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プロローグ

とんでもなく世の中はおかしくなったらしい。



大人たちはニュースの画面の中で、子どもの権利がどうこうとか、国が金と引き換えに子どもたちの未来を奪う国ニッポン、とか叫び続けていた。



ただ、当事者である私たちは、あまり悲観視していない。



大人たちは、それを幼さゆえの無知だというけれど、それは私たちにとっては冒涜にしか聞こえなかった。



まぁ、世の中が大きく変わったのは事実なんだろう。







「結婚推奨法」という法律がついに施行されるのだ。別名、現代日本のレーベンスボルン政策。簡単に言うと、高校生とか大学生を結婚させ、少子化を食い止めようという政策だ。



少子高齢化はそれくらい深刻だった。



もちろん、大人たちはそれを食い止めようとした。保育園を増やしたり、働き方改革をしたり、子供の養育費を減らせるように新しい奨学金を作ったり、不妊治療に補助金を出したり。



けれど、どれもうまくいかなかった。考えても見てほしい。保育園がいかに整備されようが、働き方改革されようが、そんな小手先だけの政策で子育てが楽になるわけではない。結局、女性が仕事か家庭かを選ばなければいけなくなる。すると、高学歴の賢い女性たちのほとんどは、仕事を選ぶようになった。



もちろん、なんとか両立させよう、家庭を選ぼうとした女性も大勢いたのだが、彼女たちはつらい経験をたくさんしなければならなかった。そんな苦労話が、SNSで簡単に広まる世の中である。自然と、出産をあきらめる若い女性が増えても仕方がない。



学歴のあまりない女性は、そういったことをあまり考えず、それなりの年になると結婚していった。しかしそういった夫婦はどうしても低所得になりやすい。結果、子供の貧困の連鎖が止まらくなり、それを見た女性たちはますます子供を産むことをあきらめ始めた。



また、少子化に伴って「子どもにお金をかけなければ」「子どもにお金をかけさせなければ」と養育費はうなぎのぼり。ちょっとした補助金では何の足しにもならないというのが正直なところだった。



さらに大きかったのは、「若者の恋愛離れ」とかいうものだ。価値観が多様化し、様々な個性があり、趣味も仕事も充実している現代、昔のように「お見合いで」とか「なんとなく」で結婚するような人はほとんどいない。じっくり慎重に恋愛を進めていく若者が異様に増えたことが、政府の調査で判明した。



様々な要因が重なって、出会いのない人が続出し、結婚したくてもできない、できたとしても晩婚で子供を産まない、という人がどんどん増えたというのが、調査結果の導き出したこの国の現状だった。



そこで、政府が出した結論が、「女性がキャリアを築く前に、家庭を築けたらいい」という斜め上の発想だった。なんでもAIの分析とかいろんなものが関わったとか。



高校生の間に国民のほとんどが恋愛と結婚を経験する。あわよくば、大学を卒業するくらいまでに出産も経験し、社会に出てバリバリ働くころには子育てもひと段落していればいいのではないか、という考え方だ。少なくとも婚姻率は上がるので、自然と出生率もあがるだろうというのだ。



当然、賛否両論、むしろ中高年からは反対の声がほとんどだったのだが、若者層からは意外と否定の声が上がらなかった。



「ゆとり」とか「さとり」とか言われた世代であり、揺れ動く不安定な国際情勢や経済、度重なる災害が当たり前として育った世代である。常に「最近の若者は…」と言われ、インターネットやSNSで様々な世界を見て育ち、異様に達観し、どこかあきらめたような若者たち。一方、多様な価値観や個性を良しとする教育を受け、意外と寛容で相手の立場に立って考えることのできる面も持ち合わせている。多様な趣味を持ち、ささやかながら案外好きに生きている人も多い。そういう世代だ。



少子高齢化がひどく進んでいる現状をなんとかしたいという大人の立場や、自分たちがこのままだと晩婚のうえ子どもを望めない可能性が高い現実、そういったものを案外冷静に受け止めて、「まぁ仕方ないか」と思っていた若者も多い。



政府は、もちろん、この「結婚奨励法」を全員に押し付けようとしたわけではない。あくまで本人の意思が尊重され、高校生が無理やり結婚させられたり、子供を産まされたりすることはないように制度を整えていった。また、子育てをしながら高校や大学に通って学び続けられる制度も整備された。



特に若者たちに影響を与えたのは、結婚奨励法に基づいて結婚した若者たちには、莫大な資金援助があるということだった。



高校や大学の学費は全額政府が肩代わり。年齢や各々の事情にもよるが、結婚して両親から自立して暮らす分の生活費もほとんど援助されることとなった。もし若い夫婦に子供が生まれたら、出産費用や養育費用はほとんど国や自治体から支援してもらえる。事情によっては、その子どもが大学を卒業するまでの費用まで出してもらえるのだ。



結婚奨励法が適用されるのは、中学卒業後の15歳から30歳になるまで。それ以上の年齢の人々にもある程度の支援は行われるが、ここまで手厚い支援が行われるのは、この若者たちに限られる。また、20歳未満とか18歳未満になると、より支援が充実するしくみだ。



当然、中学卒業前に行われた「希望調査」では、8割近くの中学3年生が「希望する」に丸をつけることとなる。















私、竹田華たけだはなも、「希望する」に丸をつけた。





我が家は、決して生活が苦しいわけでもない。むしろ父は平社員とはいえ、そこそこ名の知れた大手企業。母は専業主婦。弟が一人。家族旅行にもよく行くし、月に2~3度は外食もする。高校進学の際も、「私立でもいいわよ」と言われていた。



ただ、だからといって、家計に余裕があるわけではない。母が可能な限り節約しているのは知っている。だから、私は、深刻ではないと分かっていながらも、無駄遣いはしないよう心掛けていた。高校は当然のように県立高校を選んだ。塾にも「行かない」と言った。レストランでも、なるべく安い方のセットを選んだ。私は、そういう気を使ってしまう子だった。



だから、学費どころか、生活費まで出してもらえるという結婚奨励法に、惹かれていった。



運動部で休日もなく、部活と勉強の両立にあえいでいた私には、親友はたくさんいたけれど、彼氏なんているはずがなかったし、心がときめくこともなかった。ほどよく田舎な街と言うこともあり、小学校の仲間も中学校の仲間も、みんな幼馴染だ。「恋愛」がどんなものかも、よくわかっていなかった。



だから、私は、「むしろこうでもしてもらったほうがいいのかもしれない」という淡い期待も込めて、「希望する」に丸を付けたのだ。



両親は、なぜだかいい顔をしなかった。「お金に困っているわけじゃないし…」「自由な恋愛とかをしてほしい…」とあれこれ言ってきた。さすが、なんだかんだ勝ち組の両親である。しかし、最後は子どもたちに決断をゆだねると決めている両親らしく、最後は「華が言うなら…」と承諾書に名前を書いた。





こうして、わたしは「結婚奨励法」という新しい法律に基づいて、中学卒業と同時に結婚することになったのである。

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