第9話「僕は死なない、絶対に」
翌朝、ジーク達は昼頃に到着する騎士団に村を引き継ぎ、転移の魔術で王都へ帰るそうだ。
一緒に転移で王都へ来ないかと誘われたが、この世界をもっと見て回りたいので断った。その代わり、村に偶然来ていた商人のハラルドさんと言う方の馬車でアルツまで連れて行ってもらえる流れとなったのだ。
ちなみに、村人も村に訪れていたハラルドさんのような人達も全員無事だった。村人に扮して奴隷狩りが混ざっていたり、強い魔人が3人も現れたりととんでもない状況だったにも関わらず、100人以上いる村の人々全員を守りきるとは…
昨夜の宴会ではそんな雰囲気を感じなかったが、やはり勇者一行と呼ばれるだけあって尋常ではない強さらしい。
「何かあったらいつでも言ってくれ、冒険者ギルドに言えば俺たちに話が通じるようになってるから」
「いやいや、1級冒険者にして貰えただけで充分だよ」
「昨夜ララも言ってたが、遅いか早いかの違いさ、ユウト達なら1級になれていた。だから、別のお礼をちゃんとしたいんだ」
さすがは勇者と言うべきか、その真摯な眼差しには何故か反対できない。
「分かった、何かあればよろしく頼むよ」
「ああ!気をつけてな!」
「またね」
「いつか王都にも遊びに来いよ!居るかは分からんが、そこが俺達の拠点だからな!」
「ちゃんと冒険者ギルドに行ってね、プレート貰わないと1級だって分からないから」
勇者一行とそんな別れの挨拶を交わし馬車へ乗り込むと、茶髪の少女が駆け寄ってきた。昨日、村の状況を知らせてくれた女の子だ。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
勇者一行とずっと一緒にいたせいで、他の村人と同様に中々近づけなかったのだろう。
「こ、これ、もらって下さい!」
そう言って木のビーズで出来た腕輪をくれた。
「ありがとう、大切にするよ」
そんな出来事もありながら、手を振る勇者一行と村人達を背にアルツへと向かうのだった。
◇
「…ジーク」
「ん?どうしたクウ?」
ユウト達が去った後、クウは静かにジークの名前を呼んだ。
「ジークがなんであの子達を気に入ってるのか、気になるんでしょ」
「俺も気になってたぜ、お前が本気出してなかったからそれに合わせてやったが、ユウト達が助けに来るのを待ってたんだろ?その上で命の恩人ってことで面倒みようとしてたじゃねぇか。あと、メイに少し他人行儀じゃなかったか?」
「そうよね、メイちゃん可哀想」
ララとガイルがクウの思いを代弁する。というより、2人も同じ疑問を抱いていたのだ。
「はっはっはっ、確かに戦闘中ユウト達の気配を感じたから待っていたのは事実だけど、まだ襲撃者に本気を見せたくなかっただけさ。それと、メイさんに他人行儀なつもりは無いよ、親しくするとクウが嫉妬すると思ってね」
ジークの返答に3人は納得していないようだが、それ以上の追求はやめた。ジークが一度はぐらかすといくら聞いても無駄なことを3人は知っているのだ。
だが同時に、クウだけは別の心配をしていた。
「ジーク…」
「大丈夫だよクウ、僕は死なない、絶対に」
◇
「わざわざ乗せてもらって、有難うございますハラルドさん」
「いえいえ、勇者様が認められた冒険者であるあなた方が乗ってくださるとは、とても心強いですよ」
「あはは…偶然ですけどね。なので、そんなに畏まらなくてもいいですよ。気軽にユウトと呼んでください」
「それはなりません、まだ登録を終えていないとはいえ、あなた方は第1級冒険者なのですから」
「あの、私もギルドの等級がよく分からないのですが、第1級とはそんなに凄いことなのですか?」
「!!?、ほっほっほっ!自らの等級の凄さを知らないとは、やはりあなた方は大物ですな!」
そう言いながらハラルドさんは陽気に説明してくれた。
すべてのギルドには11段階の等級が存在し、その等級によってギルドからの待遇や信頼度が変わるそうだ。
冒険者ギルドの『第1級』とは、世界に僅か4人しかいない称号であり、今回登録を終えればその5人目と6人目になるらしい。ちなみに、勇者一行は全員がその上の『特級』であり、今のところ勇者一行の4人しか持たない称号だと言う。
「マジか……」
ありがたい気持ちもあるが、同時に後悔も凄い。
冒険者ギルドの登録者は数百万人も居るらしく、その中でトップ10に入るということはそこら辺の貴族や小国の王よりも高い地位に位置するらしい。しかも、冒険者とはこの世界で大人気な職なわけで、人によっては芸能人やアイドルのような存在なわけで……
「登録するの、やめようかな……」
「そうですね、なんか、余計な問題が増えそうですし……」
「だ、大丈夫ですぞ!?まだお2人の顔が知れ渡っていないのであれば、プレートを隠せばバレないはずですから」
