第8話「お酒は20歳になってからだ」
メイの作戦は至ってシンプルだ。
今、相手よりも上回っている要素は、残りの魔力量と体力。だからこそ、その二つを存分に使って敵を撹乱し、戦っている二人の戦士を援護すること。なのでーーー
「こっちだ!かかってこい!」
「「「?!」」」
まずは注意を引き付ける。
そして、突然の乱入で生じた一瞬の隙を逃さない。
「風よ、我が命に応じ球となり、吹き抜けろ!『風球』」
無事に詠唱を言い終わり、風が吹き始める。
「何者じゃ?勇者共の援軍かの」
「いきなり魔術打ってきやがったが、ただの風球…じゃねぇ!」
「なんすか?!風が吹き荒れ始めてるんすけど」
予想通りだ。なぜか全く違う現象の起きるオリジナル風球なら、相手の意表をつける。
「落ち着くのじゃ。詠唱を行いつつ無詠唱で別の魔術を発動し、敵を混乱させる、単純な戦術じゃよ。まぁ……出来る者などそうは居ないがの」
最後のほうはよく聞き取れなかったが、灰髪の爺さんにはこちらの意図がバレているようだ。
まぁ、別の魔術を発動するわけでなく、別の魔術しか発動できないのだが…。
「なるほど、手品みたいなもんすか」
「チッ、子供騙しかよ。でも竜巻になりやがったぞ、一体どんな魔術だ?」
竜巻には警戒しているようだが、灰髪爺さんの言葉で他の二人も落ち着きを取り戻している。
「でも、狙うのはあんた達じゃない」
風の向きを調整し、指向性を持たせる。狙うは透明なドームに群がる盗賊達だ。
蛇行しながらも、なんとか目標へ進んでいく。ぶっつけ本番だが、意外と上手くいっているようだ。
これで金髪男に余裕ができ、こっちに加勢してくれれば万歳なのだがーーー
「そうはさせないっすよ〜。『魔術隔離!』」
褐色女が指を鳴らすと、竜巻の中央が抉り取られるように消え、横にズレて出現した。
マジシャンの切断マジックのように、竜巻がズラされたのだ。
「だめだ、持ち直せない!」
そんな不安定な状態で維持出来るはずもなく、瞬く間に竜巻は掻き消えた。
奴隷狩りの注意を一瞬奪えたお陰で金髪男が優勢になっているので、最低限の目的は果たせたのだが、それにしても、竜巻をズラすなんてーーー
「なんて恐ろしいーーー」
「なんて恐ろしい魔術っすか!」
なぜか褐色女とセリフが被る。
「どうしたんじゃ?本来ならば魔術を異空間に隔離し、保管しておけるはずじゃろ?」
「はぁはぁ…、いや、キャパオーバーっすわマジで…。保管してコレクションにしようと思ったんすけど、一部ズラすので精一杯だったっす」
「ほう、見た目以上の魔力が込められていたという事かの。何者かは分からんが、面白い。休んでいなさい、儂が防ごう」
よく分からないが、褐色女の方は魔力が限界に近いようだ。先ほどの魔術で攻撃でもされたらとんでも無いが、ひとまずその心配は無さそうなので、一気に畳み掛ける。
「雷よ、我が命に応じ球となり、駆け抜けろ『雷球』!」
「だめだ!そいつには魔術が効かない!」
詠唱を終えたところで勇者が叫びながらアドバイスをくれたが…遅い!もう少し早く言ってくれ!
正面の地面が塵になり、電撃が放たれる。どこへ飛んでいくか不安だったが、狙い通り灰髪の爺さんに飛んで行った。
「ほほほ、儂のスキル『魔術拡散』は、コーティング加工と同様に魔術を拡散する。雷など通用しませんぞおぼぼぼぼぼぼぼ!!」
両手を突き出し、堂々と電撃を受け止める体勢だった上に堂々と何か説明していたので本当に効かないのかと思ったが、普通に効いた。
勇者男のアドバイスは何だったのか。いくらファンタジーの世界でも、電撃をくらって無事な人などそうはいないはずなので、当然の結果だろう。
「おぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」
悪人っぽいが、流石に殺すのは抵抗があるので途中で電撃を中断する。
「ぐはっ…」
全身からプスプスと煙を放ち、膝を付いている。呼吸はしてるので死んではいないようだがーーー
「だ、大丈夫ですか?」
思わず声を掛けてしまった。悪人と言え、お爺さんを電撃で痛めつけるのは、流石に罪悪感が込み上げてくる。
褐色女や勇者男は、驚きのあまり開いた口が塞がっていない。
「ははは!まさかブロウのスキルを貫くとはな、中々やるじゃねぇか。俺がぶちのめしてやるぜ!」
次はスキンヘッドの大男が向かってくるようだ。物凄い速さだが、それなりの距離があったのでこちらの詠唱の方が僅かに早い。
「『雷球』!」
「ぐああああああああああ!!」
お爺さんと同じくらいまでこんがり焼く。
「ぐはっ」
大男もプスプスと煙を放ち、膝を付いている。しかしーーー
「はははは!中々効くじゃねぇか!」
僅か数秒で何事もなかったように立ち上がった。焦げているように見えた皮膚も何ともない。確かに直撃させたはずなのだが、どういうことだ?
