第7話「村が!勇者様が!」
「「ごちそうさまでした」」
メイが泣き止んですぐに準備を始めたが、結局昼になってしまった。いつまた盗賊が来るかわからないので簡単な黒パンのサンドイッチで腹を満たし、すぐに出発する。
ちなみに、こちらの世界にも食前後の祈りはあるらしいが、信じる神によって異なるため結構バラバラだそうだ。メイの信じる神の教えにはそういった祈りの言葉がないようなので、「いただきます」と「ごちそうさまでした」を教えた。
大抵の男子なら一度は考えるであろう冒険という夢。小学生の頃、電気を出すネズミモンスターと一緒に旅をするアニメを見て憧れたものだ。
そして、ここはファンタジーの世界!不安も大きいが、それ以上に好奇心が止まらない!
前世を含めた人生初冒険の第一歩。勢いよく扉を開ける、するとーーー
大剣と杖が地面に突き刺さっていた。
何これ、怖っ!
「あ、言い忘れてました、さっき拾ってきた武器です。結構良い物のようなので、使おうかと思いまして」
なるほど、人の痕跡があった話で出てきた武器か、さっそく襲撃かと思い少し驚いた。
「まぁ、前の持ち主には悪いけど使っちゃおうか」
「村や街の外で拾った物は拾主の所有物になるので、気負わなくても大丈夫ですよ」
「あ、そういう決まりなんだ、そしたら今はメイの物なんだね」
「そうなりますね」
その後、メイの提案で俺は大剣を、メイは杖を装備した。
「大剣は使えますか?」
「初めて持つけど、思ったよりも軽いし剣道も少しだけ習ってたから、大丈夫かな」
「ケンドウとは、流派のようなものですか?」
「あ、うん、そんな感じ、実戦で役立つかはわからないけどね」
そういえば、旅立つにあたってメイに幻術をかけてもらった。妖狐族の種族技能は『幻強化』らしく、メイの幻術は一度かけると数日は持つそうだ。
「これが前世のユウトさんですか、素敵です」
「ありゅ、ありがと」
物凄く純粋な視線とともに褒められたため噛んでしまった。前世では容姿で褒められたことなど殆どないので嬉しい。
メイの幻術は相手のイメージを反映することもできるので、前世の姿にしてもらったのだ。メイも自分にかけており、耳と尻尾の無い普通の金髪美少女と化している。いや、この可愛さとスタイルの良さは普通では無いか。
そんなことを考えながら、歩くこと約5時間。
「そういえば、目的地はどこなの?」
「旅の物資もお金も心許ないので、それらを補充するために大きめの街へ行こうかと思います。ひとまず一番近い街は、商業が盛んな『アルツ』ですね。結構大きいので、街というより都市でしょうか」
といった感じで雑談をしつつ、『アルツ』という商業都市へ向かっていたのだがーーー
「あれは、煙?」
「細い煙がいくつも……村の火事かもしれません」
遠くの方で煙がいくつも上がっているのが見えた。するとーーー
「た、助けてください!村が!勇者様が!」
森の中から泣き顔の少女が駆け寄ってきた、メイより年下くらいの子だ。
おそらく、煙の方から逃げてきたのだろう。
「えっと、ひとまず落ち着いて。もう大丈夫だから、何があったのかゆっくり教えて」
「はい、実はーーー」
少女が言うには、村に勇者様御一行が訪れてお祭り騒ぎだったところに盗賊が襲撃してきたそうだ。
しかし流石は勇者御一行、100人近くいる村人全員を守りながら数十人の盗賊を牽制していたらしい。
だが、村人の中にも盗賊が混ざっており、その混乱に乗じて桁外れの強さの魔人種3人が現れ、盗賊に加勢し、今は勇者達が押されているそうだ。
相当恐ろしい思いをしたのか、そこまで言い終わるとその少女は気絶してしまった。
「ユウトさん、どうしますか?」
「……放ってはおけない、ひとまず様子だけでも見に行こう」
「はい」
メイは気絶した少女を木陰に横たわらせると、羽織っていたマントを被せた。
「幻術」
そのマントに魔術を掛けると、みるみるうちに背景と同化し少女は幹の一部にしか見えなくなった。
メイは攻撃力の無いただの下級魔術だと言っていたが、使いようによっては最強なのではないだろうか。
「それでは行きましょうか」
「そうだね」
覚悟を決め、2人で村へと向かった。
◇
たどり着くとほとんどの家が燃やされ残骸となっていた。そして、村の奥から音が聞こえてくる。
「誰かいるかもしれない、行ってみよう!」
状況も見ずに音のする場所へ駆け込もうとしたが、メイに引っ張られ、瓦礫の陰に隠れる形となった。
「あれは、森林迷宮近くを縄張りにしていた盗賊組織ですね、見たことのある人がいます」