結局、ハラルドさんの説得もあり、一応登録だけはしておくという話でまとまったのだった。
余談だが、ハラルドさんは第5級商人であるため門番に顔が効くそうだ。なので、ステータスカードの確認は必要無くアルツへ入れるらしい。魔王ジョブを隠さなくても良いので、ありがたい話である。
だが、問題はもう1つあった。
「メイ…」
「はい?」
「いや、少し浮かない顔してたから」
理由は分かる、ジークの事だろう。
結局最後までメイの事だけはさん付けで呼び、あきらかに動揺?というか他人行儀な感じだった。
「ジークさんの事で、少し考えてました。五感が鋭いと言ってましたから、妖狐族だとバレてたのかも知れません」
今、メイは耳と尻尾を幻術で隠しているが、ジークやクウは五感が鋭いと言っていたのでバレている可能性はある。
もしそうだとすると、名高い勇者にすらも妖狐族への差別意識があるという事になる。
話した感じでは、ジークがそんな奴に思えなかったが…。
「メイの勘違いの可能性もあるけど、大丈夫だよ」
「?」
「世界中の全員が敵になっても、俺だけはメイの味方だから」
ありきたりな言葉だが、本心からの言葉だ。
励ます事が出来たかは分からないが、伝えたかった言葉は、伝えられたと思う。
「…嬉しいです」
「何か言った?」
「いえ、何も」
2人の冒険は続く…
◇
「うそだろ…なんでこんなことになってんだよ…」
「まったくだぜぇ…」
「びっくりですぜ」
ライドは混乱で状況が読み込めなくなっていた。だが、彼のこの2日間の出来事を思えばそれも仕方ないだろう。
ユウトの魔術練習で撃退された後、気絶したリドとペリーをライド、ジスロ、クーラスの3人で運びながらアジトへ帰還したのだが、そこには誰もいなかった。
理由を調べるために団長の部屋を漁ると、近くの村を襲撃する計画書を発見したのだ。入団したばかりのライド達には知らされなかったのだろう。
そして村へと到着して、今に至るのだった。
「全員捕まってる上に騎士団まで出てきてるじゃねぇか…」
騎士団とは、昔ライドが入っていた戦士団よりも上の王直轄部隊だ。そんな彼らに捕まったのなら、いくら有名な盗賊ギルドと言えど逃げること出来ないだろう。
「運が良いんだか悪いんだか…」
アジトへ戻ったらボスを倒そうと思っていたが、こうなってしまってはその必要も無い。これからどうしようかと考えながら村を観察していたのだが…そのせいで接近している騎士団に誰も気づかなかった。
「お前達何をやっている!」
「「「!!!」」」
ライドは焦る、背後から現れた騎士団の数は2人だ。しかし、騎士団は全員がCクラス上位の強者揃い。しかも村にはまだ沢山の騎士がいる。万が一にもライド達が勝てる可能性は無い。それどころか、逃げられる可能性すらも無かった。
だがーーー
「俺たちは野良の冒険者ですぜ、村の外れで残党を捉えたんで連れてきたんでさぁ!」
「そうだぜぇ、こいつらが証拠だぁ」
クーラスとジスロが盛大にホラを吹きながら、気絶しているリドとペリーを堂々と渡した。
スラムで生き抜いてきた2人の起点にライドは感心する。
「ふんっ、怪しい奴らめ。お前達も奴隷狩り共の仲間では無いのか?」
しかし、その程度で疑いが晴れるほど世の中は甘くない。さらにーーー
「どうした、何かあったのか?」
「部隊長!怪しい者達が居たので、尋問しようと思っていたところです」
騎士団の部隊長までもが現れたのだ。部隊長の横には護衛の騎士2人が居り、5人の騎士に囲まれる形となった。
下っ端ではあったが、ライドの剣の腕は相当なものであったため、盗賊の一部には顔を覚えられている。引き会わされれば誰かが正体を漏らすだろう。
「終わった…」
盗賊の仕事を一度も成功させたことはない。それどころか、連中が捕獲した奴隷をバレないように逃がしたりもしていたのだが…一時でも盗賊に身を置いた報いだと諦め、ライドは捕まる覚悟を決めた。
良い人が不幸を見る、よくある話だ…
「その方々を放してやれ。私が保証しよう、その方々は無実だ」
「え?」
部隊長がライド達を庇った、訳が分からず、ライドは情けない声を出してしまう。クーラスもジスロも同じく覚悟を決めていたのか、目をパチクリさせて驚いている。ライドは信じられ無いとばかりに部隊長の顔を見る。するとーーー
「お久しぶりです、ライドさん」
彼は、ライドが借金を肩代わりした友人の息子だった。ライドが戦士団から追い出された後、父の意志を受け継いで戦士団に入団したと風の噂で聞いてはいたが、あれから僅か数年で騎士団の部隊長にまで上り詰めていたとは…
「大きくなったんだな…一瞬気づかなかった」
「ライドさんのお陰です、あなたへの恩を返したいと頑張りましたから」
良い人が不幸を見る。よくある話だが、最後に運命は味方するのだ。
ライドの物語もまだまだ続く…