「そいつは強力な再生能力を持っている、接近戦は危険だ!」
勇者がまたもやアドバイスをくれた。しかし、さっきもそうだが、も少し早く教えて欲しい。
「オラぁ!接近すればこっちのもんだぜ!」
まずい!既に大男は目の前だ。
振り上げられた拳が迫る、瞬間、大男が消えた。
「「「え?」」」
褐色女に勇者、戦闘を見ていた皆が思わず声をもらす。
下を見ると、大男の下半身が完全に地面に埋まっている。
「なっ、図りやがったな!」
おそらく、『雷球』のお陰だろう。
いつもなら周囲の地面を満遍なく分解するように放っていたが、咄嗟だったので目の前の地面だけを分解していたのだ。そのため、目の前の地面は結構な深さまで塵となっている。
「ちっ、すぐに這い出て……」
「我が命に応じ、その姿を変えたまえ、『構成』!」
塵を再構成し、大男の動きを止める。
「はっ、多少土を固めたくらいじゃ俺は止められないぜ!」
男が地面を割りながら這い出てくる、マズイ、時間稼ぎにすらならない。もっと硬いもので拘束する必要がある。
硬いもの…金属!でも、土の中に拘束できるほどの量があるとは思えない。それなら、カーボンナノチューブだ!なんか、鋼鉄の数十倍くらい硬いとか聞いたことがある、しかも炭素を繋げただけの構造だったはずだ。構造式は上手く想像できないけど、時間がない!
「我が命に応じ、その姿を変えたまえ、『構成!』」
「はっ、また同じ手かよ!」
硬く硬く硬く!まとわりつくように!
「なんだこの黒い紐は?、引きちぎ…れねぇ!」
何本ものワイヤー状のカーボンナノチューブを地下深くまで根をはるように、相手の体にまとわりつくようにイメージした。成功だ。
「クソッ!なんだこの紐、全然切ねぇぞ!」
動けない相手に追い討ちを掛けるのは卑怯かもしれないが、村人にも死人が出ている。なので、本気でいく!
「『雷球』!『構成!『雷球』!『構成!『雷球』!『構成!」
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!!!」
『雷球』で感電と共に地面を分解し、『構成で改めて拘束する。
感電に拘束で動けない中、大男はどんどん地面に埋まっていった。
即席だが、我ながら恐ろしいコンボを編み出してしまったようだ。
更に、使っている最中は気にしていなかったが無詠唱で魔術を発動できていた。これも『魔王』職業のお陰なのだろうか…まぁ、便利なので良しとする。
「ブロウもイラもやられるなんて……どんな冗談すか」
褐色女が驚いた表情で呟いている。
こっちだってまさか倒せるとは思っていなかったので、驚きだ。
「なんだ、少し遅かったみてぇだな」
僅かな静寂の後、金髪男が駆けつけてきた。盗賊達の方は片付いたらしい。
金髪男の隣にはメイも居るが、「倒しちゃったんですか?っていうか倒せたんですか?!」といった表情でこちらを見てきている。
作戦とは少し違ったが、結果は成功なのでウインクすると、引きつった笑みが返ってきた。
「ありゃりゃ、やっぱ寄せ集めじゃ全然ダメっすね。作戦失敗っす」
褐色女はそう呟き指を鳴らすと、傍にイラと呼ばれていた大男が現れた。指も触れずに仲間の救出まで出来るとは、本当に便利な魔術だ。
大男は電撃の熱でプスプスと煙を立てているが、既に再生が始まっている。このままではまずい。
「私の名前はティアって言うっす。良ければ名前を聞いても良いっすかね?」
そんな事を考えていると、褐色女…ティアが話しかけてきた。
「ユウトだ」
「ユウトっすか、憶えておくっす。勇者様方、今回は撤退しとくっすけど、次は覚悟しとく事っすね!」
そう言い残し、3人は消えてしまった。
◇
目を開けると、藁のベットに寝かされていた。チクチクするが良い香りだ。
「目が覚めましたか?」
「メイ、ここは?」
「この村の村長さんのお家です。緊張が解けたのか、戦いが終わった後に倒れてしまったんですよ。心配したんですからね」
「ごめん」
思い出した、戦いの後すぐに気絶したのだ。命懸けの戦いを経験したのは精神に相当な負担だったのだろう。
「おう小僧、目が覚めたみたいだな」
その後の状況をメイに聞こうと思ったら、勇者一行の金髪男が入ってきた。
「ちょっと、私達の恩人なのよ。もう少し言葉遣いに気をつけなさいよ」
すぐ後ろからは、魔法のバリアを張っていた金髪美女も入ってくる。