陰から状況を伺うと、透明なドーム型のバリアのようなものを野蛮そうな奴らが取り囲んでいる。
危うくあの連中の中に突っ込むところだった。メイに小声で感謝を言う。そして、奴らは盗賊組織だそうだ。
ドームの中には村人たちがおり、黒髪ショートの獣人少女が倒れている村人に光を浴びせている。回復魔術だろうか。
その少女の前には、金髪の美女が長い髪をなびかせ、両手を掲げながら立っている。彼女があのドームを作り出しているのだろう。
ドームの外には、大盾と大剣を装備した金髪の男が、取り囲んでいる奴隷狩りと渡り合っている。相当な実力のようだが、数の差と連携によって一進一退といった感じだ。
そして、ドームの外にはもう一人、只ならぬ気配を放つ黒髪の、まさに剣士と呼ぶに相応しい男が立っている。装備している両手剣は素晴らしい剣だと一目でわかるほどの威圧感があり、使い手の気配も相まって神々しさすら感じる。彼が間違いなく勇者だろう。
だが、全身には無数の傷があり、そこからは血も滴り鎧もボロボロで満身創痍といった様子だ。
その男の前には、この状況の原因と思われる存在が立っている。
白髪ショートに褐色肌の女性、灰髪の細身の爺さん、スキンヘッドの大男の三人だ。
こちらもそれぞれが只ならぬ気配を放っており、勇者と睨み合いながら何か話しているようだ。
「いっやぁ〜流石は勇者様っすわ。まさか、あんなにドッカンドッカン攻めても仕留めきれないなんて思わなかったっすよ」
「美人に褒められるとは光栄だよ。できればもう諦めて帰って欲しいんだけどね」
「それは無理な相談じゃよ、わしらの目的は最低でも其方を始末することじゃ。まぁ、他の御三方も仕留めさせてもらうがのぉ」
「大人しくしてりゃあ四人で仲良くあの世に連れてってやるぜ、今なら村人付きでな!」
褐色女性の言葉を勇者が冗談交じりに返しているが、細身の男と大男が続けて物騒な返答をしている。
「とんでもない現場に遭遇してしまいましたね」
「うん、村人を守ってるみたいだから、あの強そうな四人が勇者御一行みたいだけど、どうやって助ければ……」
そう話し合いながら、解決策を考えつつ様子を伺っていたのだが、状況は待ってはくれない。
睨み合っていた四人が動き出した。
「火よ、我が命に応じ槍となり、焼き払え『灼熱槍』」
細身の男の頭上に三本の炎の槍が現れ、勇者へ飛んでいく。しかしーーー
「はあっ!!」
たったの一振りで向かってくる灼熱の槍を掻き消してしまったのだ。
常人ならば、到底目で追える速さではない。たとえ見切ったとしても、一振りで掻き消すことなどまず不可能だろう。
「ふむ、まだそれ程の力が残っていたとはのぉ」
「でも〜、これならどうっすかね」
褐色の女が指をパチンと鳴らすと、勇者の背後から突然、灼熱の槍が襲いかかったのだ。
「くっ、ぐああああああ!」
尋常じゃない反応速度で剣に当て、直撃は避けたようだが、着弾による熱風までは防げない。
「もうあんま魔力残ってないっすけど、『灼熱槍』一本くらいなら余裕で転移できるっすよ」
褐色の女はテレポートの様な魔術を使えるらしい。おそらく、剣で掻き消される瞬間に一本だけ背後に転移させたのだろう。
「傷は治ったかの」
「ああ、完治した。これでまた暴れられるぜ!」
スキンヘッドの男も戦闘体制に入り、参戦する様だ。
「もう見ていられない、ひとまず姿を現して時間を稼いでみるよ」
「ですが、無策のまま出て行けば確実に殺されます!」
「それでも、このまま黙って見ていたら、あの人達が殺される」
大盾と大剣を持った金髪男の方はまだ大丈夫そうだが、勇者の方は危なそうだ。
「分かりました、策と呼べるほどしっかりとしたものではないですが、私に考えがあります」
「考え?」
そして、メイは小声で簡潔に説明してくれた。
「どうでしょう?」
メイの考えは不確定要素が大きい。だがーーー
「うん、それで行こう。成功すれば活路が開けるかもしれない」
数も実力も上回る相手と戦うのだ。改めて覚悟を決め、挑むとする。
2017.3/14に6話目までの設定をいくつか変更しました。
ステータスのレベル制をクラス制に変更などなどです。
2017.3/14より前に読んで下さった方々には大変申し訳ないのですが、第3話目をチラッとでも読み直していただけると幸いです。
完結までの流れも大まかに作り終えたので、ぼちぼち投稿していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。