写真撮影やプロフィール作成、なんなら候補者が今この施設にいれば、今日話すこともできるそうだ。もう少しおしゃれをしたほうがよかったかもしれない。



「4、相手と将来のことを決めよう」とある。住む場所や補助金についてなど、いろいろ話し合って決める、とのことだ。



さらに、「妊娠した場合は?」とか「結婚を解消したいと思った場合は?」などといろいろ続いていたが、なんとなく読むのに飽きてしまって、ぱらぱらとページをめくってしまった。



後半は、半分広告じみた内容で、「達人が紹介する新居選びのポイント!」とか「結婚式、あなたはどうする?」とか「忙しくても大丈夫!?時短勉強法」とか「今若者に大人気のモデルなんとかへのインタビュー」とか、なかなかカオスな内容だった。





やがて、説明会が始まった。ほとんどは、以前中学校の全校集会で行われたものと同じような内容だったので、私はぼんやりと前のカップルを眺めていた。おそらく中学校の時から付き合っていたのだろう。彼らは「また、いきなり結婚をするのではなく、まずはそれに準じる婚約という制度もあります。」というところで顔を見合わせ、熱心にメモを取り始めた。「まず1年は婚約でって約束だもんな」「まぁしかたないよね」などとひそひそ話し合っていた。確かに高校生が同棲をするのは難しい。婚約制度を利用して、ある程度の地位と資金を確保しなければならないのだろう。



説明は40分ほどで終わり、私たちは指示に従ってスマホの専用サイトから具体的な結婚条件についてアンケートに記入した。「結婚したい時期」は「いつでも」を選択、「結婚後の生活について」は「相手との同居」を選択した。親元から離れるとなれば補助金の値段も格段に上がる、くらいのことしか考えていなかった。「相手に求める条件(複数選択可)」には「同年代であること」「転校などをしなくていいこと」だけを選択した。











次は、保護者と担当者を交えての個別相談会だ。私の担当者は30代後半くらいのきれいな女の人で、「竹田華さんね、はじめまして。」とにっこり笑いかけてきた。

「さっそくですが、具体的なところを詰めていきたいと思います。華さん、結婚したい相手とかはいます?」

「今は、いません。」

「お母さまは、どなたかおすすめしたい子がいたりするでしょうか?」

「できればお互い知っている人の方が、とは思いますが、娘に任せるつもりです。」

「わかりました。では、こちらの紹介サービスを利用して、ぴったりのお相手を探しましょうね。」

担当者はタブレットにぱちぱちと何かを打ち込む。

「では、結婚の時期に関しては?華さん。」

「私は、いつでもいいです。」

「うーん、わかったわ。お母様はいかがでしょう?」

「あまり急がなくても、と思っています。」

「そうですか、では時期は問わず、急がなくてもよいということで、ゆっくり考えていきましょうね。」

担当者はまた何かを打ち込んだ。



その後も、あれやこれやと質問をされ、それに2人が答えていった。思ったより表面的なことしか聞かれないなと思ったくらいで、じゃあと担当者の人に促されて、私はいったん席を離れた。母と担当者の人が何か話し合った後、今度は入れ替わりで私と担当者が話し合う。



まず、3者で話し合って決めたことの確認が行われた。親に遠慮し、本音を話せない子も多いらしい。私は特に違いはないと言ったが、しいて言うならと、「時期はいつでもと言ったけれど、学費の補助を受けたいので、なるべく早く結婚をしたい」と伝えた。担当者の人は頷いてそれをタブレットに打ち込んでくれた。



今度は、好みのタイプとか、相手に求めることとか、結婚生活についてとか、もっと具体的でつっこんだ話を聞かれた。「ぶっちゃけた話、子どもはいつ頃生んでみたい?」とか「旦那さんと暮らすとして、家事はどうやって分担したいと思ってる?」とか。中には想像しきれていなくて、答えられないものもあった。すると、担当者の人は「じゃあこういうのと、こういうのだったら、どっちの方がいい?」とわかりやすく聞きなおしてくれた。すこし時間がかかったが、担当者の人は、タブレットで埋めるべき項目を埋めることができたらしい。

「はい、おつかれさま。じゃあ、次は相手を探すための、写真撮影とプロフィール作成ね。いわゆるお見合い写真よ。4階にスタジオの受付があるから、この番号札を持って行ってちょうだい。」









スタジオでは少し待たされた後、すぐに美容室みたいなところに通された。

「お化粧とか全然しなくてもいいんだれどね、やっぱり素敵に映りたいでしょ?」

と母親くらいの歳の人に言われ、髪をとかしてもらい、少しリップを塗ってもらった。それから「あら、かわいいわね!」と無駄にほめられながら、証明写真みたいな写真を撮る。



次に、隣の部屋に移され、趣味とか自己紹介文とかそういうのをタブレットで打ち込むことになった。これらのデータはまず役所の担当者の人たちが見た後、AIの力も借りて、相性のよさそうな人を選ぶらしい。すると、私たちのところに相手の情報が送られてきて、そこから会いたいと思ったら面会、となるらしい。もっとも、結婚奨励センター主催のイベントとかもあるらしく、必ずしもこの写真ですべてが決まるわけではないらしい。





スマホに、母からのメッセージが届いていた。手続きなども終わり、真子ママと1階のカフェでお茶をしているらしい。真子は写真撮影に時間がかかってもう少し時間がかかるそうだ。



「竹田さん?よかったーまだここにいたのね!」



不意に声をかけられ、後ろを振り向くと、さっきの担当者の女性がいた。



「このあと、ご予定は?」

「母のところに合流しようかと…でも友達がまだらしくて。」

「じゃあ、1人、ぴったりの子がいたんだけど、会ってみない?」

「え?」

「まぁ、練習だと思って、少しお話したらいいんじゃないかな。」

「でも、初対面だし……。」

「上にもカフェがあるの知ってた?若者専用のカフェ。お昼のデザートセットのチケットあげるから、腹ごしらえも兼ねて、ちょっとおしゃべりしてきたら?」

「ええと、じゃあ、そうします。」

「よかったー!じゃあ向こうの担当者さんにも連絡するわね。ちょっと待ってて!」



私は、大きく息を吸い込んだ。体が少し震えている。震える指で、母に「私も時間がかかりそう」とメッセージを送った。

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