「んな事言ったってよぉ、変に気使わせるのも悪いだろ。それに、俺の言葉遣いは今更変わんねぇよ」
「王様にもそうだったものね、私が馬鹿だったわ…」
2人は話し終えると、今回の出来事の顛末を教えてくれた。
まず、金髪男はガイル、金髪美女はララと言い勇者一行の前衛と魔術担当らしい。
俺達が向かおうとしていた商業都市アルツで下級貴族に盗賊退治を頼まれ、村へ到着と同時に襲われたそうだ。
今はララが使い魔を放ち事情を伝え、アルツでその下級貴族は捕まったらしいが、供述がちぐはぐだという。なんらかの魔術で操られていたのかも知れない。
逃げられた主犯の3名は数年前から各地で有力者を襲う集団のメンバーらしく、今回のターゲットは勇者一行だったようだ。
ちなみに、盗賊の内何人かは死んでしまったが、殆どは捕縛したらしい。今は魔術をかけて馬小屋で眠らせているそうだ。
「私達の戦いに巻き込んでしまって本当にごめんなさいね。そしてありがとう、助かったわ」
「俺からもありがとな、マジで助かったぜ」
勇者一行がどんな存在なのかは分からないが、少なくとも自分より凄い人達なのだろう。
そんな人達から褒められるというのは、なんか照れる。
「他の2人が外で待ってるんだが、出られるか?」
「外にですか?わかりました」
外にいる理由は周囲の警戒だそうだ、村を包むほどの結界を張れば戦闘に使える魔力が心許なくなるため、魔力が回復するまで五感で警戒しているらしい。
「やあ、そこに居るメイさんから聞いたよ、ユウトくんだね。僕はジーク、一応勇者と呼ばれている。そしてこっちが」
「…クウ」
たしか怪我だらけだったはずなのだが、今は無傷どころか衣類の汚れすら無い。これも魔術か何かのお陰なのだろう、本当にファンタジーだ。
そして、隣にいる黒髪の獣人は村人を回復させていた人だ、やはり勇者一行の1人だったらしい。
「えっと、ジークさんとクウさんですか、初めまして」
「はっはっはっ、そんなに硬くならなくてもいいよ、敬語も必要ない。なんせ、君は僕らの恩人なんだから」
「そう…必要無い」
「わかりました」
「…必要無い」
クウから放たれる『敬語必要ないオーラ』が凄い。さすがは勇者一行の1人だ。
「あ、わかっ…た」
「はっはっはっ、それで良いのさ」
その後は2人からも感謝を述べられ、敬語で返答し、矯正され、半ば強引に敬語を改めさせられた。
まぁ、その方が話しやすいから楽でいいけど。
「それで、ユウトとメイさんはこれからどうするんだ?出来れば君達に恩をし返したいんだが」
夕日が沈みかけてきた頃、ララの魔力が十分に回復したため結界を村に張り、今は村長の家で軽い打ち上げが行われていた。
「これからアルツに行って色々と買い物でもしようかと思ってま…思ってる」
「…よし」
クウさ…クウのタメ口検査が厳しい。
そして、そんなやり取りをクウとしている時のメイのジト目が凄い。何故だ…
「それだと恩を返す機会はまだ先になりそうだな。俺たちはこの村を騎士団に引き継いだら王都へ行って今回の件を王へ報告しなければならない」
「別に恩返しとかいいよ、特に今必要なものとかも無いし」
「そうか、だが何かあれば言ってくれ。そういえば2人は冒険者なのか?」
「うーん、そんな感じ、かな?」
「ん?ギルドに登録はしてないのか?」
え?ギルド?何それ?直ぐさまメイにヘルプの目線を送る。
「えっと、実は私達は遥か遠くの村の出でして、少し常識に疎いところがあるんです」
まぁ、ここから日本は世界超えるくらい遠いし、メイも元々遠くに住んでいたので間違っては無い。
ちなみに、メイはタメ口矯正に屈しず敬語を貫き、勇者一行を諦めさせた。やっぱり凄い奴だ。
「なるほど、それじゃあギルドについて説明しよう」
ギルドとは、専門的な試験に合格すれば誰もが入れる組合の事らしい。魔術ギルドや商業ギルドなど様々あり、冒険者ギルドに加入すると素材の買取金額に袖が付いたりクエストという依頼を受けられるそうだ。
RPGゲームに似ている。
「それなら、冒険者ギルドに登録するのが最初の目標かな」
「そうですね、その方が色々と楽でしょうし」
「ふっふっふっ、安心なさい、今からあなた達は第1級冒険者よ!」
酒で出来上がったララが乱雑に何かを書きなぐった 羊皮紙を突きつけてきた。
ギルドの説明が行われていたあたりから何かを書いているとは思っていたが、何だこれ?
「お、おいララ、いきなり1級ってやり過ぎじゃないか?」
「るっさいわね、私達を救えるくらい強いんだからどうせ1級くらいにはなれるでしょ。遅いか早いかの違いよ」
ガイルが宥めるが、ララは全く聞く気が無いようだ。
「だが、ララのいう事も一理ある。勇者一行が無名の冒険者に救われたと知られれば俺達やユウト達に絡んでくる輩が増えるかもしれん。だが、ユウト達が1級だと分かればそう簡単に手出しはしてこないはずだ」
「…ララ意外と考えてる」
「ふっふーーーん!」
ジークとクウが賛同した事でララは盛大なドヤ顔をしている。
だが、ジークが説明していた時にララは「そんな考え方があったのか!」という顔をしていたので、絶対考えてなどいなかった。
ガイルもララの表情に気付いていたようで悔しそうにしている。
「ひとまず、その紙は何なのですか?」
俺も思った疑問をメイが代わりに聞いてくれた。
「これは冒険者ギルドの等級認定書よ。私は冒険者ギルドの長をしているのよ!」
ドヤ顔の酔っ払いのが言っているのでどれ位凄いのか伝わりづらいが、元の世界で言うと国際連合事務総長くらいのレベルで凄い人だった。
見た目はまだ20代前半の金髪美女なのだが、実は森人族で100歳以上らしい。よく見ると耳も長い。
幼い頃から魔術の才能があり、早くに自立して100年近く冒険者として過ごしているそうだ。その過程でいつしか特級冒険者となり、冒険者ギルドの長になったのだという。
そんな偉い人がいつまでも冒険してんなよと思うが…「自由を謳う冒険者ギルドなんだから、長こそが自由を謳うべきでしょう!」と役員を黙らせ、今も冒険しまくっているらしい。
「ギルドの会員はその貢献度や実力によって10級から特急までの11段階でランク付けされるんだよ」
「ふっふっふっ、本来なら2級以上は冒険者ギルド本部での採決が必要なんだけど、私の総長権限で今日からあなたは第1級!」
ジークが説明してくれるが、話が大きすぎて入ってこない。とにかく凄いことらしい。
「ありがたいんだけど、いきなり俺達が1級になれるのか?」
「大丈夫よ、私達を救ったと説明すれば本部の小僧達も黙るわ」
ララの年齢からすれば役員たちは皆小僧らしい。
何やかんやで話は進み、結局メイと俺は第1級冒険者となった。ギルドの事もさっき知ったばかりなのに。
それからも宴は続き、ガイルとララがメイの活躍についても聞かせてくれた。
幻術で姿を消し、竜巻で動揺している隙にガイルの傍まで駆け寄ってジークの姿に化けたらしい。そして、「俺の分身がやられてるフリをしている、先にこいつらを片付けるぞ!」と盗賊を威圧したそうだ。その隙にガイルが猛攻を仕掛け、片付けたとの事だった。
「いやー幻術も見事だったが、咄嗟にあんな策思いつくなんて凄かったぜ。いきなりジークが現れた時の連中の驚いた顔は見ものだったな」
「ええ、最近の私達は強さに溺れて策を練る事を怠っていたから、学ばされたわ」
「そんなっ、偶然思いついただけです」
「いやいや、マジで助かったぜ!」
「…ちゃんと見たかった」
褒められて謙遜しているが、凄いことだ、さすがはメイ。なんの策もなく、本当に偶然だけで勝ってしまった俺の戦いが恥ずかしい。
クウは村人の治療に専念していてメイの勇姿を見れなかったようだ。
「はっはっはっ、だがユウトの戦いも凄かったぞ!」
「げっ!」
その後はジークが俺の恥ずかしい戦い振りを熱く語り、俺の未知の魔術にララが目を光らせ、恐ろしいほどの質問攻めにあった。
ブロウという細身の男には誰の魔術も効かなかったらしく、今後の参考にと聞かれたので魔術に関しては正直に全て話したのだが…結局、職業が『賢者』であるララにも理由は分からなかった。
ちなみに、職業が『魔王』であることは言っていない。
そんな感じで深夜まで語り合い、楽しい時を過ごしたのだった。
こちらの世界では15歳で成人らしいが、俺とメイは酒は飲んでいない。クウも苦手らしく飲んではいない。
お酒は20歳になってからだ。




